第四話 やれやれ疲れたわ……
「し、しかし! 我ら白の魔法使い達の召喚に応えたということは、そなたは聖女としての力を有しているはず……」
「はず、というだけで、確かにそうとは言えませんよね」
「しかし!」
「繰り返しますが、わたしの世界では、わたしは聖女認定はされていません。わたし以外に聖女と認められている女性は何百人もいて、歴史書にも名前が掲載されています。これは確固たる事実です」
「だが、貴女は我らが元に召喚された!」
「素質があるとしても、今現在、聖女の力なんて持っていません。発現もしていません。我が国の法律に則った資格も有してございません!」
わたしは聖女じゃないからね。
ないんだから、帰してね。
「召喚された以上、あなたが聖女だ!」
お爺ちゃんは言い切った。しつこい。
「聖女としての素質があるとしても、今現在、その力は現れていないんですよ。即戦力にはなれません!」
「問題はない! 必ずや、聖女の力を発現できる!」
堂々巡り。お爺ちゃん、がんばるなあ。
召喚した以上、失敗だったって、認めたくないのかな?
それとも認めたら、首が飛ぶ?
「修行とかするの? 何年何か月修行するの? 年単位で修業しているうちに、必要な時に間に合わなくて、この国が滅びましたってならないように、わたしを返して、別の聖女を呼ぶか、それか、別の対応策を考えたほうが、現実的よ?」
答えはない。
うーん、このままじゃあ、平行線だなあ……。聖女だ、違うって、そんなの繰り返しても、意味がない。
ため息を一つはいてから、仕方なしに告げる。
「では、前向きに提案いたします。わたし、条件次第ではこちらの世界で聖女の役目を果たしてもいいですよ?」
お爺ちゃんたち、白いローブを着た集団が「おお⁉」って感じに声を上げた。
「ただし、仕事として承りますので、まず衣食住、報酬、終業時間の契約を結ばせていただきます」
「は?」
「無料奉仕なんて、冗談じゃないですよ。仕事に対する正当な報酬。当たり前でしょ?」
まあ、妥協案だ。
「雇用契約書、作成してくださいね。労働者の当然の権利です。雇用期間はとりあえず、一年としましょうか。その期間に行うべきこと、報酬、それから、わたしは聖女じゃないと最初に申し上げましたので、真面目に修行しても聖女の力を発揮できなかった場合は、きちんと元の世界の戻すことも、契約書に盛りこんでいただきたい。偽聖女だのなんだの文句を言って、牢獄とか冗談じゃないですからね!」
「そ、それは……」
「わたしはちゃーんと聖女ではない、聖女資格は有していないと申し上げました! その上で、聖女見習いとして働けというのであれば、契約していただきます。これは、労働者としての正当な権利です」
「う、うーむ……」
「契約がきちんと済むまでは、異世界からの客扱いをしていただきます。具体的には、まともな食事、まともな宿泊所、まともな服装。その他もろもろ。外国からの招待客レベルを要求します。もちろんこの世界の常識、マナーなど、学ばせていただきますよ!」
まともな社会人を、たかがイケメン王子程度で丸め込めると思うなよっ!
まあ、素敵な王子様♡ あなたのためにあたし、がんばっちゃう! なーんて、脳内お花畑じゃないんだよ!
今現在、カレシも婚約者もいないけど、それなりに男女の付き合いもしてきたわたしだぜ!
上司やお局様の理不尽な指示にも耐えてきたんだぜ!
奴隷にも社畜にもなってたまるかっ!
「それから契約期間の一年が過ぎたら、聖女としての潜在的な力は有していても、発現するだけの才能はないということで、元の世界に帰していただきます。元の世界に帰れないというのなら、この世界でわたしがまともに生きて行けるように手を尽くしていただきます。繰り返しますが、わたしは聖女じゃないと言いました。わたしが聖女だと主張しているのはそちら。聖女見習いとかで聖女も修行を行うのも、妥協案です。わたしの人権、保障してもらいますよ!」
いいですね⁉
睨みつけるようにして、念を押す。
お爺ちゃんは「け、検討しよう……」と言った。
……了承した、ではないのね。ま、今日はここまでかな。
明日から、交渉。
きちんとした契約がなされるまでは、わたし、聖女の修行とかしないからね!
と言うわけで、とりあえず案内されたのが……お城の一室。
リビング、寝室、バストイレ付きの洗面所、衣裳部屋、あと書斎。五点セットの豪奢なお部屋。
わーお! リビングの天井のシャンデリアとか、壁の絵画とか、本物の暖炉とか!
わー、ヨーロッパのお城みたい!
寝室のベッドもすごいよ! わたしが住んでいる一人暮らし用マンションの床面積より広いんじゃないかーなんて、さすがにそこまでは言わないけど。六畳間よりでっかいベッド! トランポリンかってくらいによく跳ねそう! ふっかふか!
あ、いや、跳ねたいけど、跳ねないよ! パンツ履いてないからね!
案内されて、とりあえず、わたしは言った。
「雇用契約は、明日とか、そっちが落ち着いて条件なりを話せるようになってからでいいよ。とにかく今日は、わたしも疲れた。食事と湯あみを所望する。着替えもお願いね」
侍女たちかな? 五人も六人もいる、メイド的エプロンドレス姿のお姉さんたちに言う。
あっという間に、着替えとお風呂が用意された。
猫足バスタブー! わー、可愛い! あっという間にお湯が用意されたのは魔法なのかなーなんて思いながら、勢いよく服を脱ぐ。
「ハー……、風呂は良い……」
スポーツクラブの風呂場じゃ、気にせず皆さん裸になるからね。そのノリで、わたしも気にせず、風呂に入らせてもらった。
浸かっていたら、侍女さんたちが「失礼します」と頭を洗ってくれた。
あー、ありがたい。
お湯に浸かって、クラゲ状態。
ふへー……、だの、ふほー……だの言っているうちに、全身マッサージまでされて。
バスローブを着せらえて、身支度を整えられて。ああ、パンツもあった。カボチャパンツというか、ズロース? そんな感じのだけど。ああ、でも落ち着いたー!
やっぱりパンツ大事!
「ありがとう。でもコルセットはパス。わたしの世界じゃ、コルセットは内臓に悪いと証明されているからね!」
コルセットなしにしてもらって、頭からバサッと被るようなゆったりとしたワンピースというか、丈の長い綿シャツみたいな服を着させてもらう。
わたしの胸までの長さの髪も、あっという間に乾かしてもらった。やっぱり魔法だねぇ。便利。
ありがとうと侍女さんたちに言って。リビングでお茶をいただく。
「食事はどうされますか?」
「お腹は空いているけど、もう寝るだけだから。果物とかを少しつまませてもらうと嬉しい」
すぐに用意してもらった果物は、リンゴみたいにしゃりしゃりしているのに、味は桃とかマンゴーみたいにねっとりとしている不思議な感じのものだった。でも美味しい。
軽く口をゆすいで、おやすみなさい。
やれやれ、今日は疲れたわー……。




