第三話 聖女が必要であれば、我が世界中に点在する教会の、管理本部に問い合わせを
「さ、二十九だと……、母の年齢と大差ない……」
うっせーわ! このイケメン王子め! 女性の年齢を母親と比べんなっ!
日本においては二十九歳なんて、まだまだ若いのよっ! わたしの肉体は老化一直線だけどさ! へっ!
十代後半で結婚して、子どもを産むような、似非中世ヨーロッパ的ファンタジー世界の人間と一緒にするな!
だいたい結婚して子どもを産むだけが人生じゃないだろう!
恋愛?
したかったら勝手にするがいい。
だがな、王子よ、言っておく。
わざわざ異世界から召喚した聖女と運命の恋をしたいとかなんとか、お花畑思考の妄想なんて、一国のお偉いさんがするなっ!
異世界召喚なんて、馬鹿なことをする程度には、今、アンタの国は、危機に瀕しているんでしょ⁉ 多分だけど。違う?
だったら!
現実を見ろっ!
そして、真っ当に、危機に、対処しろっ!
聖女召喚した結果、八十過ぎの老女を召喚とかいう可能性だってあるんだぞ?
人間の女性ならまだいい。
仮に、野生のゴリラとか召喚しちゃったら、どうするつもり? メスゴリラと恋に落ちたいか? オスゴリラだったらどうするの? いいのかお花畑!
……なんて言いませんけど。
ええ、わざわざ言いませんよ。
だって、わたしパンツ履いてないんだもん!
それに、今わたしが考えたのは、ラノベとかアニメでよくある定番からの推察というか単なる偏見。事実は異なるかもしれないけれど、まあ、どうでもいい。
パンツをはいていないわたしはこの異世界からさっさと逃げたい。
だから、ターロックとかいう王子は無視だ。
キサマはそこで呆然としているがいい。
わざわざ恋愛モードになんてしないで、とっとと撤収! 話をかたずけて、帰還コース一択!
わたしは、王様と王妃様と思われる相手を視線を向ける。
社会人たるもの、礼儀は必須。
取引先の相手に挨拶をするのなら、名刺交換から始めるのが大事かもしれないけれど、ここは会社じゃないし、わたしも今は名刺なんて持っていない。
だいたい、初対面の王様に名刺を渡す一般人……って、不敬だよね?
ここは、ヨーロッパ的世界観に合わせてカーテシーが無難かな?
やったことはないけど、ラノベやアニメでよく見ているからね。
やり方くらいは知っている。
背筋は伸ばしたまま、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げる。
両手でスカートの裾を軽く……、あくまで軽く……、生尻が見えたら軽犯罪なので! ゆったりと、優雅な動作で。
初対面の上位者に対する礼儀でもあり、また、わたしはこの程度の儀礼は知っている身分だよと、示す意味もある。
身分……、まあ、爵位なんてないけどさ。
わたしのご先祖様は、代々農民だよ‼
こーゆー似非ヨーロッパ的な社会では平民相当だよ!
でも現代日本人だからね!
身分差はないよ!
法の上の平等だよ!
現実には区別も差別もあるけどね!
でも似非ヨーロッパ的世界で、平民扱いされたら……、王様に対面するだけでも不敬でしょ? だから、それなりの位にあるという演技くらいはさせてもらうよ、自己防衛! ぼろ雑巾のように扱われるのは嫌だからね!
「……どのようなご事情で、わたしを召喚されたのかはわかりませんが。事情をお聞かせ願う前に、わたしの自己紹介をさせていただいても構いませんか?」
こちらのペースに巻き込んでやる。そんで、けむに巻いて逃げる! なんとしてでも逃げてやる!
王様らしき、王冠を被ったイケオジが「ああ」と答えた。
「ありがとうございます。わたしは『倭国は水戸に本社を有します大企業、歴史をさかのぼれば、江戸の大工業からはじまり、洋館建築で名を馳せ、その後明治・大正・昭和と時代ごとに鉄道やダムを作り、人々が安心・安全・快適に暮らすことが出来る社会を目指し、建設事業を行いつつ、経済・産業に貢献をしてきました某大手企業』の事務職を担当させていただいている者でございます」
「は?」
滔々と流れるようなわたしの口上を聞いていた王様たちが「ポカーン」とした顔になった。
だろうね!
わざとだもん!
絶対にこの国の人には分からないであろう倭国だの昭和だのを、さも重要事項みたいに発言に加えたけど。
つまりは、「わたしは事務をしている会社員ですよーん」としか言っていない。そして、更に、この世界の人間にはさらに分からないであろう言葉を更に列挙!
「わたしが有している資格は、まず英検準二級。年間の志願者数137万人にのぼる日本漢字能力検定も同じく準二級を取得しております。その他、日商簿記検定試験は三級、衛生管理者資格は第二種、ビジネス実務法務検定におきましては未だ三級で、二級取得のための勉学を行っているところではございますが……」
「は、はあ?」
何を言っているんだコイツ……という雰囲気が、蔓延したところで。
わたしは大声を上げた。
「有する資格はいくつかあれど! 聖女という資格は、有しておりません! 持っていませんので、わたしは聖女ではありません‼」
はい、資格持ってないよー。
もしも日本に『聖女検定』なんてものがあったとしても、受けないけどね!
「ま、待て。聖女とというものは、資格ではなく……」
すいっと手を挙げて、王様が言いかけた言葉をわざと遮る。
「わたしの世界では聖女と認定されている聖人女性は数多くいらっしゃいます」
「数多く……だと⁉」
王様もまだ黙っとけ!
こっちのペースで話をさせてもらうわよ!
不敬と思われない程度にね!
「はい。『産みの女神イヴ』『聖母マリア』『ゴルゴダの聖女』『聖ヴェロニカ』その他、我が世界の教会には多くの女性聖人が存在し、彼女たちは信仰の模範として崇敬されています。『聖アガタ』『聖アグネス』『聖アナスタシア』なども有名な女性聖人です。これらの聖人は、殉教者や信仰の守護者として知られています。有名という点では、世界中に名を馳せているのが『ジャンヌ・ダルク』でしょうか。彼女は、一時期は異端とされたのですが、死後、国民的英雄となり、軍人の守護聖人となっております」
「な、な、な……、そなたの国にはそんなにも多くの聖女が……」
さー、更に誤魔化すわよ☆
「数の点で言えば、 『聖ウルスラと彼女に従う乙女たち』でしょうか。乙女たちは、十一人という説もあれば、一万一千人と説もございます」
「い、いちまん……」
「はい。我が世界で認定されている聖女。その中でも有名な方々の名などを列挙させていただきました。その認定されている聖女の中に、わたしの名はございません!」
あるわけはない。
わたし、一般人だもん。単なる社会人の事務職員だもん!
……というのを、盛大に、別の言いかたで誤魔化すよーん☆彡
「したがって、こちらの世界にお招きいただきましても、資格を有しないわたしが、聖女として働くことは、我が世界の常識に反します。法にも反します!」
聖女って勝手に名乗ったら、痛い人!
わーたーしーは聖女じゃないよーん!
勝手に召喚しておいて、こちらの常識外の仕事をさせるな!
「わたしの世界の常識に照らし合わせれば、あなた方の召喚はミスである、つまり失敗! と、申し上げました」
はい、ここ大事。
ミスはわたしじゃなくて、あなたたちのせいだ。
よって、責任を負うのはわたしではなくあなたがた!
「つきましては、わたしを、元の世界に帰してください。聖女が必要であれば、我が世界中に点在する教会の、管理本部に問い合わせを」
「か、管理本部……?」
更にブイブイ行くわよー☆
「わたしは聖女の教会に所属しておりませんので、正式名称はわかりかねますが。聖女を束ねる教会の、本拠地は、わたしの世界では……、そうですね。確か……、教団事務局は、東京が早稲田にあったと存じます。そこで異世界まで聖女派遣ができるのかどうか分からない場合は、我が世界において最も権威ある地位とされている存在であるローマ教皇にお問い合わせを」
「ワセダ……? ローマ教皇……?」
「教団事務局であれば、ネット上にて電話番号が掲載されておりますので、わたしでも、あちらの世界に戻れば、問い合わせは可能ですが。さすがにローマ教皇とは面識がございません。故に、お手紙を書いても、教皇がお読みになっていただけるかは……わかりません」
べらべらべらべらと喋るわたし。
王様は面食らいながらも、何やら魔法使いっぽい白いローブを着たお爺ちゃんっぽい人に目配せをして……。そのローブのおじいちゃんは、頷いた。
「……この娘は、嘘は申しておりません」
……嘘とか判断するような魔法があるってわけねー。
もちろん嘘なんてついてないよ。
わたしは聖女じゃない。
わたしの世界には認定されている聖女がたくさんいる。歴史上でだけどね!
宗教だって、今は企業みたいなモノよ。お布施だけで生きてはいけない。だから、ホームページだってちゃーんとある。連絡できるんですよ。やろうと思えばだけど。
ま、それは言う必要がない。
とにかく聖女じゃ無いわたしを召喚したのはそっちのミスだっ!
だから、元の世界に帰してね。
そうしてわたしはまずパンツを履くのよ。




