第52話「次を作る話」
次に目を開けた時。
外はかなり明るかった。
「……ん」
コウが身体を起こす。
頭が重い。
だが、
少しは回復していた。
隣では、
リリアもゆっくり起き上がる。
「……かなり寝ましたね」
「ああ……」
身体中が痛い。
熊討伐。
解体。
緊張。
全部一気に来ていた。
シノも起きていた。
小さく伸びをしている。
「ワフ……」
外からは、
まだ騒がしい声が聞こえる。
笑い声。
鍋の音。
肉を焼く匂い。
熊祝いは、
まだ続いているらしい。
コウ達はそのまま外へ出た。
空気は、
昨日までと全然違う。
疲れてはいる。
だが、
村全体がかなり明るかった。
「おう!!
起きたか!!」
ロイドだった。
広場側では、
まだ熊肉が焼かれている。
ガルドも居た。
エミルも居る。
ノイルは鍋側だった。
「食え食え!!
まだ山ほどあるぞ!!」
串肉を押し付けられる。
かなり大きい。
コウも受け取る。
リリアも受け取った。
一口。
やはり美味い。
脂が強い。
だが臭みは少ない。
焼いた香りがかなり良かった。
「……やっぱ美味いな」
「ですよね……」
リリアも頷く。
シノまで肉を貰っていた。
かなり機嫌が良い。
「ワフ♪」
周囲も笑う。
「この犬、
完全に英雄だな」
「最初に気付いたんだろ?」
シノはさらに尻尾を振った。
しばらく。
皆で熊肉を食べる。
かなり平和な時間だった。
その時。
「まぁでも、
最後止めたのエミルだろ」
誰かが笑いながら言った。
周囲も頷く。
エミル本人は、
まだ実感無さそうだった。
「いや……
あれ偶然だからな?」
「暴れた所に刺さっただけだぞ?」
だが。
「それでも止め刺しは止め刺しだ」
ロイドが笑う。
「今日から熊殺しだな」
「やめろって……」
周囲も笑う。
かなり空気が柔らかかった。
その後。
ロイドが肉を齧りながら言う。
「……そういや、
狼娘の件」
コウも少し顔を上げる。
「ああ」
「どうする?」
少し考える。
そして。
「……一回、
会ってみたい」
ロイドが少し目を細めた。
「今からか?」
「出来るなら」
かなり即答だった。
エミルが少し笑う。
「行動早ぇな」
「気になるなら、
先見た方が早いだろ」
コウは普通に返す。
ロイドは少し考える。
だが。
「……まぁ、
2、3分で済むならいいか」
「助かる」
そのまま。
ロイドが立ち上がった。
「付いて来い」
コウとリリアも立つ。
シノまで付いて来ようとしていた。
「ワフ」
「お前は待機」
「クゥン……」
少し不満そうだった。
周囲が笑う。
「完全に仲間だなもう」
「賢いよなこの犬」
シノは渋々座った。
そのまま。
ロイドに案内されて歩く。
村奥側。
少し離れた場所。
元々空き家だった小屋らしい。
見張りまで居た。
ロイドが小さく声を掛ける。
「俺だ」
「ああ」
村人が頷く。
「まだ中居る」
ロイドも頷き返した。
そして。
ゆっくり扉を開ける。
中は暗かった。
空気も重い。
小屋奥。
毛布のような物へ包まるように、
狼系獣人の少女が座っていた。
灰色寄りの髪。
耳は伏せられている。
かなり痩せていた。
そして。
目だけが鋭かった。
警戒。
不信。
怯え。
全部混ざっている。
コウ達が入った瞬間。
少女の身体が少し強張った。
逃げるようにも見える。
だが、
逃げ場も無い。
ロイドが静かに言う。
「……昨日話した奴らだ」
少女は無言。
ただ、
視線だけは外さない。
コウも、
しばらく相手を見る。
そして。
かなり普通に聞いた。
「土方出来るか?」
一瞬。
空気が止まった。
少女も止まる。
完全に予想外だった顔。
「……は?」
警戒より先に、
困惑が出ていた。
コウはそのまま続ける。
「粘土分かるか」
「……」
「力仕事はいけるか」
少女は完全に混乱していた。
何を聞かれているのか、
一瞬理解出来ていない。
奴隷。
逃亡。
北崩壊。
そういう話になると思っていた。
だが。
目の前の男は。
土方。
粘土。
力仕事。
そんな話しかしてこない。
少女が少し警戒したまま答える。
「……出来る」
「どこまで?」
「土運び。
穴掘り。
壁塗り……」
少しずつ。
言葉が出始める。
「粘土も……
多少分かる」
コウは静かに聞いていた。
「力仕事は」
「……平気」
少女は少し睨むように返す。
「獣人だから」
コウはそこで初めて少し頷いた。
「なら助かる」
少女がまた止まる。
本当に意味が分からない顔だった。
「……何なんだよ」
小さく呟く。
「ん?」
「普通、
もっと別の事聞くだろ……」
ロイド達は少し苦笑していた。
コウは逆に少し考える。
「別の事?」
「……」
少女は少し言葉に詰まる。
奴隷。
逃亡。
値段。
従順。
そういう話になると思っていた。
だが。
この男は。
土方。
粘土。
力仕事。
そんな話しかしてこない。
コウはかなり普通に言った。
「今、
人手足りないんだよ」
「……は?」
「拠点壊れた」
短かった。
「熊に襲われた」
少女の耳が少し動く。
ロイド達も静かだった。
コウは続ける。
「池も壊れた。
生簀も終わった」
かなり現実的だった。
「だから今、
修復要員普通に欲しい」
そして。
少し間を置いて続ける。
「……お前も、
北で大変な事あったんだろ」
少女の耳が少し伏せられる。
「俺達も、
自分たちの拠点やられた」
熊。
あの夜。
下手すれば、
普通に全滅していた。
「ただ、
たまたま命が残った」
コウは真っ直ぐ言う。
「お前も、
まだ命あるなら」
静かな声だった。
「一緒に、
俺たちの場所を作らないか」
小屋の中が静かになる。
少女はすぐには答えない。
かなり迷っていた。
当然だった。
今まで、
そんな話をされた事が無いのだろう。
その横で。
リリアが小さく口を開く。
「……私も奴隷でした」
少女の目が動く。
初めて。
真正面からリリアを見る。
「でも今も、
一緒に暮らしてます」
リリアは小さく笑った。
「働いて。
ご飯食べて。
拠点作って」
かなり普通の言葉だった。
「だから……
もし嫌じゃなければ、
一緒に来ませんか?」
少女は黙ったまま聞いている。
だが。
最初より、
明らかに空気が変わっていた。
完全な拒絶ではない。
困惑。
警戒。
そして少しだけ、
迷い。
全部混ざっている。
コウも、
すぐ返事を求めなかった。
「……別に、
今すぐ決めなくていい」
少女の耳が少し動く。
「考えとけ」
そして。
コウがロイドを見る。
「……いいよな?」
その言い方が、
かなり自然だった。
許可を乞うというより、
確認に近い。
ロイドも普通に返す。
「2、3日くらいなら、
まぁ何とかするわ」
「助かる」
少女――セナは、
そこでまた少し目を動かした。
この男。
村側へ普通に意見を通している。
しかも。
ロイド相手に、
妙に対等だった。
なのに。
服装も普通。
武器も普通。
戦士にも見えない。
商人にも見えない。
だが。
周囲は普通に話を聞いている。
何者なのか、
よく分からなかった。
その横。
リリアも不思議だった。
自分で奴隷だと言った。
だが。
コウへ極端に怯えている訳でもない。
命令待ちでもない。
かなり自然に隣へ立っている。
一緒に動いている。
空気としては、
従者に近い。
だが。
普通の主従とも違う。
セナには、
全部よく分からなかった。
その途中。
ロイドがふと思い出したように言う。
「……あー、
ただな」
「ん?」
「もしお前、
こいつ奴隷にするなら結局町行かなあかんぞ」
「あ」
コウが止まる。
リリアも少し止まった。
「……そういやそうだったな」
「リリアの時も町行っただろ」
「完全に忘れてた」
周囲が少し笑う。
エミルも肩を揺らす。
「どうせ熊売りに行くんだろ?」
「まぁ、
どのみち町だな」
熊素材。
毛皮。
爪。
脂。
骨。
かなりの値になる可能性がある。
どちらにせよ、
フェルドへは行く事になる。
そして。
ロイドが続けた。
「……あー、
あと今回」
「ん?」
「俺とエミルも町行くわ」
コウが少し首を傾げる。
「なんでだ?」
すると。
エミルが呆れた顔をした。
「お前、
熊の価値分かってねぇだろ」
「あ」
「しかも、
どこに売るかも分かってねぇだろ」
コウは少し黙った。
「……まぁ、
確かに」
周囲が少し笑う。
「毛皮だけでも結構行くぞ」
「熊脂もかなり高ぇしな」
エミルが続ける。
「その辺は俺らに任せろ」
「助かる」
コウには、
熊素材の相場が分からない。
下手に売れば、
普通に買い叩かれる。
そこは村側の方が詳しかった。
そして。
ロイドも少し息を吐く。
「まぁ、
俺も報告しなきゃならんしな」
「報告?」
「熊」
短かった。
「流石に、
あれ放置は無理だ」
北側被害。
大型熊出現。
街側にも、
情報は流す必要がある。
ロイドは苦笑する。
「別に俺、
村長じゃねぇんだけどな」
エミルが笑った。
「でも今ほぼ代理じゃん」
「叔父が投げ過ぎなんだよ……」
ロイドが頭を掻く。
リース村の正式な村長は、
ロイドの叔父だ。
だが最近は、
実際の現場対応をかなりロイドが担っていた。
村人側も、
もう慣れている。
「まぁ、
お前が一番動くしな」
「しゃーねぇだろ」
周囲も普通に頷いていた。
ロイドは疲れた顔をする。
「……俺まだ若いんだけどな」
その言葉に、
少し空気が緩む。
セナも、
黙ったままそのやり取りを見ていた。
村。
共同体。
空気。
全部、
自分が知っているものと違う。
何より。
このコウという男の立場が、
よく分からなかった。
村人ではない。
だが。
ロイド達が普通に話を聞いている。
奴隷を連れている。
なのに。
その奴隷は、
妙に自然に隣へ立っている。
しかも。
自分へ向ける言葉は、
値段でも従順さでもない。
土方。
粘土。
力仕事。
そんな話ばかりだった。
意味が分からない。
だが。
少なくとも、
嫌な感じはしなかった。
コウが立ち上がる。
「……じゃあ、
一旦戻るわ」
「ああ」
ロイドも頷く。
「今日は休め」
コウ達は、
そのまま小屋を出た。
広場側へ戻ると、
シノがすぐ気付いた。
「ワフ!!」
勢い良く駆け寄ってくる。
「おーおー、
待たせた待たせた」
コウが頭を撫でる。
シノはかなり機嫌が良かった。
尻尾が凄い勢いで振られている。
「完全に家族だなもう」
「賢いしなぁ」
周囲がまた笑う。
シノはそのまま、
当然のようにコウ達の横へ付いた。
そして。
コウ達は、
そのままグレン工房横の離れへ戻っていった。
離れはかなり静かだった。
外はまだ騒がしい。
だが、
ここまで来ると少し落ち着く。
コウはそのまま、
荷物を確認し始めた。
「……まず、
乾燥中のやつだな」
「あ」
リリアもすぐ理解した。
「完全に止まってましたね……」
熊騒ぎで、
頭から抜けていた。
急いで確認する。
薬草。
山椒。
セルハ草。
包みを開く。
状態を見る。
「……まだ大丈夫そうだな」
「はい。
湿気もそこまでじゃないです」
リリアも少し安心した顔をする。
そのまま。
火位置を調整する。
乾燥位置を変える。
並べ直す。
再び乾燥させ始めた。
しばらく。
静かな作業音だけが続く。
その途中。
コウが小さく呟いた。
「……網、
設置しなくて良かったな」
購入網。
まだ常設まではしていなかった。
もし設置していたら。
多分。
熊に壊されていた。
リリアも頷く。
「無事じゃ済まなかったと思います」
「だろうな」
池。
生簀。
周囲。
かなり荒らされているはずだ。
魚も、
多分全滅に近い。
考えるだけで頭が痛い。
だが。
逆に言えば、
残っている物もある。
全部失った訳ではない。
そこは大きかった。
コウは木箱も確認していく。
干し肉。
塩干し肉。
塩漬け魚。
保存食自体は、
そこまで減っていない。
「熊、
かなり食えたからな」
「はい」
リリアも苦笑する。
「普通干し肉、
ほとんど減ってません」
熊1頭。
改めて、
とんでもない量だった。
その後。
コウは少し座り込む。
疲労が戻ってきていた。
「……明日、
拠点確認だな」
「ですね」
リリアも隣へ座る。
「多分、
かなり壊れてます」
「ああ」
コウも否定しない。
池。
柵。
乾燥場。
生簀。
熊が暴れたなら、
無事な方がおかしい。
少し沈黙。
その後。
リリアが静かに言う。
「……新しい場所、
探した方がいいかもしれませんね」
コウも少し考える。
「あそこ、
元々かなり危なかったからな」
森に近い。
水は良い。
だが、
防衛面は弱い。
しかも。
今後もし人数が増えるなら、
今のままでは厳しい。
「半分、
仮拠点みたいなもんだったしな」
「はい」
リリアも頷く。
外ではまだ、
村側の笑い声が聞こえる。
熊祝い。
生き残った空気。
だが。
コウ達は、
もう次を考え始めていた。
PL(第52話終了時)
通常収支
項目増減
開始236ルク
変動なし±0
終了236ルク
⸻
食料変動
普通干し肉A
開始8
変動なし
残8
⸻
普通干し肉B
開始5
変動なし
残5
⸻
普通干し肉加工中A
開始5
* 離れ帰還後再乾燥処理
* 未回収
残5
⸻
普通干し肉加工中B
開始30
* 離れ帰還後再乾燥処理
* 未回収
残30
⸻
塩干し肉
開始10
変動なし
残10
⸻
塩漬け魚A
開始2
変動なし
残2
⸻
塩漬け魚B
開始6
変動なし
残6
⸻
熊肉
開始大量
* 村共同消費
* 一部保存予定
* 一部町売却予定
※数量管理保留
⸻
粉類変動
山椒粉
開始57
変動なし
残57
⸻
唐辛子粉
開始25
変動なし
残25
⸻
セルハ粉
開始57
変動なし
残57
⸻
粉塩
開始45
変動なし
残45
⸻
素材変動
乾燥薬草
開始41
変動なし
残41
⸻
生山椒
開始5
変動なし
残5
⸻
乾燥山椒
開始50
変動なし
残50
⸻
山椒(乾燥中)
開始30
* 離れ帰還後再乾燥処理
* 状態維持
残30
⸻
乾燥唐辛子
開始25
変動なし
残25
⸻
セルハ草(乾燥中)
開始10
* 離れ帰還後再乾燥処理
* 状態維持
残10
⸻
薬草(乾燥中)
開始10
* 離れ帰還後再乾燥処理
* 状態維持
残10
⸻
BL(第52話終了時)
魚関連
* 魚罠 稼働中×4
* 魚罠 交換用×4(リアカー積載)
※未確認
⸻
簡易生簀
* 熊襲撃により大破
* 魚消失
* 修復未着手
⸻
食料
完成品
* 普通干し肉A×8
* 普通干し肉B×5
* 塩干し肉×10
* 塩漬け魚A×2
* 塩漬け魚B×6
⸻
加工中
* 普通干し肉加工中A×5
※先行乾燥分・離れで再乾燥中
* 普通干し肉加工中B×30
※後発乾燥分・離れで再乾燥中
⸻
熊関連
* 大型熊(討伐済み)
* 熊肉(大量)
* 熊素材(町売却予定)
* 熊功労分査定予定
⸻
熊素材
* 熊毛皮
* 熊牙
* 熊爪
* 熊脂
* 熊骨
* 熊胆(状態確認中)
※正式査定は町予定
⸻
素材・薬品
リアカー積載
* 乾燥薬草×41
* 生山椒×5
* 乾燥山椒×50
⸻
乾燥中
* 山椒(乾燥中)×30
* 薬草(乾燥中)×10
* セルハ草(乾燥中)×10
⸻
粉類(小壺)
* 山椒粉×57(小壺)
* 唐辛子粉×25(小壺)
* セルハ粉×57(小壺)
* 粉塩×45(小壺)
⸻
リアカー積載
木箱
* 木箱(大)×2
* 木箱(小)×2
⸻
武器・工具
* 剣×1
* 槍×1
* 片手斧×1
* ナタ×1
* ツルハシ×1
* ショベル×1
⸻
調理器具
* 小鍋×2
* 中鍋×1
* 鉄板×1
* 古鍋×1
⸻
その他
* 購入網×1
※常設未実施で被害回避
* 竹網×2
* 紐
* 縄
* ロープ
* 壺類
* 陶器類
* 水袋
* カバン類
⸻
拠点状況
* 池周辺荒廃想定
* 熊侵入跡あり
* 生簀破損確定
* 常設設備状況未確認
* 明日拠点確認予定
* 半放棄案浮上
* 新拠点検討開始
⸻
村側状況
* 熊討伐完了
* 熊祝い継続中
* 熊素材町売却予定
* 熊功労分査定予定
* フェルド町訪問予定
* ロイド・エミル同行予定
* 熊被害報告予定
* セナ勧誘実施
* セナ返答待ち
* 新共同体構想進行中




