第29話「森へ戻る」
朝。
コウはゆっくり目を開ける。
リースの宿の天井。
木の匂い。
昨日よりは少し身体が軽かった。
隣を見る。
リリアも既に起きていた。
「どうだ、調子は」
リリアは小さく頷く。
「もう全然問題ないです」
顔色も悪くない。
熱も無さそうだった。
コウも少し安心する。
「なら行くか」
「はい」
2人は身支度を整える。
水筒。
袋。
カバン。
最低限だけ持つ。
そのまま宿を出た。
朝のリース村はまだ静かだった。
煙が少し上がっている。
パンを焼く匂い。
木を割る音。
村が少しずつ起き始めていた。
コウ達はグレン工房へ向かう。
工房へ着くと、既に数人集まっていた。
「お、来たか」
エミルが手を上げる。
ロイド。
ガルド。
みんな準備済みだった。
その横ではルナが鼻を鳴らしている。
リリアは自然にそちらへ向かった。
「水替えますね」
桶を持ち、水を入れ替える。
飼葉も確認。
首元も軽く撫でる。
ルナも落ち着いた様子だった。
コウはその間に昨日の干し肉を確認する。
吊るされていたウサギ肉。
昨日塩処理した分だ。
「……干しながら帰るか」
コウが呟く。
そのまま工房裏を見る。
「グレイ」
「ん?」
「悪い、また借りる」
コウはホセルヨキットを見る。
昨日使っていた干し肉吊るし用の道具だった。
グレイは少し嫌そうな顔をした。
「……また使うのか」
「森まで持ってく」
グレイは小さくため息。
その視線が自然とエミルへ向く。
(また“作れ”って言われそうだな……)
そんな顔をしていた。
「壊すなよ」
「壊さん」
コウは軽く返す。
ホセルヨキットへ肉を吊るしていく。
その横ではノイルが一輪車を見ていた。
「本当に森まで持ってくんですか?」
「試す」
コウは短く返す。
そしてルク袋から金を出した。
「……12だったな」
グレイが頷く。
「ああ」
コウはそのまま12ルク渡した。
一輪車。
正式受け取りだった。
ノイルがかなり興味深そうに見る。
「戻ったら感想聞かせてくださいね!」
エミルが笑う。
「お前ほんと好きだな」
一輪車はそのままリアカーへ載せられる。
準備が終わる。
ロイドが周囲を見る。
「じゃあ行くか」
一行は村を出た。
コウ。
リリア。
ロイド。
エミル。
ガルド。
5人。
リアカーを人力で引いていく。
村道を抜ける。
だが森へ近付くにつれ、道は徐々に悪くなっていった。
木の根。
石。
ぬかるみ。
荷台が時々揺れる。
「うおっ」
エミルが少し笑う。
「これ、荷物固定ちゃんとしとかねぇと怖ぇな」
ロイドが後ろを見る。
「森奥用か、その……小さいリアカー」
「一輪車」
コウが訂正する。
「ああ、一輪車か」
コウは前を引きながら言う。
「リアカーより小回り利く」
さらに奥へ入る。
すると少しずつ、以前通した跡が見え始めた。
削った枝。
踏み固めた土。
無理やり広げた木の間。
エミルが周囲を見る。
「毎回キツいぞこれ」
コウは普通に返す。
「2回通した」
ロイドが止まる。
「……2回もこれ通したのか」
ガルドも少し引いた顔。
「よく通したなお前……」
コウは特に気にしていない。
押し続ける。
そして。
木々の間が少し開けた。
「……ここか」
ロイドが呟く。
森拠点。
コウ達の生活場所だった。
棚。
鍋。
灰。
荷物。
そこには確かに生活の跡が残っていた。
「……ほんとに住んでたんだな」
ガルドが周囲を見る。
エミルも小さく口を開く。
「思ったよりちゃんとしてる」
ロイドは周囲を確認する。
「……確かに悪くねぇな」
コウはリアカーを止める。
「だから拠点にした」
リリアは静かに周囲を見ていた。
初めて見る森拠点。
人が生きていた空気が、まだそこに残っていた。
少しの間、全員が周囲を見ていた。
風が枝を揺らす。
川の音も聞こえる。
エミルが先に動いた。
「……で?」
「今日は何すりゃいい?」
コウはリアカーへ視線を向ける。
「俺とリリアは拠点整理する」
「荷物下ろして、罠戻して、採取もある」
その後、一輪車を見る。
「お前らは試してこい」
エミルの顔が少し上がる。
「いいのか?」
「どうせ慣れた方が早い」
ロイドも頷いた。
「周辺確認兼ねるか」
「狩りもできるしな」
ガルドは一輪車を持ち上げる。
「……思ったより軽いな」
「だから森向き」
エミルはもう少し嬉しそうだった。
「じゃあ行ってくる」
「暗くなる前には戻れよ」
「あいよ」
3人はそのまま一輪車を押しながら森へ入っていく。
少しして足音が遠くなった。
静かになる。
「……さて」
まずは荷下ろしだった。
木箱。
袋。
鍋。
布。
拠点へ戻す物を分けていく。
棚の横へ鍋を置く。
厚手の布は簡易ベッド側へ。
干し草も戻す。
小壺。
すり鉢。
加工用具も棚へ並べていく。
リアカー側へ残す物も分ける。
水桶。
水袋。
馬用ブラシ。
蹄掃除道具。
普段使う物はそのまま積載状態にしておく。
途中、コウは隅へ寄せてあった石道具を見る。
「……もう使わねぇな」
そのまま隅へ放り、処分側へまとめた。
その後、コウは魚罠を持ち上げる。
「先に魚罠戻す」
2人は川へ向かった。
流れ。
石。
沈み方。
確認しながら魚罠を沈める。
紐を固定。
石で押さえる。
リリアはその様子を見ていた。
「こうやって使うんですね」
「場所悪いと全然入らん」
魚罠を置き終える。
次は動物罠だった。
枝。
紐。
踏み板。
コウは慣れた手付きで組み直す。
リリアはその横を見る。
「すごいですね」
「何がだ」
「こういうの全部……コウさん1人でやっていたのですか?」
コウは肩をすくめた。
「やらねぇと食えねぇからな」
罠を3つ戻す。
獣道沿い。
以前と同じ場所だった。
「これでよし」
拠点へ戻る。
途中、コウは荷物を確認する。
採取袋。
水筒。
そしてナタも腰へ差した。
リリアが少し不思議そうに見る。
「木も切るんですか?」
「竹取ってくる」
コウは肩を軽く動かす。
「食器、まだ1人分しかねぇし」
「あ……」
リリアはそこで少し気付いた顔をした。
コウは葉用カバンをリリアへ渡す。
「あとこれ」
「葉っぱ用だ」
「……分かりました」
2人は別方向へ歩き始めた。
コウは薬草。
山椒。
それから竹を回収する。
細めの竹を数本。
背負える程度。
薬草10。
山椒20ほど。
十分だった。
拠点へ戻ると、リリアも戻ってきていた。
カバンには大量のクルム葉。
「かなりありました」
「あと、薬用の葉も見つかりました」
「頭痛に効く葉と、腹痛用の葉、それと解熱用の葉です」
「必要になったら、また取りに行けます」
コウは頷く。
「じゃあ今後、薬草関係はリリアに任せる」
リリアが少し目を丸くする。
「……私に、ですか?」
「ああ」
「今までの薬草も乾かしてくれ」
「クルム葉も切らさないようにしたい」
「干し肉包む時にも使う」
「分かりました」
コウはそのまま山椒と唐辛子をすり潰していく。
山椒粉。
唐辛子粉。
小壺へ入れて棚へ置く。
その横で、リリアはクルム葉を洗っていた。
汚れを落とす。
傷んだ部分を分ける。
乾燥場所へ並べていく。
薬草も袋へ分けながら整理していた。
加工を終えた後、コウは竹へ手を伸ばす。
「今度は食器ですか?」
「ああ」
竹を割る。
削る。
椀。
皿。
簡単なコップ代わり。
最低限だが、これで2人分だった。
その後、コウは吊るしてあった干し肉を見る。
「……これ、もう包めそうだな」
朝持ってきた分だ。
かなり乾いている。
「山椒のやつも頼む」
「見分けつくようにしてくれ」
「分かりました」
リリアはクルム葉を使い、包み方を少し変えていく。
普通の干し肉。
山椒入り。
分かるように包み直していった。
しばらくして。
遠くから声が聞こえてくる。
「おーい!」
エミルの声だった。
3人が戻ってくる。
そして。
一輪車の上にはウサギが2匹乗っていた。
「これめっちゃ楽だぞ」
エミルがかなり機嫌良さそうだった。
「森で荷物運ぶのめちゃくちゃ楽だわ!」
ロイドも頷く。
「小回り利くのがいいな」
ガルドも笑う。
「狩りと相性いい」
コウは少し笑った。
「だから作らせた」
コウはリリアが包んだ干し肉を見る。
「……山椒のやつ2個でいいなら交換するぞ」
エミルが笑う。
「ああ、いつもの換算な」
「それでいいわ」
ロイドも頷く。
「帰り荷物軽い方が楽だしな」
コウは一応リリアを見る。
「……山椒はこっちでいいか?」
「はい」
「じゃあそれで」
ガルドがウサギを渡す。
「ただ血抜きまだだぞ」
「ああ、こっちでやる」
交換成立だった。
リリアはそのまま下処理を始める。
血抜き。
皮剥ぎ。
解体。
コウも横で塩を取り出す。
「……10使う」
「はい」
塩を擦り込む。
吊るす。
2匹分。
合計10個。
まだ加工中だった。
ロイドが口を開く。
「明日、早めに来いよ」
「ああ」
エミルも続ける。
「荷物少なめで来いよ」
「リアカーに乗せるから」
ロイドも頷く。
「木材積むんだろ?」
「ああ」
ガルドも笑う。
「もう普通に輸送隊だなこれ」
3人はそのまま帰っていった。
静かになる。
作業が終わる頃には、日も少し傾き始めていた。
コウは網を持ち上げる。
「……網やるか」
「今からですか?」
「まだ日ある」
2人はそのまま川へ向かった。
コウが追い込み。
リリアが待ち受け。
役割分担はかなり噛み合っていた。
「取れました!」
魚が網の中で暴れる。
1匹。
2匹。
3匹。
思った以上に入っていた。
その後も繰り返す。
「……2人だとめっちゃ取れるな」
「待つだけでもいいなら、私にもできます」
「ああ、かなり助かる」
気付けば魚は10匹になっていた。
「……取りすぎたな」
コウは周囲を見る。
追い込み場所。
元々石が積み重なっている。
「ここ塞ぐ」
石を動かす。
隙間を埋める。
流れは残す。
だが魚は抜けにくい。
簡易的な生簀だった。
10匹を放り込む。
「……これなら何とかなるか」
その後、2人は下流側へ向かった。
先ほど仕掛けた魚罠。
紐を辿る。
そして引き上げた。
「入ってるな」
するとリリアも横を見る。
「こっちも入ってます」
魚は2匹。
「今日は流れいいからな」
「今日食う分はこっちでいい」
魚2匹を持ち、魚罠も回収して拠点へ戻る。
空はもう赤くなっていた。
コウは先に火を起こす。
その火を分ける。
焚き火側。
そして鉄板側のかまにも火を入れていく。
リリアは魚を捌いていた。
内臓を抜く。
軽く水で洗う。
コウは魚へ塩を振る。
魚1匹に塩1。
それを2匹分。
串へ刺す。
「魚はこっちでやる」
「はい」
リリアは鉄板を確認する。
昨日完成した塩干し肉。
今日は試し食いだった。
山椒粉1。
唐辛子粉1。
コウの分。
リリアの分。
それぞれ使う。
合計で山椒粉2。
唐辛子粉2。
リリアは塩干し肉を鉄板へ置く。
じわっと音が鳴る。
山椒の香り。
唐辛子の刺激。
「……いい匂いです」
コウは魚を返しながら頷く。
「粉にした方が広がるな」
炙ったことで香りも強くなっていた。
「……干し肉、そのままでもいいけど」
「焼いて食うのも良さそうだな」
「温かい方が香り出ますね」
魚が焼き上がる。
皮が少し焦げる。
塩の匂いが立つ。
コウは串を火から外した。
「よし」
「こっちも大丈夫そうです」
魚。
塩干し肉。
簡単な夕食だった。
だが以前よりかなりまともだった。
2人は焚き火の前へ座る。
コウは先に塩干し肉を食べる。
炙ったことで脂が少し柔らかくなっていた。
そこへ山椒の香り。
後から唐辛子。
「……この味ならいけるな」
リリアも食べる。
「とても美味しいです」
そして少し困った顔。
「ただ、ちょっと唐辛子は辛いです」
コウは少し笑った。
「まあ、あれは好み分かれるか」
2人はそれぞれ塩干し肉を2個ずつ食べる。
今度は魚だった。
「魚も美味しいですね」
「ああ」
「取れるならかなり助かる」
だが同時に、昼の光景も思い出す。
魚10匹。
生簀。
大量の保存候補。
「……塩全然足りねぇな」
リリアも苦笑する。
「思ったよりいっぱい取れましたから」
「2人だと効率おかしい」
「1人の時と全然違う」
火がぱちりと鳴る。
以前は1人だった。
だが今は違う。
向かい側にリリアがいる。
干し肉を焼く匂い。
魚の匂い。
薬草を乾かしている匂い。
生活の匂いが増えていた。
コウは火を見ながら小さく呟く。
「……40でも足りねぇかもな」
「塩ですか?」
「ああ」
「80いるかもしれん」
以前なら考えなかった量だった。
だが今は違う。
取れる量が増えている。
加工量も増えている。
保存できれば、かなり変わる。
(……早く塩見つけてぇな)
自分達で確保できれば。
それだけで生活はかなり変わるはずだった。
森の夜がゆっくり深くなっていく。
火だけが静かに揺れていた。
BL(第29話終了時点・確定版)
武器
主人公携帯
* 鉄ナイフ×1
リリア携帯(外出時)
* 鉄ナイフ×1
森拠点保管
* 木槍×1
* 剣×1
* ナタ×1
処分済
* 石ナイフ×2
* 石斧×1
⸻
衣類・装備
主人公携帯
* 革靴×1
* 革手袋×1
* 背負いカバン×1
* 肩掛けカバン×1
* 水筒×1
* ルク袋×1
主人公管理袋類
* 薬草袋×1
* 山椒袋×1
* 唐辛子袋×1
* 予備袋×1
※ 基本は森拠点保管
※ 採取・運搬時のみ持ち出し
リリア用(必要時持ち出し)
* 葉用カバン×1
* 採取袋×1
* リリア専用
* 水筒×1
* 革靴×1
⸻
馬用品・運搬
現在使用中
* リアカー×1
* 一輪車×1
借用中(グレン工房)
* ホセルヨキット×1
* 干し肉乾燥・吊るし販売用
グレン工房預かり
* 馬×1
馬用品(リアカー常備)
* ロープ×1
* 縄×5
* 固定用×2
* 予備×3
* 水袋(小)×2(馬用)
* 水桶(大)×2
* ブラシ×1
* 蹄掃除具×1
* 飼葉枡×1
森拠点保管
* ロープ×2
* 紐×3(罠用)
* 魚罠×2
⸻
食料
完成品
* 山椒干し肉×6
* 塩干し肉×1
* 固形パン×1
加工中
* 塩干し肉(加工中)×10
簡易生簀
* 魚×10
⸻
素材・薬品
森拠点袋保管
* 薬草×37
* 山椒×18
* 唐辛子×3
* クルム葉 多数
粉類(森拠点保管)
* 山椒粉×4
* 唐辛子粉×4
塩
* 塩壺A×1(塩7)
* 塩壺B×1(空)
⸻
容器・収納
リアカー積載
木箱(大)×1
収納内容:
* ロープ
* 縄
* 布
* 馬用品
木箱(小)×1
用途:
* 売却用商品収納
森拠点保管
木箱(大)×1
木箱(小)×1
小壺×5
* 基本拠点保管
* 商売時持ち出し予定あり
すり鉢×5
* 全数拠点保管
⸻
布・寝具
リアカー常備
* 普通の布×1
森拠点保管
* 厚手の布×2
* 干し草×2
* 簡易ベッド×2
* 棚×1
* 鉄板×1
* 中鍋×1
* 古い大鍋×1(陶器製)
* 小鍋×2
* ショベル×1
* ツルハシ×1
* 竹食器2人分
⸻
設置・稼働
森設置中
* 動物罠×3
* 簡易生簀×1
⸻
通貨
* 84ルク
⸻
同行・管理対象
* リリア×1
* ルナ×1
⸻
新規依頼・予定
* 小麦購入依頼
* 2袋予定
* 上限25ルク
* 中木材20本売却依頼
* 売値予定30ルク
* 試験輸送予定
* 一輪車森道試験成功
* 塩大量購入検討
* 魚保存運用開始
⸻
PL(第29話収支表)
項目増減
開始96ルク
一輪車購入-12
終了84ルク
食料・素材変動
項目増減
山椒干し肉-2(交換)
塩干し肉(完成品)-4(食事)
塩干し肉(加工中)+10
塩-12
山椒+20
山椒-3(粉化)
山椒粉+6
山椒粉-2(試食)
唐辛子-2(粉化)
唐辛子粉+6
唐辛子粉-2(試食)
薬草+10
魚+12
魚-2(食事)
加工・状況
内容状況
ウサギ2匹塩干し肉10加工中
魚10匹簡易生簀保管
山椒・唐辛子粉運用開始
竹食器2人分完成
クルム葉洗浄・乾燥開始




