第30話「試験輸送」
朝。
森拠点。
コウはゆっくり身体を起こした。
土の匂い。
焚火の残り香。
少し冷えた朝の空気。
外では鳥の声が聞こえている。
今日はフェルドへ向かう日だった。
木材輸送。
干し肉販売。
小麦購入。
塩購入。
やることは多い。
コウは外へ出る。
まず向かったのは、
簡易生簀だった。
中では魚がまだ動いている。
全部で10匹。
今日は長時間拠点を空ける。
コウは池周囲へ石を追加で積み、
軽く補強していく。
「これで少しはマシか」
完全ではない。
だが、
何もしないよりは良い。
リリアも横から確認する。
「逃げそうですか?」
「流石に大丈夫だとは思うけどな」
次は罠確認へ向かう。
森を少し進み、
罠場所へ到着する。
「……掛かってるな」
ウサギ3匹。
かなり良い成果だった。
リリアも少し驚く。
「3匹全部ですか」
「ああ。今日は当たりだな」
コウは罠状態も確認する。
固定。
縄。
周囲。
問題なし。
本日中に戻る予定なので、
罠は再設置しておく。
明日の朝また確認するつもりだった。
魚罠2つも一度回収する。
今日は戻りが遅くなる可能性もある。
放置は避けたかった。
拠点へ戻る。
すぐに解体作業へ入る。
皮。
肉。
骨。
慣れた手順で処理していく。
3匹分。
量はかなり多かった。
リリアが塩壺を見る。
「……塩、少ないですね」
コウも確認する。
残量はかなり減っていた。
「全部塩は無理か」
「どうします?」
コウは少し考える。
そして頷いた。
「全部山椒で行く」
「分かりました」
山椒粉。
肉。
紐。
順番に加工していく。
今日新しく作るのは、
山椒干し肉15。
まだ加工途中。
今日も風へ当てながら乾燥させる予定だった。
加工を終えた後。
コウは昨日吊るした塩干し肉を確認する。
軽く触る。
「……出来てるな」
一晩しっかり風を通したおかげで、
かなり良い状態だった。
昨日加工した10個。
既にあった分と合わせ、
塩干し肉は11になる。
コウは葉っぱを広げ、
完成した塩干し肉を順番に包んでいく。
売り物用。
持ち運び用。
保存用。
リリアも葉用カバンを開く。
中には包装用のクルム葉が大量に入っていた。
商売する時は必須だった。
「葉っぱ足りますか?」
「多分大丈夫だとは思う」
コウは苦笑する。
ただ、
売れ始めたら一気に減る。
だから葉っぱはかなり重要だった。
包み終えた干し肉を確認する。
完成品。
山椒干し肉6。
塩干し肉11。
加工中。
山椒干し肉15。
「……結構増えたな」
「かなりありますね」
コウは背負いカバンを持ち上げる。
さらに肩掛けカバン。
完成品は基本ここへ入れる。
薬草袋。
山椒袋。
唐辛子袋。
全部まとめて入れていた。
だが、
量が増えれば限界も来る。
その時は、
吊るせる君も使うつもりだった。
コウは加工中の山椒干し肉を持ち上げる。
「……これ、今日も吊るすか」
「本当にですか?」
リリアが少し困った顔をする。
「かなり見られますよ」
「まあ……多分平気だろ」
「多分なんですね……」
リリアは少し呆れながらも手伝い始めた。
吊るせる君へ、
加工中の山椒干し肉を順番に吊るしていく。
全部吊るし終えると、
かなり妙な荷車になった。
コウはリアカー全体を見回す。
問題なし。
出発準備は整っていた。
「じゃあ、グレンの工房行くか」
「はい」
朝の森を抜け、
2人はリアカーを押しながら歩き出した。
森を抜けると、
少しずつ村の気配が近付いてくる。
朝のリースは既に動き始めていた。
畑へ向かう者。
薪を運ぶ者。
井戸へ向かう女たち。
そんな中で、
コウたちのリアカーはかなり目立っていた。
「あれ肉か?」
「何だあの荷車……」
通り過ぎる村人たちも、
思わず視線を向けてくる。
リリアが少しだけ視線を逸らした。
「やっぱり見られてます」
「まあ、見られるだろうな」
コウ自身も否定できなかった。
やがて、
グレンの工房が見えてくる。
既に朝から作業音が響いていた。
木を削る音。
金属を叩く音。
職人たちの声。
その中で、
グレンは腕を組みながらこちらを見ていた。
「おう、来たか」
「ああ」
コウはリアカーを止める。
グレンの視線は、
すぐに吊るされた干し肉へ向いた。
「……増えてやがるな」
「ああ。今日は量多い」
グレンは鼻を鳴らす。
しばらく吊るし部分を見た後、
軽く触った。
「固定はまだ甘ぇな。揺れる」
「あー、やっぱりそうか」
「増やすならもう少し強くしろ」
ノイルも奥から出てくる。
吊るされた干し肉を見て、
少し苦笑した。
「かなり増えましたね」
「3匹分だからな」
「流石に重さ変わってます」
ノイルは吊り部分を見る。
「でも前より安定してますね」
「車輪幅広げたからな」
グレンは頷く。
「前ならもっと暴れてた」
その横で、
リリアは工房脇の井戸へ向かう。
水桶へ水を汲み始めた。
今日は往復。
かなり長時間動く。
水は多めだった。
コウも荷を確認している途中で、
ふと止まる。
「……あ」
「どうしました?」
ノイルが振り返る。
「飼葉忘れた」
一瞬静かになる。
リリアも困った顔をした。
「今日往復ですよね?」
「ああ……袋ごと忘れてた」
コウは頭を掻く。
すると、
奥で聞いていたグレンが鼻を鳴らす。
「工房の使え」
「悪い。幾らだ?」
「別に大した量じゃねぇ」
グレンは工房脇へ向かい、
飼葉袋を持ってくる。
さらに中へ飼葉を詰め始めた。
「2食分ありゃ足りるだろうが、念のため多めに持ってけ」
袋は少しずつ膨らんでいく。
結局、
5食分近く入っていた。
ノイルが苦笑する。
「結構入れますね……」
「途中で足りなくなる方が面倒だ」
グレンは袋口を縛る。
そして、
そのままノイルへ放った。
「あと今日はノイル連れてけ」
「え?」
突然名前を呼ばれ、
ノイルが固まる。
グレンは腕を組む。
「どうせ気になって仕事にならんだろ。だったら実際見てこい」
「いや、それは……」
「車輪見とけ。荷崩れも確認しろ。次改造するなら実物見た方が早ぇ」
ノイルは少し迷った後、
小さく頷いた。
「……分かりました」
そこへ、
木材を抱えた村人が近付いてくる。
「悪ぃ、最後の2本持ってきた」
「ああ、そこ置いといてくれ」
ロイドが後ろから現れ、
木材を受け取る。
リアカーへ積み込みながら、
ロイドは木札を確認した。
「今回の木材20本。売却先はフェルド南側の建築屋だ」
コウも頷く。
「今回売れた場合、手数料は2割。おととい説明した通りだ」
「ああ、聞いてる」
木材持ち主の村人も頷く。
ロイドは続ける。
「ただし、途中で傷んだり壊れたりしても、基本は依頼側責任だ。そこも変わらん」
「分かってる」
完全保証なんて、
まだ出来ない。
だからこそ、
まずは信用で回すしかない。
「まあ、町まで運んでもらえるだけでもありがてぇよ」
村人はそう言って、
積まれた木材を見上げた。
そこへ。
「おーい、コウ」
聞き慣れた声が飛んでくる。
ガルドだった。
片手にルク袋を持っている。
「これ、小麦代と手数料な」
「ああ」
コウは受け取る。
ガルドはさらに続けた。
「フェルド着いたら、南通りの穀物屋行け」
「決まってるのか?」
「前に使った時、一番マシだった」
ガルドは腕を組む。
「値段もそこまで吹っ掛けねぇし、量もある」
「分かった」
「あと、変な店行くと普通に足元見られるぞ」
「気を付ける」
ガルドはそこで、
ふとリアカーを見る。
吊るされた山椒干し肉。
以前より明らかに増えていた。
「……お前、本当にそれで行くのか」
「駄目そうか?」
「いや、駄目じゃねぇが……前より増えてるぞ」
横でエミルが笑う。
「いいじゃねぇか。絶対目立つ」
「お前はそういう事しか考えてねぇな」
ロイドが呆れた顔をする。
「だって売れそうだろ、これ」
エミルは吊るされた山椒干し肉を見る。
「帰ってきたら、もう2組増やすんだろ?」
「ああ」
その瞬間。
エミルの目が一気に輝いた。
「4組にするのか!?」
グレンは呆れたように鼻を鳴らす。
「商売の匂い嗅ぎ付けるのだけは早ぇな」
ノイルは少し感心した顔だった。
「でも確かに、量増えたら必要になりそうですね」
「完成品まで吊るし始めたら、もう完全に変な荷車だな」
ロイドが苦笑する。
「変なのは否定しねぇ」
コウも苦笑した。
リリアは工房脇の飼葉箱から、
木皿で飼葉を掬う。
「ほら、先に食べなさい」
ルナが嬉しそうに鼻を鳴らした。
そのままゆっくり飼葉を食べ始める。
リリアは首元も軽く確認する。
擦れ。
金具跡。
問題なし。
「今日は長くなりそうだからな」
その横で、
コウは最後の荷確認を続けていた。
木材20本。
完成品。
加工中。
粉。
小壺。
かなり積んでいる。
だが、
以前ほど不安は無かった。
ロープ固定。
荷重。
車輪。
問題なし。
ノイルも荷台を見ながら頷く。
「改造前なら、ここまで積むとかなり怖かったですね」
グレンは頷く。
「前ならもっと暴れてた」
ルナも食事を終え、
落ち着いた様子で鼻を鳴らした。
出発準備完了。
「じゃあ行ってくる」
「ああ。無理だけはするなよ」
グレンが言う。
ロイドも頷いた。
「木材は向こう着いたら先に片付けちまえ。荷減るだけでも違うはずだ」
「分かった」
コウは手綱を軽く動かす。
ルナが前へ歩き始めた。
リアカーがゆっくり動く。
木材が小さく軋む。
車輪も回る。
重さはある。
だが、
止まるほどではない。
むしろ、
かなり安定していた。
リアカーはゆっくり村を抜ける。
木材20本。
完成品。
加工中の山椒干し肉。
かなりの積載量だった。
それでも以前より揺れは少ない。
ノイルも歩きながら車輪を見る。
「やっぱり幅広げたの効いてますね」
「ああ。前よりかなり安定してる」
木材も大きく暴れない。
荷崩れもしにくい。
ちゃんと“運搬”になり始めていた。
途中。
村人たちがリアカーへ視線を向ける。
「あれ、また肉増えてねぇか?」
「何か吊ってるな……」
リリアが少し苦笑する。
「やっぱり見られますね」
「まあ、変なのは認める」
コウも苦笑した。
村を抜け、
街道へ入る。
朝の空気はまだ涼しい。
車輪の軋む音。
木材の擦れる音。
ルナの足音。
ゆっくり前へ進んでいく。
しばらく進んだ所で、
コウは一度ルナを止めた。
「少し休ませるか」
街道脇には浅い水場がある。
リリアはすぐに水桶を持ってルナの方へ向かった。
「ほら、慌てなくていいからな」
ルナが喉を鳴らしながら水を飲み始める。
コウも腰の水筒を取り、
軽く水を飲む。
少しぬるい。
だが、
喉はかなり楽になった。
その横で、
ノイルは荷確認を始めていた。
ロープ。
固定具。
木材のズレ。
車輪。
順番に見ていく。
「今の所問題ないです」
「ああ」
コウもリアカー全体を見る。
かなり積んでいる。
だが、
まだ余裕も感じていた。
「……もう少し積めそうだな」
ノイルが少し驚いた顔をする。
「まだですか?」
「流石に帰りは考えるけどな」
コウは肩を回す。
そのまま唐辛子袋から取り出し、
唐辛子をすり鉢へ入れる。
ゴリ、と乾いた音。
赤い粉が少しずつ増えていく。
ノイルが呆れ半分で見る。
「移動中にやるんですか……」
「止まってる時間勿体ないしな」
リリアも少し笑った。
「本当にずっと何かやってますね」
「動ける時に動いとかないとな」
潰された唐辛子の匂いが、
少し風へ混ざる。
その時。
街道を歩いていた男が、
ふと足を止めた。
「……何だその肉」
男はそのまま近付いてくる。
視線は、
吊るされた干し肉へ向いていた。
「干し肉か?」
「ああ」
「妙な吊り方してんな」
コウは少し考える。
「まあ、吊るせる君だからな」
「……何だそれ」
リリアが少し吹き出す。
「今付けました?」
「いや、前から何となくそう呼んでる」
ノイルも少し笑う。
「凄く適当ですね……」
男は苦笑しながら吊るせる君を見る。
「まあ、確かに吊るしてるな」
風を受けて、
加工中の山椒干し肉が小さく揺れる。
男は鼻を動かした。
「妙な匂いするな」
「山椒と唐辛子使ってる」
「それ、売ってるのか?」
コウは小さく笑う。
「ああ。山椒干し肉と塩干し肉がある」
「違うのか?」
「塩と山椒だ」
男は吊るされた干し肉を見る。
「……味違うのか?」
「ああ」
「幾らだ?」
「山椒干し肉は1個3ルク。塩干し肉は2個7ルクだ」
「塩の方が高ぇのか」
「塩使うからな。保存もかなり効く」
男は少し感心した顔になる。
塩は高い。
だからこそ、
保存出来る価値も大きい。
「山椒の方は?」
「こっちも干してるから日持ちはする」
「山椒とか唐辛子は?」
「後掛け出来る。後掛けなら1個売りも出来る」
「へぇ……」
男はしばらく悩む。
吊るされた干し肉。
漂う匂い。
加工中の肉。
見慣れない荷車。
全部が妙だった。
だが、
妙に気になる。
男はもう一度山椒干し肉を見る。
「……じゃあ山椒の方1個くれ」
「ああ」
コウは肩掛けカバンを開く。
中から葉っぱに包まれた山椒干し肉を取り出した。
リリアもすぐに葉っぱを広げる。
そのまま慣れた手つきで包み直した。
男は3ルクを渡す。
コウは受け取り、
葉包みを渡した。
「ありがとよ」
「ああ」
男はそのまま街道を歩き去っていく。
葉包みからは、
まだ少し山椒の匂いが漂っていた。
しばらく静かになる。
そして。
ノイルがぽつりと呟いた。
「……本当に売れましたね」
コウも少しだけ笑う。
「ああ」
まだ1個。
まだ街道。
だが。
確かに今、
初めて“売れた”。
第30話「試験輸送」終わり
第30話 PL(収支表)
項目増減
開始84ルク
山椒干し肉販売+3
終了87ルク
食料・素材変動
項目増減
山椒干し肉-1(販売)
山椒干し肉(加工中)+15
塩干し肉(加工中)-10(完成)
塩干し肉+10
唐辛子-3(粉化)
唐辛子粉+9
捕獲・加工
内容状況
ウサギ3匹山椒干し肉15加工中
塩干し肉10完成
唐辛子3粉化完了
魚10匹簡易生簀保管継続
動物罠3再設置済
第30話終了時 BL(資産表)
武器
主人公携帯
* 鉄ナイフ×1
* 剣×1
* 木槍×1
リリア携帯(外出時)
* 鉄ナイフ×1
森拠点保管
* ナタ×1
* 斧×1
衣類・装備
主人公携帯
* 革靴×1
* 革手袋×1
* 背負いカバン×1
* 肩掛けカバン×1
* 水筒×1
* ルク袋×1
主人公管理袋類(携帯中)
* 薬草袋×1
* 山椒袋×1
* 唐辛子袋×1
* 予備袋×1
※ 袋入り状態で肩掛けカバンへ収納
リリア用(必要時持ち出し)
* 葉用カバン×1
* 採取袋×1
* 水筒×1
* 革靴×1
馬用品・運搬
現在使用中
* リアカー×1
* ルナ×1
吊るせる君構成
* 柱×4
* 縄×2
(柱2本+縄1本で1組)
* 吊るせる君×2組
馬用品(リアカー常備)
* ロープ×1
* 縄×3
(固定用×2/予備×1)
* 水袋(小)×2
* 水桶(大)×2
* ブラシ×1
* 蹄掃除具×1
* 飼葉枡×1
* 飼葉袋(5食分借用中)
森拠点保管
* 一輪車×1
* ロープ×2
* 紐×3(罠用)
食料
完成品
* 山椒干し肉×5
* 塩干し肉×11
* 固形パン×1
加工中
* 山椒干し肉(加工中)×15
簡易生簀
* 魚×10
素材・薬品
携帯中
* 薬草×37
* 山椒×18
* 唐辛子×0
* クルム葉 多数
粉類
* 山椒粉×4
* 唐辛子粉×13
小壺(携帯中)
* 塩壺A×1(塩7)
* 塩壺B×1(空)
* 山椒壺×1
* 唐辛子壺×1
すり鉢(携帯中)
* 山椒用×1
* 唐辛子用×1
容器・収納
リアカー積載
木箱(大)×1
収納内容:
* ロープ
* 縄
* 布
* 馬用品
木箱(小)×1
用途:
* 売却用商品収納
森拠点保管
* 木箱(大)×1
* 木箱(小)×1
* 小壺×1
* すり鉢×3
布・寝具
リアカー常備
* 普通の布×1
森拠点保管
* 厚手の布×2
* 干し草×2
* 簡易ベッド×2
* 棚×1
* 鉄板×1
* 中鍋×1
* 古い大鍋×1(陶器製)
* 小鍋×2
* ショベル×1
* ツルハシ×1
* 竹食器2人分
設置・稼働
* 動物罠×3(設置中)
* 簡易生簀×1(稼働中)
* 魚罠×2(引き上げ中)
通貨
* 87ルク
同行・管理対象
* リリア×1
* ルナ×1
* ノイル×1(今回同行)
依頼輸送品(他者所有)
* 中木材20本(フェルド輸送依頼品)
依頼・管理金
小麦購入依頼
* 預かり金:30ルク
(購入上限25ルク+予定手数料5ルク)
手数料目安
* 20ルク購入時 → 手数料4ルク
* 25ルク購入時 → 手数料5ルク
木材売却依頼
* 中木材20本(他者所有)
* 売値予定30ルク
* 手数料予定6ルク(20%)




