第26話「吊るし売り」
朝。
コウが目を開ける。
窓の外はまだ少し薄暗かった。
隣では、既にリリアが起きている。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
コウはゆっくり体を起こした。
今日はまず確認したい事がある。
干し肉。
昨日吊るした塩干し肉と山椒干し肉。
どこまで乾いているか気になっていた。
その時。
コウは荷物の横に置いていた小瓶を見る。
解熱剤。
栄養剤。
残っていた最後の分だった。
コウはリリアを見る。
「一応今日も飲んどけ」
リリアは少し驚いた顔をした。
「もう大丈夫です」
「念のためだ」
コウは短く返す。
森へ戻れば、また無理をする。
今のうちに回復出来るなら、その方がいい。
リリアは小さく頷いた。
「……はい」
薬を飲み、水を飲む。
これで薬は空になった。
軽く身支度を整える。
荷物を確認する。
ルク袋。
水筒。
ナイフ。
最低限だけ持つ。
「行くか」
「はい」
二人は宿を出た。
朝のリース村はまだ静かだった。
薄い朝霧。
湿った土の匂い。
遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。
ゆっくり歩きながら、コウは空を見る。
今日は晴れそうだった。
乾燥には悪くない。
グレン工房へ着く。
既に工房には明かりが付いていた。
中から木を削る音が聞こえる。
「朝早ぇな」
グレンがこちらを見る。
「ああ」
「干し肉確認したくてな」
コウがそう返すと、グレンは少し笑った。
「随分気に入っとるな」
「まぁな」
弟子も既に起きていた。
木材を抱えながらこちらを見る。
「おはようございます」
「おう」
コウは軽く手を上げた。
そのまま工房裏へ回る。
吊るされた干し肉が朝風に揺れていた。
山椒側。
塩側。
両方確認する。
かなり乾いてきている。
昨日より明らかに水分が抜けていた。
コウは一つ軽く押す。
「……悪くないな」
リリアも近付いて確認する。
「かなり乾いてます」
「ああ」
コウは頷いた。
「午後にはいけそうだな」
塩側も見る。
こちらも問題無い。
まだ完全ではないが、順調だった。
その時。
リリアが吊るされた干し肉を見ながら小さく呟く。
「やっぱり葉は欲しいですね」
「ああ」
コウも同意する。
本来なら葉で包みたい。
昨日、リリアから葉の話を聞いた。
殺菌作用がある葉。
保存に向く葉。
森には普通にあるらしい。
コウは吊るされた干し肉を見る。
今回は葉が無かった。
だから吊るしている。
保存としても、衛生としても、本当は包みたい。
特に持ち帰り用として売るなら尚更だった。
リリアは少し考える。
「森戻ったら探したいです」
「頼む」
コウは素直に頷いた。
葉は必要だ。
今後を考えるなら、特に。
その後。
コウはルナの方へ向かう。
ルナは既にこちらへ気付いていた。
鼻を鳴らす。
「おはよう」
首筋を軽く撫でる。
水桶を確認。
ブラシを掛ける。
蹄も軽く確認する。
かなり落ち着いていた。
リアカーにも慣れてきている。
その横で、コウはリアカーを見る。
荷台。
接続部。
縄。
固定。
色々確認する。
そして少し考えた後、荷台上部を見る。
「……ここ使うか」
コウは木材を持ち上げる。
弟子が首を傾げた。
「何作るんです?」
「吊るす場所増やす」
「……はい?」
グレンが少し面白そうな顔をする。
コウは荷台四隅へ簡単な柱を追加していく。
さらに横へ縄を渡す。
簡単な構造。
だがこれで干し肉を吊るせる。
弟子が困惑した顔になる。
「肉吊るす前提なんですか……?」
コウは縄を引きながら答えた。
「今回は葉が無いからな」
葉で包めない。
だから吊るす。
ただそれだけだった。
グレンはリアカーを見ながら腕を組む。
「意外と悪くねぇな」
「ああ」
コウも軽く頷く。
風通しも悪くない。
揺れても潰れにくい。
移動中でも乾燥出来るかもしれない。
「おーい!」
聞き慣れた声が飛んできた。
振り返る。
ロイド。
エミル。
二人だった。
エミルはリアカーを見るなり足を止める。
「なんだこれ」
視線はすぐ荷台上へ向いていた。
追加された柱。
横縄。
吊るせる構造。
ロイドも少し目を細める。
「……干し肉吊るすのか?」
コウは軽く頷いた。
「ああ」
エミルはリアカー横まで来る。
「これ、吊るしながら移動するんか?」
「乾かしながら運ぶのか?」
ロイドも続ける。
コウはそこで少し考える。
最初からそのつもりだったわけではない。
今回は葉が無かった。
だから吊るす。
ただそれだけだった。
だが。
移動中でも乾かせる。
売りながら移動も出来るかもしれない。
そう考えると、悪くない。
「……そういうやり方も出来るかもな」
コウはリアカーを見る。
風通し。
揺れ。
荷台の広さ。
思ったより使えるかもしれない。
エミルはニヤニヤしていた。
「結構運べそうじゃね?」
「まぁな」
ロイドも荷台を見る。
「リアカーあるしな」
「思ったより積めそうだ」
コウは少し考える。
「……でも運ぶなら量作れんとな」
今の量では少ない。
売るなら、継続して作れなければ意味が無い。
保存も必要。
量も必要。
そこでコウは塩袋を見る。
「……これ、やるなら塩かなり必要になるな」
ロイドが反応する。
「どれくらい必要なんだ?」
コウは少し考えた。
「……とりあえず40くらいか」
二人の動きが少し止まる。
「いや」
ロイドがすぐ返す。
「村じゃそんな量ねぇぞ」
「まぁだよな」
コウも苦笑する。
塩は貴重だ。
村で大量確保するのは難しい。
「じゃあ町行かなきゃな」
エミルが軽く言う。
コウは嫌そうな顔をした。
「……町往復はしんどいぞ」
フェルドまでの距離は短くない。
するとグレンが鼻を鳴らした。
「でも行きで売って帰りで塩積めばええ」
「往復で利益出るぞ」
エミルがすぐ食い付く。
「それ普通にありじゃね!?」
かなり乗り気だった。
だがコウは首を振る。
「まず森だ」
言葉を切る。
「森道確認」
「罠復旧」
「保存場所」
「まずそっち先だ」
ロイドも頷く。
「まぁまず生活安定だな」
「今はまだ試験段階だ」
グレンは半分面白がっている顔だった。
「まぁでも面白いのは確かだな」
その横で、弟子が困惑した顔をしている。
「木工の話だったはずなんですけど……」
エミルが吹き出した。
「今更だろ」
コウは再び干し肉を確認する。
山椒側。
塩側。
かなり乾いてきている。
「午後には売れそうだな」
「あ、なら」
コウは思い出したように口を開く。
「完成待つ間に、残ってる5個先に売るか」
先に売れる。
村反応も見れる。
乾燥待ち時間も潰せる。
「午後には次も出来そうだしな」
エミルが笑う。
「じゃあ広場行くか」
リアカーを引きながら広場へ向かう。
コウ。
リリア。
ロイド。
エミル。
グレン。
そして弟子。
妙に人数が多かった。
弟子は途中から完全に流されている顔をしている。
「俺、本当に何しに来たんだろ……」
エミルが笑う。
「見学だ見学」
「絶対違いますよね?」
そんなやり取りをしながら広場へ到着する。
リアカーを止めた瞬間。
周囲の視線が集まった。
「なんだあれ」
「吊るしてるぞ」
「干し肉か?」
村人たちの目線は、まずリアカー上へ向いていた。
荷台上部。
追加された柱。
そこへ吊るされた干し肉。
かなり目立つ。
コウは木箱を二つ取り出す。
そのまま並べる。
即席の販売台。
完成済みの山椒干し肉を五つ置いた。
リアカー上には、まだ乾燥中の干し肉が揺れている。
その光景に、村人たちが少しずつ集まり始めた。
「これ乾かしてるのか?」
「移動中もやるのか?」
「腐らねぇのか?」
質問が飛んでくる。
コウは少し周囲を見る。
「……この売り方、客寄せになるな」
コウが小さく呟く。
グレンが聞き返す。
「お前、いつもこんな感じでやっとるのか?」
「いや、今回初めてだ」
コウは素直に答える。
「そもそも吊るすのも初めてやった」
「葉が無かったからな」
グレンは少し感心した顔になる。
「でも結果的に目立っとるな」
エミルはニヤニヤしていた。
「なんか店っぽくなったな」
弟子はまだ混乱している。
「木工……ですよね?」
ロイドが吹き出す。
「もう諦めろ」
弟子は本気で困った顔になった。
コウは木箱の上へ視線を向ける。
「売るのはこっちな」
ようやく販売開始だった。
村人の一人が近付いてくる。
「これ前の山椒のやつか?」
「ああ」
コウは頷く。
「今回は5個だけだ」
男は干し肉を見た後、そのまま2ルクを出した。
「じゃあ一つくれ」
コウは干し肉を渡す。
販売成立。
エミルが少し嬉しそうに笑った。
「お、もう売れた」
「まぁ前食った奴もいるからな」
ロイドも頷く。
保存食としてかなり便利なのは分かっている。
しかも味も珍しい。
山仕事する人間には普通にありがたい。
その横では、別の村人が吊るされた干し肉を見上げていた。
「そっちはまだなのか?」
「乾燥中だ」
コウが答える。
「塩の方か?」
「ああ」
村人たちは少しざわつく。
塩。
その単語だけで反応が変わる。
すると別の男が木箱の前へ来た。
「……悪い、今ルク無いんだが」
コウは男を見る。
「何かあるなら交換でもいいぞ」
男は少し考える。
「硬パンならある」
「持って来れるならいい」
男はすぐ走っていった。
エミルが笑う。
「普通に回ってんな」
「思ったよりな」
ロイドも少し驚いていた。
村人たちは、
売り物だけでなく、
リアカー上の吊るし干し肉まで見ている。
「これ運びながら乾かすのか?」
「そういう事も出来るかもしれんな」
コウはリアカーを見る。
「……町でもいけるかもしれんな」
エミルがすぐ反応した。
「だろ?」
「かなり目立つぞこれ」
グレンもリアカーを見る。
「増やすなら、もう少し上も使えるな」
コウは軽く頷く。
「今は二本だけだけどな」
「三本、四本くらいに増やしてもいいかもしれん」
弟子が呆然としている。
「本当に増やす気なんですね……」
その時。
さっきの男が戻ってきた。
手には硬パン。
「これでどうだ?」
コウは軽く確認する。
「いいぞ」
干し肉を一つ渡す。
交換成立。
ロイドが少し感心した顔になる。
「思ったより回るな」
「ああ」
コウも認める。
保存食。
しかも持ち歩ける。
思った以上に需要がある。
別の村人が木箱の前へ来る。
「一つくれ」
男はそのまま2ルクを置いた。
コウは干し肉を一つ渡す。
現金販売成立。
これで残り二つ。
エミルは周囲を見ながら笑う。
「普通に店になってんな」
「まぁな」
その時。
別の男がこちらへ戻ってくる。
手にはウサギ。
「持ってきたぞ」
コウは少し驚いた。
本当に持ってきたらしい。
ロイドも横から見る。
「結構いいウサギだな」
「ああ」
コウは頷く。
「じゃあ交換でいい」
木箱の上の干し肉を一つ取る。
男へ渡す。
交換成立。
これで残り一つ。
村人たちも少しざわつき始める。
「もう一個だけか」
「午後待つか……」
「塩の方気になるな」
吊るされた塩干し肉を見る視線も増えていた。
エミルは吊るされた塩干し肉を見上げる。
「塩の方、かなり気になるな」
「まだ乾燥中だ」
コウはそう返す。
ただ、かなり乾いてきている。
午後には十分いけそうだった。
ロイドも吊るされた肉を見る。
「でも塩使うなら、やっぱ持ちは良くなりそうだな」
「ああ」
コウは頷く。
「山椒より肉の味も残りそうだ」
山椒は風味が強い。
あれはあれで良い。
だが塩は違う。
肉そのものを活かす方向だ。
エミルは腕を組む。
「しかも町だと三ルクなんだろ?」
「まぁな」
コウは軽く答える。
「向こうじゃその値段で売った」
村人たちも少しざわつく。
「三ルクか……」
「結構するな」
だが同時に、
「塩だしな」
「町ならまぁ……」
という空気もある。
塩自体が高い。
保存食としても価値は分かる。
エミルは完全に商売の顔になっていた。
「これ、普通に回りそうだなぁ」
ロイドは呆れ半分で笑う。
「お前楽しそうだな」
「そりゃ面白いだろ」
エミルはリアカーを見る。
吊るし肉。
木箱販売。
人だかり。
「なんか今までと全然違うもんな」
コウも周囲を見る。
人が止まる。
見ていく。
話しかけてくる。
今までは違った。
自分から交換を持ちかけていた。
自分から声を掛けていた。
だが今回は、
向こうから人が来る。
コウは小さく呟く。
「……これ、自分から動かなくていいのか」
ロイドが少し笑う。
「店ってそういうもんだろ」
コウはリアカーを見る。
荷台。
柱。
縄。
吊るされた干し肉。
思った以上に形になっていた。
⸻
BL(第26話途中時点/広場販売中)
武器
主人公携帯
* 鉄ナイフ×1
リリア携帯(外出時)
* 鉄ナイフ×1
森拠点保管予定
* 木槍×1
* 剣×1
* 石ナイフ×2(処分予定)
* 石斧×1(処分予定)
⸻
衣類・装備
主人公携帯
* 革靴×1
* 革手袋×1
* 背負いカバン×1
* 肩掛けカバン×1
* 普通のカバン×1
* 水筒×1
* ルク袋×1
リリア携帯(外出時)
* 革靴×1
* 水筒×1
⸻
馬用品・運搬
現在使用中
* リアカー×1(吊るし用簡易柱追加)
グレン工房預かり
* 馬×1
グレン工房(予約中)
* 一輪車×1(完成済・未払い・受取前)
馬用品
* ロープ×1
* 縄×5
* 固定用×2
* 予備×3
* 水袋(小)×2(馬用)
* 水桶(大)×2
* ブラシ×1
* 蹄掃除具×1
* 飼葉枡×1
⸻
森拠点保管予定
* ロープ×2
* 紐×3(罠用)
⸻
食料
販売用残り
* 山椒干し肉×1
加工中
* 山椒干し肉×20(リアカー吊るし中)
* 塩干し肉×10(リアカー吊るし中)
新規入手
* 硬パン×1
* ウサギ×1
⸻
素材・薬品
主人公携帯
* 解熱剤×0
* 栄養剤×0
リアカー積載
* 薬草×27
* 山椒×1
* 唐辛子×5
* 塩×24
⸻
容器・収納
主人公携帯
* 干し肉袋×5
* 薬草袋×1
* 山椒袋×1
* 塩袋×1
⸻
リアカー積載
木箱(大)×2
収納内容:
* ロープ
* 縄
* 布
* 馬用品
木箱(小)×2
用途:
* 売却用商品収納
小壺×5
使用中
* 塩壺A×1
* 塩壺B×1
* 山椒粉壺×1
* 唐辛子粉壺×1
予備
* 小壺×1
すり鉢×5
使用中
* 山椒用すり鉢×1
* 唐辛子用すり鉢×1
* 薬用すり鉢×1
予備
* すり鉢×2
⸻
布・寝具
リアカー積載
* 普通の布×1
* 厚手の布×2
* 干し草×2
* 簡易ベッド×1
* 中鍋×1
⸻
森拠点保管
* 簡易ベッド×1
* 棚×1
* 鉄板×1
* 古い大鍋×1(陶器製)
* 小鍋×2
* ショベル×1
* ナタ×1
* ツルハシ×1
⸻
通貨
* 54ルク
⸻
同行・管理対象
* リリア×1
⸻
現在状況
* リース村広場販売中
* リアカーへ吊るし用簡易柱追加
* 山椒干し肉・塩干し肉はリアカー吊るし中
* 山椒干し肉は残り1
* 村人側で塩干し肉への関心上昇中
* 吊るし販売方式へ周囲の関心上昇中
⸻
PL(第26話途中時点)
項目増減
開始50ルク
山椒干し肉販売+4
終了54ルク
⸻
食料・素材変動
項目増減
山椒干し肉-4
硬パン+1
ウサギ+1
解熱剤-1
栄養剤-1
⸻
加工・状況
内容状況
山椒干し肉残り1
山椒干し肉(加工中)リアカー吊るし中
塩干し肉(加工中)リアカー吊るし中
リアカー吊るし販売仕様へ簡易改造




