第23話「フェルド3日目」
朝。
コウはゆっくり目を開ける。
木の天井。
宿の匂い。
森とは違う静かな空気だった。
窓の外からは、既に町の音が聞こえている。
荷車。
人の声。
馬の鳴き声。
フェルドは朝から動いていた。
コウは隣を見る。
リリアはまだ眠そうだった。
昨日より顔色は良い。
熱もかなり下がっている。
コウは机の上の柔らかパンを見る。
残っていた最後の一つ。
「……食えるか」
リリアがゆっくり目を開ける。
「……はい」
コウは小さく頷き、パンを渡した。
「無理なら残せ」
「後で腹減った時に食え」
リリアは小さく頷く。
「……はい」
少しずつ食べ始めた。
昨日より食べる速度が早い。
コウはそれを確認する。
しばらくして、リリアの手が止まった。
「……もう少しなら」
「なら後で食え」
コウは静かに言う。
まずは食わせる。
薬はその後だった。
リリアは頷く。
コウは薬包みを取り出す。
「飲め」
リリアは水と一緒に飲み込んだ。
少し苦そうに眉を寄せる。
だが、昨日よりしっかり飲めている。
コウは小さく息を吐いた。
「俺は午前中、下で馬見てる」
「昼から買い物行く」
リリアは静かに聞いていた。
「何かあったらドラン頼れ」
「……はい」
コウは立ち上がる。
正直、まだ町へ連れ歩ける状態ではない。
昨日より良くなっている。
だが、まだ無理だ。
コウは部屋を出た。
階段を降りる。
食堂では既に何人かが飯を食っていた。
ドランもいる。
「起きたか」
「ああ」
コウは短く返す。
「今日も泊まる」
「まだリリアの調子悪い」
ドランは少し眉を上げる。
「……リリアって言うのか」
「ああ」
ドランは頷いた。
「まぁ昨日よりはマシそうだったな」
コウは小さく頷く。
「出かけてる間、何かあったら頼む」
「構わん」
ドランは鼻を鳴らした。
「で、今日は馬だろ」
「ああ」
コウはそのまま厩舎へ向かう。
朝の空気は少し冷たい。
馬は落ち着いていた。
ドランは水桶を顎で示す。
「まず水だ」
コウは昨日買った大桶を持ち上げる。
井戸へ向かい、水を汲む。
重い。
だが持てない程ではない。
馬房へ戻り、水桶を置く。
馬がすぐ水を飲み始めた。
「水飲む量も見ろ」
「減り悪ぃ時は体調崩してる時ある」
コウは黙って見る。
鼻息。
舌。
喉。
全部が大きい。
次は飼葉だった。
飼葉袋から枡へ入れる。
馬はすぐ顔を寄せた。
噛む音が響く。
「馬は金掛かるぞ」
「ああ」
「だが荷は運ぶ」
「上手く使えりゃデカい」
コウは小さく頷いた。
昨日だけでもリアカーにはかなり助けられている。
その後、ドランは手綱を見せる。
「引っ張るんじゃねぇ」
「合図だ」
コウは実際に持ってみる。
革の感触。
思ったより重い。
最初は上手くいかなかった。
「硬ぇ」
「もっと軽くやれ」
ドランに言われ、少し力を抜く。
今度は馬がゆっくり顔を向けた。
大きな目がこちらを見る。
思った以上に圧がある。
「最初はそんなもんだ」
ドランは笑った。
鐘の音が町へ響く。
昼前だった。
「そろそろ店も開き揃う頃だな」
コウは頷く。
今日は買う物が多い。
そのままリアカーを引き、フェルドの通りへ出た。
町は既に騒がしい。
人。
荷車。
呼び込み。
森とは違う音が流れている。
やがて香辛料の匂いが鼻へ入った。
刺激のある匂い。
赤い乾燥実。
細い葉。
様々な香辛料が並んでいる。
「見るだけかい」
「唐辛子欲しい」
店番の女が笑う。
「どれくらい」
「5」
「唐辛子5で銅20だ」
コウは少し眉を動かした。
「……ルクだと」
「2ルク」
「ああ」
フェルドでは銅も使われているらしい。
コウは山椒袋を取り出した。
「山椒20売りたい」
女は匂いを確認する。
「乾燥悪くないね」
「20なら12ルク」
「ああ」
「唐辛子差し引いて10ルクだ」
ルク袋が少し重くなる。
次は塩屋だった。
白い袋が大量に積まれている。
「塩20」
店番の男が少し眉を上げた。
「結構買うな」
「ああ」
塩は高い。
だが必要だった。
保存には必要不可欠。
「20で20ルク」
コウはルクを支払う。
重い塩袋をリアカーへ積み込んだ。
次は陶器屋。
壺。
皿。
水差し。
土の匂いがする。
「小壺はいくらだ」
「一つ2ルク」
「すり鉢は」
「こっちも一つ2ルク」
「小壺3」
「すり鉢3」
「合わせて12ルクだ」
布で包まれた陶器を木箱へ積む。
割れ物は気を使う。
その後、鍛冶屋へ向かった。
熱気。
鉄の匂い。
火花。
鉄を打つ音。
店先には鍋や斧が並んでいる。
「小鍋3」
「中鍋6」
「大鍋10」
コウは中鍋を見る。
森拠点の古い大鍋は陶器製で重い。
小鍋は既に二つある。
中鍋くらいが丁度良かった。
「中鍋」
次は斧。
片手斧を持ち上げる。
重い。
だが扱えそうだった。
「木倒すなら両手の方がいいぞ」
店番が大きい斧を示す。
「両手は20ルク」
コウは少し見る。
だが今は大き過ぎる気がした。
「……こっちでいい」
「片手は16ルク」
コウは頷く。
「ああ」
鍋と斧を受け取り、リアカーへ積み込む。
その時だった。
通りの先に、大きな建物が見えた。
石造り。
広い入口。
武装した人間が出入りしている。
入口脇には紙が大量に貼られていた。
(……ギルドか)
何となく分かった。
異世界。
冒険者。
ギルド。
いかにもこちらの世界にありそうだった。
コウは少しだけ口元を動かす。
(どうやら俺は、王道勇者ではなかったらしい)
今の自分は、
魔王討伐でも、
伝説の剣でもなく、
塩と鍋を買い集めている。
だが、不思議と悪くは無かった。
その後、木工屋で小箱を二つ購入する。
「小箱なら2ルク」
「小2」
「4ルク」
これで細かい荷物を分けられる。
リアカーの荷台はかなり埋まっていた。
コウは宿へ戻る。
ドランが荷を見る。
「ちゃんと生活道具選んでやがる」
「無駄買いじゃねぇな」
「ああ」
コウは干し肉を二本渡す。
「今日もこれで頼む」
ドランは受け取る。
「飯は1ルク出す」
ルクを一枚置いた。
それからコウは少し間を置いて口を開く。
「あと、何かやらせてくれ」
「馬の事教わった」
「その分くらいは働く」
ドランは笑った。
「律儀な奴だな」
「なら薪割りやってけ」
宿裏へ向かう。
ナタを借りる。
革手袋をはめ、薪を割った。
乾いた音が響く。
最初より少しずつ慣れてくる。
「悪くねぇ」
ドランが頷く。
「リリア、今日はちゃんと食ってたぞ」
コウは小さく返した。
「そうか」
夕方。
コウは部屋へ戻る。
リリアは起きていた。
そして、朝残していた柔らかパンも無くなっていた。
「……食ったのか」
「……はい」
昨日より食べられている。
それだけで十分だった。
夜。
食堂では煮込みが出る。
「今日は野菜多めだ」
リリアも少しずつ食べていた。
コウが小さく口を開く。
「……今日はリリアの分、払ってないけど」
ドランは笑った。
「あいつ、まだ全然食ってねぇだろ」
「今の量なら一緒で構わん」
リリアは小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます」
食事を終え、二階へ戻る。
部屋へ入ると、コウは薬包みを取り出した。
「……先に飲め」
リリアは頷き、水と一緒に飲み込む。
苦そうに少し眉を寄せた。
だが、昨日よりしっかり飲めている。
「……ありがとうございます」
「治せ」
リリアは少しだけ口元を緩めた。
「……はい」
ランタンの光が部屋を照らす。
隅には今日買った荷物。
塩。
鍋。
陶器。
木箱。
斧。
生活の道具だった。
森で一人だった頃とは違う。
保存を考え、
道具を揃え、
馬を覚え、
人と関わる。
やる事は増えた。
だが、不思議と悪くなかった。
コウはランタンの火を少し落とす。
「寝ろ」
「……はい」
窓の外では、フェルドの夜がまだ続いていた。
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BL(第23話終了時点/フェルド2日目終了)
武器
* 木槍×1
* 石ナイフ×2
* 鉄ナイフ×2
* 剣×1
* 片手斧×1
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衣類・装備
主人公携帯
* 革靴×1
* 革手袋×1
* 背負いカバン×1
* 肩掛けカバン×1
* 普通のカバン×1
* 水筒×2
* 紐×3
* ルク袋×1
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馬用品・運搬
* リアカー×1
* 馬×1
* ロープ×2
* 縄×5
* 水袋(小)×2
* ブラシ×1
* 蹄掃除具×1
* 飼葉枡×1
* 満タン飼葉袋×2
* 水桶(大)×2
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食料
* 干し肉×11
* 柔らかパン×0
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素材・薬品
* 薬草×37
* 山椒×21
* 唐辛子×5
* 塩×34
* 解熱剤×0
* 栄養剤×0
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陶器・生活用品
* 中鍋×1
* 小壺×3
* すり鉢×3
* 木箱(小)×2
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通貨
* 39ルク
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同行・管理対象
* リリア×1
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宿泊
* ドランの宿(宿泊中)
* 馬預かり中
* リアカー預かり中
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リアカー設置・積載
設置
* 簡易ベッド×1
* 干し草×2
* 厚手の布×2
* 普通の布×1
* 木箱(大)×2
* ロープ×1(固定用)
積載
* 水桶(大)×2
* 満タン飼葉袋×2
* 薬草×37
* 山椒×21
* 塩×34
* 中鍋×1
* 小壺×3
* すり鉢×3
* 木箱(小)×2
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拠点保管(森拠点)
* 簡易ベッド×1
* 棚×1
* 鉄板×1
* 鍋×1
* 古い大鍋×1(陶器製)
* 小鍋×2
* ショベル×1
* ナタ×1
* ツルハシ×1
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PL(第23話終了時点)
項目増減
開始88ルク
山椒20売却+12
唐辛子5購入-2
塩20購入-20
小壺3購入-6
すり鉢3購入-6
中鍋1購入-6
片手斧1購入-16
木箱(小)2購入-4
宿代(干し肉2)干し肉-2
食事代-1
解熱剤2回分使用消費
栄養剤2回分使用消費
柔らかパン2消費消費
終了39ルク




