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コウの物語  作者: パルス


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20/30

第20話「フェルドの夜」



 コウは静かに階段を下りる。


 一階の食堂はまだ賑わっていた。


 酒の匂い。


 煮込みの匂い。


 焼いた肉の匂い。


 木皿の当たる音と、男達の笑い声が混ざっている。


 森とは全然違う空気だった。


 コウは周囲を軽く見回す。


 行商人らしい男。


 剣を腰に下げた旅人。


 鎧姿の傭兵らしき連中。


 誰もが好き勝手に喋り、食い、酒を飲んでいる。


「こっち空いてるぞ」


 ドランが奥の席を軽く顎で示した。


 コウは短く頷き、その席へ座る。


 木椅子が軋んだ。


「飯は一人分だったな」


「ああ」


「1ルクだ」


 コウはルク袋から1ルク硬貨を取り出し、机へ置いた。


 ドランはそれを指で引き寄せる。


「おい、一人分だ」


 厨房側へ声を飛ばした。


 その後。


 コウは肩掛けカバンへ手を入れる。


 取り出したのは、山椒入りの干し肉だった。


「……宿代、これで払えないか」


 ドランは干し肉を受け取る。


 少し眺め、


 指で硬さを確かめ、


 そのまま匂いを嗅いだ。


「……山椒か」


「ああ」


「お前が作ったのか」


「作った」


 ドランは端を少し割り、中も確認する。


 しばらく無言だった。


「保存は悪くねぇな」


「旅用なら十分使える」


 コウは少し考える。


 それから静かに口を開いた。


「……部屋と馬込みで、干し肉二本」


「それでどうだ」


 ドランは少しだけ目を細めた。


 干し肉をもう一度見る。


 山椒。


 燻し。


 肉質。


 保存状態。


「安く見積もっても、町で売ればもっと行くぞ」


「分かってる」


「ルク残したいだけだ」


 ドランは少しだけ笑った。


「なるほどな」


 数秒ほど考えた後、干し肉を机へ戻す。


「いいだろ」


「二本で受ける」


 コウは小さく頷いた。


「助かる」


「ただし現物確認はする」


「変なの混ぜてたら叩き出すぞ」


「混ぜてない」


 ドランは短く鼻を鳴らした。


「なら問題ねぇか」


 しばらくして、木皿が運ばれてくる。


 黒パン。


 豆と肉の煮込み。


 薄い野菜スープ。


 豪華ではない。


 だが、湯気が立っていた。


「冷める前に食え」


 ドランが言う。


 コウはまずスープへ口を付けた。


 薄い。


 だが、温かい。


 胃へ落ちていく感覚がはっきり分かる。


 次に煮込みを食べる。


 硬めの肉。


 塩気。


 豆。


 森で食べていた干し肉とは全然違った。


 コウはしばらく無言で食べる。


 周囲の喧騒だけが耳へ入ってくる。


「初フェルドか」


 ドランが向かいへ腰を下ろす。


「ああ」


「行商か?」


「半分そんなもんだ」


 ドランはコウを少し見た。


「森帰りの匂いがする」


 コウは少しだけ眉を動かす。


「分かるのか」


「宿やってりゃな」


 コウは黒パンをちぎる。


 固い。


 だが腹には溜まりそうだった。


「馬はいつ手に入れた」


「少し前だ」


「荷車引かせるにはまだ慣れてねぇ感じだな」


 コウは少しだけ視線を上げる。


「まあ……」


「必要だったから使ってる」


 ドランは短く鼻を鳴らした。


「そっちの嬢ちゃんは大丈夫そうか」


「今は寝てる」


「かなり弱ってたな」


「……まあな」


 ドランは深くは聞かなかった。


 代わりに木杯を軽く傾ける。


 コウは残りのスープを飲み干した。


 身体の力が少し抜ける感覚があった。


 ここ数日、まともに気を抜けていなかったのだと気付く。


 食堂では、別の卓で笑い声が上がった。


 酒が運ばれていく。


 誰かが大声で何かを話している。


 だが、その騒がしさが妙に遠く感じた。


 コウは静かに息を吐く。


 ようやく町へ着いた。


 そんな実感が、少しだけ湧いていた。


 コウは木皿を机の端へ寄せる。


 腹は満たされた。


 久々の温かい食事だった。


「で、その馬」


「どこで手に入れた」


 コウは少し考える。


「流れで手に入った」


「……なんだそりゃ」


 ドランは呆れたように鼻を鳴らした。


「荷車付きで動かしてる割に、扱いが妙に危なっかしいと思ったが」


 コウは黒パンの欠片を口へ入れる。


「必要だったから使ってるだけだ」


「ちゃんと習った訳じゃない」


 ドランは少し黙る。


 その視線は、コウの手や腕、服の擦れを見るようだった。


「まあ、死なせる気は無さそうだがな」


 コウは少しだけ視線を上げる。


「……分かるのか」


「長く宿やってりゃな」


「本当に雑な奴は、馬を道具みてぇに扱う」


 ドランは木杯を置いた。


「お前は分かってねぇだけだ」


 コウは少し黙る。


 否定は出来なかった。


「……馬、見てくる」


 コウが立ち上がる。


 するとドランも椅子から腰を上げた。


「待て」


「その様子じゃ、まだ荷繋ぎっぱなしだろ」


 コウは少しだけ止まる。


 図星だった。


 ドランはため息を吐く。


「行くぞ」


「ついでに見てやる」


 コウは短く頷いた。


「……助かる」


 二人はそのまま食堂を出る。


 外へ出ると、夜の空気は少し冷えていた。


 さっきまでの喧騒が、背後で遠く聞こえる。


 宿裏へ回る。


 干し草の匂い。


 馬の鼻息。


 木の軋む音。


 リアカーはまだそのまま置かれていた。


 馬がコウを見る。


 小さく鼻を鳴らした。


 ドランはその様子を見るなり、呆れたように言った。


「……やっぱり繋ぎっぱなしか」


 ドランは馬具へ手を伸ばす。


「いいか、荷馬は荷物じゃねぇ」


「潰れりゃ全部止まる」


 コウは黙って聞く。


「長時間引かせた後は、まず荷を外す」


「汗も見る」


「水も先だ」


 ドランは革帯を軽く叩いた。


「締めっぱなしにすると擦れて傷になる」


「酷くなると歩けなくなるぞ」


 コウは初めて知る顔をした。


「……そこまで見るのか」


「当たり前だ」


「荷運びは馬潰したら終わりだぞ」


 ドランはそう言いながら、リアカーの固定を外していく。


「重心も少し後ろ寄りだな」


「坂で負担偏る」


「積み方もそのうち覚えろ」


 コウは作業を見ながら、黙って手順を覚えていく。


 リアカーを切り離し終えると、馬は少し身体を揺らした。


 明らかに楽になった様子だった。


 ドランは鼻を鳴らす。


「ほら見ろ」


「我慢してただけだ」


 コウは馬を見る。


 今まで、“動いていたから大丈夫”だと思っていた。


 だが違ったらしい。


 ドランは水桶を指差す。


「先に飲ませろ」


「飯はその後だ」


 コウは頷き、桶を持ち上げた。


 コウは桶を持ち上げ、水場へ向かう。


 木桶へ水を汲み、戻ってくる。


 馬は鼻を鳴らしながら、水へ口を付けた。


「一気に飲ませすぎるなよ」


 ドランが横から言う。


 コウは少し手を止める。


「……それもあるのか」


「疲れてる時は特にな」


「腹壊す馬もいる」


 ドランは馬の首筋を軽く撫でる。


 それから毛並みを指で押した。


「汗残ってんな」


「ちゃんと乾かさねぇと冷えるぞ」


 コウは馬を見る。


 確かに、革帯の下辺りの毛が少し湿っていた。


「今までよく潰れなかったな」


 ドランが呆れ半分で言う。


「……運が良かっただけか」


「まあ、それもある」


 ドランはそう言いながら、馬の脚も軽く確認する。


「脚はまだ大丈夫そうだな」


「だが、毎日見ろ」


「腫れたまま歩かせると終わる」


 コウは黙って頷いた。


 知らない事ばかりだった。


「荷車持つ奴はな」


 ドランが続ける。


「馬を使ってるんじゃねぇ」


「馬に使わせてもらってるんだ」


 コウは少しだけ視線を上げる。


「……随分違うな」


「全然違う」


 ドランは即答した。


「荷物は文句言わねぇ」


「馬は無理でも動く」


「だから気付く頃には潰れてる」


 厩舎の中は静かだった。


 時々、別の馬の鼻息が聞こえる。


 コウは水を飲む馬を見る。


 今まで、“移動出来ているから問題ない”と思っていた。


 だが、それは馬が耐えていただけだったらしい。


 ドランはリアカーへ視線を向ける。


「荷崩れは悪くねぇ」


「固定も最低限出来てる」


「だから余計に危ねぇ」


「……どういう意味だ」


「中途半端に出来てる奴が、一番無茶する」


 ドランは短く鼻を鳴らした。


「完全素人なら、もっと早く馬潰してる」


「お前は運良く続いてるだけだ」


 コウは少し黙る。


 反論は出来なかった。


 しばらくして、馬が落ち着いたように息を吐く。


 ドランはその様子を見て、小さく頷いた。


「……まあ、今から覚えりゃいい」


 それからドランは厩舎の奥を軽く顎で示した。


「明日、時間あるなら少し教えてやる」


「荷馬の扱いぐらいは覚えとけ」


 コウは少しだけ考える。


 だが、すぐ頷いた。


「……助かる」


 ドランはそれ以上は言わなかった。


 代わりに、


「今日はもう休め」


とだけ言い、先に宿の方へ戻っていく。


 コウはしばらく馬を見ていた。


 鼻を鳴らし、水を飲む姿はいつも通りだった。


 だが、今は少し違って見える。


 コウは静かに息を吐く。


 それから、ドランの背を追った。


 宿口の前で、ドランが振り返る。


「なんだ」


 コウは少し考える。


「……明日、その」


「馬の事」


 ドランは黙って待つ。


「午前は少し動きたい」


「昼過ぎぐらいからでいいか」


 ドランは少しだけ目を細めた。


「予定あるのか」


「ああ」


「町も見たい」


 ドランは短く鼻を鳴らす。


「別に構わん」


「昼過ぎなら厩舎側いる」


「分かった」


 コウが頷く。


「ただし、明日の朝も馬見ろ」


「今日教えた事ぐらいはやれ」


 コウは少しだけ苦笑に近い顔をした。


「……やる」


 ドランはそれを見ると、小さく笑った。


「ならいい」


 それだけ言い、宿の中へ戻っていく。


 コウはもう一度だけ厩舎へ視線を向けた。


 馬は落ち着いた様子で干し草を食べている。


 今まで、“使えている”と思っていた。


 だが、本当は全然足りていなかったらしい。


 コウは静かに息を吐く。


 それから、そのまま二階へ戻っていった。


 食堂の喧騒は、階段を上がるごとに少しずつ遠くなっていった。


 廊下は静かだった。


 時々、別の部屋から話し声が聞こえる程度だ。


 コウは自分の部屋の前で一度立ち止まる。


 中の様子を少し聞く。


 物音は無い。


 静かだった。


 ゆっくり扉を開ける。


 部屋の中は薄暗い。


 窓の外から、町の灯りが少しだけ差し込んでいる。


 奴隷少女はまだ眠っていた。


 厚手の布を握ったまま、小さく身体を丸めている。


 起きる様子はない。


 コウは静かに扉を閉めた。


 それから荷物を確認する。


 普通のカバン。


 肩掛けカバン。


 背負いカバン。


 剣。


 鉄ナイフ。


 特に問題はない。


 リアカー側の荷も思い出す。


 だが、今はドランの宿だ。


 少なくとも、森での野宿よりはずっと安全だった。


 コウは剣を手の届く位置へ置く。


 鉄ナイフも近くへ寄せた。


 それから、自分のベッドへ腰を下ろす。


 柔らかい。


 森で使っていた簡易ベッドとは全然違う。


 身体から少しずつ力が抜けていく。


 気付かないうちに疲れていたらしい。


 窓の外からは、まだ町の音が聞こえる。


 人の声。


 車輪の音。


 遠くの笑い声。


 森とは違う。


 だが、不思議と嫌ではなかった。


 コウは静かに横になる。


 天井を見上げた。


 フェルド。


 大きな町。


 馬。


 宿。


 奴隷少女。


 ここ数日で、随分状況が変わった気がした。


 だが、考えるのは明日でいい。


 コウはゆっくり目を閉じる。


 外のざわめきを聞きながら、そのまま眠りへ落ちていった。



PL(第20話終了時点)


(15日目後半)


開始


* 干し肉:62

* 薬草:47

* 山椒:50

* 塩:14

* ルク:18



支出


* 食事代:1ルク



宿泊支払い


* 干し肉:2(ドランの宿宿泊代)

* 部屋代

* 馬預かり

* リアカー預かり



終了


* 干し肉:60

* 薬草:47

* 山椒:50

* 塩:14

* ルク:17



BL(第20話終了時点)


武器


* 木槍×1

* 石ナイフ×2

* 鉄ナイフ×2

* 剣×1



衣類・装備


主人公携帯


* 革靴×1

* 革手袋×1

* 背負いカバン×1

* 肩掛けカバン×1

* 普通のカバン×1

* 水筒×2

* 紐×3

* ルク袋×1


リアカー固定・運搬


* ロープ×2

* 紐×5



食料


* 干し肉×60



素材


* 薬草×47

* 山椒×50

* 塩×14



通貨


* 17ルク



同行・管理対象


* 馬×1

* 奴隷少女×1



宿泊


* ドランの宿(宿泊中)

* 馬預かり中

* リアカー預かり中



リアカー設置


* 簡易ベッド×1(設置済)

* 干し草×2

* 厚手の布×2

* 普通の布×1

* 木箱×2(前後固定)

* ロープ×1(簡易ベッド固定用)



リアカー積載


商材


* 薬草×47

* 山椒×50


荷物


* 背負いカバン×1(干し肉38)

* 肩掛けカバン×1(干し肉22)

* 普通のカバン×1(薬草・17ルク)

* 革手袋×1

* 紐×5



拠点保管(森拠点)


生活用品


* 簡易ベッド×1

* 棚×1

* 鉄板×1

* 鍋×1

* 古い大鍋×1

* 小鍋×2

* ショベル×1

* ナタ×1

* ツルハシ×1



本日の変化


* ドランの宿へ正式宿泊

* 宿代を干し肉で支払い

* 馬・リアカーを宿管理下へ移動

* ドランから荷馬管理の指摘を受ける

* 翌日、馬管理を教わる約束成立

* フェルド初宿泊終了


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