第18話「町へ」
朝、目を覚ます。
最初に視界へ入ったのは、リアカーだった。
昨日積み込んだ荷物は、そのまま残っている。
木箱。
布。
干し草。
簡易ベッド。
以前とは比べ物にならない量だった。
「……本当に増えたな」
コウは小さく苦笑する。
最初は、自分1人が生きるだけだった。
だが今は違う。
馬がいる。
リアカーがある。
運ぶ相手もいる。
そして今日は、町へ行く。
◇
コウは火の前へしゃがみ込む。
赤く残っていた炭を棒で崩す。
そこへ水を掛けた。
じゅ、と小さな音が鳴る。
白い湯気が立ち上った。
さらに灰を崩し、熱が残っていないか確認する。
「……よし」
今日は長く離れるかもしれない。
だから、いつもより丁寧に確認した。
◇
次は荷物確認だった。
背負いカバン。
肩掛けカバン。
普通のカバン。
木箱。
ロープ固定。
順番に確認していく。
武器も見る。
木槍。
剣。
鉄ナイフ。
問題は無い。
最後に水筒を確認し、腰へ下げた。
◇
リアカーの取っ手を握る。
「……行くか」
小さく呟き、コウは歩き出した。
◇
朝の森道を進む。
リアカーは以前よりかなり重い。
だが、もう扱いには慣れてきていた。
車輪の揺れ。
荷重。
段差。
引き方も、少しずつ分かってきている。
最近は村へ向かうこと自体は珍しくない。
だが今日は違った。
今日は町へ行く。
しかも1人ではない。
コウは前を見ながら歩き続けた。
◇
しばらく進むと、見慣れた村の外壁が見えてきた。
リース村だった。
朝だからか、人通りはまだそこまで多くない。
それでも、
「おう、今日も早いな」
「また荷物増えてんな」
すれ違う村人から、そんな声が飛ぶ。
コウも軽く手を上げて返した。
◇
そのままグレン工房へ向かう。
近づくにつれて、木を削る音が聞こえてきた。
金槌の音。
誰かの怒鳴り声。
木材の擦れる音。
相変わらず騒がしい。
工房前には荷車が並び、木材も大量に積まれていた。
「おう」
グレンがこちらへ気付く。
「来たか」
「ああ」
コウはリアカーを止める。
グレンは荷台を見る。
「ちゃんと固定してるな」
「昨日かなり確認したからな」
「まあ、揺れる時は揺れるが」
グレンは鼻を鳴らした。
◇
そこへ弟子が馬を連れてくる。
「おはようございます」
馬は昨日より落ち着いて見えた。
コウを見ると、小さく鼻を鳴らす。
「餌も水も済ませてあります」
「今日は長距離ですか?」
「ああ。町まで行く」
弟子が少し目を丸くした。
「初フェルドですか」
「……まあな」
そう答えると、少しだけ緊張感が増した気がした。
◇
コウは引き綱を受け取る。
馬が少し頭を揺らした。
だが以前ほど嫌がる様子はない。
「急に引っ張らなきゃ大丈夫ですよ」
弟子が笑う。
「まだ完全には慣れてませんけど、昨日よりは全然いいです」
「そうか」
コウは小さく頷いた。
◇
グレンがリアカーを見る。
「嬢ちゃん乗せるなら、段差気を付けろ」
「ああ」
「あと石の多い道は避けろ」
「揺れる」
コウは荷台を見る。
簡易ベッド。
干し草。
布。
昨日、何度も固定確認した場所だった。
「……なるべく揺らさないようにはする」
グレンは頷く。
「まあ、歩かせるよりはマシだろ」
「だな」
◇
準備を終える。
コウは馬を引き、リアカーを動かした。
「診療所行くんだろ?」
「ああ」
「……無理させんなよ」
グレンの声に、コウは軽く手を上げた。
そのまま、診療所へ向かう。
◇
診療所へ入る。
中にはいつもの薬草の匂いが漂っていた。
鍋からは湯気が立ち上っている。
以前より、少し落ち着いて見えた。
コウは奥を見る。
簡易ベッド。
そこへ横になっていた奴隷少女が、こちらへ視線を向けた。
「……」
目はしっかり開いている。
顔色も、最初に見た時よりかなり良い。
まだ痩せてはいる。
だが、もう死にかけという感じではなかった。
◇
コウは近くへ行く。
「今日、出る」
奴隷少女は小さく頷いた。
昨日の話は覚えているらしい。
「リアカーに乗せて町まで行く」
「無理に歩かせたりはしない」
奴隷少女は少しだけ安心したように見えた。
だが、やはりまだ疲労は濃い。
長く話せる状態ではなさそうだった。
◇
そこへ医者が来る。
「熱はほぼ下がった」
「だが、まだ体力は戻ってない」
コウは頷く。
「ああ」
「町までなら、休みながら行け」
「水もちゃんと飲ませろ」
「分かってる」
医者は奴隷少女を見る。
「今日は無理するな」
奴隷少女は静かに頷いた。
◇
コウはリアカーへ視線を向ける。
「……行けるか?」
奴隷少女は少し間を置き、小さく頷いた。
「……はい」
かなり弱い声だった。
それでも、前よりははっきり喋れている。
◇
コウは奴隷少女へ手を伸ばす。
「立てるか」
奴隷少女はゆっくり起き上がる。
だが、足元はかなり危うい。
コウはすぐ肩を支えた。
軽い。
驚くほど軽かった。
まともに食べていなかったのが分かる。
◇
ゆっくり外へ出る。
奴隷少女の歩幅に合わせ、少しずつ進む。
外へ出ると、馬が小さく鼻を鳴らした。
奴隷少女が少しだけ身体を強張らせる。
「大丈夫だ」
コウは短く言った。
馬は特に暴れる様子もない。
◇
リアカーの横へ着く。
簡易ベッド。
干し草。
厚手の布。
固定用の木箱。
昨日準備したものが、そのまま形になっていた。
「……乗れるか?」
奴隷少女は小さく頷く。
だが、自力では難しそうだった。
コウは身体を支え、そのままゆっくりリアカーへ乗せる。
奴隷少女は小さく息を漏らした。
だが、痛そうな様子はない。
◇
コウは布を掛ける。
「揺れたら言え」
奴隷少女は布を握り、小さく頷いた。
「……ありがとう、ございます」
コウは少しだけ間を置いた。
「気にするな」
短く返し、固定を確認する。
ロープ。
木箱。
荷崩れ。
問題は無い。
◇
医者が入口からこちらを見る。
「今日は休ませながら行け」
「ああ」
「町着いたら、まず休ませろ」
「分かってる」
コウは引き綱を握る。
馬。
リアカー。
奴隷少女。
以前とは、もう全然違う。
コウはゆっくり歩き始めた。
◇
村を出る。
馬の歩幅に合わせ、ゆっくり進む。
リアカーが小さく軋む。
だが昨日確認した固定は問題無かった。
木箱も動かない。
簡易ベッドも大きく揺れてはいない。
コウは時々後ろを確認しながら歩いた。
◇
奴隷少女は静かだった。
布を握ったまま、じっと横になっている。
時々揺れに合わせて身体が小さく動く。
だが、歩かせるよりは明らかに負担は少ないようだった。
◇
森道を進む。
以前なら、コウ1人だけの移動だった。
だが今は違う。
馬がいる。
リアカーがある。
後ろには人もいる。
歩く速度も、気を付けることも増えていた。
「……本当に変わったな」
小さく呟く。
数日前までは、干し肉の数だけ気にしていた。
だが今は違う。
運ぶ物も、人も、増えている。
◇
しばらく進み、コウは足を止めた。
少し開けた場所だった。
「……一回休むか」
馬も少し疲れている。
奴隷少女も長時間揺らし続けるのは良くない。
コウはリアカーを止めた。
◇
まず馬を見る。
鼻先を軽く撫で、水を飲ませる。
馬は大人しく水を飲んだ。
その間に、コウはリアカーを確認する。
ロープ。
木箱。
荷崩れ。
問題は無い。
◇
次に奴隷少女を見る。
「水飲めるか?」
奴隷少女はゆっくり頷いた。
コウは水筒を開け、少しずつ飲ませる。
奴隷少女は小さく喉を鳴らした。
飲み終えると、小さく息を吐く。
「……すみません」
「謝らなくていい」
コウは短く返した。
◇
コウは少し考え、木箱を開ける。
上へ置いていた柔らかパンを取り出した。
「食えるか?」
奴隷少女はパンを見る。
少しだけ驚いたような顔をした。
コウは半分に割り、その片方を渡す。
「無理して全部食わなくていい」
奴隷少女は両手で受け取り、小さく頷いた。
◇
少しずつ食べ始める。
本当に少しずつだった。
急いで食べる様子もない。
むしろ、ゆっくり確かめるように食べている。
コウはその様子を見ながら、自分も水を飲んだ。
◇
だが、半分ほど食べたところで奴隷少女の手が止まる。
「……もういいのか?」
奴隷少女は小さく頷いた。
「……お腹、いっぱいです」
コウは残った分を見る。
まだかなり残っていた。
「じゃあ、残しとけ」
「また腹減ったら食え」
奴隷少女は少し驚いたようにこちらを見る。
それから、小さく頷いた。
「……はい」
◇
柔らかパンは布へ包み直し、近くへ置いておく。
そのまま少し休む。
森の風が少し涼しかった。
静かな時間だった。
鳥の声だけが聞こえる。
◇
少し休み、再び出発する。
馬を引き、リアカーを動かした。
車輪が土を踏む音が響く。
奴隷少女は布を抱えたまま、静かに横になっていた。
先ほどより、少し顔色が良い気がする。
柔らかパンを食べられたのが大きいのかもしれなかった。
◇
道は徐々に広くなっていく。
踏み固められた跡も増えていた。
人や荷車の行き来が多いのだろう。
時々、反対側から旅人も通る。
荷物を積んだ男。
商人らしい馬車。
複数人の集団。
コウは軽く道を譲りながら進んだ。
以前なら、自分がこういう道を歩く側になるとは思っていなかった。
◇
やがて、森が薄くなっていく。
木々の隙間から、何か大きな影が見え始めた。
コウは自然と歩く速度を落とす。
◇
高い壁だった。
その周囲には、人がいる。
荷車が行き交い、馬の声が響く。
見たこともないほど人が多い。
「……」
コウは思わず立ち止まった。
◇
フェルド。
初めて見る町だった。
村とは全然違う。
建物の数。
人の密度。
聞こえてくる声。
何かを焼く匂い。
荷車の車輪音。
全部が混ざっていた。
◇
奴隷少女も、静かに町を見ていた。
だが、その表情は少し硬い。
緊張しているのかもしれない。
◇
コウは町を見上げる。
「……ここが、フェルドか」
小さく呟く。
そのまま、ゆっくり町へ近付いていった。
⸻
PL(第18話終了時点)
(15日目)
開始
* 干し肉:62
* 柔らかパン:1
* 薬草:47
* 山椒:50
* 塩:14
* ルク:20
⸻
支出
なし
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食事消費
* 柔らかパン:0.5(奴隷少女)
⸻
終了
* 干し肉:62
* 柔らかパン:0.5
* 薬草:47
* 山椒:50
* 塩:14
* ルク:20
⸻
BL(第18話終了時点)
武器
* 木槍×1
* 石ナイフ×2
* 鉄ナイフ×2
* 剣×1
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衣類・装備
* 革靴×1
* 革手袋×1
* 背負いカバン×1
* 肩掛けカバン×1
* 普通のカバン×1
* 水筒×2
* 紐×8
* ロープ×2
* ルク袋×1
⸻
生活用品
* 簡易ベッド×2
* 干し草×2
* 厚手の布×2
* 普通の布×1
* 棚×1
* 木箱×2
* リアカー×1
* 鉄板×1
* 鍋×1
* 古い大鍋×1
* 小鍋×2
* ショベル×1
* ツルハシ×1
* ナタ×1
⸻
食料
* 干し肉×62
* 柔らかパン×0.5
⸻
素材
* 薬草×47
* 山椒×50
* 塩×14
⸻
通貨
* 20ルク
⸻
同行・管理対象
* 馬×1
* 奴隷少女×1
⸻
リアカー設置
* 簡易ベッド×1(設置済)
* 干し草×2
* 厚手の布×2
* 普通の布×1
* 木箱×2(前後固定)
* ロープ×1(簡易ベッド固定用)
⸻
リアカー積載
商材
* 薬草×47
* 山椒×50
荷物
* 背負いカバン×1(干し肉40)
* 肩掛けカバン×1(干し肉20)
* 普通のカバン×1(干し肉2・薬草・20ルク)
* 革手袋×1
* 紐×5
⸻
本日の変化
* 奴隷少女を診療所から移送
* 馬同行開始
* フェルド到着
* 長距離移動初成功
* リアカー寝台運用開始




