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コウの物語  作者: パルス


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18/35

第18話「町へ」



 朝、目を覚ます。


 最初に視界へ入ったのは、リアカーだった。


 昨日積み込んだ荷物は、そのまま残っている。


 木箱。


 布。


 干し草。


 簡易ベッド。


 以前とは比べ物にならない量だった。


「……本当に増えたな」


 コウは小さく苦笑する。


 最初は、自分1人が生きるだけだった。


 だが今は違う。


 馬がいる。


 リアカーがある。


 運ぶ相手もいる。


 そして今日は、町へ行く。



 コウは火の前へしゃがみ込む。


 赤く残っていた炭を棒で崩す。


 そこへ水を掛けた。


 じゅ、と小さな音が鳴る。


 白い湯気が立ち上った。


 さらに灰を崩し、熱が残っていないか確認する。


「……よし」


 今日は長く離れるかもしれない。


 だから、いつもより丁寧に確認した。



 次は荷物確認だった。


 背負いカバン。


 肩掛けカバン。


 普通のカバン。


 木箱。


 ロープ固定。


 順番に確認していく。


 武器も見る。


 木槍。


 剣。


 鉄ナイフ。


 問題は無い。


 最後に水筒を確認し、腰へ下げた。



 リアカーの取っ手を握る。


「……行くか」


 小さく呟き、コウは歩き出した。



 朝の森道を進む。


 リアカーは以前よりかなり重い。


 だが、もう扱いには慣れてきていた。


 車輪の揺れ。


 荷重。


 段差。


 引き方も、少しずつ分かってきている。


 最近は村へ向かうこと自体は珍しくない。


 だが今日は違った。


 今日は町へ行く。


 しかも1人ではない。


 コウは前を見ながら歩き続けた。



 しばらく進むと、見慣れた村の外壁が見えてきた。


 リース村だった。


 朝だからか、人通りはまだそこまで多くない。


 それでも、


「おう、今日も早いな」


「また荷物増えてんな」


 すれ違う村人から、そんな声が飛ぶ。


 コウも軽く手を上げて返した。



 そのままグレン工房へ向かう。


 近づくにつれて、木を削る音が聞こえてきた。


 金槌の音。


 誰かの怒鳴り声。


 木材の擦れる音。


 相変わらず騒がしい。


 工房前には荷車が並び、木材も大量に積まれていた。


「おう」


 グレンがこちらへ気付く。


「来たか」


「ああ」


 コウはリアカーを止める。


 グレンは荷台を見る。


「ちゃんと固定してるな」


「昨日かなり確認したからな」


「まあ、揺れる時は揺れるが」


 グレンは鼻を鳴らした。



 そこへ弟子が馬を連れてくる。


「おはようございます」


 馬は昨日より落ち着いて見えた。


 コウを見ると、小さく鼻を鳴らす。


「餌も水も済ませてあります」


「今日は長距離ですか?」


「ああ。町まで行く」


 弟子が少し目を丸くした。


「初フェルドですか」


「……まあな」


 そう答えると、少しだけ緊張感が増した気がした。



 コウは引き綱を受け取る。


 馬が少し頭を揺らした。


 だが以前ほど嫌がる様子はない。


「急に引っ張らなきゃ大丈夫ですよ」


 弟子が笑う。


「まだ完全には慣れてませんけど、昨日よりは全然いいです」


「そうか」


 コウは小さく頷いた。



 グレンがリアカーを見る。


「嬢ちゃん乗せるなら、段差気を付けろ」


「ああ」


「あと石の多い道は避けろ」


「揺れる」


 コウは荷台を見る。


 簡易ベッド。


 干し草。


 布。


 昨日、何度も固定確認した場所だった。


「……なるべく揺らさないようにはする」


 グレンは頷く。


「まあ、歩かせるよりはマシだろ」


「だな」



 準備を終える。


 コウは馬を引き、リアカーを動かした。


「診療所行くんだろ?」


「ああ」


「……無理させんなよ」


 グレンの声に、コウは軽く手を上げた。


 そのまま、診療所へ向かう。



 診療所へ入る。


 中にはいつもの薬草の匂いが漂っていた。


 鍋からは湯気が立ち上っている。


 以前より、少し落ち着いて見えた。


 コウは奥を見る。


 簡易ベッド。


 そこへ横になっていた奴隷少女が、こちらへ視線を向けた。


「……」


 目はしっかり開いている。


 顔色も、最初に見た時よりかなり良い。


 まだ痩せてはいる。


 だが、もう死にかけという感じではなかった。



 コウは近くへ行く。


「今日、出る」


 奴隷少女は小さく頷いた。


 昨日の話は覚えているらしい。


「リアカーに乗せて町まで行く」


「無理に歩かせたりはしない」


 奴隷少女は少しだけ安心したように見えた。


 だが、やはりまだ疲労は濃い。


 長く話せる状態ではなさそうだった。



 そこへ医者が来る。


「熱はほぼ下がった」


「だが、まだ体力は戻ってない」


 コウは頷く。


「ああ」


「町までなら、休みながら行け」


「水もちゃんと飲ませろ」


「分かってる」


 医者は奴隷少女を見る。


「今日は無理するな」


 奴隷少女は静かに頷いた。



 コウはリアカーへ視線を向ける。


「……行けるか?」


 奴隷少女は少し間を置き、小さく頷いた。


「……はい」


 かなり弱い声だった。


 それでも、前よりははっきり喋れている。



 コウは奴隷少女へ手を伸ばす。


「立てるか」


 奴隷少女はゆっくり起き上がる。


 だが、足元はかなり危うい。


 コウはすぐ肩を支えた。


 軽い。


 驚くほど軽かった。


 まともに食べていなかったのが分かる。



 ゆっくり外へ出る。


 奴隷少女の歩幅に合わせ、少しずつ進む。


 外へ出ると、馬が小さく鼻を鳴らした。


 奴隷少女が少しだけ身体を強張らせる。


「大丈夫だ」


 コウは短く言った。


 馬は特に暴れる様子もない。



 リアカーの横へ着く。


 簡易ベッド。


 干し草。


 厚手の布。


 固定用の木箱。


 昨日準備したものが、そのまま形になっていた。


「……乗れるか?」


 奴隷少女は小さく頷く。


 だが、自力では難しそうだった。


 コウは身体を支え、そのままゆっくりリアカーへ乗せる。


 奴隷少女は小さく息を漏らした。


 だが、痛そうな様子はない。



 コウは布を掛ける。


「揺れたら言え」


 奴隷少女は布を握り、小さく頷いた。


「……ありがとう、ございます」


 コウは少しだけ間を置いた。


「気にするな」


 短く返し、固定を確認する。


 ロープ。


 木箱。


 荷崩れ。


 問題は無い。



 医者が入口からこちらを見る。


「今日は休ませながら行け」


「ああ」


「町着いたら、まず休ませろ」


「分かってる」


 コウは引き綱を握る。


 馬。


 リアカー。


 奴隷少女。


 以前とは、もう全然違う。


 コウはゆっくり歩き始めた。



 村を出る。


 馬の歩幅に合わせ、ゆっくり進む。


 リアカーが小さく軋む。


 だが昨日確認した固定は問題無かった。


 木箱も動かない。


 簡易ベッドも大きく揺れてはいない。


 コウは時々後ろを確認しながら歩いた。



 奴隷少女は静かだった。


 布を握ったまま、じっと横になっている。


 時々揺れに合わせて身体が小さく動く。


 だが、歩かせるよりは明らかに負担は少ないようだった。



 森道を進む。


 以前なら、コウ1人だけの移動だった。


 だが今は違う。


 馬がいる。


 リアカーがある。


 後ろには人もいる。


 歩く速度も、気を付けることも増えていた。


「……本当に変わったな」


 小さく呟く。


 数日前までは、干し肉の数だけ気にしていた。


 だが今は違う。


 運ぶ物も、人も、増えている。



 しばらく進み、コウは足を止めた。


 少し開けた場所だった。


「……一回休むか」


 馬も少し疲れている。


 奴隷少女も長時間揺らし続けるのは良くない。


 コウはリアカーを止めた。



 まず馬を見る。


 鼻先を軽く撫で、水を飲ませる。


 馬は大人しく水を飲んだ。


 その間に、コウはリアカーを確認する。


 ロープ。


 木箱。


 荷崩れ。


 問題は無い。



 次に奴隷少女を見る。


「水飲めるか?」


 奴隷少女はゆっくり頷いた。


 コウは水筒を開け、少しずつ飲ませる。


 奴隷少女は小さく喉を鳴らした。


 飲み終えると、小さく息を吐く。


「……すみません」


「謝らなくていい」


 コウは短く返した。



 コウは少し考え、木箱を開ける。


 上へ置いていた柔らかパンを取り出した。


「食えるか?」


 奴隷少女はパンを見る。


 少しだけ驚いたような顔をした。


 コウは半分に割り、その片方を渡す。


「無理して全部食わなくていい」


 奴隷少女は両手で受け取り、小さく頷いた。



 少しずつ食べ始める。


 本当に少しずつだった。


 急いで食べる様子もない。


 むしろ、ゆっくり確かめるように食べている。


 コウはその様子を見ながら、自分も水を飲んだ。



 だが、半分ほど食べたところで奴隷少女の手が止まる。


「……もういいのか?」


 奴隷少女は小さく頷いた。


「……お腹、いっぱいです」


 コウは残った分を見る。


 まだかなり残っていた。


「じゃあ、残しとけ」


「また腹減ったら食え」


 奴隷少女は少し驚いたようにこちらを見る。


 それから、小さく頷いた。


「……はい」



 柔らかパンは布へ包み直し、近くへ置いておく。


 そのまま少し休む。


 森の風が少し涼しかった。


 静かな時間だった。


 鳥の声だけが聞こえる。



 少し休み、再び出発する。


 馬を引き、リアカーを動かした。


 車輪が土を踏む音が響く。


 奴隷少女は布を抱えたまま、静かに横になっていた。


 先ほどより、少し顔色が良い気がする。


 柔らかパンを食べられたのが大きいのかもしれなかった。



 道は徐々に広くなっていく。


 踏み固められた跡も増えていた。


 人や荷車の行き来が多いのだろう。


 時々、反対側から旅人も通る。


 荷物を積んだ男。


 商人らしい馬車。


 複数人の集団。


 コウは軽く道を譲りながら進んだ。


 以前なら、自分がこういう道を歩く側になるとは思っていなかった。



 やがて、森が薄くなっていく。


 木々の隙間から、何か大きな影が見え始めた。


 コウは自然と歩く速度を落とす。



 高い壁だった。


 その周囲には、人がいる。


 荷車が行き交い、馬の声が響く。


 見たこともないほど人が多い。


「……」


 コウは思わず立ち止まった。



 フェルド。


 初めて見る町だった。


 村とは全然違う。


 建物の数。


 人の密度。


 聞こえてくる声。


 何かを焼く匂い。


 荷車の車輪音。


 全部が混ざっていた。



 奴隷少女も、静かに町を見ていた。


 だが、その表情は少し硬い。


 緊張しているのかもしれない。



 コウは町を見上げる。


「……ここが、フェルドか」


 小さく呟く。


 そのまま、ゆっくり町へ近付いていった。



PL(第18話終了時点)


(15日目)


開始


* 干し肉:62

* 柔らかパン:1

* 薬草:47

* 山椒:50

* 塩:14

* ルク:20



支出


なし



食事消費


* 柔らかパン:0.5(奴隷少女)



終了


* 干し肉:62

* 柔らかパン:0.5

* 薬草:47

* 山椒:50

* 塩:14

* ルク:20



BL(第18話終了時点)


武器


* 木槍×1

* 石ナイフ×2

* 鉄ナイフ×2

* 剣×1



衣類・装備


* 革靴×1

* 革手袋×1

* 背負いカバン×1

* 肩掛けカバン×1

* 普通のカバン×1

* 水筒×2

* 紐×8

* ロープ×2

* ルク袋×1



生活用品


* 簡易ベッド×2

* 干し草×2

* 厚手の布×2

* 普通の布×1

* 棚×1

* 木箱×2

* リアカー×1

* 鉄板×1

* 鍋×1

* 古い大鍋×1

* 小鍋×2

* ショベル×1

* ツルハシ×1

* ナタ×1



食料


* 干し肉×62

* 柔らかパン×0.5



素材


* 薬草×47

* 山椒×50

* 塩×14



通貨


* 20ルク



同行・管理対象


* 馬×1

* 奴隷少女×1



リアカー設置


* 簡易ベッド×1(設置済)

* 干し草×2

* 厚手の布×2

* 普通の布×1

* 木箱×2(前後固定)

* ロープ×1(簡易ベッド固定用)



リアカー積載


商材


* 薬草×47

* 山椒×50


荷物


* 背負いカバン×1(干し肉40)

* 肩掛けカバン×1(干し肉20)

* 普通のカバン×1(干し肉2・薬草・20ルク)

* 革手袋×1

* 紐×5



本日の変化


* 奴隷少女を診療所から移送

* 馬同行開始

* フェルド到着

* 長距離移動初成功

* リアカー寝台運用開始


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