第15話「生活の拡張」
診療所を出る。
外の空気は少し冷えていた。
コウは小さく息を吐く。
奴隷少女はまだ眠ったままだ。
だが、医者は「今なら間に合う」と言った。
なら、今は任せるしかない。
◇
診療所の前では、エミルが待っていた。
「お、出てきたか」
「ああ」
コウは袋へ手を入れる。
干し肉を取り出した。
「借りてた分だ」
エミルへ渡す。
干し肉8。
エミルは少し目を丸くした。
「ちゃんと返すんだな」
「借りたままは嫌だ」
「律儀だな」
エミルは苦笑しながら受け取る。
「ありがたく貰っとく」
コウは頷いた。
そこでベルクが口を開く。
「馬、今日はうちで見とくぞ」
「明日取りに来るか?」
コウは少し考える。
今日は荷物も多い。
リアカーもある。
「……頼む」
「任せとけ」
ベルクは笑った。
◇
その後、コウはいつもの交換屋へ向かった。
店主が顔を上げる。
「お、来たか」
「ああ」
コウは薬草を取り出す。
店主が状態を確認する。
「今日も悪くねぇな」
「交換したい」
「何にする?」
コウは少し考える。
「簡易ベッド2」
店主が目を丸くした。
「寝床か?」
「ああ」
「他は?」
「干し草2。厚手の布2。普通の布1」
店主が少し笑う。
「一気に生活感出てきたな」
「最近、地面がきつい」
「そりゃ毎日直寝してりゃな」
店主は品を並べていく。
「干し草2は薬草2でいい」
「残りは干し肉11だ」
「分かった」
コウは干し肉を取り出す。
店主が数を確認する。
「よし、成立だ」
簡易ベッド。
干し草。
厚手の布。
普通の布。
かなりの量になった。
コウはそれを見て、小さく息を吐く。
「悪い」
店主を見る。
「これ、少し預かってくれ」
「リアカー取りに行ってくる」
店主は荷物を見る。
「お、ついに完成したのか」
「ああ」
「なら預かっといてやるよ」
「助かる」
◇
コウはそのままグレンの工房へ向かった。
木を削る音が響いている。
工房前には木材や車輪が並んでいた。
コウが近づくと、グレンが気付く。
「お、来たか!」
「ああ」
グレンは嬉しそうに立ち上がった。
「出来てるぞ!」
工房横を指差す。
そこにはリアカーが置かれていた。
木枠。
車輪。
持ち手。
荷台部分も広く作られている。
横には棚もあった。
「……早かったな」
「張り切ったからな!」
グレンは笑う。
コウはリアカーへ近づく。
木を押す。
車輪を見る。
作りは粗い。
だが十分使えそうだった。
持ち手を握る。
少し引く。
木の車輪が土を転がった。
「……悪くない」
「だろ?」
グレンが腕を組む。
「森暮らしなら必須だ」
棚にも視線を向ける。
こちらも簡素だが悪くない。
「こっちも使えそうだ」
「地面置きばっかだと湿気るからな」
「分かる」
コウは短く返した。
最近は荷物量がかなり増えている。
置き場も必要だった。
「……助かった」
「また必要なら言え」
「材料ありゃ作る」
「ああ」
コウは頷く。
そのままリアカーを引き、交換屋へ戻った。
◇
店主がリアカーを見るなり笑う。
「お、完成したか」
「ああ」
「ほら、預かってた分だ」
店の横へ寄せられていた荷物を指差す。
簡易ベッド2。
干し草2。
厚手の布2。
普通の布1。
かなりの量だ。
コウはリアカーを横付けする。
簡易ベッドを載せる。
干し草。
布。
順番に積み込む。
「……かなり積めるな」
思わず呟く。
店主が笑った。
「だから便利なんだよ」
コウは持ち手を軽く持ち上げる。
荷物を積んでも、まだ余裕がある。
背負うのとは全然違った。
◇
その後、コウは別の店へ向かった。
次は調理道具だ。
鍋を手に入れてから食事はかなり変わった。
だがまだ足りない。
焼く道具。
湯を分ける道具。
水を運ぶ道具。
欲しい物は増えていた。
◇
金物を扱う店へ入る。
鉄の匂いがした。
棚には鍋や刃物、小さな金具が並んでいる。
店主がコウを見る。
「何か探してるのか?」
「調理道具」
「ほう?」
コウは棚を見る。
そこで目が止まった。
浅い鉄板。
持ち手付き。
縁は低い。
だが肉を焼くには十分そうだった。
「……これ、焼き用か」
「ああ」
店主が頷く。
「肉焼くなら便利だぞ」
コウは持ち上げる。
少し重い。
だが悪くない。
鍋とは違う。
焼ける。
それだけで料理の幅はかなり変わる。
「これ欲しい」
「干し肉5だ」
やはり高い。
鉄量が違う。
だが、焼けるようになるのは大きかった。
コウは頷く。
「分かった」
次に鍋を見る。
今使っている物より少し小さい。
「鍋は?」
「普通のなら干し肉2」
さらに横を見る。
小鍋。
片手で持てる程度。
「こっちは?」
「小鍋は1つ干し肉1」
「2つ欲しい」
「毎度あり」
店主が笑う。
最後に、水筒を見る。
木と革で作られた簡素な物だった。
「水筒は?」
「2つで干し肉1だ」
コウは少し考える。
だがすぐ頷く。
「2つ」
店主が品を並べていく。
鉄板1。
鍋1。
小鍋2。
水筒2。
「合計、干し肉10だ」
コウは袋を開く。
干し肉を取り出す。
店主が数える。
「ちょうどだな」
「ああ」
◇
交換した道具をリアカーへ積む。
鉄板。
鍋。
小鍋。
水筒。
荷台はかなり埋まってきた。
「……増えたな」
思わず呟く。
簡易ベッド。
棚。
布。
鍋。
鉄板。
少し前までの拠点には無かった物ばかりだ。
◇
コウはリアカーを引き、村を後にする。
木の車輪が地面を転がる。
荷物は重い。
だが背負うより遥かに楽だった。
森へ入る。
草を踏み分ける。
時折、木の根へ車輪が引っかかる。
「っと……」
持ち手を少し持ち上げる。
まだ慣れていない。
だが運べる量が全然違う。
「……これは必要だな」
素直にそう思った。
◇
しばらく進んだところで、コウはふと思い出す。
「……罠」
朝確認した罠。
そのままだった。
リアカーを木へ寄せる。
草を分け、罠へ向かう。
ウサギが1匹かかっていた。
「……そのままだったか」
状態を確認する。
問題ない。
ウサギを回収する。
今日はかなりの量になりそうだった。
◇
やがて拠点へ戻る。
見慣れた穴倉。
焚き火跡。
積み石。
そこへリアカーを止める。
荷台を見る。
かなり物が増えていた。
「……まずは処理か」
ウサギを下ろす。
今日は6匹。
数が多い。
だが、やることは変わらない。
◇
ナイフを入れる。
皮を剥ぐ。
肉を分ける。
慣れた作業だった。
処理した肉を並べる。
山椒を振る。
紐へ掛ける。
風の通る位置へ並べていく。
干し肉30。
ただし、まだ完成ではない。
乾燥中だ。
「……結構増えたな」
思わず呟く。
以前なら、
ここまで一度に加工することも無かった。
だが今は違う。
保存前提で動いている。
生活のやり方そのものが変わっていた。
◇
次に袋を持つ。
周囲へ出る。
薬草を採る。
山椒を採る。
山菜も今日使う分だけ集める。
必要以上には取らない。
薬草10。
山椒30。
そして今日食べる分の山菜。
それだけ確保して戻る。
◇
火を起こす。
鉄板を置く。
干し肉2を軽く炙る。
ジュッ、と音がした。
「……おお」
思わず声が漏れる。
焼ける音。
脂の匂い。
そこへ鍋も使う。
山菜を入れる。
塩を入れる。
湯気が立つ。
以前とは違う。
かなりまともな食事だった。
コウは火の前へ座る。
炙った干し肉を口へ運ぶ。
「……うまいな」
小さく呟く。
鍋だけの頃とは違う。
焼けるだけで、かなり変わる。
◇
食事を終えた後、コウは火へ薪を足す。
炎が少し強くなる。
乾燥中の干し肉を確認する。
問題ない。
風も通っている。
これだけ数が増えると、
火を絶やす訳にもいかなかった。
「……薪もいるな」
小さく呟く。
最近は、
食料だけでは回らなくなってきている。
◇
コウは今日持ち帰った荷物を見る。
簡易ベッド。
干し草。
厚手の布。
普通の布。
棚。
鍋。
小鍋。
鉄板。
水筒。
かなり増えた。
「……増えたな」
小さく呟く。
だが今日はもう組まない。
明日また村へ行く。
診療所。
奴隷少女の様子も見なければならない。
それに、多分そのまま町へ行く流れになる。
今日はもう動かない方がいい。
コウは荷物を雨の当たりにくい場所へ寄せる。
棚だけは簡単に立てた。
鍋や小鍋を置く。
地面へ直置きするより遥かにマシだった。
◇
火を見ながら、小さく息を吐く。
「……明日だな」
明日もまた村へ行く。
やることは増えていた。
だが不思議と嫌ではない。
コウは火の横へ座る。
しばらく火を眺める。
それから、ゆっくり横になった。
今日はいつも通りだ。
火の熱を感じながら、
コウは静かに目を閉じた。
⸻
BL(第15話終了時点)
武器
* 木槍:1
* 石ナイフ:2
* 鉄ナイフ:2
* ナタ:1
* 剣:1
⸻
衣類・装備
* 革靴:1
* 背負いカバン:1
* カバン:1
* 普通のカバン:1
* 水筒2
⸻
生活用品
* 簡易ベッド2
* 干し草2
* 厚手の布2
* 普通の布1
* 棚1
* リアカー1
* 鉄板1
* 鍋2
* 小鍋2
⸻
携帯食料
* 干し肉17
* 干し肉(乾燥中)30
⸻
携帯素材
* 薬草37
⸻
拠点保管
* 山椒32
* 塩16
⸻
預け
* 馬1(ベルク預かり)
* 奴隷少女1(診療所預かり)




