第11話「増え始めた荷物」
グレンの工房を出た後、コウはそのまま村の通りへ戻った。
人の数はさらに増えている。
昼前。
一番人が動く時間だった。
荷を背負った村人。
木材を運ぶ者。
獲物を吊るした猟師。
干した魚の匂い。
焼いたパンの匂い。
声があちこちから飛ぶ。
「お、干し肉の兄ちゃんだ」
顔見知りになり始めた村人が笑う。
コウは軽く手を上げるだけに留めた。
まず向かったのは塩を扱う店だった。
木桶の中へ白い塩が積まれている。
店番の女がコウを見る。
「今日は多いねぇ」
「ああ」
コウは葉包みと薬草袋を下ろした。
「塩20欲しい」
女が少し目を丸くする。
「20?」
「また随分加工するねぇ」
「増えてきた」
「なるほどねぇ」
女は慣れた手つきで塩を量り始めた。
「最近あんた、かなり回してるだろ」
「干し肉の量増えてるよ」
「少しずつな」
女は少し考える。
「20なら……」
干し肉を見る。
薬草を見る。
「干し肉10は欲しいねぇ」
コウは少し眉を動かした。
「高いな」
「塩20だよ?」
「最近塩も高いんだから」
少し考える。
コウが口を開く。
「干し肉7」
「薬草6」
女は少し止まる。
「……うーん」
まだ少し迷っている顔だった。
コウは続ける。
「今後も来る」
「量も増える」
女はコウを見る。
少し考えたあと、ため息混じりに笑った。
「……まあ、その辺ならいいか」
「次もちゃんと来なよ」
「ああ」
交換する。
* 干し肉7
* 薬草6
⇔
* 塩20
かなり重い。
だが必要だった。
今後、干し肉を増やすなら絶対に要る。
塩袋を受け取る。
ずしりとした重さが腕へ来た。
「……重いな」
女が笑う。
「だから荷車欲しくなるんだよ」
コウは少しだけ苦笑した。
そのまま近くの露店へ向かう。
並べられていたのは、
根菜類だった。
小ぶりだが保存が利く。
店番の老婆が声を掛けてくる。
「兄ちゃん、今日は買う側かい」
「ああ」
「野菜2欲しい」
「薬草2でいいよ」
コウは薬草を渡す。
* 薬草2
⇔
* 野菜2
老婆が野菜を包みながら笑う。
「最近ちゃんと食ってる顔してるねぇ」
「前はもっと危なかったよ」
コウは少し苦笑した。
「余裕はまだない」
「でも前よりは回ってる」
「それなら十分さね」
野菜を受け取り、
コウは次の店へ向かった。
次は袋や布を扱う露店だった。
吊るされた簡易袋。
粗布。
紐。
編み袋。
年配の男がこちらを見る。
「今日は何だ?」
「袋と紐」
「何個いる」
「袋4」
「紐5本」
男は少し眉を上げた。
「随分増やすな」
「ああ」
「荷物が分かれてきた」
「なるほどなぁ」
男は笑いながら袋を並べる。
「最初はみんなそう言う」
「そのうちもっと増えるぞ」
コウは少し嫌そうな顔をした。
「……増えそうなんだよな」
交換する。
* 薬草8
* 干し肉1
⇔
* 簡易袋4
* 紐5本
袋を確認する。
今使っている簡易袋より少し大きい。
薬草や塩を分けるには十分だった。
さらに紐。
今後絶対に使う。
荷固定。
干し肉。
罠。
リアカー。
全部で使う。
次にカバンを扱う店へ向かう。
壁へ掛けられた布カバン。
革補強された背負い袋。
小物入れ。
年配の女店主がコウを見る。
「あんた最近よく見るねぇ」
「荷物増えたからな」
「顔が運び屋の顔になってるよ」
コウは少しだけ苦笑した。
普通のカバンを手に取る。
今使っている物より少し大きい。
葉包みなら、
5個包みを4塊ほど入れられそうだった。
干し肉20個分前後。
「……これくらいあれば十分か」
次に背負いカバンを見る。
さらに大きい。
肩紐も太い。
こちらなら、
5個包みを8塊ほど入れられそうだった。
干し肉40個分近い。
かなり違う。
店主が笑う。
「背負いは楽だよ」
「両手空くからねぇ」
「森歩くならそっちのが人気だ」
コウは少し考えたあと頷いた。
「両方くれ」
交換する。
* 干し肉2
⇔
* 普通のカバン1
* 干し肉3
⇔
* 背負いカバン1
受け取る。
袋とは違う。
ちゃんと“運ぶため”の道具だった。
肩へ掛けた瞬間、それがわかる。
「……かなり違うな」
店主が笑う。
「だから皆、結局カバンに戻るんだよ」
コウは新しい荷物を持ち直した。
かなり増えた。
だが、必要な物ばかりだった。
そしてそのまま、鍛冶場のある区画へ向かった。
鍛冶場の近くまで来ると、空気が変わった。
熱。
鉄。
炭。
叩く音。
甲高い金属音が一定の間隔で響いている。
村の中央付近とは違う。
ここは作る側の場所だった。
炉の熱気が流れてくる。
鍛冶場の前には、
* 釘
* 包丁
* 小型刃物
* 農具
* 鉄板
などが並べられていた。
店番をしていた男がコウを見る。
「お、リアカーの兄ちゃんか」
もう話が回っていた。
コウは少し驚く。
「……もう知ってんのか」
「グレンが面白がってたからな」
男は笑った。
「あいつ、気に入るとすぐ喋る」
コウは並べられていた工具へ目を向ける。
まずナタ。
刃が厚い。
重さもある。
だが石斧とは違う。
“切るため”の形だった。
「山入るなら便利だぞ」
「ああ」
「枝も払えるし、細木もいける」
コウは手に取る。
かなり違った。
重さの位置が違う。
石斧より扱いやすい。
「これくれ」
交換する。
* 干し肉4
* 薬草2
⇔
* ナタ1
次にショベルを見る。
「そっちは畑用にも使うな」
「穴掘りにもいい」
「排水作る時も便利だ」
コウは少し反応した。
排水。
確かに必要だった。
「それもくれ」
交換する。
* 干し肉3
* 薬草2
⇔
* ショベル1
さらにツルハシを見る。
頭部分だけで重い。
石を割る形。
固い地面を崩す形。
「そっちは重いぞ」
「わかる」
「何掘る気だ?」
「まだ決めてない」
「変な答えだな」
だが今後絶対に使う。
そんな感覚があった。
「それもくれ」
交換する。
* 干し肉5
* 薬草2
⇔
* ツルハシ1
最後に小型の鉄ナイフを見る。
「細工向けか?」
「解体より細作業寄りだな」
「紐切ったり、削ったり」
コウは少し考える。
今後、
袋も増える。
紐も増える。
木工も始まる。
細作業は確実に増える。
「これもくれ」
交換する。
* 干し肉2
⇔
* 鉄ナイフ1
工具を受け取る。
かなり重い。
塩もある。
袋もある。
工具まで増えた。
どう考えても、
今の状態で全部持って帰れる量ではなかった。
「……無理だな」
コウは小さく呟いた。
すると近くにいた若い村人2人が反応した。
「運ぶのか?」
「どこまでだ?」
「森の方」
2人が少し顔を見合わせる。
「薬草1束ずつでどうだ?」
「やるやる」
「荷運びだけならすぐだ」
コウは少し考えてから続けた。
「その前に、ちょっと工房寄る」
「グレンのとこか?」
「ああ」
片方が笑う。
「リアカーの件か」
「もう村中回ってるぞ」
「早すぎだろ……」
少し笑いが起きる。
そのまま三人で工房区画へ戻る。
グレンの工房へ着く。
すると奥の方からエミルが顔を出した。
「うわ、増えてる」
「本当に買い込んだなぁ」
ロイドも後ろから覗き込む。
「塩20はやりすぎだろ」
「必要だった」
ベルクがツルハシを見て笑う。
「お前もう開拓する気満々じゃねぇか」
「多分そうなる」
「否定しねぇんだ……」
少し笑いが起きる。
コウは葉包みを1つ取り出した。
包みを開く。
中から干し肉を2つだけ取り出した。
「今日なんとか余った」
「とりあえず2だけ返す」
エミルが少し目を丸くする。
「……もう返すのか」
「ああ」
「残り8はまた今度な」
エミルは受け取った干し肉を見て、小さく笑った。
「律儀だなぁ」
「借りたままは落ち着かん」
ロイドも頷く。
「まあ、コウなら返すとは思ってた」
エミルが聞く。
「次いつ来る?」
「3日後」
コウが答える。
すると荷物を持っていた若い村人の片方が反応した。
「お、3日後か」
「じゃあ他の奴にも伝えとくわ」
「干し肉交換したい奴、結構いるし」
もう片方も頷く。
「最近、村でちょっと話題だからな」
「また獲物持って来る奴増えそう」
ロイドも笑う。
「もう半分商人だな、お前」
コウは少し嫌そうな顔をした。
「そんなつもりはない」
ベルクが笑う。
「でも実際かなり回してるぞ」
エミルも頷いた。
「次来た時、また荷物増えてそうだな」
「増えてなきゃ困る」
ベルクが吹き出す。
「もう完全に開拓民の顔だろ」
グレンが鼻で笑った。
「だったらリアカー急がねぇとな」
少し空気が緩む。
その後、
コウ達は村を後にした。
背負いカバンへ詰め込まれた荷物が重い。
塩。
工具。
袋。
新しい道具ばかりだった。
村を離れ、
森道へ入る。
人の声が少しずつ遠ざかっていく。
代わりに聞こえるのは、
風。
葉擦れ。
荷物の揺れる音。
「……重っ」
若い村人の片方が肩をずらした。
「だから言っただろ」
コウが返す。
「いや、これは想像より重い」
もう片方が笑う。
「塩20が効いてるな」
「あれ、全部使うのか?」
「ああ」
「干し肉用?」
「主に」
2人が少し感心した顔をする。
「本当に回してんだなぁ」
「最近、村でも話出てるぞ」
「森の方で干し肉大量に作ってる奴いるって」
コウは少し嫌そうな顔をした。
「広まるの早すぎる」
「リアカーの件で完全に広がったな」
少し笑いが起きる。
森道を進む。
途中から道幅が狭くなる。
枝。
根。
ぬかるみ。
普通の荷車なら厳しい。
若い村人が周囲を見る。
「……あー」
「これは確かに、あのリアカーくらい小さくないと無理だわ」
「馬車通らんな」
「ああ」
コウは頷いた。
だから必要だった。
小さく。
軽く。
森道を通れる形。
さらに歩く。
しばらくして、
拠点へ近付く頃には、
2人とも少し息が上がっていた。
「遠っ……」
「森暮らしって大変なんだな」
コウは苦笑した。
「慣れる」
「慣れたくねぇなぁ……」
少し笑いが起きる。
そしてようやく、
拠点へ到着した。
若い2人が周囲を見る。
「……うわ」
「本当に住んでんのか、ここ」
焚火跡。
干し肉ラック。
簡易かまど。
積まれた枝。
完全ではない。
だが、生活の形は出来始めていた。
「なんかもう、拠点って感じだな」
「ああ」
コウは荷物を下ろす。
塩。
工具。
袋。
全部一気に増えた。
若い村人の片方がツルハシを見る。
「これからもっと増えそうだな」
「……多分な」
コウは苦笑した。
2人は荷物を下ろし終えると、
肩を回す。
「いやー、結構きつかった」
「でもちょっと面白かったな」
コウは薬草を取り出した。
「助かった」
「約束分だ」
薬草を1束ずつ渡す。
* 薬草2
⇔
* 荷運び手伝い2人
2人は嬉しそうに受け取った。
「お、ちゃんとくれるのか」
「また何かあったら呼んでくれや」
「荷運びくらいならやるぞ」
「ああ」
コウが頷く。
2人は手を振りながら森道を戻っていった。
静かになる。
残ったのは、
大量の荷物と、
新しく増えた道具だった。
コウはしばらくそれを見回す。
「……増えたな」
本当に。
前とは違う。
食うだけではない。
作るための物が増え始めていた。
まず火を確認する。
問題ない。
次に加工中の肉を見る。
そして今日受け取ったウサギ。
コウはすぐ処理へ入る。
皮を剥ぐ。
肉を切り分ける。
血抜き済みだから早い。
新しい鉄ナイフはかなり使いやすかった。
「……やっぱ違うな」
細かい作業がやりやすい。
切れ味が安定している。
かなり楽だった。
肉を分け終える。
だが山椒が足りない。
薬草もかなり減っている。
「……採りに行くか」
コウは立ち上がった。
新しいナタを腰へ下げる。
まず薬草。
目標は10束。
次に山椒。
今日は35粒ほど欲しい。
加工量が増えている。
必要量も増えていた。
さらに今日は山菜も採る。
今までは避けていた。
だが今は鍋がある。
アク抜きもできる。
慎重に採取する。
食べられる種類だけ選ぶ。
無理はしない。
拠点へ戻る。
戻る頃には、
空も少し赤くなり始めていた。
まず山椒処理。
肉へ擦り込む。
塩も使う。
吊るす。
加工中の干し肉がまた増える。
次に山菜のアク抜きを始める。
鍋へ水を入れる。
火へ掛ける。
山菜を入れる。
独特の匂いが立つ。
今まではできなかった作業だった。
コウはしばらく鍋を見ながら、
ふと思う。
「……せっかく、かまど2つあるんだよな」
視線を横へ向ける。
もう片方のかまど。
今は空いている。
「鍋、もう1つあってもいいか」
片方でアク抜き。
片方で料理。
できることはかなり増える。
火の前へ座る。
今日は野菜もある。
鍋へ水を入れる。
野菜を切る。
焼き魚を全部入れる。
さらに塩。
そして山椒。
少し多めに入れる。
火へ掛ける。
湯気が立つ。
匂いが広がる。
山椒の香りがかなり違った。
「……うまっ」
思わず声が出る。
塩だけでも違う。
だが山椒まで入ると、
一気に食事らしくなる。
焼き魚の臭みも減る。
野菜も食いやすい。
コウはしばらく鍋を食べ続ける。
「……やっぱ塩強いな」
干し肉。
保存。
料理。
全部に使う。
減る理由がよくわかる。
だからこそ、
今日20も交換した。
だが同時に思う。
「……これ、なんとか自前にできねぇかな」
塩。
毎回交換では重い。
消費量も増える。
コウは少し考える。
「岩塩とか、ないのか?」
もし見つかれば大きい。
保存食。
料理。
交換。
全部変わる。
火を見ながら呟く。
「……明日、ちょっと探してみるか」
次にやることが、
また1つ増えた。
⸻
PL
開始
干し肉32
薬草23
山椒53
野菜1
焼き魚3
⸻
交換
塩交換
* 干し肉7
* 薬草6
⇔
* 塩20
野菜交換
* 薬草2
⇔
* 野菜2
袋・紐交換
* 薬草8
* 干し肉1
⇔
* 簡易袋4
* 紐5本
カバン交換
* 干し肉2
⇔
* 普通のカバン1
* 干し肉3
⇔
* 背負いカバン1
鍛冶場
* 干し肉4
* 薬草2
⇔
* ナタ1
* 干し肉3
* 薬草2
⇔
* ショベル1
* 干し肉5
* 薬草2
⇔
* ツルハシ1
* 干し肉2
⇔
* 鉄ナイフ1
エミル返済
* 干し肉2返済
荷運び依頼
* 薬草2
⇔
* 荷運び手伝い2人
⸻
採取
* 薬草10束
* 山椒35粒
* 山菜少量
⸻
加工
* 干し肉加工中ウサギ7匹分
⸻
消費
* 山椒35粒使用
* 塩使用
* 焼き魚3消費
* 野菜1消費
⸻
終了在庫
干し肉3
薬草9
山椒53
野菜2
焼き魚0
塩20
⸻
負債
* エミル立替分:干し肉8相当
⸻
BL
携帯資産
武器
* 木槍1
* 石ナイフ2
* 鉄ナイフ2
* ナタ1
⸻
作業用品
* 石斧1
* ショベル1
* ツルハシ1
* 大鍋1
* 網1
⸻
衣類・装備
* 革靴1
* カバン1
* 普通のカバン1
* 背負いカバン1
⸻
食料(完成品)
* 干し肉3
* 野菜2
⸻
食料(加工素材)
* 干し肉加工中ウサギ7匹分
⸻
素材
* 薬草9
* 山椒53
* 塩20
* 山菜少量
* 魚骨少量
* 植物繊維少量
* 紐5本
⸻
運搬用品
* 簡易袋6
* ツル類
⸻
通貨
* 0ルク
⸻
固定資産
* 簡易拠点1
* 石組み簡易かまど2
* 干し肉ラック1
* 薬草乾燥場所1
* 簡易罠複数
* 簡易魚囲い1
* 動物避け用焚火複数
* リアカー(制作中)
* 棚1(受取待ち)
⸻
負債
* エミル立替分:干し肉8相当




