第10話「運ぶための形」
朝、目を覚ます。
火を確認する。
問題ない。
吊るしていた干し肉を見る。
しっかり乾いている。
前日まで乾燥させていた分も、完全に仕上がっていた。
干し肉は39。
かなり増えた。
「……よし」
今日は村の日だった。
急がない。
狙うのは昼前後。
一番人が動く時間だ。
だから朝の回収を先に済ませる。
外へ出る。
まず罠確認。
今日は2匹。
悪くない。
その場で解体。
血抜き。
持ち帰る。
拠点へ戻ると、すぐ処理へ入る。
皮を剥ぐ。
肉を切り分ける。
山椒を使う。
吊るす。
今回使った山椒10粒は、後で採る分で補充するつもりだった。
「これでまた回るな」
小さく呟く。
その後、山椒採取。
山椒10粒。
使った分をそのまま補充。
次に薬草採取。
薬草10束。
山菜は取らない。
野菜はまだ残っている。
焼き魚も3匹残っている。
食料は少しずつ安定してきていた。
ただ、その分だけ種類も増えている。
今後さらに、
* 塩
* 道具
* 鉄器
* 木材
まで増えれば、今の運び方では限界が来る。
「……やっぱ必要だな」
コウは小さく呟いた。
拠点へ戻る。
交換用をまとめる。
持っていくのは、
* 干し肉39個
* 薬草25束
干し肉は5個ずつ葉で包む。
1塊。
全部で8塊。
最後だけ4個包みだった。
そのうち4塊をカバンへ入れる。
20個分。
残り4塊、19個分は袋へ入れ、ツルで縛る。
薬草25束は別袋へ入れる。
気付けば、
* カバン1つ
* 干し肉袋1つ
* 薬草袋1つ
になっていた。
「……増えたな」
やはり必要だった。
運ぶための手段が。
準備を終え、拠点を出る。
急がず歩く。
昼前到着を狙う。
森を抜け、
リーフへ到着した頃には、人も増え始めていた。
まず向かうのは三人組のところ。
以前から約束している相手だ。
向こうもすぐ気付く。
「お、来た来た」
「待ってたぞ」
声を掛けてきたのは、
ロイドだった。
横には、
ベルクと、
エミルもいる。
「ああ」
コウは荷物を下ろす。
三人組側も今日は獲物を持っていた。
ロイドが2匹。
ベルクが2匹。
エミルが1匹。
合計5匹。
コウも葉包みを取り出す。
「干し肉5個だ」
「こっちは5匹な」
交換する。
* 干し肉5個
⇔
* 獲物5匹
もう慣れたやり取りだった。
ベルクが笑う。
「最近かなり回ってんな」
「少しずつな」
エミルが荷物を見る。
「……また増えてるな」
「ああ」
コウは袋を見下ろした。
「運ぶのがそろそろきつい」
ロイドが少し眉を上げた。
「そんなにか?」
「ああ」
コウは袋を軽く持ち上げる。
「食い物だけならまだいい」
「でも今後、塩とか道具とか増える」
「袋も増えるし、種類も増える」
エミルが腕を組む。
「……確かにな」
ベルクはまだそこまで実感がない顔だった。
「背負えばよくね?」
「重い」
「まあそれはそうだけど」
コウは少し考えたあと、地面へ線を引いた。
二輪。
荷台。
人が引く形。
三人組が覗き込む。
「……荷車か?」
ベルクが首を傾げる。
「馬車ほど大きくなくていい」
「森道通れるくらいでいい」
ロイドが腕を組む。
「人力か」
「ああ」
さらにコウは横へ線を足す。
「低く囲う」
「荷物落ちなきゃいい」
エミルがすぐ反応する。
「袋運ぶ用か」
「ああ」
「今の運び方、崩れる」
さらにコウは後ろ側を指でなぞった。
「あと、後ろは開くようにしたい」
三人組が少し止まる。
「……開く?」
ロイドが聞き返す。
「倒したまま使えるようにする」
「長い木とか、そのまま積める」
ロイドが先に理解した。
「材木も運べるのか」
エミルも頷く。
「荷物はみ出しても使えるな」
ベルクだけは少し引いた顔をした。
「……そこまで考えてたのか」
今まで村にある荷車は、基本的に平たい板だけだった。
縄で縛る。
運ぶ。
それだけ。
だがコウの考えているものは違う。
低い囲い。
荷崩れ防止。
小荷物向け。
森道向け。
さらに後ろを開けば、長物まで運べる。
エミルがしゃがみ込み、図を眺めた。
「……これ、面白いな」
「作れそうか?」
「私じゃ無理」
「でも心当たりはある」
エミルが立ち上がる。
「こういうのはグレンだな」
ロイドも頷いた。
「俺も行く」
さらにベルクも立ち上がる。
「えー、俺も?」
「来いよ」
「まあ……暇だし」
なんだかんだで全員付いてくることになった。
四人で村の奥へ向かう。
木材置き場を抜ける。
削りかけの板。
乾燥中の材木。
車輪。
木屑の匂い。
村の中でも、この辺りは少し空気が違った。
「ここら辺、全部工房区画みたいなもんだ」
ロイドが言う。
エミルも頷く。
「木工連中は大体この辺にいる」
歩いている途中、コウは入口近くへ立てかけられていた木棚へ目を向けた。
簡素だが頑丈そうだった。
「……あれ、売り物か?」
エミルが振り返る。
「ああ、簡易棚だな」
「物置き用」
コウは少し考える。
今の拠点は床置きばかりだった。
干し肉。
塩。
袋。
道具。
増え始めている。
「1つ欲しい」
「薬草2でいいぞ」
コウは頷く。
* 薬草2束
⇔
* 棚1つ
ただ、今は持って帰れない。
「リアカーできた時、一緒に持って帰る」
「了解」
そして四人は、そのまま工房の中へ入った。
中には木の匂いが満ちていた。
削りかけの板。
積み上がった材木。
壁際へ立てかけられた車輪。
木屑が床へ散っている。
その奥で、
グレン
がこちらを見た。
「なんだ?」
エミルが笑う。
「面白いもん持ってきた」
コウは地面へ図を書く。
二輪。
荷台。
人力。
低い囲い。
さらに開閉式の後部。
グレンは腕を組みながら眺める。
「……小さいな」
「森道用だからな」
「馬なし?」
「ああ」
さらに囲い部分を指差す。
「これ何だ」
「荷崩れ防止」
「袋とか落ちにくくする」
さらに後ろ側を見る。
「……後ろ開くのか?」
「ああ」
「倒したまま使えるようにする」
「長い木とか、そのまま積める」
グレンが少し黙る。
「……なるほどな」
ロイドが頷く。
「材木運べるのか」
エミルも笑う。
「荷物はみ出しても使えるな」
ベルクだけは少し引いた顔をした。
「……そこまで考えてたのか」
グレンは図を見ながら、小さく笑った。
「……面白ぇ」
だがすぐ職人の顔へ戻る。
「木だけじゃ無理だな」
「軸は鉄欲しい」
「金具も要る」
コウが少し眉を動かす。
「……やっぱ鉄って高いのか?」
グレンは鼻を鳴らす。
「高ぇよ」
「村じゃそんな大量に打てねぇ」
「基本、町から回ってくる」
ロイドも補足する。
「フェルド頼りだな」
「村鍛冶だけじゃ足りん」
エミルも肩をすくめた。
「鉄値上がると色々きついんだよ」
「道具も、釘も、全部だ」
ベルクがぼやく。
「パン焼く鉄板も高ぇしなぁ……」
グレンは図を見ながら続ける。
「車輪の補強にも鉄いる」
「軸も木だけじゃすぐガタつく」
「長く使うなら、結局鉄だ」
コウは小さく頷いた。
だから高い。
だが、それでも必要だった。
荷物はもう増え始めている。
今後さらに増える。
運べなければ、回らない。
グレンは少し考え込み、口を開いた。
「……金なら24ルク」
「干し肉なら12だな」
「たっけぇ!?」
ベルクが即座に叫ぶ。
エミルが笑う。
「お前うるさいな」
「いや高ぇだろ!」
「パン何個分だと思ってんだ!」
ロイドは腕を組みながら図を見る。
「でも使えれば回収できるな」
エミルも頷いた。
「私もそう思う」
「店で使える」
「荷運びかなり楽になるぞ、これ」
ベルクだけがまだ半信半疑だった。
「そんな変わるかぁ?」
グレンが鼻で笑う。
「毎日荷物運ぶ奴ほど欲しくなる」
「お前もそのうち欲しがるぞ」
「えぇー……」
だがベルクはまだ納得していない顔だった。
コウは図を見ながら口を開く。
「……必要だ」
静かだった。
だが迷いはない。
今日だけでもわかる。
荷物は増えている。
今後さらに、
* 塩
* 鉄器
* 木材
* 道具
まで増える。
今の運び方では、どこかで限界が来る。
グレンは小さく頷いた。
「まあ、考え方は悪くねぇ」
「ちゃんと使う奴の図だ」
するとエミルが笑った。
「足りない分なら、私が立て替えるよ」
コウが視線を向ける。
エミルは肩をすくめた。
「いや、絶対使えるだろこれ」
「店でも便利だ」
「荷運び変わるぞ」
さらにロイドも口を開く。
「村側で話通してもいい」
「これ、村の利益になる」
ベルクだけがまだ半信半疑だった。
「そこまでかぁ?」
ロイドが呆れた顔をする。
「お前、毎朝粉袋運んでんだろ」
「いや運んでるけど」
「だったら絶対楽になる」
「……そうか?」
まだピンと来ていない。
コウは少し考えてから首を振った。
「いや、払う」
「これは俺が欲しいもんだ」
少し静かになる。
そしてコウは続けた。
「悪いけど、2だけ払わせてくれ」
「残りは立て替えてほしい」
「後で必ず返す」
エミルは少し驚いたあと、笑った。
「いや、コウ」
「今の回し方見てりゃわかる」
「あなたなら10くらいすぐ返せる」
ロイドも頷く。
「まあ、コウなら返すだろ」
ベルクが肩をすくめた。
「俺だったら返せねぇ」
空気が少し緩む。
グレンは図を見ながら呟く。
「名前どうすんだ、これ」
コウがぼそっと言う。
「……リアカーみたいなもんだろ」
一瞬、静かになる。
エミルが復唱した。
「リアカー?」
ロイドも呟く。
「……リアカー、か」
グレンも小さく笑う。
「変な名前だな」
だが、そのまま名前は定着した。
少ししてから、エミルが口を開く。
「なあコウ」
「これ、うちの工房で専売にしていいか?」
「絶対売れるぞ、これ」
ロイドもすぐ乗る。
「リーフ製って形で回せる」
「村の売りにもなるな」
「量産した方がいい」
エミルも頷く。
「そのつもりだ」
「グレン、今後忙しくなるぞ」
グレンは面倒そうな顔をする。
「……増産とか嫌な言葉聞こえたな」
だが完全に嫌そうではない。
もう作る側の顔になっていた。
その横で、ベルクだけがまだ首を傾げていた。
「……いや、そんな変わるか?」
誰も返事をしない。
コウは少し考えてから口を開く。
「俺が望むのは、とりあえず早く欲しい」
「それだけ叶うなら、後は好きにしてくれていい」
エミルが苦笑する。
「……欲ねぇなぁ」
ロイドも小さく笑った。
「だから信用されるんだろ」
ベルクがぼそっと呟く。
「俺なら取り分要求する」
また少し空気が緩む。
グレンは図を見ながら言った。
「……じゃあ作るか」
その言葉で、全てが動き始めた。
リーフ村の新しい運搬具。
リアカー。
その最初の1台が、今、形になろうとしていた。
⸻
PL(収支表・第10話終了時点)
開始
干し肉39
薬草15
山椒53
野菜1
焼き魚3
⸻
採取
ウサギ2匹捕獲
山椒10粒採取
薬草10束採取
⸻
加工
ウサギ2匹処理
干し肉加工開始
⸻
消費
山椒10粒使用
⸻
交換
三人組
干し肉5
⇔
獲物5匹
棚予約
薬草2
⇔
棚1(受取待ち)
リアカー前払い
干し肉2
⇔
リアカー制作依頼
⸻
終了在庫
干し肉32
薬草23
山椒53
野菜1
焼き魚3
⸻
加工状態
血抜き済み
* ウサギ5匹
(三人組交換分)
加工中
* ウサギ2匹分干し肉
(山椒処理・乾燥中)
⸻
負債
エミル立替分
干し肉10相当
⸻
BL(資産表・第10話終了時点)
携帯資産
武器
* 木槍1
* 石ナイフ2
* 鉄ナイフ1
⸻
作業用品
* 石斧1
* 大鍋1
* 網1
⸻
衣類・装備
* 革靴1
* カバン1
⸻
食料(完成品)
* 干し肉32
* 焼き魚3
* 野菜1
⸻
食料(加工素材)
* 血抜き済みウサギ5匹
* 干し肉加工中ウサギ2匹分
⸻
素材
* 薬草23
* 山椒53
* 魚骨少量
* 植物繊維少量
⸻
運搬用品
* 簡易袋2
* ツル類
⸻
通貨
* 0ルク
⸻
固定資産
* 簡易拠点1
* 石組み簡易かまど2
* 干し肉ラック1
* 薬草乾燥場所1
* 簡易罠複数
* 簡易魚囲い1
* 動物避け用焚火複数
* リアカー(制作中)
* 棚1(受取待ち)
⸻
負債
* エミル立替分:干し肉10相当




