第3話 守備練習
コーチは少しだけ眉を動かした。
「未経験は今週やらない」
「え」
「先に走れ。捕れ。投げろ。バットはそのあとだ」
あっさり言われて、ちょっと固まる。
「残念だったな」
足立がすぐ横でにやにやする。
「かなり残念なんだけど」
「まあ、今日はグローブ逆だったしな」
「そこはもういいだろ」
「いや、今日いちばん面白かった」
「お前ほんと失礼だな」
神崎がため息をついた。
「結城、とりあえず今は基礎やれ。話はそれからだ」
「……うん」
その日の残り時間、俺たちはずっと球拾いだった。
一軍と二軍のフリーバッティングが始まると、三軍は外野に散らされる。
飛んだ球を追いかけて、拾って、カゴに戻す。ただそれだけの繰り返しだ。
想像以上に地味だった。
打球が飛んでくる。
見える。
落ちる場所も、だいたい分かる。
だから走る。
でも、分かるのと間に合うのは別だった。
「あっ」
一歩遅れて、ボールが地面に落ちる。
拾って投げ返す。でも返球は弱い。
「惜しい」
と丸山が言った。
「そう見える?」
「見える」
「やさしいな」
「事実だし」
次の打球も、その次の打球も同じだった。
見えてはいる。
でも追いつけない。
カキン、と乾いた音が響く。
今までより明らかに速い打球だった。
「うわっ」
誰かの声が上がる。
打球は外野の右中間へ一直線に飛んでくる。
でも、その瞬間だった。
見える。
落ちる場所が、はっきり分かった。
俺は反射的に走っていた。
自分でもびっくりするくらい、迷いなく前に出る。
「結城!?」
足立の声が後ろで聞こえた。
あと少し。
もう少し。
グラブを伸ばす。
バシッ。
ちゃんと入った。
「おおっ!?」
三軍のほうが一気にざわつく。
自分でも一瞬、何が起きたのか分からなかった。




