終章 思念強化兵器MKⅡ その5
メルカーヴァ、ミミカ、そしてクフィール。
勇輔と啓壱朗はどうにか警察と自衛隊を撒き、横浜の港に到着した。
時刻は早朝。倉庫を探索して、乗り捨てられた高級車を見つける。
ミミカはどこへ行ったのか? 車に触ってサイコメトリーを開始した。
「どうですか? 勇輔」
「……さっき出航した。奴らは海に出ている」
そう言って溜息をつく勇輔。啓壱朗もがっくりする。
追手を撒くのに迂回ルートを強いられたことで、時間がかかり過ぎた。
「ああ、これでミミカさんはイスラエル軍の手に……」
「諦めるな。まだ追う手はある」
勇輔は港を探して、係留されていた小さな漁船を見つけた。
「乗れ。これで追いかける」
「さすがに無理じゃないですかねぇ……」
啓壱朗が諦め顔で言うと、勇輔は本気のキレ顔で恫喝。
「お前の脳の内容を書き換えてやろうか?」
人は物体である。内容を書き換えることは可能かもしれない。
勇輔はちょっと本気でそのプランを考えた。
「うっ……は、ははは。御免こうむりますよ」
啓壱朗は観念して、誰の所有物かも分からない漁船に乗り込む。
勇輔は船の係留を外し、思念力を込めてエンジンを駆動。
「敵はイスラエルが最近導入したフリゲート艦に乗っている。覚悟しておけ」
操縦桿を握り、スクリューを駆動させて出航する。
思念力を込められた漁船は百ノットに加速し、凄まじい水しぶきを上げて海上を疾駆。
衝撃波のごとく吹き上がる波。青海の潮の香りが疾風に乗って駆ける。
「勇輔、あれですか!?」
メルカーヴァたちを乗せ、出航したばかりのフリゲート艦が輝く朝日の下に現れる。
「そうだ啓壱朗。ミミカはあそこにいるッ!」
勇輔は人が変わったように声を張り上げた。
フリゲート艦も無防備ではない、追手が来たことは直ちに報告された。
『マガフ中尉、モーターボートが本艦に接近していますッ!』
「何っ! 作戦に気付かれたのか!?」
艦橋にいたマガフ中尉は、歩哨からの無線に驚愕する。
「ボートを撃沈しろ! 艦載速射砲、十二・七ミリ機関銃を使えッ!」
『はっ!』
マガフは的確な指示を出し、兵士たちを迎撃に当たらせた。
「もう来たのか。全く創覇大学の連中は凄いな、ハハハ」
隣にいたメルカーヴァが笑って言うと、マガフは青ざめた顔で振り向く。
「大学の連中だと?」
「そうさマガフ。世界最強の大学から送られた刺客だ。よほどMKⅡを取り返したいようだな」
「馬鹿なことを……我々は特殊部隊だぞ、返り討ちにしてやるッ!」
マガフは目をギョロつかせてガリル突撃銃を手に取り、弾薬を装填した。
「お前はMKⅡを守れ。奴らの死体はサメのエサにしてやる……!」
中尉はそう言って艦橋から出て行く。漁船とは思えないスピードで接近する船が見えた。
「撃て! 撃ちまくれッ! 奴らを艦に近づけるなッ!」
マガフは無線機を手に叫ぶ。フリゲート艦のOTOメララ速射砲が火を噴くッ。
砲弾が海面に着弾してザドボァッッと凄まじい水しぶきを上げる。
勇輔は見事な操縦で単装砲の攻撃を避けていく、が……。
「……機関銃はマズいな」
艦上のM2ブローニング重機関銃を確認し、顔を強張らせた。
いくら何でも、機関銃の弾幕を船の動きで避けることは難しい。
「啓壱朗、運転を代われ!」
「うえ!? そ、そう言われてもねぇ……」
勇輔は反論など聞きもせず、啓壱朗に操縦を任せて漁船の先頭に立つ。
そして海水に手を突っ込み、思念力を込めて水の塊を引き上げる。
魚が何匹か入って泳いでいるそれを、水の壁として船の先に載せたッ。
「なっ!?」
迎撃に当たっていた兵士はたじろいだが、とにかく機関銃を向ける。
重機関銃の射程に入った漁船に、大口径弾の圧倒的弾幕を放つッ!
だが、厚さ一メートルの水の抵抗は凄まじかった。
人間の上半身がちぎれ飛ぶ威力の五〇口径弾が、水の壁に阻まれ、中の魚だけが砕け散った。
「そのままフリゲートに突っ込め!」
指示を出す勇輔。再び海面に手を突っ込み、思念力を込めて水を手に取る。
勇輔が手に持てば、水は兵器となる。ボール状に固められた海水を用意し、投げる。
「み、水のボーるベォッ!?」
投げつけられた水球は鉄塊のごとき衝撃力を発揮。機関銃手の顔面をベキバギォと砕く。
「ちょ、ちょ、勇輔ッ! 操作がきかな……ッ!」
操縦桿を握る啓壱朗の目の前に、フリゲートの側壁が目に入る。
そのままズガドギャベゴゥと漁船は衝突。敵艦の横腹に突き刺さった。
「よし、乗り込むぞ啓壱朗!」
「む、無茶苦茶すぎですよアンタ……」
勇輔は漁船とフリゲートをロープで縛り、二人で甲板に登る。
敵側もただちに戦闘態勢に入った。警報が鳴り、艦内放送が流れる。
『甲板上に敵兵が侵入ッ! ただちに射殺せよッ!』
マガフ中尉が命令を出し、多数の銃を持った兵が甲板に向けて走る。
「僕が奴らを陽動します。貴方なら居場所が分かるはず、ミミカさんを助けてあげて下さい」
「わかった。……死ぬなよ、啓壱朗」
勇輔は言って、艦を触ってミミカの居場所を探り、啓壱朗の元から走り去った。
「いたぞ! あそこだッ!」
兵士の一人が啓壱朗を見つけ、即座に銃を構えて発射。後方からさらに二人が続き、銃撃。
ガリル突撃銃とウージー・サブマシンガン二丁が火閃を噴く!
「玄武停弾把!」
啓壱朗はフルオート射撃の銃弾を物理力で操作、自らの眼前でビタビタビタァッと止めた。
大地と水を司る玄武の奥義。放たれた物体にブレーキをかけ、停止させて無力化するッ。
兵士たちは弾切れするまで連射したが、啓壱朗は全くの無傷だった。
「初めて使いましたが、意外とイケるものですねぇ……」
「な……」
「何を驚いているんです? まさか銃が無ければ戦えないとでも?」
そう言うと、啓壱朗はさらに玄武の奥義を発動し、付近の海面から巨大な水の龍を創り出す。
「水を操るのは勇輔の特権ではありませんよ? 玄武水龍波ッ!」
「ひっ……!? ごボゴボァァッ!」
兵士三名は放たれた水龍に飲まれ、そのまま海に引きずりこまれて退場。
ちらりと艦橋の方を見ると、階段を登っていく勇輔が見えた。
(ミミカさんは上にいるのか? なら、奴らを艦の下に集めるのが僕の務めだ!)
啓壱朗は的確になすべき判断を下す。敵兵を陽動するため、自ら階段を降りて艦内に突撃。
「な……? 敵がいだげボァッ!」
階下からやってきた敵と鉢合わせ、一トンの物理力を込めた蹴りで倒す。
「白虎嵐雹撃!」
「いたぞ、こっぢグバベボガッ!」
奥に居た敵に、氷を司る白虎の奥義を放つ。雑魚兵士は雹弾を食らいボコボコにされて卒倒。
さらに奥の船員室に突入するが、そこにいたのは……女兵士だった。
「えっ!? あ、ひっ……!」
「おや。君は女の子かな?」
啓壱朗は戦利品を見つけたような嬉しそうな顔で笑む。
イスラエルでは少ない国民から徴兵を行うため、女性兵が多い。
彼女も衛生兵としてフリゲート艦に乗船した一人であった。
「あ……あ……あうっ……」
震える手で銃を向けるポニーテールの少女。だが装弾をしていなかった。
マガジンのついていない銃を向けて狼狽するばかりである。
「いけませんねぇ。そんな危ないものを僕に向けては。美人が台無しですよ」
そう言って近寄り、悪魔のような顔で少女の頬に手を添える啓壱朗。
中東系の静かで端正な、しかしどこか気の抜けた顔立ち。実に好みだとゲス顔で思った。
「君の名前を聞きたいところですが、なにぶん戦闘中ですからね? 大人しくしていれば命は保証しましょう。いいですね?」
「は……はいっ……」
少女は完全に戦意を失って肩を落とし、体をぶるぶる震わせて銃を落とす。
そこに、マガフ中尉がデザートイーグル自動拳銃を持って現れた。
「そこまでだ思念能力者。動くな」
啓壱朗はゆっくりと振り向く。玄武停弾把で銃など防げるが、すぐには倒そうとしない。
仮に敵が発砲すれば、近くにいる少女兵士を巻き込むのは間違いないからだ。
「マガフ中尉! ああ、た、助けに来てくれたんですね……!」
少女はマガフの元に駆け寄った。恐怖から解放されて少しだけ笑む。
「クフィール君か……馬鹿者がッ!」
マガフは女性兵を殴りつけた。
「あぐうっ!?」
「貴様はやはり役立たずだ。後できっちり教育をしてやる……!」
女兵士は船室の壁に叩き付けられ、気を失った。
その様を見て怒りがこみ上げる啓壱朗。
「その子は貴方の味方でしょう? 人を怒らせるのがお好きなようで」
「黙れ、銃を向けているのは私だ。言っておくが思念力で防げると思うな? 私は銃に戦車砲クラスの物理的破壊力を込めることもできる」
マガフは禍々しい顔で近寄る。啓壱朗は思った。なるほど同類か、と。
「どうやって計画のことを知った? 正確に答えれば生かしてやる」
ゴリッッと額に大口径拳銃を押し当て、啓壱朗を脅迫するマガフ。
「僕は友人を助けに来ただけですよ。計画とは何のことです?」
「ふん、友人か。だがアレは人ではない、我が国の技術の粋を集めて作られた最新兵器だ」
マガフは太く鈍い声で語る。啓壱朗は挑発的な顔でほくそ笑んだ。
「最新兵器とか言われても、僕には分かりませんがねぇ? なぜ拉致したんです」
「MKⅡは眼で見た思念の技術を全て記憶し、データを脳に蓄えることができるのだ。我々にとっては貴重な記録となる。日本ごときに渡すわけにはいかんのだよ」
MKⅡは教育型機器を脳内に内蔵している。
思念能力を覚えることに加え、戦闘データを記録し、母国に持ち帰る役割も果たしていた。
「それで、彼女を大学に入れるよう仕向けたのですか?」
「違うな。MKⅡを十二年も回収できなかったのは失態だ……が、ソウハ・ユニバーシティに入ったのは幸いだったよ。おかげで我々は、日本の持つ最新の思念技術を獲得できたわけだ」
そう言ってマガフはニコゥと笑う。
「お話はここまでだ。君たちには感謝しているよ。死ね」
マガフは思念力を込め、大型拳銃のトリガーを一気に引く!
だが、額に押し付けられた銃は発射されなかった。
「なっ……!?」
「貴方、『融点』をご存じですか?」
啓壱朗はニヤッッと笑う。
銃を作る鉄は、一五三八度で融解する。そして二八六二度で蒸発するッ。
「ぐあっ!? あつッ……!?」
マガフは赤熱したデザートイーグル拳銃を捨てる。地面に落ちてブチョァと潰れた。
額を通じて銃に思念力を込め、融点に達する熱エネルギーを加え、一瞬で溶かしたッ。
「どうやら知らなかったようですね。貴方には『教育』が必要だ……!」
「ちィっ! おのれ、小賢しい真似をッ!」
マガフは脚をスプリングのように跳ねさせ、狭い船員室から脱出する。
啓壱朗は直ちに廊下へと追った。だが……マガフの姿が見えない。
(いない……ッ! 一体どこへ……!)
啓壱朗は蒼龍の奥義を発動する。
「蒼龍空裂破ッ!」
自らの周囲に鎌鼬の嵐を作り出す啓壱朗。
ザギンバギンッッと艦壁が裂かれ、爪跡のような傷が入っていく。
(どこからでも来い……! 蒼龍空裂破は近づく者全てを切り刻むッ!)
そうして防備を固めた啓壱朗だが、上方の守りは疎かだった。
マガフは手足に思念力を込め、蜘蛛のように天井に張りついていたのだ。
「!」
ガサッと音がしたことに気付き、天井を見上げて応戦しようとする。
が、敵に先制を許した。片手に握るコンバットナイフで首を裂くマガフ!
「ぐっ……!」
啓壱朗は辛うじて避けたが、薄皮一枚を裂かれて出血。頸動脈を分断されるところだった。
零距離の格闘戦に突入。マガフの廻し蹴り、裏拳、肘鉄、膝蹴り、そしてナイフの斬撃。
啓壱朗はそれらを防御するしかなく、四神の技を出す暇さえなかった。
「くそ、火炎の技で……ぐバァッ!」
朱雀の技を出そうとした啓壱朗だが、思念力を込めた拳で殴り飛ばされた。
その破壊力は勇輔以上、廊下を激しく転がり、背中から壁に叩き込まれる。
「が……あッ!」
「ふん。口ほどにも無いな、思念能力者」
啓壱朗は体を折り、苦痛に顔を歪めて悶える。
マガフは近くで倒れていた兵士からジェリコ拳銃を拾い、再び啓壱朗に向けた。
「うっ……なんて、強さだ……っ」
「私は特殊部隊の隊長だ。貴様の思念技術は大したものだが、近接戦闘《CQB》で勝てると思うな」
黒く鈍く光る銃口が啓壱朗に向けられる。
「詰みだ。私が思念力を込めて銃を撃てば、お前は確実にバラバラに砕け散って死ぬ」
同じ失敗は繰り返さない。今度は啓壱朗から距離を離して構えた。
「それにしても、貴様らの大学は感心なものだな。一時とはいえ、この私を追い詰めるとは。ホセの努力も無駄ではなかったということか?」
「ホ……セ? がベふッ!」
啓壱朗の顔を蹴りつけるマガフ。激しく血を噴き、艦壁に血糊が吹きつけられる。
「MKⅡを奪ったのは、我々の同志だったホセと妻だ。兵器に過ぎないMKⅡに情でも移ったのか、奴らは軍事機密を国外に持ち出したのだ」
「……」
「奴らは創覇大学に身を潜めた。おかげで所在を探るのに時間がかかったよ。メルカーヴァを送り込む頃には、とうに逃げられてしまった」
勝ちを確信し、饒舌に語るマガフ。
啓壱朗は腫れた顔を押さえながら、静かに聞いていた。
「二人は優れた思念力の教師だったが、こうなって本当に残念だよ。くくく……」
「何をべらべらと……さっさと僕を殺したらどうです?」
長ったらしいおしゃべりを聞かされた啓壱朗、眼を伏せて挑発的に応じる。
「気が変わったのさ。貴様は我々の思念技術の糧にしてやる。死なない程度に骨を砕き、母国に持ち帰ることにしよう……!」
「そうですか……ふぅ」
啓壱朗は溜息をつく。反撃の準備は整った。
「やっと降参する気になったか? だが、貴様はこれからまガフッ!?」
マガフは背中に冷たい何かが刺さったのを感じた。凄まじい痛みが全身を襲う。
膝を折ってガクガクと体を震わせ、目をぐりんと見開く。
「勝負の最中ですよ。何を油断してるんです?」
啓壱朗はにこっと笑って諭す。マガフの背中に氷の槍……白虎氷烈槍が突き刺さっていた。
目の前のアホが戯言を話している間に、背後に氷槍を作っておき、機を見て放った。
「き、貴様……。な……何を……」
「ハハハ、背中のことは見えませんか。でも残念ながら、僕のターンですよ」
啓壱朗はそう言ってけらけらと笑った。
「貴方に一つ教えましょう。思念能力者の勝負は一瞬で決まる。殺るときは殺れ。ま、これは父の受け売りですがねぇ……」
などと言って、再び氷の槍を作り出してマガフに放つ。
「がッ! ぼッ! げッ! ぶッ!?」
「僕なら、饒舌に話したいときはこれくらいしますけどねぇ?」
マガフの四肢に氷の槍が次々刺さり、艦壁に縫い付けられた。やり方まで父とそっくり。
「ところで……貴方ほどではありませんが、僕も体術には覚えがありましてね……」
「ひっ……!? ま、待てッ! 貴様何をするだべぶッ!」
さっきの借りは万倍に返す。啓壱朗は殴りに殴って殴りまくった。
「いろばびぼべどぢりぶるぼッ!! ばがぼだべぼぐべがばぶッ!!」
数百連撃の一トンパンチで全身の内臓を砕かれるマガフ。
「うびぼごぶがばげぶごべへッ!! わがぎぐべびじげびぼべぶッ!!」
勇輔が父にそうしたように、真似をしてド派手に拳打拳打拳打拳打拳打拳打拳打拳打ッ。
「ブォーグランドガブビバブじょどオオオオォォォッ!!」
何言ってるのか良く分からないほどボコボコにされ、マガフは失神を超えて意識を失った。
啓壱朗の勝利。その悲鳴を聞いて、船室から先ほどの女兵士がよろりと姿を見せる。
「マ……マガフ中尉っ……」
「貴方は衛生兵ですね? ちょっとやりすぎました。死んでしまう前に治療してあげて下さい」
「う……あう……」
腕に赤十字の腕章をつけた少女兵士、うなだれながら応じる。
だが、彼女は啓壱朗の予想外の行動を取った。
「……え?」
「……じっとして下さい。す、少しですが思念力で治療ができます……」
女兵士は腫れ上がった啓壱朗の顔に手のひらを当て、思念治療を施す。
マガフに殴られた怪我は良くなったが、彼は不思議そうな顔をした。
「なぜ、敵の僕にこんなことをしてくれるんです?」
「私は、クフィールは、え、衛生兵ですから……」
たどたどしく返答されて、なるほどな、と啓壱朗は納得した。
衛生兵は敵味方の区別なく、怪我人を治療するのが仕事だ。
「MKⅡミミーカを取り返しに来たんですよね……お、お願いですから逃げて下さい。MKⅠメルカーヴァに見つかったら殺されます。どうか……ど、どうか……」
怪我を治療する代わりに、と言わんばかりに頭を下げて懇願する少女。
啓壱朗は興味があったので詳しく尋ねることにした。
「クフィール。そのマークワンとやらは、そんなに危険なのですか?」
「わ、私は、ヨルダン川の西岸地区の掃討作戦に従事していました。MKⅠはパレスティナの武装勢力を、こ、殺すために投入されて、私の目の前で、み、皆殺しにしました……」
体を震わせて、顔を蒼白にして語るクフィール。啓壱朗は腕組みをした。
「皆殺し、ですか……」
「はい……め、メルカーヴァ一機で三百人以上もです」
「まるで戦車か戦闘機のような言い方ですね?」
「……た、対テロリスト用に製造された、し、思念強化兵器ですから……」
思念強化兵器は、イスラエルで続発するテロに対抗するために作られた。
戦車や戦闘機による作戦では、民間人に偽装したテロリストに十分に対抗できない。
思念能力者の兵士を育成しても、常人の使用できる思念力には限度があり、十分ではない。
そこで、機械制御で思念力を増幅した兵士が必要とされた……のだが。
「あの人、いえ、あの兵器とは絶対に戦わないで下さい。メルカーヴァは『失敗作』なんです」
「失敗作?」
「は、はい。思念強化兵器計画は……し、失敗だったのです……」
クフィールは、血まみれで倒れているマガフを治療しながら、歯切れ悪く言う。
「し、思念力を人工的にコントロールするには、脳の、一部を切り取って、思念力で動作する機械を埋め込まなければ、いけません。き、切り取った脳の機能は失われます。機械が機能をか、肩代わりすることになっていましたが……」
「それが、失敗したと?」
こくり、とクフィールは頷く。
「める、メルカーヴァは『前頭葉』を切り取ったために、せ、精神が崩壊してしまいました。MKⅢ、MKⅣも失敗作になり、ゆ、唯一成功したのはMKⅡ、だけだと聞いています……」
前頭葉とは、人間の感情や意志決定能力を司る脳の部分である。
そんなところを切ってしまったのでは、平常な精神を保てなくなる。
「なるほど。貴方たちがミミカさんを狙っていた理由が分かりましたよ。成功作のマークツーとやらを持ち帰って、自国の兵器にしたい訳ですね?」
「……は、はい。ま、マガフ中尉も似たような計画で脳にチップが埋まってて……ええと」
「ああ、言わなくても分かりますよ。失敗作のゴミクズですね」
啓壱朗は侮蔑的に付け足してやった。
そんな時、上階から激しい爆音が響き、艦全体が酷く揺られた。
「きゃ、きゃあっ!!」
クフィールはバランスを崩して壁に叩きつけられそうになるが、啓壱朗が体を掴んで支えた。
二人で身を寄せ合う形となり、クフィールは目前に迫った啓壱朗の美顔にどきりとする。
「映画ならキスの一つでもするんでしょうけどね。残念ながらそんな暇はなさそうです。……でも、君は僕の好みだ。これを差し上げましょう」
そう言って、啓壱朗は懐から小さな名刺を取り出し、クフィールの胸の谷間に差し入れた。
それは自分の名前とメールアドレスが書かれた名刺だった。
「さようなら。クフィール。また会いましょう」
そう言って足早に甲板へと去っていく啓壱朗。
少女兵士はしばらくどきどきしながら、手渡された名刺をぼうっと眺めていた。
「は、はわ……わ、私……機密情報をべらべらと……ま、間違えて啓壱朗さんを治しちゃって好きになっちゃって、ほ、本当にダメダメな役立たずな子……ううん、『兵器』……」
顔を桜色に赤らめて、どうしようどうしようと狼狽する少女。否、MKⅢクフィール。
彼女もまた、思念強化兵器の一人で、失敗作だった。




