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暴漢に襲われた公爵令嬢を庇ったら、その兄令息に溺愛されました  作者: 灰銀猫


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突然の訪問と求婚

 それからもエドガール様が現れることはなかった。ご厚意で来てくださっただけだし、お忙しいのだろうと思いながらも、毎日デイドレスに着替え、髪を結ってもらうようになっていた。もっとも、元に戻っただけなのだけど。


 花瓶は未だにサイドテーブルの上にあるけれど、花も水も入っていない。片付けようかと思いながらも、どうしても気が乗らなかった。もしかしたら訪いを楽しみにしていたのかもしれない。


 それから数日後、来客があって屋敷が慌ただしかった。なにかしらとお父様に尋ねたのだけど、大したことではないと仰ったためそれ以上尋ねることも出来なかったのだけど、その後も何となく屋敷内がざわついているように感じた。


 それはその二日後、お父様が所用で王宮に行かれた後、一層顕著になった。お戻りになったお父様は直ぐにお母様を呼んで執務室に籠ってしまわれたわ。なにかあったのかと気になって夕食後のお茶の時間に尋ねたのだけど、今は話せない、いずれわかるだろうと言葉を濁されてしまった。なんなのかしらと不安になるも、悪いことではないと言われてしまえばそれ以上詮索も出来ない。




 変化は突然現れたわ。公爵家をお暇してから半月余り、あの襲撃事件から一月が経ったその日、我が家はどこか忙しない空気が漂っていた。使用人が静かに、でもいつも以上に廊下を行き来しているし、家令のアランも緊張しているように見える。お父様とお母様もなんだか表情が固い気がするのだけど……


「何か、ありますの?」

「いや、特に何もないが」


 お父様がカップを手にそう仰ったけれど、視線はカップに向けられたままだった。朝食後のお茶を楽しむいつもの時間だけど、どこか張り詰めた空気を感じる。お兄様もいつも通りだけど……お二人の変化に気付いていない、訳はないわよね。その辺りを読むのが上手いもの。お兄様と目が合ったけれど、困ったように眉を下げるばかりだった。なんなの?


 部屋に戻っても何だか落ち着かなかった。


「ねぇ、ミラ、お父様たち、何か隠しているように感じるのだけど……」


 どうにも腑に落ちなくて尋ねてみたのだけど……


「そうでしたか? 特に変わった感じはしませんでしたが」


 どうやら何も知らないみたいね。ミラは顔に出やすいから何も聞かされていない可能性はあるけれど。


「庭に、出ようかしら?」

「あ、今庭師が苗の植え替えをしているそうです。衣装が汚れるかもしれませんので、それが終わってからの方がいいって、アランさんが言っていましたよ」

「そうなの?」


 いつもはそんなこと気にしないのに。それだけ大掛かりにやっているってことかしら? だけど、邪魔をしては悪いわね。仕方がないので本を手にソファに腰を下ろした。




「お嬢様、お客様だそうです」

「お客様? 私に?」


 ミラに声をかけられて、本に没頭していたのだと気付いた。お客様? 私に? こんな時間にどなたが……ちらと花瓶が目に入った。まさか、ね。時間も違うし、いらっしゃる理由がないもの。軽く頭を振って浮かんだ可能性を振り払う。


「それで、どなたが?」


 本をテーブルに置いて立ち上がった。相手によっては着替えなきゃいけないわね。


「それが。フォルゼ公爵家のご嫡男様だそうです」

「ご嫡男って、エドガール様が?」


 たった今打ち消した相手の名前に声が大きくなってしまった。どういうこと? 最近いらっしゃらなかったのはお忙しいのだと思っていた。隣国から王女殿下との婚約の打診が正式にあったとお兄様が仰っていた。陛下と王太子殿下がルシアン様の説得に苦心しているらしいとも。


「お嬢様にはお召し替えをと、奥様より」

「お母様が?」


 今までそんなことなかったのに、どうして今日に限って? もしかして……屋敷内がいつもと様子が違ったように感じたのはそのせいだった? だけど、ますます疑問が増したわ。改まってお会いするなんて、何のために?


 疑問が増すばかりだったけれど、お待たせするわけにもいかない。お母様が選んだドレスは卒業前に頼んであったものの中の一着だった。紺色と白のそれは夏向きの涼しげな色合いで、装飾が少なめですっきりしたデザイン。成人後に着るためにと誂えたものだけど……


「お綺麗に出来ましたわ」


 どうだと言わんばかりに満足そうな笑みを浮かべてミラが頷いた。ドレスだけでなく綺麗に髪を結われ、お化粧までされてしまったわ。いえ、これまでもお会いする時はそうしていたけれど、今日はそれに比べて気合が入っている。ドレスの色に合わせた髪飾りまで付いているもの。


 暫くするとロックが呼びに来たので共に応接室に向かった。何が起きているのか、それに答えてくれる人はいないから、お会いして確かめるしかないわね。


「お父様、オリアーヌです」

「入りなさい」


 以前も似たようなやり取りがあったなと思い出してちょっとおかしかった。中に進むとエドガール様の姿があった。珍しく正装でいらっしゃる。普段着でも麗しくていらっしゃるけれど、正装だと一層凄みが増すわ。王宮で何か行事でもおありだった? その帰りにお寄りになったのかしら?


 部屋に進むとお父様と並んで座っていたお母様が立ち上がって、私をお父様の隣に誘い、お二人に挟まれて座る形になった。正面にはエドガール様がお一人で座し、相変わらず無表情で、そこから何の御用なのかを読み取ることは出来なかった。後ろにマルセル様が控えている。目が合うと軽く会釈をされたけれど、なんだか笑いを耐えようとしているようにも見える。なんなのかしら……


「あの……」


 誰も何も仰らない。耐えかねて誰かが発言してくださるのを期待して声を上げた。途端にエドガール様の眉間に皺が刻まれ、室内の空気が張り詰めた。


「ジオネ嬢に頼みがある」

「頼み、ですか」

「ああ。俺と婚姻してほしい」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。オレトコンインシテホシイ……? コンインって……


「えっと……」


 出てきた言葉はそれだけだった。言葉はわかるし、その意味も分かるけれど……頭が固まってしまったようでその内容が入ってこない。エドガール様を見上げる。目が合うとまた表情が険しくなった。


「婚姻、ですか?」

「ああ」


 聞き返して、ようやく頭が受け入れたけれど……そんな表情をするのに、どうして私なの? 


「何故、私なのですか?」


 そう問わずにはいられなかった。一生消えない傷が残り、毒の影響で子が出来ない可能性がある私を望む理由がわからない。


「王太子から、ルシアン様が王女との婚姻を嫌がっている、このままだと俺が王女を娶ることになると言われた」

「さ、左様ですか……」


 ……なるほど、ルシアン様がダメならエドガール様に、はあり得るかしら? 我が国では王家に匹敵するほどの力をお持ちだし、しかもこの外見だもの。実際にお会いしたら王女殿下がお心を奪われる……ことはあるかもしれない。


「王女は我儘で性格に難ありだ。そのような者を公爵家に入れるわけにはいかぬ。早く相手を決めて婚姻しろと言われた」


 つまりは王女殿下との婚姻を避けるためだと?


「そ、それで私に?」

「ああ」


 ああって……ああってどういうこと? どうしてそこで私が出てくるのよ? 以前、エドガール様に絶対にお断りだと申し上げたわよね? 


「俺との結婚はお断りだと言ったことは理解している」

「だったら……」

「他に適切な者がいない」


 適切な者って……そういえば昔から女性が寄って来て、それで女性不信になったとマルセル様も言っていたわね。だからって、私? 家格も何もかも違って、傷物になった私を?


「それなら私こそ適切ではありませんわ。消えない傷があり、子が望めるかもわからないのです」


 公爵家にとって後継は必須で、妻に迎えるならそれを最優先に考えなければいけないわ。


「そうなったのも、俺がロクサーヌの護衛を頼まなければ負わなかった傷だ」

「責任をとると、仰るのですか?」


 たかが伯爵家の私に?


「そう受け取ってもらっても構わない。子のことはこちらで何とかする」


 何とかって……それってつまり、形だけの妻がほしいってこと? 後継は別の誰かに産ませるから?


 お父様を見上げると、私の視線に気づいたのか目が合った。困ったような笑みを向けられたし、お母様は微かに頭を振った。これは、お断り出来ないのね。一度お断りしているのにそれでもと仰るのだから。




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― 新着の感想 ―
すごい! 公爵家の教育を受けたはずのエド様なのに、言葉のチョイスが、いちいちひどい(笑) エド様Sideがとっても楽しみになってきました。
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