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暴漢に襲われた公爵令嬢を庇ったら、その兄令息に溺愛されました  作者: 灰銀猫


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あり得ない計画

 主人然とした態度に苛立ちが湧く。なにを言っているのかしらと思う一方で、ここまで私に執着する理由が気になった。昔から依存されていると感じることはあったけれど、こんなに酷かったかしら?


「どういう意味でしょう? ジオネ様は自らフォルゼ様の侍女にと望まれたと伺っておりますが」


 カトリーヌ様が冷ややかに尋ねた。彼女の実家の爵位はエディットのそれよりも上だということは理解しているはずだけど……


「そ、そんなはずないわ! オリアーヌは私の幼馴染で親友なのよ。そんな彼女が私から離れるなんてあり得ない! きっとフォルゼ様が無理やりそうさせているんでしょう?」


 早口で、しかも淑女らしからぬ大声でエディットはまくし立てた。信じられないわ、公爵家のご令嬢になんて無礼を……ロクサーヌ様の護衛が静かに近付いてくるのが見えて、すっと頭が冷静になった。


「ねぇ! オリアーヌ! いつものあなたに戻って! ジルベール様も待っているのよ!」


 続く言葉に先日の来訪が思い出されて嫌悪感が湧き上がった。


「いい加減になさってください。私は自分の意思でロクサーヌ様の侍女にと望んだのです。あなたの勝手な妄想に巻き込まないで」


 さすがに度が過ぎているわ。そう思うのだけど、エディットは信じられないと言いたげに目を見開いていた。


「オーリー? なんでそんな冷たいことを言うの? 私はあなたのことを思って……」

「私の婚約者を奪い、その上で侍女として共に婚家に行けなどと、無礼も大概にしてください。そのような屈辱に甘んじるつもりはございません」


 冗談じゃない。それくらいなら領地の修道院にでも入った方がずっとましだわ。


「酷い……! オーリーが可哀相だから一緒に侯爵家で暮らせるようにと思ったのに……」

「そのようなこと、望んでおりません」


 随分必死だけど、そこまで拘る理由は何なのかしら? 


「だって、オーリーはまだジルベール様が好きなのでしょう?」


 はぁ? 何を言っているの? あれだけのことをしてまだ好かれていると思っていると?


「そんな気持ち、あなた方の裏切りを知った瞬間に消え失せましたわ」


 恋というほど強くはなかったけれど、ずっと一緒だったから家族のような情愛はあった。だけど、それを砕いておいてよくそんなことが言えるわね。


「やっぱり好きだったのね。それは申し訳ないことをしたと思っているわ。ジルベール様も同じ思いよ」

「いえいえ、私の話、聞いていました?」


 なにを言っているのよ? そんな気持ち、今となっては気持ち悪いだけだわ。浮気する男は何度でもすると誰かが言っていた。エディットだっていつ私と同じ立場になるかもわからないのに、不安にならないのかしら。


「だけど安心して。ジルベール様もオーリーを心配して、今すぐは無理だけど、いずれ第二夫人にしてもいいって言っているの」

「はぁあ?」


 淑女らしからぬ自分のものとは思えない声が出てしまったわ。なにを言っているの? 第二夫人って……


「どういう、意味ですか?」


 あの男、エディットだけでなく私も妻として遇しようというの? 信じられない……気持ち悪さが倍増した。


「さすがに侍女のままでは可哀相だろうって。家政を任せて問題なかったら第二夫人にしてくれるって。ジルベール様の愛と子どもを産むのは私だけだけど、第二夫人になればオーリーの面目も立つでしょう?」


 いかにも妙案だと言いたげな自信たっぷりの態度に頭が痛くなってきたけれど、そんなの、面目丸つぶれじゃない! この人たち、頭大丈夫なのかしら? そんなことしたら社交界のいい恥晒しなのに。それにしてもこんな話、よくマルロー夫人がよしとしているわね。あれほど恥だ誇りだとうるさかっただけに信じられないわ……


「ね。そういうことだから、安心して。オーリーの功績にはちゃんと報いるから。私が出産なんかで社交界に出られない時は代わりにパーティーに出てもらっても構わないから」


 なんて寛大な私、と言わんばかりの物言いに、同じ人間なのかと思ってしまった。いえ、世の中には話し合っても理解し合えない相手もいるとは言うけれど、まさかずっと一緒にいた幼馴染がそうだったなんて……私ったら、一体今まで何を見てきたのかしら。見抜けなかった自分が情けない……


「そういうことですので、フォルゼ様、オーリーを返していただきますね」


 満面の笑みでそう宣言する彼女を、周りの人たちは奇異なものを見る目を向けていた。護衛もあまりにも非常識な理論にひいているように見えるけれど、そうなるわよね。いえ、常識的な人ほど混乱するのではないかしら。


「お断りします」


 何度言っても理解出来ないようだけど、黙っていたら自分たちの都合のいいように受け取るのは目に見えている。だったら何度でも反論するしかない。


「オーリー? どうして? ジルベール様と一緒にいられるのよ?」

「それこそ絶対にお断りです。自分を裏切った男など、未練などございません。なんなら二度と顔を見たくない程おぞましいだけですわ」

「オーリー? なんて酷いことを言うの? ジルベール様はあなたの為を思って言っているのに……」


 そう言って今にも泣きそうな表情になった。この子、本気でそう思っているのね。もうなにを言っても無駄のようね。


「とにかく、お引き取り下さい。私があなたの侍女になることも、マルロー家に行くこともありませんので」

「オーリー!」


 もううんざりだし、いい加減疲れたわ。話が通じない人を相手にするのがこんなに大変だとは思わなかった。


「オーリー、考え直して! あ、あなたは騙されているのよ!」

「いい加減になさいませ」


 激昂したエディットを諫めたのは、静かな声だった。エディットの動きが止まった。


「オリアーヌ様はご自身の意思で私に仕えてくださっています。これ以上騒ぎ立てるのであれば、ミルール家に正式に抗議いたします」

「っ!」


 声を上げたのはロクサーヌ様だった。穏やかな口調だけど、そこには侵しがたい品と有無を言わせない圧があった。これが公爵家のご令嬢なのね……なんて威厳……肌が粟立つのを感じた。エディットも何も言えずに顔を青褪めさせていたけれど、公爵家から正式に抗議されたらあっという間に社交界での居場所を失うわ。それはわかっていた、のかしら? その割には随分と暴言を吐いていたけれど。


「ミルール様、我が家からも抗議させていただきます。そのおつもりで」


 そう告げると、エディットが信じられないものを見る目で私を見た。こんな時、背が低いのが忌々しいわ。どうしても見下ろされる形になるから。呆然として動けないエディットを無視して公爵家の馬車に乗り込んだ。


「ロクサーヌ様、申し訳ございませんでした。皆様にも」


 馬車が動き出すのと同じタイミングで謝罪した。カトリーヌ様たちにも面倒をかけてしまったわね。申し訳ない……


「あら、オリアーヌ様のせいではありませんわ」

「ええ。あんなにも常識がない方だったとは……ミルール家とマルロー家とのお付き合いは考えた方がよろしそうね」


 カトリーヌ様とアンリエット様がそう言ってくださった。そのお気持ちがありがたい。


「ミルール家には我が家から抗議文を送っておきますわ。それで静かになるでしょう」


 鷹揚にロクサーヌ様がそう仰った。そのことに申し訳なさと安堵が広がる。


「お手数をおかけして申し訳ございません」

「まぁ、気にしないで。それに次にここへ来るのは卒業式よ。その時はさすがに騒ぎを起こしたりはしないでしょう」


 そう願いたいわ。来賓や父兄が数多参加する場で騒ぎを起こしたらとんでもない醜聞になるもの。ただでさえ婚約者がいなくなって肩身の狭い思いをしているのだから、これ以上の面倒事はお断りだわ。


「ふふ、卒業式で騒ぎを起こしてくださってもいいのではなくて?」

「ええ。それで一気に形勢逆転出来ましてよ」


 カトリーヌ様とアンリエット様、意外に好戦的な方なのね。いえ、あの子のロクサーヌ様への無礼が腹に据えかねた、と言った方が正しいかしら。お二人のご実家も協力してくださりそうだから心強い。


 それにしても……あの二人があんな勘違いをしていたなんて。念のためお父様に知らせた方がいいかしら。もしかしたら社交界でまた変な噂を広げるかもしれないし。公爵家が噂を払拭してくださるとお約束してくださったけれど、だからといって頼りっぱなしではいられないもの。




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なんとしても支配下に置きたい。 という意向を感じる。 便利に使い、家のあれこれをやらせ、女としても側に置きたいと……。 同格の伯爵家の令嬢なのに? 後は、アホな二人で作った子供で、伯爵家の乗っ取…
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