9話
スウェアを後にしエドは、まだ早い時間ではあったが大祭の会場となる大広場へ向かって歩きはじめた。
繁華街通りを王宮のある方角へと進んでいく。
大広場は王宮からも見下ろせるほど近い場所にあり、大祭の開催日には王都中から多くの人が集まる。
開会式はまだ始まっていない、それでも繁華街通りはすでに大勢の人で賑わい始めていた。
通りの両側には露店が並び、焼き物や果物、飲み物、酒、様々な商品が所狭しと並べられている。
店先から漂う香ばしい匂いと、人々の楽しげな声。
開会を待ちきれない者たちで、街はすでに熱気に包まれつつあった。
そんな賑わいの中を歩きながら、エドは先ほどスウェアで聞いた話を思い返していた。
妙に頭から離れない。
「なにも起こらない事を願いましょう」
エドは小さく呟く。
そして、それ以上考える事をやめるように、
並んだ露店を見ながらゆっくり歩いた。
するとーーーー
「おっ!エドさん!おはようございます」
声をかけられ、エドが振り向く。
そこにいたのは、腰に剣を差し、王国騎士団の鎧を身につけた若い男だった。
両手に串焼きを持ち、軽く手を上げている。
「これは、アルマさん。おはようございます」
エド穏やかな笑みで挨拶を返した。
アルマ
二十代前半の若者でありながら、王国騎士団を率いる団長。
王国史上最年少でその地位に就いた人物だ。
少し小柄だが、身体からは独特の柔らかな強者の覇気が漂っている。
その実力は、王国騎士団長という肩書きに相応しい。
明るく人懐っこい性格でありながら、どこか穏やかで品がある。
頭の回転も速く、種族や身分、性別に関係なく、誰に対してと分け隔てなく接する人物だ。
中性的な美しさを持つ整った顔立ち。
ブロンドベージュの髪を2ブロックのマッシュヘアにしている。
腰には長剣ーーー聖剣 『ソード オブ イコニ』
そして彼は、五百年前から続く勇者の血筋を受け継ぐ者でもあった。
そんな人物が今はというと、、、
「モグモグ、、、エドさんも、、、モグモグ、大祭に?、、、、モグモグ、、、、バルカンさんの今回の作品が気になりますね」
串焼きを口いっぱいに頬張りながら話すアルマ。
「ええ、そう毎回楽しみにしてるんですよ」
エドが答える。
「、、、とりあえず、座りますか?」
「モグモグ、、、すみません。モグモグ、、、、」
アルマは串焼きを頬張ったまま、申し訳なさそうに笑った。
アルマが串焼きを食べ終わると、、、
「やっぱりあそこの串焼が一番おいしい!」
満足そうに腹をさするアルマ
「夢中でしたね」
エドは思わず笑った。
エドはアルマを見ながら、ふと疑問が抱いた。
串焼きを食べるためだけにアルマが一人で街を歩くはずはない。
「、、、、、警備と状況の確認ですか?」
エドが尋ねる。
アルマが少し目を丸くした。
「、、、エドさんに隠し事はできませんね」
そう言って、苦笑する。
「すこーーしだけ、気になる事があって、、それで歩いてました」
「なるほど、、、、」
先ほどのスウェアで聞いた話がよぎる。
「でも、大丈夫です。」
アルマはそう言うと少しだけ顔を上げた。
そして無邪気な笑顔を浮かべる。
「僕がいるので」
「、、、、なら安心ですね」
エドは穏やかな表情でアルマを見る。
その時ーーー
「あらっ!アルマ!」
通りの向こうから、女性の声が飛んできた。
振り向くと、小さな娘を連れた商店の女将がアルマに気づき、こちらへ歩いて来る。
「おはよ!」
アルマも明るい笑顔で手を振った。
「これ、食べな!!いっぱい食べないと大きくなれないよ!」
女将は抱えていた果物をいくつか取り出し、アルマの前に置く。
「ありがと!でも、果物は大きくなれないかな!」
アルマは笑いながら答える。
「バイバイ。アルマ、また遊んでね」
女将の娘が手を振る。
「うん! またね!」
二人が去っていく。
するとーーー
「おう!アルマこれ持ってけ」
「アルマさん、この前はありがとうございました。よかったら、、、これ」
「アルマ!次は負けねーからな、、、、これ、父ちゃんと母ちゃんが持って行けって、、、」
次々と、街の人々がアルマへ声をかけていく。
差し入れを渡す者。以前助けてもらった礼を言う者。冗談を言いながら声をかける者。
さらにはーーー
「アルマ、今度は二人きりでね、、、」
そんな声まで飛んでくる。
アルマはその一つ一つに、嫌な顔ひとつせず笑顔で応えていた。
エドは、その様子を穏やかに見つめていた。
しばらくしてーー
「っ!!!重い、、、、くそ、、、」
アルマは両腕いっぱいに、街の人々からもらった物を抱えていた。
「アルマさん、手伝いましょうか?」
「、、、いえ!!大丈夫です!!」
アルマは顔を真っ赤にしながら答える。
「収納石を使われないんですか?」
エドがアルマが抱える荷物に手を添えようとしながら尋ねる。
「僕、人から貰ったものに収納石は使いたくないです、、、」
「なんか、、、こういうのって、やさしさとか、あたたかさとかが詰まってるじゃないですか」
「収納石に入れちゃうと、それが少し減ってしまう気がして」
「、、、、」
エドは何も言わなかった。ただ、アルマを見つめる。人から受け取ったものに込められた気持ちを大切にする。、、、少しだけ胸が温かくなった。
「では!エドさん!、、、、また!」
アルマは荷物を抱えたまま、笑顔で言う。
「アルマさん、気をつけて」
「、、、はい!」
そう返すとアルマは王宮へ向かって歩いていった。
その、背中を見送ったエドは、しばらく街を散策する。
やがてーー大祭の会場となる大広場へと辿り着いた。
会場にはすでに多くの人が集まっている。
そして、ちょうど審査が行われているところだった。
鍛治師たちが自らの作品の後ろに並び、その前を審査員たちが一人ずつ見て回っている。
長剣、大剣、双剣、日本刀、倭剣、など様々な刀剣。それぞれの鍛治師が、自らの技術と誇りを込めた作品たちだ。
エドは一つずつ、ゆっくり見て回る。
審査員達を前に饒舌に作品の魅力を語る鍛治師たち。
刀身の形状。素材。魔力の量。鞘や装飾に至るまで、細部までこだわり抜かれた作品が並んでるいる。どの刀剣も相当な魔力を帯びていた。
「どれも綺麗ですね」
エドは一振りの剣を眺めながら呟く。
「今回も皆さん技術力は高いですね」
確かな技術。希少な素材。込められた魔力。
どの作品も、大祭に出品されるだけの価値がある。
そんな中でもーーー
「ん、、、?」
エドがふと足を止めた。
会場の一角だけ、明らかに人の集まり方が違う。
観客だけではない。審査員まで、その場所に集中している。
バルカンだ。
バルカン後ろに展示されている作品。
それは、長剣ーーーーーいわゆるロングソードの型をしていた。
彫刻もなく。派手な装飾もない。
刀身も鞘も、極めてシンプルだ。
しかしーー
その剣が纏っている魔力は周囲にならぶ刀剣よりも圧倒的に強かった。
「素晴らしい仕事だ、、、」
一人の審査員が、思わず声を漏らす。
「鍛治師の基礎技術力の最終到達地点、、、」
「素材も申し分ない、、、」
別の審査員も、剣から目が離せない。
その前で、バルカンはどっしり構えて座っていた。目を閉じ、周囲の声にも反応を示さず静かに座っている。
エドは剣を見つめる。
「、、、これはもう別次元」
エドの口から、自然と言葉が漏れる。
「圧倒的です、、、」
周囲の喧騒でさえ、遠く感じる程だった。
これから結果発表が行われる。
しかしーーー
この場にいる誰もが、すでに感じ取っていた。
今年の勝負は、ほぼ決まっている。
そのくらい、バルカンの作品は圧倒的な存在感を放っていた。




