10話
『王国鍛治師大祭』
一通りの審査が終わり、審査員たちは集まって最終的な順位について話し合っていた。
その間、会場では観客たちが口々に予想を語り合っている。
「あの鍛治師が一位なんじゃないか?」
「いや、今回はあっちの作品だろ」
そんな声があちらこちらから聞こえてくる
そして、誰よりも落ち着かない様子を見せていたのは、お抱えの鍛治師が出場させている貴族たちだった。
しばらくしてーーー
会場中央の壇上に立った司会者がゆっくりと口を開く。
「皆様、大変お待たせいたしました。順位が決定しましたので第十位から順番に発表させていただきます」
会場がざわめく。
「なお、十位以下の方々につきましては、発表後に掲示板に結果を貼り出させていただきます」
司会者の言葉をうけ、係員が大きな紙を抱えて掲示板の前へと走っていく。
そして、司会者が一度深く吸った。
「、、、、それでは、、、、、発表させていただきます」
会場は静まり返る。
観客も、貴族も出場した鍛治師たちも、固唾を呑んで壇上を見つめた。
「第十位!!!」
「王国鍛治師連合所属!!」
「鍛治師 ダグラス!!」
うおおおおおおおお!!!
一斉に歓声が上がった。
拍手と歓声が入り混じり、会場全体が揺れる。
名前を呼ばれた鍛治師は壇上へと上がり、審査員長から賞状を授与されていく。
順位が上がるにつれ、与えられるものは豪華になっていく。賞状、賞金に加え、稀が名誉ある勲章を与えられたりする。
そして。ーーーー
気がつけば残るは第三位以上となっていた。
「師匠、、、どうなりますかね、、、」
弟子の一人が座っているバルカンに尋ねる。
「あ?」
バルカンは面倒そうに弟子をみる。
「知らねーよ、、、俺は最高の剣を出した、、、それだけだ」
そう言うと、腕を組み、再び目を閉じた。
「『漢』ってのは何位になろうが、冷静に応じる、、、それが『粋』ってもんだ、、、、黙って聞いてろ」
弟子はハッとした表情を浮かべる。
「そうですよね。失礼しました」
そう言うと、両手で自分の頬をパンッと叩いた。
そして、姿勢を正し、真っ直ぐ壇上を見つめる。
「、、、やればできるじゃねーか」
バルカンは小さく呟く。
その背中を見つめる弟子たちは
(かっこいい、、、)
(やっぱ、この人についていこう)
弟子たちは改めて、バルカンについていくことを心に誓った。
「第三位!!!」
「カネモチーゼ家所属!!」
「鍛治師 イワゴン!!」
おおおおおおお!!!
拍手と歓声が会場を包む。
「くそっ!!!」
ひときわ大きな声を上げたのは、カネモチーゼの当主だった。
「どれだけ金を使ったと思っているんだ!!あいつはクビだ!!クビッ!!」
怒りのまま鍛治師を指差し、叫び続ける。
その様子を、離れた場所から愉快そうに眺めている男がいた。
キンカーイ家当主である。
「カネモチーゼ家はまだまだ、浅いですね。ふふふ」
実はこの男こそがバルカンを蹴落とすため、バルカン工房と繋がりのある採掘屋や採掘師を徹底的に買収した張本人だった。
バルカンが満足に素材を手に入れられるないように仕向け、今回の大祭での勝利を確信していた。
「さぁー、、、バルカンの作品は安っぽいデザインのゴミのような剣でした」
金色に輝く扇子を広げ、優雅に仰ぐ。
その仕草は、いかにも悪趣味だった。
「我がキンカーイ家の一位がほぼ決定したも同然です」
口元を歪め、薄く笑う。
「気になるのは、二位の貴族ですかね」
そして、ーーーー
「それでは第二位を発表させてもらいます!!」
司会者の声が響き渡る。
「発表します!!」
先ほどまでのざわめきが消え、会場に張り詰めた空気が広がっていく。
「第二位、、、、キンカーイ家所属」
「鍛治師 ゴードン!!!」
うおおおおおおお!!
大きな拍手と、歓声が響き渡る。
だが、
「なぜだ!!!」
キンカーイ家当主が立ち上がった。
「なぜ二位なのだ!!あれだけやったんだぞ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「我が一族より上がいるわけないだろー!!」
「キェーーーーー!!!」
叫び声を上げたあと、キンカーイ当主はその場で膝から崩れ落ちた。
続けて、司会者が最後の名前を告げる。
「そして第一位は!!!」
会場中の視線が壇上へ集まる。
「バルカン工房、、、、棟梁!!!」
「『鍛治皇』 バルカン!!!!!」
観客と貴族、会場にいる人々全体が静寂に包まれた。
どっしりと椅子に座り目を閉じていたバルカン。ゆっくりと目を開く。
一度だけ、深く息を吸った。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
静寂の中、バルカンが大きく口を開いた。
「だははははは!!!」
「見たか!!くそ貴族どもが!!」
「お抱えの鍛治師の腕は一流だがおまえらが三流以下なんだよ!!!」
「だはははは!!!鍛治師舐めてんじゃねーよ!!!バカが!!!」
ッ!!!!!
「「「師匠!!!」」」
弟子たちが一斉にとびかかる。
今にも壇上へ駆け出しそうなバルカンを、必死になって押さえて込む。
(なんなんだよ!この人!!!)
(さっきの言葉はなんだったんだよ!!)
(感動返せ!!くそ師匠!!)
その光景を見ていたエドは、顔に手を当て頭をかかえた。
「あはははっ、バルカンさん、最高。」
各国の要人たちの後ろで警護をしていたアルマが、思わず吹き出してしまった。
アルマの笑い声をきっかけに、会場のあちらこちらから笑いと拍手が起こる。
やがて、観客だけでなく審査員全員も立ち上がり、今日一番の拍手や歓声が、大広場いっぱいに響き渡った。
ーーーーーー
一通り表彰と授与が終わり、バルカンが壇上から降りてくる。
すると、待ち構えいた弟子たち、観客、工房の客
たちが一斉にバルカンを取り囲んだ。
「おめでとうございます!」
「さすが鍛治皇だ!」
「最高の作品でした!」
次々と賞賛の言葉が飛び交う。
人はどんどん増えていき、ついにはバルカンの姿が見えなくなるほどになった。
しかしーーーー
一瞬、、、、ほんの一瞬だけ
バルカンへ伸びる手のひとつから殺気のこもった魔力が放たれた。
それに、気づいたのはエドとアルマだけだった。
エドは殺気を感じた瞬間、トンッと地面を蹴る。一瞬で人々の頭上を超え、大広場全体を見渡せる場所まで移動し、鋭く周囲を見回す。
「、、、確実な殺気、、何者ですかね、、、」
エドは目を細める。辺りを見回すがそれらしい人物は見つからなかった。
アルマも同じように、周囲を見渡していたが彼もまた、手がかりは掴めなかった。
「、、、、嫌な感じですね、、、」
アルマが小さく呟く。
ーーーーその夜、バー『レスト』
「まー、こんなもんだろう」
バルカンがグラスを眺めながら言う。
それを後ろの弟子たちの視線がバルカンに向く。
(あの醜態を見た後だと、カッコ悪すぎるだろ、、、)
と弟子たち全員が同じことを思っていた。
ゴホンッ、、、、
エドが小さく咳払いする。
「いろいろ、ありましたが、、、本当によかったですね」
「ああ、、、、正直だめかと思ってた、、、」
「これをきっかけに少しずつ評価の基準が変わればいいな、、、」
少し落ち着いたようにバルカンが言う。
「ええ、そうですね」
エドが頷く。
しばらく静かな時間が流れた。
「、、、ちょっと疲れたから今日は早く寝る」
そう言ってグラスの酒を飲み干し、カウンターに代金を置く。
「また来る!」
そういい、フラフラと扉へ歩いて行く。
「ええ、いつでも。ゆっくり休んで下さい」
その背中を見るエド。
後ろの弟子たちもバルカンが立ち上がると一気に酒を飲み干した。
「師匠はここに来るといつも嬉しそうです」
「ありがとうございました」
「頭が痛いらしいのに、エドさんに会うって聞かなかったんですよ、、ほんと師匠だけは、、」
弟子達がエドに向かって頭をさげた。
「「「ご馳走様です!また来ます!」」」
「ええ、いつでも」
エドは軽くお辞儀をして、バルカンと弟子達が店を後にするのを眺めていた。
店に穏やか時間が流れる。
「エド、、、核心はないけど、、、、彼、何かいつもと違った?」
雷華がエドに尋ねる。
「、、、雷華さんも感じましたか、、、私も同じです、、」
エドは何かは分からないが、決してよくない疑惑を感じていた。
ーーーーそして、その疑惑が動き出す。
閉店作業をしていると
カランカランーーー
バルカンの弟子が一人慌ただしく入ってきた。
「エドさん!ゼルグさんどこか知りませんか?」
今夜もまた、レストには濃い夜が訪れるのだった。




