7話
今から二十数年前。
当時のグランツ王国は、現在よりはるかに小さく大陸で最小の国だった。
大陸は東西南北に四つの大国が存在し、その中心に位置するグランツ王国は、四つの国とすべてと接していた。
グランツ王国は平和を大切にしていた、自ら争いを仕掛ける事は決してしなく、他国の争いも極力介入しない。いわば、中立を貫く国だった。
各国とも良好な関係を築いている。
グランツの人々は、そう思っていた。
しかし、それは幻想だった。
時は大戦争時代。
各国は大陸統一を目指す各国は、互いの領土を奪い合い、絶えず争いを繰り返していた。
戦地となれば土地は荒れ、街は破壊される。
戦争が終わったとしても、復興には莫大な時間と資金が必要となる。
四つの国すべてと隣接しているグランツ王国は、お国柄やその地理的な位置から、勝手に戦場とされる事が多かった。
まったくもって迷惑な話だ。
そうなれば争う両国の兵士だけでなく、グランツの街や村人までも戦火に巻き込まれ犠牲になっていた。
本来なら、決して許されることではない。
だが、大陸で最も小さい国。
そして平和主義を掲げ、自ら他国へ攻め込むことは決してない。
故に各国からある意味、軽くみられていた。
しかしーー
グランツ王国に直接、攻め込もうとする国はいなかった。
理由は単純だ。
グランツには優秀な兵士や鍛治師が数多く存在しているためだ。
グランツ王国の兵士や冒険者の一人一人が文字通り一騎当千と呼ばれるほど実力を持っていた。
さらに、鍛治師の技術力も大陸随一。
彼らが生み出す高品質の武器は、他国からも依頼があり輸出されていた。
各国が直接、手を出せない理由だった。
他国同士の戦争がグランツ王国で起きるたび、
争った両国からは型ばかりの謝罪が届いた。
最初のうちはそれを受け入れていた。
しかし、それは次第に「当たり前」になっていった。
また戦争が起きる。
また、グランツの民や街が巻き込まれる。
そして、謝罪が届く。
ーーーさすがにグランツ王国も黙っていられなくなった。
自国からは攻め込みはしない。
それでも、戦争がグランツ王国領土内で始まれば、両軍の間に割って入り双方を等しく退ける。いわゆる、喧嘩両成敗、そんな対応をとるようになっていた。
そして、その日もグランツ王国の領土で、戦火が上がっていた。
西の国と東の国、その二つの国が、グランツの領土を挟んで睨み合っていた。
その夜ーーー
西の国のキャンプ地と東の国のキャンプ地。
ちょうどその中間にグランツ王国のキャンプ地が設営されていた。
「くそ、、、、あいつらまた始めやがって」
「なんでグランツでやるだよ。頭イカれてんのか」
焚き火を囲みながら、グランツ兵士達は愚痴をこぼしていた。
「そういえば今日、東の国の『剣聖』が撤退したらしいな」
「あの『剣聖』が?なんでだ?まさか、あの強さで討たれわけじゃないよな?」
「表向きは、病を発症した事になってるらしい」
「表向き?」
「ああ、どうやら、、、、本当は討たれたようだ」
「西の国の『剣聖』が討ったのか?」
「いや、違うらしい、、、どうやら、、、」
兵士の一人が、声を潜める。
そして、一人の青年に視線を送る。
グランツの兵士たちは王国騎士団、冒険者、傭兵の三つ集団に分かれ、それぞれ固まって野営していた。
しかし、どの集団からも少し離れた場所。
そこに一人だけ、離れて野営している青年がいた。
十代後半。
名はーーーー『エドワード』
その強さは、グランツ兵士の中でも噂になるほどだった。
戦場に突如現れ、両軍の主要人物たちを次々に斬り伏せる。そして、目的を果たせば、まるで最初からそこにいなかったように姿を消す。
使う武器は一つではなく、
日本刀、倭剣、大太刀、長剣、双剣、大剣などの刀剣達を次々に持ち変えて、神出鬼没に戦場を駆け回る。
その姿はまるで這い回る小さなネズミをようだった。
いつしか、その強さとネズミを比喩し、各国の裏では彼をこう呼んでいた。
『ラット・オブ・ソードマスター』
そんな、彼によって斬られた者たちを各国は徹底的に隠した。
まだ子供のような名もなき傭兵に斬られ敗れた。
そんな事実を公にしては国の威信にかかわるからだ。
ーーーー
その夜、グランツキャンプ地を、一人の若い女性が歩いていた。
護衛兵を従え、王国騎士団、冒険者、傭兵のもとを順番に回っていく。
年齢は十代後半ほど。
その身に纏う雰囲気からも、ただの兵士でない事がわかる。
彼女の名はーーー
『マーリア・グランツ』
当時はまだ第一王女だった。
後にグランツ王国で女王となる人物である。
マーリアは各グループを回り、兵士たちと一通り言葉をかわした。
そして最後に少し離れて野営している、一人の青年のもとへ行く。
マーリアが目の前に立つ。
それに気づきゆっくり視線をあげるエド。
「あなたがエドワードね」
「ええ、そうです」
「東の国の『剣聖』を討ったそうですね?」
「、、、みたいですね」
どこか他人事のように答えるエド。
その返答に、マーリアは少しだけ目を丸くした。
そして、護衛兵へ視線を送る。
それを察した護衛達は二人から距離をとった。
マーリアはエドの隣に座った。
「いやいや、本当に斬ったの?すごすぎない?」
突然、口調が変わった。
「てゆーか、いくつ?私と同じぐらいよね?」
「、、、、」
「何で騎士団や冒険者にならないの?」
「、、、、」
「そもそも何でそんなに強いの?」
次々と質問が飛んでくる。
エドはしばらく呆気に取られていたが、
「、、、、ぷっ」
思わず吹き出した。
「な、なによ、、、」
マーリアが頬を膨らませる。
「いえ、すみません。、、、、耐えきれませんでした。」
「もう、、、、」
急に恥ずかなり、俯くマーリア。
「ご、、、ごめん。私もいきなりすぎた、、、」
少し反省した様子で呟く。
ふと視線を感じるマーリア。
そろそろ時間だと言わんばかりに護衛兵がマーリアに顔を向けていた。
「もう、、、行かなきゃ」
立ち上がりかけた、マーリアがエドを見る。
「一つだけお願い聞いてくれる?」
エドが顔を上げる。
「エドって呼んでもいい?」
「、、、、俺はいいですけど」
エドが少し首を傾げる。
「、、、、逆に大丈夫ですか?」
王女と平民傭兵
本来なら、話す事すら簡単に許される距離ではない。
マーリアは満面の笑みを浮かべて
「うん!」
そして、もう一つ。
「あと、、、友達になって」
エドは少し驚き目を見開く。
「それは、、、、俺はいいけど、、本当に大丈夫ですか?」
「やったー!すごく嬉しい!」
マーリアは嬉しそうに笑う。
「じゃあ行くね」
立ち上がったマーリアはエドに手を振り、
「またね!エド!」
「、、、、また」
遠ざかって行くマーリアの背中を、エドはしばらく見ていた。
これが二人のはじめての出会い。
そして、またすぐ再会するのだった。
ーーーーーーーーー
ジリリリリーーーーーー!!!!!
目覚まし時計の音が部屋に響き渡る。
「、、、、っ」
目覚ましを止め、ゆっくり目を開けるエド。
上半身を起こしながら、先程まで見ていた夢をぼんやりとした意識の中で思い返す。
「、、、、懐かしい夢ですね」
そう呟き、窓の外へ目を向ける。
あれから二十数年、あの頃とは何もかもが変わっていた。
バルカン工房に鉱石、金属を届けてからもう数週間が経っている。
いよいよ、その日がやってきた。
『王国鍛治師大祭』 当日だ。
「さて、バルカンさんの作品を見に行きましょうかね」
そう言うと身支度の準備をするエドだった。




