6話
『サイレント・ボーン』鉱山 洞窟入口前
洞窟の入口を覆うように、不気味な魔素が漂っている。
まるで霧のように辺りを包み込み、視界を曇らせていた。
「さて、行きましょう」
エドが洞窟の奥へ視線を向ける。
「何か、、、不気味よね。不快でしょうがないわ」
スライがつぶやく。
エドは返事の代わりに静かに魔力をひろげる。
索敵魔法。
周囲に存在する魔物や生物の反応を探るだけでなく、鉱山内部に眠る鉱石や金属の反応も探っていた。
「、、、思ったよりいますね」
エドが呟く。
「そうね。でもエドと私なら問題ないレベルね」
スライが自信満々に答える。
「そうですね。ですが、危険なのは魔物だけではありません。落石や崩落があるかもしれません。安全第一で行きましょう」
「はいはい。」
スライが少し面倒くさそうに答える。
慎重に洞窟の奥へと進んでいった。
やがて、エドは足を止める。
「いくつか、気になる鉱石か金属の反応がありますね」
「エド、どうせ全部行く気なんでしょ?」
「はは、さすがスライさん」
「やっぱりね」
スライが呆れたように、ため息をつく。
「それに反応の周りに、魔物の反応もあります」
「そこでスライさんにお願いがあります」
エドが穏やかに笑みを浮かべる。
「なによ?」
「鉱山の中なので、、、少し手加減してくださいね」
エドが少しだけ、からかうように言う。
「は?」
「エド、私がそんな事も分かってないと思ったの?」
「いいえ、そんな事はないですよ」
「馬鹿にしすぎ。私は高貴な魔剣よ」
「それぐらいの状況判断はできるわよ」
「はは、失礼しました。頼もしいかぎりです」
「なによ、、、腹立つわね」
スライは呟く。
そんなやり取りをしながら、さらに奥へ進んでいく。
そしてーーー
「そろそろですね」
エドが正面を見据える。
洞窟の細い道を抜けた時、視界が急に開けた。
広大な空間だ。
天井は高く、壁面には無数の亀裂が入っている。
漂う魔素は先ほどまでとは比べ物にならない。
視界は白く霞み、広間の奥までは、はっきりと見通すことはできない。
それでも、壁の一角からは、わずかに光が漏れていた。
「、、、あそこですね」
エドが目を細める。
鉱石の反応がかなり強い。
だが、魔物が集まっているのも感知していた。
『クリスタルホーンライノ』
Aランク魔物
サイを思わせる巨大な体躯を持ち、その額からは透き通った、一本の角が生えている。
角は長い年月をかけて、
鉱石や金属にツノを擦る習性がある。
そうして、長年鍛えていくとクリスタルのように透けていく。並の刀剣では傷ひとつ付かない硬度にもなる。
「5体ですね」
「さあ、スライさん、行きますよ」
そう言うと鞘からスライを抜く。
「任せなさい」
スライが答える。
刀身から放たれる魔力が炎のように揺らめいでいる。
次の瞬間地面を蹴る。
一瞬。
クリスタルホーンライノとの距離をゼロにする。
「ーーー!」
一体のクリスタルホーンライノが巨大な頭を振り上げ、透き通る角をエドに叩きつける。
その巨大から繰り出される一撃は、まともに受ければ人間など簡単に粉砕されるほどの威力。
だが、エドは避けなかった。片手でスライを握り、迫り来る角へ向かって振り抜く。
スーーーッ。
そこには衝突の抵抗など存在しなかった。
ダイヤモンド以上の硬度を持つ角が音もなく切断される。
切断面は異様なほど滑らかで、ロウソクを熱した刃物で切ったかのようだった。
その一撃後、両手でスライを握り直す。
同じ軌道で、もう一度振り抜く。
クリスタルホーンライノの巨体が、頭部から綺麗に両断された。
「スライさん。ベストな力加減です」
「ふんっ!当たり前じゃない」
スライはそう言いながら、どこか嬉しそうだった。
「では、残りも一気に行きましょう」
「そうね。雑魚だし、退屈だからさっさと斬るわよ」
エドとスライは少し笑う。
一体ーーー、さらにもう一体ーーーー、
と次々と両断していった。
あっという間に、広間に静寂が戻る。
「終わりましたね」
エドはスライを軽く振り、刀身についたものを払うと、ゆっくりと鞘に戻した。
「本当、退屈な魔物。もっと張り合ってほしいわ」
スライはつまらなそうに、ため息をついた。
広間の奥へ歩くエド。
壁に埋まるようにして存在している鉱石。
赤金色の光を放ち、周囲の魔素はすら歪めている。
ゆっくりと手を伸ばすエド。
「これは、『トワイライトブレス』ですね」
「え?あの?トワイライトブレス」
「大きすぎない?、、、」
鉱石は、エドの身長とほとんど変わらないほど巨大だった。
「このサイズだとさすがにすごい魔力濃度ね」
「そうですね」
エドは鉱石をじっくり観察した後、腰のスライを手を伸ばした。
「では」
スライを抜き、鉱石の根本めがけて
ズンッーーー 一突き。
巨大なトワイライトブレスが根元から切り離された。
「エド、これどうやってもって帰るのよ」
スライが呆れたように尋ねる。
「これを持って来たんです」
そう言って懐から指輪を取り出す。
「収納石の指輪、、、懐かしいわね」
「ええ、久しぶりです」
エドは指輪をトワイライトブレスへ近づける。
コンーーーー。
小さな音が響き、巨大な鉱石が指輪へ吸い込まれるように消えた。
「便利よね」
スライが感心して言う。
「よし。では、次に行きましょう」
そう言うと広間を後にして、奥へ進む。
それから、約一時間ほど鉱山内部を探索した。
希少金属ーー『ミスリライト』
その他にも、価値のある鉱石や金属を発見しては、指輪に収めていった。
「一通り、集まりましたね」
エドが息を吐きながら言う。
「一通り?トワイライトブレスとミスリライトの時点で充分でしょ。たぶん、数年分はあるわよ」
スライが呆れて言う。
「そうですか?」
エドが少しとぼけて笑う。
「それでは、街に戻りましょう」
「はいはい。」
それから、小一時間後ーーー
空がわずかに白み始める頃。
エドは王都クィーングランツに戻ってきていた。
向かう先は、『バルカン工房』
人目につかない工房裏へ到着すると、エドは懐から指輪を取り出し指にはめる。
そして、両手を前へかざした。
辺りが鈍い、光に包まれる。
ドーン!!ーーーー
トワイライトブレスをはじめ、ミスリライトやその他の鉱石や金属が地面に現れ、あっという間に工房裏に鉱石、金属の山が出来上がった。
「さ、レストに戻りましょう」
「ほんと、やりすぎよ!!」
「手加減したほうがいいのはエドなんじゃない?」
「はは、そうかもしれません」
エドは笑いながら、フッと姿を消した。
数時間後 ーーー
夜は明け、王都に朝が訪れる。
バルカン工房
「師匠ーーーーっ!!」
工房内に弟子の大声が響き渡る。
「なんだよ!朝っぱらから! うるせぇぞ!!」
眠そうに出てきたバルカンだがーーー
工房裏に広がる光景を目にした瞬間、言葉を失った。
「な、、、な、なんだこれ?」
「師匠!これ!!一緒にありました!」
弟子の一人が、一枚の紙を差し出した。
バルカンが受け取る。
紙に書かれていたのは、たった一言。
『バルカンへ』
「、、、、」
バルカンは、その文字をしばらく見つめる。
「師匠、、、」
「これって、まさか、、、、」
「『ラット』じゃないですか?」
「それだ!」
バルカンが即答する。
「やっぱり!それしかない!」
弟子達がざわめく。
バルカンは知っている、、、、、
『ラット』の正体を。
そして、エドも、、、、
バルカンが『ラット』の正体に気づいていることを知っていた。
しかしーーー
二人はそのことについて、一度も口にした事はない。
そしてこれからも、きっと口にする事はないだろう。
バルカンは、積み上げられた鉱石を見つめる。
そして、レストの方角へ、顔を向けた。
「あのやろー、、、、ありがとよ」
小さく呟く。
「よーーーし!!テメェーら!!」
弟子達が一斉に振り向く。
「準備しろ!!」
「「「へい!!」」」
王国の祭典、『鍛治師王国大祭』
そこに出品するためにバルカンの仕事が始まった。
次話はエドの過去を少しだけ




