5話
バー「レスト」
「実は、、、、今、素材がまったくないんです」
弟子が俯きながら、申し訳なさそうに告げた。
「まったく、ですか?、、、どうして、、、」
エドは少し戸惑い表情を浮かべる。
「うちがいつもお世話なっている採掘屋のところにあった、希少な鉱石や金属は貴族に買われていました。、、、、どうやら、相場以上の金額を提示されていたようです」
弟子一度言葉を切る。
「採掘屋にも生活があります。そこは仕方がないと思っています、、、」
そして、さらに続けた。
「貴族たちは、買い集めた鉱石や金属は自分のお抱えの鍛治師に渡して、武器や道具を作らせています」
「なるほど、、、」
「貴族達の間では、質が良く、高価で希少な武器や道具などを所有するのが、一種のステータスになっているんです」
弟子の表情が曇る。
「それだけじゃありません。自分のお抱えの鍛治師を『鍛治皇』にしようとしている貴族もいるんです」
「なるほどですね、、、だから」
エドは弟子の話を聞きながら、ゆっくりと頷いた。
事情は理解できた。
「話を聞いていただいて、ありがとうございました。僕も工房に戻って、また策を考えみます」
深く一礼すると、店を後にした。
「素材がない、、、か」
エド小さく息を吐いた。
それから数時間後
閉店時間が近づき、客も少なくなっていた。
「ふふ、エド行くのでしょう?」
雷華がどこか楽しそうにエドへ尋ねる。
「ええ、昔馴染みが困っていますから」
エドは柔らかな笑みで答える。
飾られた、刀剣に視線を向けるエド。
「スライさん、手伝ってもらえますか?」
そっと柄に、触れる。
「しょうがないわね。手伝ってあげる」
そう言いながらも少し嬉しそうにスライが答える。
しばらくして
夜も更けた時間、月が美しく輝くいい夜。
そんな中
『ラット』が城壁の外側へ、ふわりと着地した。
「少し遠いので、ここからは飛ばしましょう」
そういうとエドは腰に差したスライを背中に回し背負った。
「ちょっと!エド!」
「大丈夫ですよ」
エドは短く答えると、静かに目を閉じた。
次の瞬間
エドの全身かは淡い光が溢れる。
身体強化魔法
魔力を使い、筋力、視力、聴力、回復力など、対象の基本能力を一時的に高める魔法だ。
その効果や精度は術者の技量よって左右される。
エドの身体を巡る魔力は、乱れる事なく滑らかに流れていた。
「エドの魔法っていつ見ても綺麗な流れよね」
スライが感心するように言う。
「大した事ないですよ。さっ、行きましょう」
エドは夜に溶けるように走りだした。
向かう先はグランツ王国の東側に位置する。
『サイレント・ボーン』 鉱山。
通称ーーー『魂喰い』
希少な鉱石や金属が数多く眠っているだけでなく、未だ発見されていない鉱石や金属すらあると言われている。
鉱山の希少な鉱石や金属から溢れだす魔力
ーー魔素が濃く漂っている。
その濃度は凄まじく、並の採掘師ならば少し滞在するだけで意識を失ってしまう。
それが『魂喰い』と呼ばれる所以だ。
そして、その濃密な魔素に引き寄せられるように多くの魔物達が巣食っている。
熟練の採掘師達でさえ、危険を恐れて近づかない場所。
小一時間ほど走り続けた頃
エドは鉱山の麓へと辿り着いた。
「ようやく到着ですね」
エドは立ち止まり、背中からスライを下す。
そして、腰に差し直しながら目の前にそびえ立つ鉱山を見上げた。
「ちょっと遅くない?もっと早く着くと思ってたのに。エド、体なまってんじゃない?」
スライが揶揄うように言う。
「はは、スライさんは手厳しい。私もまだまだですね」
エドが笑いながら穏やかに返した。
「でも、、、本当は私に気を使って、最低限の揺れで済む速度にしてたでしょ」
「背中にも乗せてくれてたし」
スライが少し照れたように続けた。
「お見通しでしたか」
エドが柔らかな笑みで返す。
「エド、、、、ありがと、、、」
小さな声でスライが呟く。
「いいえ」
エドも少し小さな声で答えた。
エドは切り替えるように
「坑道の入口は中腹辺りをです。いきましょう」
そう言うと、再び身体を動かした。
目の前に広がるのは切り立った断崖、薄い青灰色の岩肌がむき出しになり、周辺には霧の様に漂う魔素。
ゴツゴツと突き出した岩を足場にしながら軽やかに岩壁を迷いなく登っていく。
そんな中、スライがふと疑問を口にする。
「エド、ここに来たことあるの?」
「ありますよ。、、、どうかされましたか?」
「迷わず進むから、聞いただけ」
「もう随分と昔です。スライさんと出会う少し前くらいですかね」
「そっかー、、、」
スライは少し考えるように呟いた。
「今のエドとはあの時とは全然違うよねー」
「あの時はまだ若かったし、傭兵でしたからね」
エドは岩をひとつ飛び越える。
「今より少し尖っていたのかもしれませんね」
「少しじゃないわよ!!別人よ別人!!」
スライが即座に返す。
「はは、そうですか?」
エドはどこかごまかすように笑った。
そして、前方へ視線を向ける。
「そろそろ、入口ですね」
そう言うと大きく跳躍し、数メートル先の岩場へ軽々と飛び移り、そのまま音もなく着地する。
そこには
切り立った岩肌に囲まれているにもかかわらず、入口の前だけ不自然なほど平らになっている。
そして、その奥からは濃い魔素が霧のよう流れ出していた。
暗闇の奥は何も見えない。
まるでこちらを誘っているかのようだ。
吸い込まれるような、引きずり込まれるような、不気味な雰囲気だ。
その佇まいはまるで巨大な魔物が口をあけているかのようだった。




