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バーとマスターと刀剣とネズミの日常と非日常  作者: お魚さん


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4話



バー「レスト」


「いつものを頼む」

バルカンの声はどこか元気がなかった。

「かしこまりました。、、、、どうかされましたか?」

酒の準備をしながら、エドが尋ねる。


「バルカン」


四十代

エドとはレストのマスターになる以前からの付き合いだ。

ドワーフ族と人間族のハーフで、小麦の肌に長めのブレイズヘアー。

細身の体つきではあるが、両腕だけは不釣り合いなほど太く、鍛え上げられている。

白いタンクトップに腹巻き、ワークパンツ。そして下駄。

その体には、鍛治師として生きてきた年月を物語るように、無数の火傷や切り傷のあとが刻まれている。

そして彼には一つ大きな肩書きがある。


『鍛治皇』


王国最高峰の鍛治師として称号を与えられている。


「今月末さぁー、、、、、」

ため息混じりに話し始めるバルカン。

「はい」

エドは穏やかに返す。

「鍛治師王国大祭があるじゃん?」


グランツ王国は年に一度、王国中の鍛治師を募り鍛治の技術を競わせる大会が催されている。

当然、『鍛治皇』であるバルカンも毎年参加している。

しかし、どれだけ優れた技術をもっていても、最優秀作品を逃すこともある。


「ええ、もうその時期ですね」

グラスを柔らかく差し出しながら答えるエド。

バルカンはそれを受け取り、一気に飲み干した。

「、、、、やる気がでねぇーんだよ、、、」

「ここ数年、みんなが出してくる『魂』がよー、、、」


バルカンにとって、鍛治師が打った作品は単なる武器や道具ではない。

それは、職人としての技術や信念、こだわりを込めた『魂』なのだ。


「希少で高価な素材を使って、派手な模様の刻印彫ってあるものが、良い作品だってされてるじゃん?」


カウンターに突っ伏しながらバルカンは話す。


「毎年見に行かせてもらっていますが、たしかにここ数年はその傾向がありますね」

空いたグラスを下げ、先程より薄めに酒を作り始めた。

「だろー、、、」

「なんか、、、こう、、、『魂』ってそうじゃないじゃん?」

「シンプルでもいいんだよ。なんつーか、、、鍛治師としての『粋』っつーか、こだわりっつーか」


「、、、、」


「打ち手のそうゆう所が見える『魂』が評価されるべきだと、俺は思うわけなんだよー、、、」


突っ伏したまま、バルカンは言う。



「なるほど。希少な素材でも精密な装飾でもなく、鍛治師本来の技術や作品に込めた思いそのものを評価してほしい、、、ということですね」

エドは2杯目の酒をゆっくり差し出しながら柔らかく言う。


「そーなんだよ!!」

勢いよく顔をあげる。

「俺はもっと素材の表情を見て欲しいわけよ!」

そのまま二杯目を口に運びながら、続ける。

「どんな素材でも打つ時の、天候や気温、湿度、熱する温度や叩く力加減や、そういうので表情が全然変わってくるわけよ」


「ええ」


「それなのに、みんな希少な素材や装飾にばっかり力をいれて、そういう事部分は二の次にしちまってるわけよ」


バルカンは再び酒を一気に飲み干した。


その様子を見ながら、エドの頭の中に声が届く。


「あらあら、随分荒れていますね」

雷華だった。

「でも、私はバルカン様に調整してもらう時間が、すごく癒しです」

「たしかにね」

スライが続く。

「鍛治仕事以外は、ほんとだらしないわね。」

雷華とスライの言葉に、エドはわずかに口元を緩めた。


「、、、、、お気持ちは分かります」

エドは静かにバルカンの話を聞く。


「だからさぁー、エド、、、、」

「はい」

「今回はCランクの鋼を使って、シンプルなロングソードを打つ」

「、、、、」

「俺の全力の技術と思いを込めて打って、大祭に出す」

バルカンは拳を強く握った。


「そして、それで勝ってみせる!!」


「「「いや、無理だろ」」」


エド、そして雷華とスライの声が見事に重なる。


「えっ?あれ?」


バルカンが目を丸くする。まるで豆鉄砲をくらった様な顔をだった。


「んっんっ、失礼」

エドは小さく咳払いをして、姿勢を正す。


「バルカンさん。昔馴染みとして、少し厳しいことを言わせてください」


「お、、、おう」

バルカンも表情を戻し、静かに耳を傾ける。


「バルカンさん、あなたは『鍛治皇』です」


エドは続ける。


「鍛治師としての技術も込める思いも、間違いなく王国最高峰でしょう」


「、、、、」


「ですが、、、大祭の評価基準やここ数年の傾向をいきなり変えることは難しいかと」


「う、、うん」


「ですので、今回は間をとるのはいかがですか?」


「間?」

バルカンが首を傾げる。


「ええ」

「希少でいい素材を使ってシンプルな剣を打ってみるのはいかがですか?」


「、、、おっ」

バルカンの目が少し輝く。


「なるほどな、、、たしかにな、、、」

腕を組み、何かを考え始める。


「しかし、、、」

そして、何かを言いかけた。



カラン、カラーーン


その瞬間。

店の扉が勢いよく開いた。


「「「やっぱり!!ここにいた!!」」」

店内に響き渡る大声。


エドが視線を向けるとそこには職人らしき四人の男たちが立っていた。

バルカンの弟子達だ。


「こら!おまえら!何しやがる!」


「師匠!何サボってんすか!」


「大祭までもう時間は多くないんですよ!」


「早く帰って、大祭に何を出すか決めますよ!!」

弟子の三人がバルカンに駆け寄る。


「おい!やめろ!自分で歩けるって!」

三人でバルカンを担ぎ上げた。


「離せ!俺はまだエドと話がーーー」

「いいから帰りますよ!師匠!」

「お、おい!エド!助けろ!」


「、、、、、お気をつけて」

エドは苦笑いで見送る。


そのまま、弟子三人とバルカンは店を後にした。


静かになった店内。

すると、一人だけ店に残っていた弟子が、エドの前に歩いてきた。

そして、申し訳なさそうに頭を下げる。

「エドさん。師匠が迷惑かけて、すみませんでした。」

そう言って、バルカンの酒代をカウンターに置く。

「いえいえ、迷惑ではないですよ」

エドが穏やかに笑った。

「エドさん、、、、」

「はい?」

「師匠、、、うちの工房の現状について何か話してましたか?」

その声には、先ほどまで明るさがなかった。

「、、、現状?」

エドが少しだけ首を傾げる。

「、、、何かあるんですか?」


今宵もまた、レストの夜は長い、、、


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