3話
ラットがキングワイバーンの群れを討伐した、翌日
バー「レスト」
繁華街が昼間の賑わいから夜の賑わいに変わるような時間。
街は少しずつ酒場の明かりが灯り始め、通りを歩く人々の姿も増えていく。
そんな中、レストではいつものように店の開店準備が進められていた。
エドはカウンターを丁寧に拭き、椅子を並べる。氷の準備をし、棚からグラスを取り出すと一つ一つ丁寧に磨いていく。
いつも変わらない、開店前の静かな時間が過ぎていく。
ーーーその時
「ちょっと、エド!!」
女性で元気で活発な声の念話がエドに届いた。
その声の主は飾られている、刀剣の一本
騎士剣 いわゆるロングソードと呼ばれるの両刃剣
魔剣
『ヴァン・スライ』
まるで透けているかのような美しい鞘、柄には精巧な炎のような紋様の装飾が施されている。芸術品のような美しい剣だ。
そして、雷華と同じようにエドと念話できる。
「スライさん、どうされました?」
少し驚いたようにスライへと視線を向ける。
「もぉーーー!!私と言うものがありながら、雷華とイチャイチャしてたでしょー!!」
「そんな事はないと思いますが、、、」
エドは少し考え、
「あっ、昨晩の事ですかね?」
「そうよ!!」
フンッと鼻を鳴らすように即答するスライ。
「少し手伝ってもらいました」
そう言って、雷華へと視線を向ける。
「雷華さん。昨晩はありがとうございました」
エドは軽く頭を下げながら雷華に鞘にそっと触れた。
「ふふ、いいえ。」
少し魔力が揺れるが穏やかに雷華が返す。
「こらー!!!!!それよ!!それ!!この淫乱妖刀め!!」
スライが声を荒げる。
「あらっ」
雷華の声が少し弾む。
「魔剣ともあろう方が、はしたない言葉は使わないほうがよろしいかと」
「なによ!!」
「それに、私が心を許すのはエドだけです。決して淫乱などではありません」
雷華が、揶揄うようにさらっと言う。
「もーー、ぐぬぬぬ」
悔しそうな声が返ってくる。
「スライさん、今回は雷華さんが適任だったので、手伝ってもらったんですよ」
エドはそう言うと、そっとスライに手と添えた。
スライの魔力が少し揺れた後、落ち着いていく。
「、、、、エドがそう言うなら、それでいいわよ。でも、私もいるんだからね、、、」
少し照れた様子でスライが言う。
「ええ。もちろん分かっていますよ」
エドが穏やかに答える。
そのやりとりの中、
カランカランーーー
ベルが鳴り扉が開いた。
エドは入口に視線を向ける。
そこに立っていたのは冒険者らしき二人の男。
一人は青年 もう一人は大柄で周囲を圧するような覇気が感じられる。
「エドさん!!」
青年の冒険者は扉が開くと同時に声を上げる。
「ザックさん、元気になられたようで」
エドが安心したように穏やかな笑みで言う。
「エドさんが出してくれる酒を飲んだら、一晩で元気になったっす!」
ザックが笑いながら言う。
そのまま、嬉しそうに続けた
「昨日のキングワイバーンの件が解決したみたいなんすよ!!」
「、、、なるほど。それでなんですね、、、、本当によかったです」
何も知らない程でエドが柔らかく返す。
「ふふ、よかった、、、エドのおかげですね」
「そうよ。エドに感謝しなさい」
雷華とスライが念話で言う。
エドはザックと一緒に来た、大柄の男に視線を向ける。
「こんにちは。ゼルグさん」
軽く会釈をする。
『ゼルグ』
王都冒険者ギルドマスター
五十代
筋骨隆々した巨体に、豊かな髭
黒髪のモヒカンに首から下には民族柄のタトゥーが全身に刻まれている。
上半身は裸でその上から襟元に豹柄の毛皮が付いたロングコートを羽織っている。
カーゴパンツにエンジニアブーツ。
冒険者を引退した今でも、その姿は現役の拳士そのものだった。
かつて、グランツ王国で『拳王』の称号を与えられた男でもある。
ギルドマスターへ就任した際、称号を返上した。
「久しぶりだな!エド!もう5日もここに来れていなかった!ははは!」
豪快に笑うゼルグ。
「ゼルグさんも、一安心ですね」
「ああ」
ゼルグが大きく頷く。
「遠征に出ていたAランクパーティーが、帰りの道中だったにもかかわらず討伐に向かってくれてな」
「依頼帰りでさぞ疲れているはずなのに、、、それは頼もしく、ありがたい話ですね」
「だが、、、」
ゼルグの声がほんの少し低くなった。
そして、まっすぐエドを見る。
「現地にいたのは、もうすでに討伐されたキングワイバーンだけだったようだ」
「、、、、すでに?」
エドは首を少し傾げながら聞く。
「ふふっ」
雷華の笑いがこぼれる。
「そうだ」
ゼルグは続ける。
「しかも8体すべてだ。恐ろしく鋭い切口で頭を切り落とされていたらしい」
「、、、、、」
エドは黙ってゼルグの話を待つ。
「そいつらが言うには、キングワイバーンと争ったような痕跡がまったくなかったそうだ」
ゼルグは腕を組む。
「おそらくーーー、ほぼ同時に一撃で斬り落とされたんだろう」
「、、、、、」
「いやー、人間技じゃないっすよね!!ギルド内では『ラット』じゃないかって持ちきりっすよ!」
ザックが楽しそうに言う。
「また、あの都市伝説ですか」
エドも合わせるように穏やかに笑った。
「ワシは実在すると思っているがな!」
ゼルグが豪快に笑う。
「がはははっ!」
その中笑い声の間にほんの一瞬だけエドに視線を送った。
鋭い目。まるで何かを探るような視線。
エドはその視線を感じていた。
しかし、ゼルグと目合わす事なく、何事なかったかのように穏やかにザックに視線を向けていた。
「ふふ、探られていますね」
「何、あいつ、いやらしっ」
雷華とスライから念話が届く。
「まぁ、勘程度かと、、、確信はなさそうです」
エドが念話を返す。
「さて」
エドが仕切り直すように軽く手を合わせる。
「お二人、今日は何になさいますか?」
「「いつものを」」
二人の声が綺麗に重なった。
「かしこまりました」
エドは笑みを浮かべると、酒の準備へと取り掛かった。
それからーー
ゼルグとザックは小一時間ほど談笑した。
酒を飲み、笑い、他愛のない話をする。
「それじゃあ、またな!エド!」
「エドさん!また来ますね!!」
ゼルグとザックは楽しそうに店を後にした。
二人と入れ替わるようにタイミングで職人らしい服装をした一人の男が店へ入ってきた。
エドは軽く会釈しながら
「いらっしゃいませ。バルカンさん」
バルカンは慣れた様子で椅子に座る
「何になさいますか?」
エドがいつものように尋ねるのだった。




