2話
王都クィーングランツ
夜もすっかり更けていた。
それでも繁華街の多くはまだ明かりが灯っている。
酒場から漏れる笑い声、通りを行き交う人々。
昼間とは違う賑わいが夜の王都を包んでいた。
そんな中、光と闇の境目を縫うように一つの影が走っていく。
人目につかない路地を抜け、繁華街を抜け、さらに住民居住区を音もなく駆け抜けていく。
クィーングランツは王都全体を囲う巨大な城壁で守られている。
高さは20mを越え、その内側を王国騎士団の警備隊が配置され昼夜問わず巡回を続けている。
さらに城壁に沿うように王国騎士団の兵舎が建ち並んでいる。
王都から外に出るには城壁にいくつか設けられた城門を通らなければならない。
当然、警備隊の待機施設が置かれ、夜間であっても検問が行われている。
つまり、王都を抜けるのも入るのも簡単ではない。
あっという間に兵舎地区までたどり着いていた。
城壁の目の前だ。
エドは兵舎の屋根へ軽々と飛び乗ると、周囲を見回した。
「、、、大丈夫そうですね。行きましょう」
エドが言う。
「ええ」
雷華が静かに答える
トンッーーー
屋根を軽く蹴ると20mはあろう城壁軽々と越えていった。
「、、、ん?」
城門警備兵の一人が空を見上げる。
「今、何か飛んでいかなかったか?」
「ん?気のせいだろ」
隣の兵が答える 。
「これを飛び越えるような人間なんているわけない」
「、、だよな、、俺、疲れてるな」
警備兵は顔を見合わせて笑う。
その頃にはエドはもう城壁の外側にいた。
フッーーー
音もなく着地するとそのまま走り出す。
王都街道を数分で走り抜け、商業街道への差し掛かかる場所まで来ていた。
「索敵」
エドが一度止まり索敵魔法を展開する。
この魔法は対象に気付かれてないように極限まで薄く淡く引き伸ばし、それに触れる魔力を拾い上げるものだ。
術者の魔力量や熟練度によって索敵範囲や精度は大きく変わる。
熟練魔法使いともなると半径10kmぐらいの小動物サイズの魔物まで探知できる。
「反応はあるかしら?」
雷華が言う。
「ええ、商業街道を西に40kmぐらいの所ですね」
「それと、、、」
エドが少しだけ眉を寄せる。
「魔力を隠すのがかなり上手な方の反応があります」
「ふふっ、エドがそう感じるなら、かなりの手練ね」
雷華が嬉しそうに言う。
「、、、雷華さん」
「やっぱり暴れるつもりですよね?」
エド少し困ったように言う。
「そんな事はありませんよ」
「、、、、お手柔らかにお願いします」
2人は少し笑い街道を、駆ける。
数分後
「あれですね」足を止めて、エドが言う。
「ええ、8体かしら」雷華が放つ魔力が少し揺れる。
「一気に行きましょう」
エドが雷華にそっと手を添える。
キングワイバーン ワイバーンの上位種 体長10m前後の中型の翼竜だ。
交戦的な性格 口から多属性のブレス(放出系魔法)を吐く。警戒心も強く魔力感知能力に長けている。
エドが雷華に手を添えた瞬間。
一体のキングワイバーンが何かを感じとった。
キングワイバーンとエドの距離はおよそ50m
「ギャゴォォォォォォォォォォ!!」
一体が鋭い咆哮をあげる。それを合図に残りのキングワイバーン達も一気に警戒体制に入った。
翼を広げて、周囲を見回す。
しかしエドの居場所は捉えられない。
キングワイバーンたちは気づいていない。
そこはもうエドの間合いの中だった。
スッーーー
雷華に手を添え、腰を静かに落とす居合いの構え。
そして、抜刀ーーー
立ち位置から青紫と黄色の雷撃がキングワイバーンの群れを縫うように走った。
キンッーーーー
群れの後方、雷華を鞘に収めるエド。
ゴトッ!!ドーーーン!!
声すら上げる暇なくキングワイバーン8体全部の頭が同時に地面へ落ち、巨体が次々に倒れていった。
「、、、雷華さん。やりすぎですよ」
エドが呆れたように言う。
「ふふ、そうかしら?」
雷華が少し嬉しそうに笑う。
そんなやり取りをしたいた時。
ピンーーー
ほんの一瞬だけ気配と視線を感じた。
「見られてますね」
雷華が静かに言う。
「、、、、そうですね」
エドは街道の奥の深い森に視線を送りながら言う。
「、、、この距離で、、、気付かれた!?」
街道の奥のさらに奥の深い所の木々の間に立つ影。
そこには黒く少し厚手で縁に波模様のような刺繍が施されたローブを羽織り、フードを深々と被っている人物がいた。
「まさか本当に実在するとはな、、、、『ラット』」
そう言い残し、黒い霧になり霧散するように姿を消した。
「、、、消えたようですね」
エドがつぶやく。
「そうね。追いますか?」
「いいえ」
エドが首を横に振る。
「ただの勘ですが、、、またどこかで会う事になりそうです」
「、、、こちらも戻りましょう」
エドはそう言いながら、倒れたキングワイバーンのもとへ歩いていく。
「やはりですね」
エドがキングワイバーンの頭部を確認しながら言う。
「何かあったのですか?」
キングワイバーンのおでこには、奴隷紋のような黒い紋様があった。
「このキングワイバーン達は操られていたようです。、、、きっとあの方に」
「高度な呪印ね」
「ええ、かなり厄介な手練れの魔法使いでしょうね」
もう一度、森の奥を見ながら言う。
『ラット』
都市伝説の存在は実は他国にも知れ渡っていた。
表の組織では手を出せない事件がラットによって処理されたという噂だ。
グランツ王国には『剣聖』 『魔帝』『拳王』『賢者』
など称号を持ち国内の最高戦力として扱われる人物たちがいる。
もちろん各国にも同じように存在している。
しかし、
グランツ王国には、さらに『ラット』という実力は未知数、正体不明で何一つ分からない存在がある。
もしもラットが実在するのならグランツ王国には公表せず隠し持っている戦力がまだあるという事となる。
だからこそ、各国はグランツ王国には手を出しづらく、外交を大切にしていた。
それが各国の間で囁かれる、グランツ王国への評価の一つだった。
しばらくして
エドが小さく息を吐いた。
「さっ、雷華さん。戻りましょう」
「ええ」
気がかりは少し残っている「あの魔法使い」
だが、本来の目的は達成している。
それ以上は振り返る事なく『レスト』へ戻るのだった。




