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バーとマスターと刀剣とネズミの日常と非日常  作者: お魚さん


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1話


グランツ王国。

大陸の中央部分に広大な領土を持つ、世界有数の大国である。

王国には数え切れないほどの人々が暮らしている。

冒険者、商人、職人、騎士、貴族。

そして、魔物。

剣と魔法が当たり前のこの世界では、人々が安心し安全に暮らせる場所はあまり多くない。

街の外へ一歩出れば、魔物が徘徊していることも珍しくない。

街道を狙う盗賊や、裏社会で暗躍する犯罪者もいる。

そんな世界でもグランツ王国は比較的、平和で安全な国として知られていた。

王国騎士団が街を守り、冒険者たちが魔物を討ち、商人が物資を運ぶ。

人々は働き、笑い、酒を飲み、家へ帰る。

少なくとも、日の当たる場所ではそうやって回っていた。

そして、王都ともなれば、それはなおさらだった。


首都クィーングランツ


王宮を中心として広がる巨大都市。

石畳の大通りには馬車が行き交い、商店には人が溢れて、夜になれば繁華街が賑わい人の姿が消える事はない美しく活気のある街だ。


少なくとも、表向きは。


大通りから脇道に一本入る。

さらにもう一本。


明かりの少ない路地を進む。


すると、表通りの喧騒が嘘のように遠ざかっていく。

そこには、表の街では語られる事のない世界があった。

闇ギルド、密輸、賭博、違法取引、暗殺者。

表だっては決して、口にはできない貴族同士の争い。


王都首都という巨大な街に、煌びやかな光があれば、当然闇もある。


そして、その影と光の境目に一軒の小さな店がある。


古びたレンガ造りの建物、年季の入った木製の看板、錆の浮いた鉄。

そして、重厚な一枚の扉。

看板には簡素な文字で


「REST」 レスト


と書かれた小さなバーだ。

看板もそれだけ、予約が必要な人気店という雰囲気はない。

だが、不思議な事に店には毎晩、ぽつりぽつりと客がやってくる。

首都で生活している人からどこの誰ともわからない怪しげな人まで。


カラン、、、カラン 扉のベルが鳴る


「いらっしゃいませ」


柔らかな声。

カウンターの向こうに立っている一人の男。

年齢は40代ほど、白髪を後ろへ撫で付け丸眼鏡をかけている。

白シャツ、蝶ネクタイ、黒いベスト。

きっちりと整えられた身なり。

どこにでもいそうな、穏やかなバーテンダーだ。


名は 「エドワード」


客からは親しみを込めて「エド」

と呼ばれている。


「やっぱここは落ち着くなー」

深呼吸しながら入って来た若い冒険者 「ザック」

金髪の無造作なヘアスタイル、使い込まれた革鎧を身につけて、腰にロングソードを差している。

「ザックさん。お久しぶりですね」

「やっと帰って来れたんすよー、、、」

「遠征に?」

「そうなんすよー、、、、すごく大変でした」

エドは何も言わずに、いつもの酒をグラスに注ぎ、静かにザックの前に差し出す。

「さすがエドさん!これこれ!」

ザックはグラスに手を伸ばす。

「何かトラブルでも?」

何気ない調子で聞く、

ザックは酒を一口飲んだ後

「Cランクの魔物の討伐依頼でパーティー組んで商業街道の方まで行ったんすけど」

「ええ」

「まさかの キングワイバーン の群れだったんすよ。挑んでみたものの、ヒーラー(回復後方支援役)を負傷させてしまって敢えなく撤退っす。」

ザックは苦笑する。

「、、、キングワイバーン たしかBランク魔物ですかね?パーティーの中でも重要なヒーラー負傷、、、、それは賢明な判断ですね」

「もっと、俺が強かったら、、、」

ザックが少し肩をすくめる。

「、、、」

エドの眉毛が少し下がる。

「ギルドが依頼難易度を更新して、別パーティーを行かせるみたいすよ。」

「キングワイバーンで群れだとAランク依頼が妥当ですね。」

「そーなんすよ。でも請けれるパーティーが今ギルドにいなくてギルドマスターが頭抱えてます。」

ザックは頭を掻きながら、申し訳なさそうに苦笑いする。

「、、、」

エドは軽く頷く。

「、、、こんな時『ラット』が来てパッと解決でもしてくれたらありがたいすね!」

ザックが冗談めかして笑う。

「はは、あの都市伝説ですね。それが一番ですね」

エドも穏やかに笑う。

「まぁーそんな都合よくいかねぇーかー」

ザックは楽しそうに笑う。

「少し元気になりました。今日はゆっくり寝ます」

硬貨をテーブルに置きながらザックは言う。

「それがいいでしょうね。またいつでもお待ちしております」

「ありがとうございました。また来るっすね!」

ザックは扉へ向かう。


それから数時間後

エドは看板のライトを落とし、椅子を整え、店の片付けをしていた。


すると、


「ふふ、、、エド。行くのでしょう?」

エドの頭の中、丁寧で柔らかな女性の声が聞こえてきた。


レストのカウンターの後ろには酒と一緒に

日本刀、大太刀、騎士剣、双剣、大剣などの刀剣が数本飾られている。


その中でも一際目を引く美しい鞘に収められた、

一本。


日本刀。


『雷華』 らいか


意思を持ち、しかもエドと念話ができる。

いわゆる、妖刀と呼ばれる類のものだ。


「そうですね。場所も商業街道ですし」

「ふふ、あの子はとてもいい子ですよね」

雷華がからかうように言う。

「ええ、とても責任感が強く精神力が強い方です。

とても悔しそうでした、、、ああいう方は応援したくなります」

「私もです、、、手伝いますよ」

雷華が柔らかく言う。

「助かります、、、ん?もしかして雷華さん、暴れたいだけでは?」

エドが少し笑いながら言う。

「ふふ、どうですかね?さっ、行きますよ。」

雷華も少し笑う。


片付けが終わると雷華に手を伸ばす。

店の鍵をかけ、裏隣にある酒や備品を保管する倉庫へ向かう。

そこでエドは着替えた。

黒い衣服に黒いローブのフードを被り、ネズミを模した奇妙な仮面をつける。

もうバーテンダーの面影はない。

腰に雷華を携えるとその姿は完成した。


『ラット』


都市伝説や裏社会で囁かれる、正体不明の存在。


貴族の揉め事を解決した、闇ギルドの抗争を終わらせた、密輸組織を一晩で壊滅させた、Sランクの魔物を単独で討伐したなど。

噂だけが、広がっている。

しかし、その存在に100%の確信をもっている人はいない。


エドは倉庫の裏口から出て鍵をかけると、少し月を見上げた。


顔を戻すと同時に闇夜に音もなく消えていった。

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