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学園物語  作者: 優貴(Yukky)


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7/20

第7話「近すぎる距離」

校外学習当日。

朝から空はうっすら曇っていたが、雨は降っていない。

バスが並ぶ校門前には、いつもより騒がしい空気が広がっている。

「おい、班のやつどこだよ」

「置いてかれるぞ!」

「楽しみだなー」

前田敏弘はその光景を少し離れた場所から見ていた。

手には小さなリュック。

必要最低限の荷物だけが入っている。

(遠足みたいなものか)

そう思ったとき――

「前田くん!」

岡倉真優美が駆け寄ってきた。

いつもより少しラフな服装。

髪も軽くまとめている。

「おはよう」

「おはよう!」

真優美は少し息を切らしていた。

「遅くなってごめん、バスギリギリだった」

「大丈夫、まだ時間ある」

そのやりとりを、周囲の数人がちらちら見ている。

もう“いつもの光景”になりつつあった。

バスに乗り込むと、班ごとに席が決まっていた。

「ここだ」

敏弘が窓側の席に座る。

真優美が隣に座る。

自然な流れになっていた。

だが後ろの席から声がする。

「また隣かよ」

「ほんと固定されてるじゃん」

真優美は少しだけ気にしたように目を伏せる。

敏弘は気づいていた。

しかし何も言わない。

バスが動き出す。

街並みがゆっくり後ろへ流れていく。

最初は騒がしかった車内も、徐々に落ち着いていく。

真優美は窓の外を見ていた。

「ねぇ」

「ん?」

敏弘が返す。

「こういうの、ちょっと楽しいね」

「どこが」

「なんか、学校っぽい」

真優美は笑った。

敏弘は少しだけ視線を外す。

(学校っぽい、か)

自分には少し遠い感覚だった。

目的地は歴史資料館と自然公園。

午前は見学、午後は班行動。

最初の資料館では、真面目な説明が続く。

「この地域は江戸時代から……」

真優美はメモを取り続けていた。

その集中力に敏弘は少し驚く。

(ほんとに真面目だな)

休憩時間。

「疲れた?」

敏弘が聞くと、真優美は首を振る。

「全然。こういうの好き」

「意外」

「何それ」

軽く笑い合う。

その瞬間、少しだけ空気が柔らかくなる。

昼食後、自然公園へ移動した。

班ごとに自由行動。

広い森と小道。

鳥の声と風の音。

「どっち行く?」

真優美が地図を広げる。

「どこでもいい」

「それ一番困るやつ」

真優美は少し呆れながらも笑った。

結局、小さな展望台を目指すことにした。

山道は思ったよりも急だった。

「意外ときついねこれ」

真優美が息を整える。

「運動不足じゃないの?」

「うるさい」

軽口を叩きながら進む。

だが途中で、真優美の足が止まった。

「……あ」

「どうした?」

「ちょっと足、痛いかも」

昨日の軽い捻挫がまだ完全に治っていなかった。

敏弘はすぐに気づく。

「無理するな」

「大丈夫、歩けるから」

「ダメ」

短い言葉。

真優美は少し驚く。

敏弘はしゃがむ。

「少しだけ」

「え?」

「支える」

一瞬、真優美は固まる。

「いいよ、そんなの」

「班行動だろ」

そう言って、敏弘は自然に手を差し出した。

真優美は少し迷った。

でも、その手を取った。

「……ありがと」

その瞬間。

二人の距離が一気に近くなる。

手と手。

体温が伝わる距離。

真優美の心臓が少しだけ早くなる。

(近い……)

展望台に着く頃には、真優美の足も少し落ち着いていた。

「ここ、すごいね」

広がる景色。

街と山が一望できる。

真優美は目を輝かせる。

「ほんとだな」

敏弘も静かに答える。

しばらく沈黙。

だがそれは心地よい沈黙だった。

真優美がぽつりと言う。

「ねぇ前田くん」

「ん?」

「今日さ、ちょっとだけ思ったんだけど」

「何」

「前田くんといると、普通の高校生って感じする」

敏弘は少し黙る。

「俺が?」

「うん」

真優美は笑う。

「最初はすごい人だと思ってたけど」

「今は?」

少し間。

真優美は小さく言った。

「普通の、ちょっと優しい人」

その言葉に敏弘は少しだけ目を細めた。

帰りのバス。

真優美は疲れて少し眠ってしまった。

窓に寄りかかるようにして。

敏弘はその横で静かに座っていた。

(普通の人、か)

その言葉が頭の中で何度も繰り返される。

悪くない気がした。

むしろ――

少しだけ嬉しかった。

だがその頃、後方の席では別の会話が生まれていた。

「やっぱあの二人、絶対ただのクラスメイトじゃないよな」

「距離近すぎ」

「なんかもう完成してる感じある」

噂は、静かに確実に広がっていく。

それが後に、二人の関係を大きく揺らすことになるとはまだ誰も知らない。

バスは夕暮れの校門へ戻っていく。

窓の外はオレンジ色に染まり始めていた。

そして――

今日という一日は、確かに何かを変えた。

第8話へ続く

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