表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園物語  作者: 優貴(Yukky)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/20

第3話「噂と距離」

翌朝。

教室の空気は、いつもと少し違っていた。

ざわざわとした声があちこちから聞こえる。

前田敏弘が教室に入ると、数人の視線が一斉に向いた。

「なぁ、あれ本当?」

「前田ってやっぱ御曹司なんだって」

「家にプールあるらしいよ」

敏弘は小さくため息をつく。

(またか……)

彼にとって“お金持ち”という肩書きは、昔から厄介なものだった。

近づいてくる人間の多くが「前田敏弘」ではなく「前田グループの息子」として見てくる。

その事実に慣れてはいても、好きにはなれない。

そこへ。

「前田くん!」

いつもの明るい声。

岡倉真優美が駆け寄ってきた。

「おはよう。」

「おはよう!」

真優美はいつも通りだ。

だが敏弘は少し安心する。

少なくとも彼女は、自分の家柄ではなく“自分”を見てくれている気がしたからだ。

その頃、教室の後ろでは別の空気が流れていた。

「ねぇ見た?」

「昨日、岡倉さんと前田くん一緒に帰ってたよね」

「え、もしかして付き合ってる?」

「いやいや、さすがに早くない?」

小さな噂。

しかしそれは、広がるのが早いタイプのものだった。

真優美はそれを聞いて、少し固まる。

「……え?」

敏弘も気づく。

周囲の視線が、さっきまでより少し違う。

興味と好奇心と、少しの嫉妬。

昼休み。

真優美は一人で屋上へ向かっていた。

弁当を持って階段を上る。

「ここなら落ち着くから……」

そう呟きながらドアを開けると。

「お、先客。」

そこには敏弘がいた。

風が吹く屋上。

彼は柵にもたれながら空を見ている。

「前田くんもここ来るんだ。」

「うん。教室、少し疲れるから。」

真優美は苦笑する。

「わかるかも。」

二人は並んで座った。

しばらく沈黙。

だが不思議と気まずくはない。

真優美がぽつりと言った。

「ねぇ……昨日のことなんだけど。」

「うん?」

「私たち、変な噂されてるよね。」

敏弘は少し黙る。

「聞いた。」

「ごめん。私のせいかも。」

「なんで?」

「一緒にいるから。」

その言葉に、敏弘は首を振る。

「それは違う。」

はっきりとした声だった。

真優美は驚いて顔を上げる。

敏弘は続ける。

「誰と仲良くするかなんて自由だろ。」

「でも……」

「気にしなくていい。」

その言葉は優しかった。

けれど真優美には少し遠く感じた。

午後の授業。

空気はまだ少し重かった。

しかし事件は突然起きる。

体育の授業。

バスケットボールの試合中。

真優美が相手と接触して転倒した。

「岡倉!」

先生が駆け寄る。

「大丈夫か?」

足を押さえている。

「ちょっと痛い……」

敏弘もすぐに駆け寄った。

「保健室行こう。」

「大丈夫だよ、これくらい……」

立ち上がろうとするが、よろける。

敏弘は迷わず言った。

「無理するな。」

そして。

真優美の腕を支えた。

そのまま保健室へ向かう。

廊下。

静かな空間。

真優美は少しだけ顔を赤くしていた。

「前田くん、重くない?」

「別に。」

「ごめんね。」

「謝ることじゃない。」

短いやりとり。

でもその距離はいつもより近い。

真優美は気づいてしまう。

(この人、やっぱり優しい……)

保健室。

先生が処置をする。

「軽い捻挫だね。無理しなければ大丈夫。」

真優美は安心したように息を吐いた。

「よかった……」

敏弘もほっとする。

「今日は安静だって。」

「うん。」

先生が席を外すと、二人だけになる。

少しの沈黙。

真優美がぽつりと聞いた。

「前田くんってさ。」

「うん?」

「なんで私に普通に接してくれるの?」

敏弘は少し考えた。

そして言った。

「普通って何?」

真優美は言葉に詰まる。

敏弘は続ける。

「お金持ちとか貧乏とか、関係ある?」

その言葉に真優美は驚く。

窓の外。

夕方の光が差し込む。

敏弘は静かに言った。

「岡倉さんは岡倉さんだろ。」

「それ以上でも、それ以下でもない。」

真優美の胸が少し熱くなる。

(この人は……本当にそう思ってるんだ)

その日。

教室に戻った二人を見る周囲の視線は、また少し変わっていた。

噂はまだ消えない。

むしろ強くなっていく。

だがその中心にいる二人は、まだそのことに気づいていない。

そして――

この“距離の近さ”が、これから大きな波を呼ぶことになる。

第4話へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ