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学園物語  作者: 優貴(Yukky)


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15/20

第15話「空白の時間」

翌日。

教室の空気は、昨日よりもさらに“整理された静けさ”になっていた。

前田敏弘はいつも通り席に座っている。

だが、そこにあるはずの自然な流れがない。

(……静かだな)

視線を横に向ける。

岡倉真優美の席。

彼女はいる。

いるのに、違う。

教室に入ってきても、目が合わない。

合っても、一瞬で逸らす。

「おはよ」

真優美の声。

以前より一段低い。

敏弘は短く返す。

「おう」

それだけ。

休み時間。

クラスメイトたちは少し戸惑っていた。

「え、なんか前と違くね?」

「喧嘩した?」

「でも普通に話してるしな」

“中途半端な距離”

それが一番人をざわつかせる。

昼休み。

真優美は一人で食堂へ向かった。

敏弘は教室に残る。

本を開くが、読めない。

(……別にいいはずだ)

そう思うのに、集中できない。

その頃。

食堂。

真優美はトレーを持って座っていた。

向かいには誰もいない。

(静かだな)

そう思う。

でも、静かすぎる。

スマホが震える。

女子グループのメッセージ。

『岡倉さん、最近前田くんとどう?』

真優美は少し固まる。

『ちょっと距離置いてる』

送信。

すぐに返事。

『え、やっぱり?』

『正解じゃん』

その言葉に胸が少し痛む。

(正解)

放課後。

教室。

敏弘は机に座っている。

誰もいない。

そこへ。

男子が一人近づく。

「なぁ前田」

「何」

「岡倉さん、最近一緒にいないけど」

敏弘は視線だけ上げる。

「どうでもいいだろ」

男子は少し驚く。

「いや、別に……」

気まずくなって去る。

敏弘はため息をつく。

(どうでもいい、か)

自分で言った言葉なのに、少し違う気がした。

その夜。

真優美は机に向かっていた。

ノートは開いている。

でも文字は進まない。

「集中できない……」

小さく呟く。

スマホを開く。

トーク画面。

「前田くん」

打ちかけて消す。

また打つ。

消す。

(今送っていいのかな)

結局、何も送れないまま画面を閉じる。

同じ夜。

敏弘は自室で天井を見ていた。

(連絡、来ないな)

別に待っていたわけじゃない。

でも、来ない。

時計の音だけが響く。

翌日。

さらに変化が起きる。

教室。

真優美はいつもより早く来ていた。

だが、敏弘の席には近づかない。

その代わり、別の女子と話している。

「岡倉さん最近忙しいの?」

「うん、ちょっと色々あって」

笑っている。

でも敏弘は気づく。

(無理してる笑いだな)

昼休み。

敏弘は廊下を歩いていた。

すると。

「前田くん」

振り返る。

真優美。

でも、少し距離がある。

「ちょっといい?」

二人は屋上へ向かう。

鍵は開いていた。

風が強い。

沈黙のまま立つ二人。

真優美が先に言う。

「ごめんね」

敏弘はすぐ返す。

「何が」

真優美は少し笑う。

「距離置くって言ったのに、呼んじゃった」

敏弘は空を見る。

「別にいい」

沈黙。

真優美は言う。

「ねぇ前田くん」

「ん」

「今さ」

「ちゃんと離れてるよね」

敏弘は少しだけ黙る。

そして言う。

「形だけな」

真優美は目を見開く。

「え?」

敏弘は続ける。

「距離ってのは、席とかじゃない」

「話すかどうかでもない」

真優美は黙る。

敏弘は真っ直ぐ見る。

「気持ちだろ」

その言葉に、真優美の胸が跳ねる。

「私……」

言葉が詰まる。

「ちゃんと離れてるつもりだった」

敏弘は少しだけ目を細める。

「つもり、な」

真優美は唇を噛む。

(やっぱり違うのかな)

そのとき風が強く吹く。

真優美の髪が揺れる。

敏弘は一歩近づく。

真優美は逃げない。

「岡倉」

名前で呼ぶ。

真優美は少しだけ顔を上げる。

「お前が決めた距離ならそれでいい」

「でもな」

「俺はまだ、何も終わってないと思ってる」

その言葉は重かった。

真優美は息を飲む。

「終わってないって……」

敏弘は視線を外す。

「さあな」

そして屋上を降りていく。

真優美は一人残る。

風だけが強く吹く。

(終わってない)

その言葉が頭から離れない。

そして初めて気づく。

「距離を置く」という選択は

何も解決していなかった。

むしろ――

もっと分からなくしていた。

その夜。

二人はまた眠れなかった。

それぞれの胸の中で

同じ言葉が繰り返される。

「終わってない」

第16話へ続く

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