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学園物語  作者: 優貴(Yukky)


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12/20

第12話「一通のメッセージ」

翌朝。

教室の空気は、昨日よりさらに落ち着いていた。

いや、正確には「落ち着いて見えるだけ」だった。

前田敏弘はいつもの席に座り、スマホを机の中に入れたままぼんやり窓を見ている。

(……まだ、あの感じだな)

岡倉真優美との“距離”。

近づいているようで、遠い。

遠いようで、近い。

曖昧な状態のまま止まっていた。

教室のドアが開く。

「おはよー」

真優美の声。

いつもより少しだけ元気がない。

敏弘は軽く手を上げる。

「おう」

それだけ。

真優美は自分の席に座る。

ちらっと敏弘を見る。

目が合いそうで、合わない。

(……うん、やっぱり変だ)

休み時間。

女子たちが真優美の机に集まる。

「ねぇねぇ岡倉さん」

「最近さ、前田くんとどうなの?」

真優美は少しだけ困った顔をする。

「どうって言われても……普通だよ」

「またそれ?」

「ほんとに普通だってば」

笑ってごまかす。

でも声は少し弱い。

その会話を、敏弘は後ろの席で聞いていた。

(普通、か)

昨日も聞いた言葉。

なぜか胸に引っかかる。

昼休み。

真優美は一人で弁当を食べていた。

敏弘は少し離れた場所で本を読んでいる。

いつもなら、どちらかが自然に近づく。

でも今日は違う。

そのとき。

「岡倉さん」

クラスの女子が声をかけてきた。

「ちょっといい?」

真優美は顔を上げる。

「うん?」

女子は少し言いにくそうに言う。

「前田くんとさ……あんまり関わらない方がいいんじゃない?」

真優美の動きが止まる。

「……え?」

「別に悪い意味じゃないんだけどさ」

「目立つし」

「変な噂も続いてるし」

真優美はゆっくりと箸を置く。

「それって……私のこと?」

女子は少し慌てる。

「いや、そういうわけじゃなくて!」

「でも実際さ、岡倉さんってちょっと浮いてるっていうか」

その言葉に、真優美の胸がぎゅっと締まる。

(浮いてる)

その単語だけが残る。

そのとき。

「やめとけ」

低い声。

前田敏弘だった。

教室の空気が一瞬止まる。

女子は振り返る。

「え?」

敏弘は静かに続ける。

「そういう話、本人の前で言うことじゃない」

女子は気まずそうに目を逸らす。

「ご、ごめん」

そのまま席へ戻っていく。

真優美は敏弘を見上げる。

「前田くん……」

敏弘は視線を合わせずに言う。

「気にするな」

その言い方は、いつも通りのようで少し違った。

放課後。

廊下は静かだった。

真優美は鞄を持ったまま立っている。

敏弘も隣にいる。

「今日さ」

真優美が小さく言う。

「また守ってくれたよね」

敏弘は短く答える。

「たまたま」

真優美は少し笑う。

「またそれ」

でもすぐにその笑顔は消える。

「ねぇ前田くん」

「ん」

真優美は少し間を置く。

そしてスマホを取り出す。

「これ」

画面にはメッセージが表示されていた。

『岡倉さん、ちょっと話したいことある。前田くんと距離置いた方がいいと思う』

敏弘の表情が変わる。

「誰だこれ」

真優美は小さく答える。

「別のクラスの子」

「今日の昼休みに送られてきた」

敏弘は一瞬黙る。

「……面倒くせぇな」

真優美は驚く。

「そんな言い方する?」

敏弘はスマホを見たまま言う。

「事実だろ」

真優美は少しだけムッとする。

「でもさ、そういうの無視できないじゃん」

敏弘は顔を上げる。

「なんで」

「だって……私のこと考えて言ってるのかもしれないし」

敏弘はすぐに返す。

「考えてるやつは、わざわざ送らない」

真優美は言葉に詰まる。

沈黙。

風が廊下を抜ける。

真優美はスマホを握りしめる。

「じゃあさ」

「無視していいの?」

敏弘は少し考える。

「俺は気にしない」

「でもお前が気にするなら別」

その言葉に真優美は顔を上げる。

「それ、ずるいよ」

敏弘は眉を上げる。

「何が」

真優美は少し声を強くする。

「前田くんはさ、いつも“気にするな”って言うじゃん」

「でも実際、周りは気にしてる」

「私だけが耐えればいいみたいに聞こえる」

敏弘は少しだけ黙る。

真優美の声は続く。

「私、強くないんだってば」

「無視できるほど、図太くない」

その言葉に、敏弘の表情が少し変わる。

「じゃあどうすんだよ」

真優美は一瞬止まる。

「……分からない」

またその言葉。

敏弘は小さく息を吐く。

「またそれか」

真優美は少しうつむく。

「ごめん……」

その瞬間。

敏弘は一歩近づく。

「謝るなって言ってるだろ」

その声は少しだけ強かった。

真優美は肩をすくめる。

「でもさ」

「分からないままじゃダメなの?」

その問いに、敏弘は止まる。

窓の外は夕方の色に変わっている。

少し長い沈黙。

そして敏弘は言う。

「ダメとは言ってない」

「ただ……」

一度言葉を切る。

「お前が苦しいなら、意味ない」

真優美は目を見開く。

(苦しい)

その単語が胸に刺さる。

「私は……」

言葉が出ない。

そのとき、チャイムが鳴る。

終わりの合図。

二人はその場に立ち尽くしたまま動けなかった。

そしてこの日。

“誰かの善意”と“二人の距離”は、静かにすれ違いを深めていくことになる。

第13話へ続く

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