表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園物語  作者: 優貴(Yukky)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/20

第10話「答えのない距離」

翌朝の教室は、妙に静かだった。

昨日までのざわつきが嘘のように、空気が一段落ち着いている。

しかしそれは“終わった”静けさではない。

むしろ、何かを観察しているような静けさだった。

前田敏弘は窓際の席に座り、外を見ていた。

空は薄い雲に覆われている。

まだ雨は止んでいない。

ぽつり、ぽつりとガラスに水滴が当たる音がする。

教室のドアが開く。

岡倉真優美が入ってくる。

いつもならすぐに敏弘のところへ来る。

だが今日は違った。

一瞬、視線が合う。

しかしすぐに逸らして、自分の席へ向かった。

敏弘はその様子を見て、わずかに眉を動かす。

(……なんだ?)

昨日の会話の後から、何かが変わっている。

明確な拒絶ではない。

しかし“距離”がある。

休み時間。

敏弘が振り返ると、真優美は友達と話していた。

笑っている。

だがその笑いは、少しだけ前と違う。

無理に作っているような、薄い笑顔。

昼休み。

敏弘は教室に残っていた。

いつもなら真優美が来る。

しかし今日は来ない。

代わりに友達と食堂へ向かっていた。

(避けてるのか?)

そう思った瞬間、自分の胸が少しだけ重くなる。

だがすぐに否定する。

(いや、違う)

昨日「今のままでいい」と言ったのは自分だ。

だから、これは当然の形なのかもしれない。

放課後。

雨は少し強くなっていた。

廊下の窓から見えるグラウンドは灰色に沈んでいる。

敏弘は一人で教室に残っていた。

すると――

「……前田くん」

小さな声。

振り返ると、真優美が立っていた。

少し距離を取ったまま、そこにいる。

いつものように近づいてこない。

敏弘はすぐに気づく。

(やっぱり、変だ)

「何だよ」

短く聞く。

真優美は一瞬迷ってから口を開く。

「今日さ……ちょっと考えてたんだけど」

「うん」

真優美は視線を床に落とす。

「やっぱり私、前田くんと一緒にいると……」

そこで止まる。

喉が詰まるような沈黙。

敏弘は待つ。

急かさない。

だが、その沈黙が長く感じる。

「……目立つ」

やっと出た言葉だった。

真優美は続ける。

「悪い意味じゃなくて……でも、見られるのが怖い」

「昨日のことも、今日の空気も」

敏弘は静かに聞いている。

「前田くんは気にしないって言ってくれたけど」

「私はまだ、そこまで強くないから」

真優美の声は少し震えていた。

敏弘は一歩近づく。

真優美は少しだけ肩を揺らす。

「じゃあ聞く」

敏弘の声は低い。

「お前はどうしたいんだ?」

真優美は顔を上げる。

目が合う。

しかし、答えはすぐに出ない。

「……分からない」

それが本音だった。

敏弘は目を細める。

怒っているわけではない。

ただ、少しだけ寂しそうだった。

「分からない、か」

小さく繰り返す。

教室に雨の音が響く。

静かな時間。

真優美は続ける。

「でも、嫌いになったわけじゃない」

慌てて言葉を足す。

「それは絶対違う」

その言葉に敏弘は少しだけ表情を緩める。

「ならいい」

短く言う。

真優美は驚く。

「え?」

敏弘は窓の外を見る。

「無理に決めなくていい」

「距離とか、噂とか」

「そういうのは俺が考える」

真優美は目を見開く。

「でもそれじゃ……」

「いいんだよ」

敏弘は振り返る。

「俺が勝手にそうしたいだけだ」

その言葉は、優しさでもあり、少しだけ頑固さもあった。

真優美は言葉を失う。

胸の奥がざわつく。

(この人は……どこまで)

そのとき、チャイムが鳴る。

静かな時間は終わる。

真優美は小さく頭を下げる。

「……ありがとう」

そして自分の席へ戻っていく。

敏弘はその背中を見送る。

(これでいいのか)

初めて、自分の選択に迷いが生まれていた。

その夜。

雨はさらに強くなっていた。

街の灯りがぼやける。

敏弘は部屋で窓を見ていた。

「分からない」

その言葉が頭に残っている。

同じ頃。

真優美はアパートの机でうつむいていた。

ノートには何も書かれていない。

(嫌いじゃない)

(でも怖い)

その矛盾が、心を締めつける。

そして二人はまだ気づいていない。

この“分からない距離”こそが、最も崩れやすい状態だということに。

雨は一晩中降り続いた。

まるで、何かの答えを待つように。

第11話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ