190(カトリナ視点)
それは学院に通って1ヶ月が経とうという頃だ。
「お嬢様!」という声が聞こえて振り向くと本来、いるはずのないネリアが焦った表情で立っていた。
「ネリア!どうしたの?」
と聞くと急いで手紙を差し出す。
それを受け取り、中を見るとそこにはお兄様が亡くなったと書いてある。
それを見た瞬間、私はへたり込んでしまった。
勝手に涙が出てくるしなんだか視界が歪んでクラクラしてくる。
声にもならない声で
「お兄様…お兄様が亡くなったそうよ」
それだけ言った。
そこからはあまり記憶がない。
その日は学校を早退しネリアに馬車に乗せられ家に戻った。
その間もずっと涙が止まらず私はしばらく部屋を出なかった。
とにかく1人になりたかった。
私が薬学の勉強をしたいと思ったのは少なからずお兄様の事も影響している。
それなのに間に合わなかった。
なによりお兄様が居なくなってしまったという事実を受け入れられない。
皆でご飯を食べるという気も起きずひたすら自分の部屋で過ごした。
その間、ネリアが色々な手続きや私へ状況を報告してくれたりした。
そしてネリアから事前にこの日に出ますと聞いていたその日。
その日が近づくにつれて私は行きたくなくなっていた。
行ってしまえばお兄様がこの世にいない事を認める事になる。
自分の中でまだ折り合いがつかなかった。
それでも行こうと思ったのはネリアの言葉があったからだ。
「お嬢様、無理に折り合いをつける必要はありません、でもお嬢様の悲しみや苦しみを分かち合えるのは同じ家族である旦那様と奥様しかいません。やはり家族と侍女では違いますから。だから1度思いっきり甘えに行きませんか?」
その言葉に最初は「はっ?」と思った。
でもだんだんと自分1人では抱えきれないものがあると気がついた。
そして馬車に乗り数日かけて家族の元へと戻ったのだ。
その車内は静かなものではあったが不思議とそれが嫌だとは感じなかった。
皆が1人じゃないと寄り添ってくれているように感じたからだと思う。
それでもいざ両親の顔を見たら涙が出てきてしまった。
でもそれは前世の自分ではない本来のカトリナの涙のような気もして自分でもよく分からない、言葉にできない状況だった。
辛い状況ながらも私のために出迎えをしてくれたり料理を作ってくれたりする事がありがたかった。
お兄様が留学という名の仕事?で家にいない事なんて当たり前だったのに屋敷がいつもより静かに感じる。
誰も喋らず夕食を終えるとお父様に呼ばれた。
実はシスカ公国から帰って来る時の馬車の中ですでに覚悟は決めていた。
お兄様がいなくなってしまった今、後継者の話は絶対にされるだろうと。
お父様の真剣な表情からも予想はできた。
「来てもらって悪いな」
「いえ」
「こんな時にこんな話はできればしたくないのだが申し訳ない。私はこれから忙しくなる。その前に話しておきたい」
「はい」
「カトリナはミール公爵家の後継者についてどう考えている?フェルソニーが死んでしまった今、次の後継者はカトリナだ。私としてもカトリナに継いで欲しいと考えている。でも無理にとは言わない。カトリナが継ぐ以外にも家を存続させる方法はあるからな。だからカトリナの気持ちを聞きたい」
とゆっくり言葉を選びながら話してくれた。
「まず私の気持ちを考えてくださりありがとうございます。私は今は薬学の勉強を投げ出す事はできません。ただヘルムード学院には飛び級制度があります。それに適用できるよう頑張りますのでしばらく待って頂けませんか?」
「そうだよな。分かった。私も突然、こんな提案をされても困るだろうとは予想していた。しばらくは私が頑張るよ」
「ありがとうございます。でももしもの場合はジェイニーを後継者として頂いても構いません」
「分かっている。私もジェイニーからの了承が取れたら並行して養子手続きも進めるつもりだ」
「分かりました」
「それともしカトリナが正式な後継者となった場合、その時に目ぼしい相手がいなければこちらが選んだ相手と結婚してもらう可能性もある。それでも良いか?」
「はい。これから何があるか分かりませんからその可能性も覚悟はしております」
「まぁ私としては思い合った相手と結婚して欲しいがな」
「ふふっありがとうございます」
「まぁ全て可能性だからその都度最善の方法を考えよう」
「ふふっお父様、優しいですね。ありがとうございます」
「当たり前だろう。私達の可愛い娘なんだから。もし何か困った事があったら言ってくれ。話は以上だ」
「ありがとうございます。失礼します」
ここまでお読み頂きありがとうございます。




