第232話 燃え広がる炎
山の上空で羽ばたく。
いつの間にか日は完全に落ちており、闇に包まれている。
闇に包まれた世界を黒い炎が周囲を照らす。
山が燃えている。
炎は黒いのに明るい。
闇を黒く照らす光は通常の炎より明るさはないが、確かに周囲を照らしている。
周囲を照らす黒い炎に、敵であるエリクサー・ラボラトリーは包まれている。
先ほどまで魔法を必死に避けていたが、全ての敵が黒い炎に包まれたため、もう魔法は飛んでこない。
「アイク」
クロエの声が上から聞こえてくる。
地上を見ていた視線を空に向ける。
空には月と星が輝いており、星空を切り取るようにドラゴンの影が複数見える。
ドラゴンの影が徐々に近づいてくる。
「クロエ、助かった」
「お礼を言うのならパーシーね。私の魔法は効果が薄かったわ」
「凍らせるには大きすぎたからな。しかし、雷を避けさせるのやめてほしかった」
よく雷を避けたと自分を褒めたい。
今回の戦闘で一番緊張した瞬間だったかもしれない。
「飛んでいるエリクサー・ラボラトリーが逃げられないように魔法を使うしかなかったのよ」
「わからなくもないがな……」
パーシーの魔法が発動したのはエリクサー・ラボラトリーが空を飛び始めた時。まだエリクサー・ラボラトリーの包囲ができておらず、空を飛んでいる状態では逃げられる可能性が高かった。
逃げられる前に魔法で落とそうとしたのだろう。
結果的に魔法では落ちなかったが、焼けこげて傷は負っていた。
「多分、次はないわ」
「多分なのが怖いな」
「モンスター相手なら心配いらないけれど、人が相手になるとわからないわ。必要となればやるしかないでしょう?」
「それは、そうだな……」
まだエリクサー・ラボラトリーとの戦いは続く。
同じような状況になる可能性は否定できない。
次も必死で避けるしかないか。
「アイク」
「パーシー、助かった」
クロエと飛びながら話していると、クロエに続いて上からパーシーが降りてくる。
パーシーもクロエ同様にドラゴンの姿。
「気にしないで。それより少し気になるんだけど……」
「何が気になるんだ?」
「火が燃え広がっている気がするんだ」
燃え広がる?
黒い炎は燃えているが何を燃料にしているのか謎で、火を吹いた場所から延焼しない。
延焼もしないが燃え続けるわけではなく、一定時間で消える
パーシーの話を聞いて改めて地上を見る。
黒い炎はエリクサー・ラボラトリーの錬金術師を中心に燃えている。
俺が狙ったのは巨大化したエリクサー・ラボラトリーの錬金術師であるため、燃える火の中心に錬金術師がいるのは違和感がない。
燃え広がっているかわからない。
燃え広がっているかわかるのがいないか考える。
確か4本腕は仲間に炎がかからぬよう、上半身に火を吹きかけた。
最初に燃やした4本腕を探す。
見つけ出した4本腕が燃えているのは上半身だけではなく、下半身まで燃え広がっている。
「確かに燃え広がっている……」
「だよね?」
「おかしい。どうやっても燃やし続けられなかった火が燃え広がっている?」
人に対して悪影響が今のところ確認されていないが、黒い炎は消し方がわかっていない。
消し方がわからない黒い炎が燃え広がるのはどう考えてもまずい。
「何か思い当たる理由があったりする?」
今までと違う条件を必死に考えてみる。
黒い炎はスカーレットドラゴン王国とセレストドラゴン王国で使っている。フラワーオウルでは黒い炎を今回が初めて使ったが、2国では燃え広がらなかったため、国が関係しているとは思えない。
エリクサー・ラボラトリーに使ったのは初めてだが、元人だったユニークモンスターにも黒い炎を使っている。
あとはそうだ、今いる山は呪力貯まりだとかいう場所だったな。
周囲にはダンジョンに核を与えると生えてくる草木が生えている。
「関係あるとすればダンジョンの核を埋め込んでいるエリクサー・ラボラトリーの錬金術師か、魔石の色と同じ草木の生えるこの山か?」
「錬金術師の体ならともかく、山が理由だとどうしようもないよ」
「このまま火が消えないと問題になりそうだ」
怪しい山ではあるが、泥炭が掘り出される山でもある。
黒い炎が泥炭を燃やし尽くすかどうかはわからないが、何らかの影響はあると考えた方がいい。
泥炭が消えてしまうと燃料がなくなる。
「これ以上延焼しないようにしないといけない。どうなるかわからないけど、エリクサー・ラボラトリーの錬金術師を回収してみない?」
「そうだな。ベアトリクス様とフランク王太子殿下に相談しよう」
「うん」
エリクサー・ラボラトリーの錬金術師を移動させるのに人が必要。
地上の監視は幸いといっていいのか、黒い炎が燃え続けているためエリクサー・ラボラトリーに逃げられる心配はない。
空を飛ぶフランク王太子殿下の元に向かう。
ベアトリクス様とフランク王太子殿下は緋色のドラゴンのためわかりやすい。
二人は飛びながら何かを話している。
「ベアトリクス様、フランク王太子殿下」
声をかけるとベアトリクス様が反応する。
「アイザック、ご苦労だった」
「いえ」
「ところで黒い炎なのだが、延焼していないか?」
「自分も延焼しているように見えます」
パーシーと同じようにベアトリクス様も黒い炎が延焼しているのに気がついたようだ。
「やはり見間違いではないか」
「山かエリクサー・ラボラトリーが原因ではないかと考えています」
「山はどうしようもない」
「はい。エリクサー・ラボラトリーの錬金術師を運び出せないでしょうか?」
ベアトリクス殿下が頷くと、フランク王太子殿下が首を横にふる。
「待て。まずはセオドア殿下に話を聞きに行く」
セオドア殿下。
なんとなく予想はしているが、まだどのような人物か聞いていない。
「セオドア殿下とはメイソンの師匠という錬金術師ですか?」
「そうだ。元エリクサー・ラボラトリーの錬金術師でもある」
「やはり同一人物でしたか」
今更だがメイソンはセオドアがエリクサー・ラボラトリーに所属していたと知っていて黙っていたのではないだろうか。もし予想通りであれば、見事に騙されたな。
後でメイソンに聞いてみよう。
「ああ。1000年生きているというセオドア殿下の知識を借りる」
「セオドア殿下は1000年生きているのですか」
「そうらしい。早速、話を聞きに行く」
「了解」
黒い炎の上を飛び、セオドア殿下を探す。
巨大化して鎧を身につけたスフィンクス人はすぐに見つかった。
禍々しい魔力を持ったスフィンクス人は何を考えているかわからない瞳で炎を見ている。
「失礼。私はフランク・オブ・スカーレットドラゴン」
スフィンクス人の前に着陸する。
黒い炎を見ていたスフィンクス人が名乗りをあげたフランク王太子殿下に向く。
「フランク? もしやフランク王太子殿下ですか?」
「その通りだ。失礼だが、貴殿がセオドア殿下であっているだろうか?」
話しかけたスフィンクス人は、人の顔に獅子の体。獅子の背中に鳥類の翼が生えている。
スカーレットドラゴン王国では滅多に見ないスフィンクス人。
「失礼しました。セオドア・オブ・フラワーオウル。王族の末席に名を連ねてはいますが、王家の名を汚した存在。どうか敬称などなしでお呼びください」
フランク王太子殿下はすぐに返事しない。
返事しない理由はわかっている。他国の王族を敬称なしで呼ぶのは難しい体。
「ではセオドア殿とお呼びしても?」
セオドア殿下は一瞬迷った様子を見せたが頷いた。
「はい。無理な願いを聞き届けていただき感謝いたします」
セオドア殿下の納得しきっていない様子を見るに、俺も今後はセオドア殿と呼んだ方が良さそうだ。
作者の体調不良につき、しばらく更新が不定期となります。
1日おきくらいには更新したいと思っておりますが、体調次第でどうなるか分かりません。
体調戻り次第、毎日更新に戻します。




