第233話 呪力貯まり
「セオドア殿、少々お聞きしたい」
「こうなってしまった以上、全てお話しいたします」
「まずはこの山についてお聞きしたい」
「エリクサー・ラボラトリーについてではなく、山ですか?」
セオドア殿が聞き返してくる。
真っ先に山について聞かれるのは確かに違和感があるか。
「失礼、少々焦っていたようだ。今目の前で燃えている黒い炎は延焼している」
「仕方ありません。炎ですからそういうものです」
「いや、アイザックの使う黒い炎は本来延焼しない」
「延焼しない?」
セオドア殿は当然ながら黒い炎がなんなのか知らない。
「フランク王太子殿下、自分がお話しします」
「そうだな。頼めるか」
フランク王太子殿下の後ろで話を聞いていたため、前に一歩でる。
セオドア殿の足元にはフラワーオウルの騎士たちがいる。俺はまだドラゴンの姿であるため、足元に誰かいないか注意する。
俺を見上げる騎士のヘルムの奥にある瞳を見て、ふと自分たちがどう見えるのか気になってしまう。
俺はドラゴンに獣化した姿で、セオドア殿はスフィンクスに獣化した姿。
巨大なドラゴンとスフィンクスが集まって話しているのは奇妙に見えそうだ。
騎士たちから視線をセオドア殿へと戻す。
不気味な魔力を持つスフィンクスは黒い炎に照らされ、より一層不気味に見える。
俺が吐き出した炎だというのに不思議なものだ。
「セオドア殿、自分はアイザック・オブ・アックスオッター。潜入中はアイザック・ブルと名乗っておりました」
「アイザックという名前はメイソンから聞いています。なんでも錬金術師だとか?」
「はい。スカーレットドラゴン王国では錬金術を使った道具を作って売る会社を経営しています」
経営者みたいになっているが自分は錬金術師。
「色々と話を聞いてみたいところですが、まずは炎についてお聞きしても?」
「はい。自分の吐き出した炎は見ての通り黒い炎で普通ではありません」
「特殊な魔法かと思っていましたが違うのですか?」
「詳しくはわかっていませんが、魔法ではおそらくありません。ところでセオドア殿は転変力についてご存知ですか?」
元とはいえエリクサー・ラボラトリーに所属していたのなら転変力について知っていても不思議ではない。
「転変力は……全てを変化させる力で、全てを繋ぎ止める六合力と性質が真逆の力だと考えられています」
やはり転変力について知っていたか。
セオドア殿は俺以上に転変力について詳しい可能性がある。
「自分は黒い炎が転変力ではないかと考えています」
「黒い炎が転変力?」
「はい」
セオドア殿が俺から視線を外して、黒い炎が燃えている方向に顔を向ける。
俺も黒い炎を見るが火の範囲はあまり広がっていない。延焼速度はそこまで早くないようだ。
話に多少時間をかけても問題ないか。
「炎が全て転変力……? 集めるのが不可能だと結論づけた転変力が燃えている?」
セオドア殿の声から困惑しているのがわかる。
「集めるのが不可能?」
「転変力は全てを変えてしまう力。同時に転変力は変化させた瞬間消えてしまうため、どうやっても集められないと結論づけました」
変化により転変力が消費してしまうのか。
しかし、そうすると俺が転変力を炎として生み出せるのか謎になるな?
「現状他の候補が思いつかないため転変力ではないかと考えていました。もしかして転変力とは違うのでしょうか?」
転変力ではないとすると、炎は再び謎の力となる。
そもそも転変力も謎の力であるが、人を獣化させる炎がなんなのか謎なのは怖い。
「……わかりません。しかし、炎が転変力とすれば、延焼しないという話に理由が付けられそうです」
セオドア殿が顔の向きを炎から俺の方へと再び戻る。
「燃え広がらないのは変化しているからと?」
「そうです。転変力が黒い炎となって燃えるという現象に疑問は残りますが、全ての現象を知っているわけではありません。転変力を炎として燃やす方法があるのかもしれません」
「黒い炎がなぜ燃えているかについては検証していますが、答えは見つかっていません」
燃える理由についてはわからないが、俺だけが黒い炎を吹ける理由はおそらく転生者であるのが関係している。
転生者であるというのを今出会ったばかりのセオドア殿に話すわけにはいかない。転生者であるのはクロエやパーシーには話したが、ベアトリクス様には話していないくらいの秘密。
そもそもある程度付き合いがないと信じられる内容ではないだろう。
「黒い炎が転変力であると仮定するのなら、現状に説明はできるように思えます」
「説明できるのですか?」
「ええ。この場が呪力貯まりだというのは知っていますか?」
呪力貯まり。
エルモアの署名が入った紙に書かれていた単語。
「単語だけは知っています。確か六合力は呪力貯まりに咲くと書かれていました」
「間違ってはいませんが本質を捉えていません。呪力貯まりについて説明した方が良さそうですね」
「お教えいただけますか」
セオドア殿が頷く。
「まず呪力貯まりとは自然に呪力が地上から湧き出る場所です」
「呪力が湧き出る?」
呪力についても書かれていたな。
確かモンスターの力は呪力が大半だったか?
他の力も持ってはいるが、呪力が一番多いという話だったはず。
「呪力とはモンスターを形作る力で、呪力貯まりのように呪力が湧き出る場所ではモンスターが発生します」
はい? モンスターが発生する?
ダンジョンで発生したモンスターが外に出てきはする。しかし、地上でモンスターが発生するとは聞いたことがない。
「ダンジョン以外でもモンスターが発生するのですか?」
「はい。というか、むしろ呪力貯まりを模倣して作ったのがダンジョンです」
「………………呪力貯まりを模倣してダンジョンを作った?」
あまりにも衝撃的な話を聞いて混乱する。
ダンジョンは元々この世界にあるのだと思っていた。
まさか人工物だと思いもしない。
「正確には魔石を回収するための場所としてダンジョンは開発されたようです」
「魔石を回収?」
「はい。2000年以上前は呪力貯まりが無数にあったそうです。呪力溜まりは人に危害を加えるモンスターが生まれる場所でした」
「モンスターを脅威としていたのは2000年前も同じか」
1000年ではなく2000年前。
フラワーオウル王国が大国だった1000年前よりさらに1000年前。
セオドア殿は生まれていないのではないだろうか。書物からの知識なのか、もしかしたら2000年生きる人がいる?
「ええ、変わっていません。モンスターの脅威から、呪力貯まりを消す方法が開発され、呪力貯まりは数を減らしていきました。当然モンスターが減ると、モンスターの体内から採取される魔石の数も減って行きます」
ダンジョンはなかったが呪力貯まりという脅威があったのか。
脅威とはなっていたが、モンスターから採取できる魔石は現代のように燃料となっていたわけか。
燃料が減れば当然困る。
「足りない魔石を回収するためにダンジョンが作られた?」
「そうです。呪力を集め、モンスターを発生させるために作られたのがダンジョンの核。そしてダンジョンの核を作り出したのがエルモア・アルケミスト」
エルモア・アルケミスト。
セレストドラゴン王国に発生したダンジョン最下層で出会った男。
そして錬金術師の代表的な偽名だと思われていたが、長きを生きる実在する人物だとわかった。
「エルモアがダンジョンの核を作り出したのか」
「ええ、彼は2000年を生きる亡霊です」
「エルモアは2000年も生きているのか」
「本人はそう言っていました。おそらく間違いはないでしょう」
もうしばらく更新が不定期となります。




