第229話 増援
魔力を完全に抑え込むと気配を感じなくなるのか。
いや、坑道内でディロックが大声を上げた時、エリクサー・ラボラトリーの気配は感じた。気配を完全に無くすためには、魔力を抑え込むだけではダメなのか。
「グルルル!」
巨大な4本腕に大量の騎士が群がる。
近距離ではビームを当てられないためか、遠距離魔法が使われなくなる。
騎士たちは4本腕の体を登っていく。
「死に損ないか。死ねないのはグレッグも同じだろ?」
「人を超越する気もなく、怠惰に生きる貴様らとは違う」
騎士たちとは別で、グレッグとセオドアは言い争いをしながら戦い続けている。
「超越か。残念ながら人はどれだけ生きようとも、人は人でしかない。人から別のものにはなりはしない」
「いいや、我々は人を超越する!」
鉤爪と尻尾の毒針を操るグレッグに対して、セオドアは剣を振って対抗している。グレッグの攻撃はセオドアの甲冑に阻まれるが、セオドアの攻撃はグレッグに傷を負わしている。
一見は攻撃の通じるセオドアの方が優勢に見える。
しかし、グレッグは攻撃を受けても気にしておらず、切られた傷も瞬時に治っている。治った傷を庇う様子もなく、結果的には双方に優劣はないように見える。
「どうしたものか」
先ほどまでと違い、戦いがフラワーオウル中心に動いている。
事前に話し合えてさえいれば共闘できたが、グレッグと戦っているセオドアの魔力がエリクサー・ラボラトリーと同様というのが問題。裏切り者と呼ばれてはいるが、現状フラワーオウルが味方と言えるか微妙。
フラワーオウルについての情報が不足しており、共闘できないどころか、下手に手を出せなくなってしまった。
しかも現状フラワーオウルが圧倒しているとはいえない。
どう見ても最初から殺しにかかっているが、致命傷を負わせられていない。
「ホー、ホーホー」
再びフクロウの鳴き声が響く。
先ほどは森の中から鳴き声が聞こえたが、今度は上空から声が響いている。
「またフラワーオウルの騎士がくるのか?」
空を見上げると、日が落ち始め夕焼け空。
赤い空を遮るように大量のドラゴンが飛んでいる。
フラワーオウルではなく、スカーレットドラゴン王国の援軍か? にしては鳴き声がフクロウのようだったきが……。
「グラララ!」
今度こそ空を飛ぶドラゴンが吠える。
ドラゴンたちが徐々に高度を落としてくる。
様々な色のドラゴンがいるが、夕焼け空にそっくりな緋色のドラゴンに視線が向く。
緋色の鱗をもつドラゴンは王族。
ベアトリクス様は一緒に戦っていたため、空を飛ぶドラゴンとは別。
王族関係者といえば、フラワーオウルの王宮にフランク王太子殿下が滞在している。
大量のドラゴンが草木を薙ぎ倒しながら地上へ降りる。
ドラゴンが地上に降り立つと、背中から騎士が降りてくる。空を飛べるドラゴンで騎士を運んできたのか。
ドラゴンから降りてくる騎士の数が多い。
しかもスカーレットドラゴン王国でよく見られる鎧とは作りが違う。
スカーレットドラゴン王国の騎士ではない?
状況を把握するために見守っていると、緋色のドラゴンが俺の上空で止まる。
「アイザック」
緋色のドラゴンから聞こえてきた声はフランク王太子殿下のもの。
「フランク王太子殿下」
「連絡が間に合わなかった。すまない」
「フラワーオウルと話はできたのですか?」
「なぜこちらに全てを話さなかったのかは聞いた」
フランク王太子殿下は戦っているグレッグとセオドアのいる方向を見る。
「話さなかった理由はセオドアですか?」
「そうだ。元とはいえエリクサー・ラボラトリーの関係者、お互いの信用がない状態では話せなかったようだ」
「むしろお互いの信用を得るため、胸襟を開いて話すべきだったのではないでしょうか?」
「その信用を得るべきかどうかの判断も国交がないため難しかったようだ」
フラワーオウルは他国との国交がなく鎖国状態。
他国を信用するための基準すら持ち合わせていないか。
信用できないのであればスカーレットドラゴン王国を国に入れるなと思うが、敵対するエリクサー・ラボラトリーの名前に釣られたか? もしくはスカーレットドラゴン王国が信用に値するかどうか調べるため、国に入れたのかもしれない。
「フラワーオウルはもう少し他国を知るため国交を開くべきです」
フランク王太子殿下がドラゴンの頭を横にふる。
「国交を絶っていた理由も聞いたが、今は長々と話している場合ではない」
確かにゆっくり話している場合ではない。
目の前ではエリクサー・ラボラトリーとフラワーオウルの騎士が戦っている。
先ほどまでは状況が把握できず、手を出すか迷っていた。しかし、今は状況を把握しているフランク王太子殿下がいる。
「戦いに参戦いたしますか?」
「参戦する。アイザックは火を吹いてほしい」
フランク王太子殿下が俺に話しかけてきたのは火を吹く指示を出すためか。
普通ならただの騎士である俺ではなく、指揮をとっているベアトリクス様に話しかける。
つまりエリクサー・ラボラトリーに対して火を吹くと事前に決まっていた。
「了解しました。関係ないものにはなるべく火が当たらないようにします」
火は完全に操れるわけではなく、近くにいる人を巻き込んでしまう。
おそらく普通の人は問題ないが、体内にダンジョンの核があるセオドアに関してはどうなるかわからない。
「被害は気にする必要はないと言われている」
「火にあたればどうなるかわかりません。最悪、死ぬかもしれません」
「エリクサー・ラボラトリーが滅ぼせるのなら気にしないと聞いている」
自身の犠牲を厭わない覚悟は見事だが、火を吹くこちらの身にもなってほしい。
だが迷っている時間はない。
「まずは効果を調べるため、普通の騎士が戦っている敵を狙います」
「了解」
翼を羽ばたき、再び空へ舞い上がる。
地上は混戦となっており、地上からでは火を吹きにくい。
幸いにも空に舞い上がる際、攻撃を受けない。
エリクサー・ラボラトリーの視線はフラワーオウルの騎士に向かっており、俺が空に舞い上がったところで気にもしていない。
相手を見定めるため、空から地上を見下ろす。
巨大化したエリクサー・ラボラトリーに大量の騎士が群がっている。
エリクサー・ラボラトリーと戦っているのは騎士だけではなく、セオドアのように不気味な魔力を持った者もいる。
「鎧を着ているかどうかで見分けはつくか」
見分ける方法が心配だったが、フラワーオウル側の人は武具を身に付けている。
エリクサー・ラボラトリーは体に毛が生えるなどしているが、体に何も身につけていないため違いがわかりやすい。
見分けられるのなら、あとは火を吹く相手を選ぶだけ。
「最初に狙うのは4本腕にしておくか」
4本腕は敵の中でも一際大きく目立つ。
大量の騎士が4本腕を取り囲んでるが、あまりに大きいため手こずっているようだ。
体全体に力をいれる。
皆の獣化を進めるのに何度も火を吹いたため、火を吹くための準備は慣れたもの。
体の中が熱くなり、火を吹く準備が完了する。
「グラララ!」
ゆっくりと高度を下げ、4本腕の上半身めがけて黒い炎を吹きかける。
4本腕は黒い炎に包まれる。
「ギャン!」
4本腕の犬のような頭部から悲鳴が上がる。
手足を切り飛ばされようと悲鳴を上げなかった4本腕が悲鳴を上げ、上半身を燃やす黒い炎を消そうと必死に手を振っている。
手足を切り飛ばされるより黒い炎の方が辛いのか?
「ダンジョンボスやユニークモンスターにも効いたが、ダンジョンの核を取り込んだ者にも効くか」




