第228話 呪力貯まり
本当にエリクサー・ラボラトリーはしぶとい。
戦い慣れていない様子から、すぐに決着はつくと思っていた。ところが実際のところは手足を切り落とそうとすぐに再生し、パーシーの魔法が当たっても生きている。
それに大規模な魔法を連発している。
再生する体と魔法を連発できる魔力。どちらもグレッグたちの体内にあるダンジョンの核が関係しているのは想像できる。
まさかダンジョンの核が体内にある限り魔力が無限に生み出され、不死身の体であり続けるとでもいうのか?
「貴様ら、どれだけ数がいる!」
「複数の騎士団が動いている。逃げられはしない、大人しく降伏せよ」
グレッグにスカーレットドラゴン王国が本気で怒っていると伝えたが意味を理解していなかったようだ。
無限の魔力があったとしても数と力で圧倒すればいい。
「我々は理想のため捕まるわけにはいかない! 呪力貯まりに向かえ!」
呪力貯まり?
ナイルたちが残した資料に六合力は呪力貯まりに咲くという一節があった。
呪力貯まりとはダンジョンだと予想した。予想通りであれば、ダンジョンに逃げ込もうとしている?
「グルルル!」
グレッグの声に反応したのか、地上から鳴き声が聞こえる。
エリクサー・ラボラトリーが一斉に反転して、同じ方向へと動き始める。
今までとは違って全力の逃走。
「逃しはしない」
逃がさないとはいってもダンジョン内にはいられれば、モンスターに襲われ追いかけるのが困難になる
最悪、黒い炎を使うしかないか?
黒い炎を使った場合、どのような効果があるかはっきりしない。
ナイルと行った実験のように、爆発する可能性も否定はできない。多少の傷は気にしないが、もしダンジョンの核が爆発して死ねば話を聞き出せない。
「エクスプロージョン」
ベアトリクス様の声。
飛んでいるエリクサー・ラボラトリーの中で爆発が起きる。
巻き込まれたらと考え、背筋が凍る。
魔法が直撃したエリクサー・ラボラトリーが地上に落ちていく。
連続で魔法に当たればさすがに落ちていくのか。
完全な不死身ではない。
「逃すな! 囲め!」
ベアトリクス様の指示が聞こえると、上からドラゴンが降りてくる。
仲間が空中で上から押さえつけるようにエリクサー・ラボラトリーを囲む。
エリクサー・ラボラトリーは囲まれながらも前に進もうとするが、徐々に高度が落ちていく。うまく追い込めている。
「グヒャ、グヒャ。バカめ!」
グレッグの妙な笑い声と共に、敵がビームや火を吹き始める。
ビームや火の威力が明らかに上がった。
状況を打破するためにしてはグレッグの笑いが不気味。
「もしかして、こんな近くにダンジョンがあるのか? 先ほどの場所からほとんど移動していないじゃないか。いや、そもそも、ビームや火の威力が上がるのはなぜだ?」
呪力貯まりとはなんなんだ?
周囲を見回すと地上には草木が生い茂っている。
地上にあるのは泥炭の掘れる山だと気づく。
「力が、力が沸いてくる!」
グレッグたちが高度をさらに落としていくと、不気味な魔力が立ち上る。
ダンジョンボスやユニークモンスターと戦った時以上の魔力を感じる。
「地上に降りるほどグレッグたちの力が増している。ダンジョンではなく、山に何かあるのか?」
高度が下がり山の様子が見えてくる。
山に生える草木に違和感を覚える。
普通の草木と色が違う……?
なんで山の色が緑一色なんだ?
「呪力貯まりに咲き誇る六合力よ我らに力を与えよ!」
六合力は呪力貯まりに咲く。
「まさか地上に生えている草木は、ダンジョンに生える草木と同じか! 呪力貯まりとはダンジョンではなかったのか! フラワーオウルはなんてものを隠しているんだ!」
木は樹皮まで緑色で透明な花を咲かせている。
モンスターのコアとそっくりな緑色の草木が生える理解できない光景。
なんでダンジョンに核を与えると生える草木が自然に生い茂っている!?
「我らの力を恐れよ!」
地上に降り立ったグレッグが叫びながら背中に生えた巨大な翼を羽ばたく。
周囲に嵐のような風が吹き荒れる。
「グルル!」
いつの間にか合流した4本腕がビームを乱射する。
4本腕は体が10メートルを超えるような巨体となっており、大気が震えるようなビームが四方八方に撃っている。
体の大きさもだが、敵の撃ち出す魔法の威力が先ほどまでとは段違い。
「我、セレストドラゴンの子なり。凍てつくドラゴンの息吹は全ての敵を凍らせ、盟友を守護する盾となる」
「我、スカーレットドラゴンの子なり。ウォールナットスクワローに轟く雷鳴は大地を揺らし、稲妻の雨を降らせる」
クロエとパーシーの詠唱が聞こえてくる。
「我、スカーレットドラゴンの子なり。天をも焦がすドラゴンの息吹は全てを燃やし尽くし、盟友の進む道をつくらん」
さらにベアトリクス様の詠唱。
「薄氷!」
「サンダーストーム!」
「紅焔」
氷の剣が振られ、雷が乱舞し、炎が踊る。
広範囲の魔法が連発され、魔法はエリクサー・ラボラトリーに直撃する。
「グヒャ、グヒャ! その程度か!」
大きな傷を負ったグレッグが不気味に笑う。
笑っている間に傷が閉じ、欠損した体が回復していく。
先ほどよりも明らかに回復速度がはやい。一瞬といっていいほどの速度で千切れた部位が回復している。
「捕まえるのなど優先せず、殺すのを優先すべきだったか!」
こうも強さが変わるとは思いもしなかった。
「グヒャ、グヒャ。後悔しても遅い!」
グレッグが笑う。
「そうだね。後悔しても遅い」
聞き慣れない第三者の声。
そう大きくない声なのに、声が響く。声の元を探ると、いつの間にか俺の足元に人が立っている。
立っているのはミスリルの鎧を着込んだ騎士。
「貴様! セオドアか!」
セオドア?
メイソンの師匠と同じ名前。
「グレッグ、会いたかったよ」
足元にいた人物が兜を取る。
以前に負傷したディロックを運んでいる時に、ダンジョンで声をかけられた騎士だ。見た目は俺より少し上な程度で、メイソンの師匠にしては年齢が低すぎる。偶然メイソンの師匠と同じ名前なだけか?
「やはり罠を張っていたか!」
「もちろんだとも。わかっていて入ってきたのは君たちだ」
「裏切り者め!」
裏切り者?
もしかしてエリクサー・ラボラトリーの関係者だったという意味か?
「裏切り者で結構。君のように人を捨てたくはなかっただけだ」
「貴様も賢者の石を取り込んだだろう!」
「王族に生まれながらスフィンクス人として認められなかった同類よ、ボクは目的のために人の心を失いたくない。それに、いくら肉体を改造しても、スフィンクス人になれはしないのは君がよくわかっているだろ?」
「貴様!」
セオドアの言葉にグレッグが激昂したのか突っ込んでくる。
足元のセオドアが不気味な魔力を発すると、猫科の四肢を持ち、背中には翼が生える。
不気味な魔力からグレッグと同類だと理解する。
「どうなっている?」
突然の展開にどう対処すればいいか判断がつかない。
味方なのか、敵なのかわからない。
戸惑っている間にも、グレッグがセオドアに突撃する。
「グレッグはまたスフィンクス人に似せたのか。1000年経っても王族に未練があるようだね」
「裏切り者は死ね!」
「図星で質問に答えられないのかい?」
「死に損ないが!」
グレッグが鉤爪のある前足を振るが、セオドアの防具に阻まれる。
逆にセオドアが剣を振ってグレッグを傷つける。
「ホー、ホー」
どこからかフクロウの鳴き声が聞こえてくる。
「ホー、ホー」
再びフクロウの鳴き声が聞こえると、森の奥から騎士が現れ、エリクサー・ラボラトリーに襲いかかる。
1000以上の騎士が森から出てきた。
今まで気づかなかったとは思えないほどの人数。




