第227話 鉱山の外
今まで逃げられるのを想定して仲間を呼ばなかった。
山の一部を大きく壊すほどの音を立てれば当然仲間にも破壊音は聞こえる。
「グララララ!」
上空を飛ぶ仲間が気づくように大声で叫ぶ。
『グララララ!』
上空を飛ぶドラゴンが俺の声に反応して大声で叫ぶ。
こちらに気がついたようだ。
叫びながら俺たちの上空を旋回する。時期に他の騎士も現れるだろう。
「グレッグ、逃しはしない。おとなしく降伏せよ」
「まだだ、まだ終わったわけではない!」
降伏してくれれば楽でよかったが、降伏してはくれないか。
「では覚悟しろ」
狭い鉱山から出れば周囲を気にせず戦える。
坑道内の部屋は広かったが、ドラゴンの姿で戦うには狭すぎた。
「騎士が増える前に逃げる! 手段を選ぶな!」
グレッグが叫びながら魔力を荒々しく動かす。
「まだ何かあるのか?」
一体どれだけ手の内を隠している?
「ギギィィイイ」
奇妙な叫び声を上げながら、グレッグの体が大きくなる。
体が大きくなると同時に手足が太くなり、顔以外の全身から茶色の体毛が生え、猫背になっていく。手を地面につけ、二足歩行から4つ足をつけた姿に変わる。背中には巨体に見合う茶色の翼に蠍のような尻尾。
キメラ、いや、フラワーオウルならスフィンクスか?
「グルルル!」
他のエリクサー・ラボラトリーの構成員も巨大化していく。4本腕が大きくなったようにグレッグも巨大化できるのか。しかも4本腕はさらに大きくなって、ヘカトンケイルを思い出すような10メートル近くまで巨大化している。
肩にオルトロスの双頭を生やしていた熊人は3つ首のケルベロスのような姿へと変わっている。
「モンスターの集団にしか見えないな」
元々人には見えない姿であったが、巨大化するとさらに人には見えなくなる。
完全獣化した姿も人には見えないとも言えるが、グレッグたちのような異質さはない。竜人はドラゴンに変わり、牛人はミノタウロスのような見た目になるが、グレッグたちは無理やり繋ぎ合わせた不自然な存在。
「アイザック!」
「スティード!」
馬人のスティードが凄まじい勢いで山肌をかけている。
スティードは完全獣化しており、走る姿は巨大な馬にしか見えないが、二足歩行で立ち上がれる。サテュロスにような姿をしている。
「すぐに皆が集まってくる」
「では逃がさないようにしないといけないな」
ディランに続いてエルモアにも逃げられた。
今度こそ逃すわけにはいかない。
「グヒャ、グヒャ」
グレッグが妙な笑い声。
巨大化と同時に口が変形しており、言葉を発しにくくなっているのだろう。
ドラゴンになった俺でも普通に話せるというのに、不自然な変形を遂げたグレッグは話すのも難しいようだ。
「笑っているつもりか?」
グレッグの笑い声が止まる。
「これで動きに制限はない! 蹴散らせ!」
グレッグの声と共に4本腕がビームを打ち出す。
ビームを盾で受け止める。
アックスオッターでヘカトンケイルと戦った時とは違い、ビームを余裕で防ぎ切る。
ビームに続いてケルベロスのような3つ首となった熊人が火を吹く。
防ぎ切るのは余裕だが、敵は遠距離攻撃を中心として近づいてこない。
近接が不利だと学習してしまったようだ。
モンスターは本能から不利であろうと関係なしに襲いかかってくるが、人間は学習して攻撃方法を変えてしまう。
魔法は止まることなく続く。
後ろに魔法が届かぬよう体をいつも通りの大きさに変える。
魔法を防ぐのは難しくないが、皆を守るために動くに動けない。
「魔法を連発していて魔力が尽きないのか」
4本腕などビームをまだ撃ち続けている。
普通なら魔力がなくなってもおかしくない威力。
連続して大規模な魔法を打ち込まれており、前に進みにくい。しかも土埃が立ち上がって前がまた見えなくなってきた。
「どこから魔力が湧いてくる!」
スティードが悪態をつく。
俊足のスティードも一撃で吹き飛ばされるような魔法の中は走り回れない。
「スティード、魔法が途切れた瞬間突撃する!」
「了解だモンタギュー」
途切れる瞬間を待つ。
魔力が尽きないとしても、どこかで魔法を撃つ隙間は生まれる。
そして隙は別の理由で生まれた。
「ウィンドストーム!」
上空を飛ぶドラゴンが吠える。
魔力を放出したと思ったら、すぐに強風が吹き荒れる。
視界が一気に晴れるが目を開けていられない。
「モオォォオオ!」
味方の攻撃で一瞬魔法が途切れた瞬間、モンタギュー父さんとスティードが突っ込んでいく。
エリクサー・ラボラトリーの集団の中に入ると、敵を弾き飛ばして空中に打ち上げる。
「上空のドラゴンを抑える!」
グレッグが叫びながら飛び上がる。
翼を持った敵がグレッグに続こうと舞い上がる。
「クリーパー」
ヴァネッサ母さんの呪文と共に、巨大な植物の蔦が地中から現れる。
滅多に使い手がいない植物魔法。攻撃としての威力はほぼないが、敵を拘束する能力はずば抜けている。
蔦に絡み取られた敵は飛べずに足掻いている。
「アイクはグレッグを追いかけなさい」
「グレッグを追いかけると盾役がいなくなる」
「攻撃はどうにかします。それより上空の戦力が足りていません」
上空で仲間とグレッグたちが争っている。
ヴァネッサ母さんの魔法が捕まえた敵は少ない。
大半の翼を持つ敵は飛び上がっており、上空の方が地上より数が多いほどだ。しかも地上は、モンタギュー父さんとスティードが突っ込んだおかけで攻撃も減っている。
ドラゴンへ変化したヴァネッサ母さんも飛べるが、植物魔法を使うため空中戦が得意ではない。
火を吹ける俺が飛んだ方がいいか……。
「了解。行ってくる」
翼を羽ばたいて飛び上がる。
空に舞い上がった瞬間、上空からビームが放たれる。
ビームを盾で防ぎながら上昇する速度を上げる。
どうやら4本腕以外にもビームを撃てる者がいるようだ。
「グララララ!」
ビームを防ぎ切るとさらに加速する。
後ろに守る者がいないのであれば、動きに制限はなくなる。
攻撃を延々と打たれて溜まった鬱憤を晴らすため、速度を上げ続けながら敵にぶつかる。
「グゲ」
盾から突っ込んだ相手は潰れたような声をあげる。
下から上がってきたというのに、ぶつかった相手は吹き飛び地上に落ちていく。
「貴様!」
「グレッグ、逃しはしないと言っただろ?」
グレッグを追いかけようとすると、ビーム、炎、氷などが撃ち込まれる。
後ろに守る者がいないため、攻撃を避けながら敵に接近する。
「パーシーの魔法がいくわよ! 防ぎなさい!」
急にクロエの声。
久しぶりだと思うより、パーシーの魔法という言葉に焦る。
パーシーの魔法とは雷じゃないか! 雷の魔法をどうやって防げというんだ!?
焦っている間にも俺たちより上空で大量の魔力が放出されたのを感じる。
「サンダーストーム」
周囲が帯電したかと思ったら雷の嵐が吹き荒れる。
「防ぐの無理だろ!」
雷は飛んでいる敵を落とすのに向いているとは思うが、雷防ぐのはどうやっても無理。
ウィンドストームを放った仲間の元に駆けつける。
「どう考えても掠っただけで敵の攻撃より痛いぞ!」
「考えるな! 避けろ!」
エリクサー・ラボラトリーなんぞ気にしていられず、必死で雷を避け続ける。
雷に当たれば墜落しかねない。
「お、終わった?」
「終わったみたいだ」
気づけば周囲の雷は消えている。
「よくも! よくも!」
グレッグの声がした方向を見る。
グレッグを含めた敵はまだ飛んでいる。しかし、雷に当たったのか焦げて煙を上げている。パーシーの魔法に当たって飛んでいられるのか……。
やはり痛みを感じていないのか?
「しぶとい」




