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脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜  作者: Ruqu Shimosaka


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第226話 時間稼ぎ

 グレッグが時間を稼いでいるのは察していた。

 先ほどまで殺すと怒っていたのに、急に話を長々とするのはおかしい。

 実際、足を切り飛ばした者たちが起き上がり始めている。新しく生えた足で立ち上がっており、回復速度が異様に速い。


「スカーレットドラゴン王国の騎士を相手するには狭すぎる。壁を壊せ!」


 壁を壊すとはどういう意味かわからない。

 今いる場所は100に程が入れる巨大な部屋にはなっているが、他の場所は全て坑道。部屋の壁は山の岩盤であり、壊せるようなものではない。しかし、坑道はエリクサー・ラボラトリーの拠点で、何をされるかわかったものではない。


 敵の動きを止めたいが、止めるには数が多すぎる。

 しかもグレッグと話している間止まっていた攻撃が再開された。

 魔法を使った遠距離の攻撃に切り替わって一気に近づけない。


「グルルルル!」


 盾で防御していると4本腕が唸り声を上げ、禍々しい魔力が4本腕の体内で渦巻く。

 目の錯覚でなければ4本腕が徐々に大きくなっている。

 俺とそう変わらぬ大きさだった4本腕が倍近い身長にまで変わった。しかも身長が大きくなっても禍々しい魔力は収まらない。


 4本腕の体に新たな目が現れる。

 しかも現れた目が輝き始める。

 嫌な予感しかしない。

 というかどこかで見た記憶が……。


「あの目……ヘカトンケイルに似ていませんか?」


 ヴァネッサ母さんの言葉で、アックスオッターで戦ったヘカトンケイルを思い出す。ダンジョン深層に現れるモンスターで10近い腕を持ち、複数の眼を持った巨人。

 そういえばダンジョンボスのヘカトンケイルは目からビームのようなものを出していた。


「確かにヘカトンケイルに似ている。もしかしてヘカトンケイルと同じような攻撃ができるのか?」

「まさか本気で壁を壊そうとしているのですか?」


 肩にオルトロスの双頭を生やした敵は口から火を吹いた。

 4本腕も目からビームを打てる可能性は否定できない。

 4本腕を止めに行きたいが、他の敵も魔力を猛らせている。今からでは4本腕までたどり着いたところで止められるかわからない。それに魔力を猛らせ、大きくなったのは4本腕だけではない。


「判断を見誤ったか」


 失敗した。

 話を聞けるのは都合がいいと様子を見ている場合ではなかったか。

 捕まえたところで話を聞き出せるか怪しいため、グレッグに好きなように喋らせたのだが失敗だった。こちらが本気を出していないように、グレッグたちも本気を出していなかったわけだ。


「止めるために魔法を使うにしても間に合いません」

「間に合わないどころか、魔法を使わせてもらえないだろう」

「そうですね」


 一部の敵はまだ魔法でこちらを攻撃してきている。


「それよりエリクサー・ラボラトリーの攻撃にメイソンが耐えられるか心配だ」


 チェスターはともかくメイソンは戦えない。

 余波で死にかねない。


「待て、待て! あんな魔力の攻撃耐えられん!」


 メイソンと一緒にいたチェスターが慌てている。


「俺が攻撃を受け止める。全員、俺の後ろに回れ!」

「後ろ!? 一人しか無理だろ!?」


 緊急事態だというのにチェスターが文句を言う。

 文句を言いたくなるのはわかるが、事情を話している時間がない。

 敵の体内から魔力が放出され始めた。


「いいから早くしろ! そろそろ魔法が使われる!」

「ちくしょう!」


 チェスターが悪態をつきながら俺の後ろにつく。

 さらにモンタギュー父さんやタッカー様が俺の後ろに滑り込む。

 皆の位置を確認しながらドラゴンへと変化する。


 ドラゴンになるには天井が低く、部屋が小さい。

 いつも通りの大きさは無理なため、体の大きさをいつもの半分以下に調整する。

 俺の大きさに合わせて盾が巨大化していく。


「はあ!? ドラゴン!?」


 チェスターの叫び声と共にエリクサー・ラボラトリーの魔法が完成する。


「グルルル!」


 複数の強力な魔法が打ち出され、魔法は俺たちが入ってきた入り口とは反対側の壁に当たる。

 壁に魔法が当たった瞬間、目が潰れるほどの光。

 光の次は爆音と風が坑道内を吹き荒れる。


 盾に砕け散った石が当たっているのか金属のけたたましい音が鳴り響く。

 全員が俺の後ろにいるはず。

 一番外側にいるモンタギュー父さんとヴァネッサ母さんは俺の盾がなくとも平気だろう。


「天井が落ちてくる!」


 タッカー様の叫び声。

 天井を見上げると巨大な石が降ってくる。魔法による衝撃で天井まで崩れたか!

 まだ盾に石が当たっている状態で、崩れた天井まで対処できない。


「モォォオオ!」

「グララララ!」


 モンタギュー父さんとヴァネッサ母さんの唸り声。

 バトルアックスと剣が振られる。二人の武器と石がぶつかった瞬間、凄まじい打撃音。

 天井から降ってきた石はどこかに消える。


「お前ら何人完全獣化できるんだ!」


 チェスターの驚いた声に後ろを確認すると、モンタギュー父さんとヴァネッサ母さんが完全な獣化した状態。

 モンタギュー父さんは毛の長いミノタウロスのような姿。

 ヴァネッサ母さんは黒い鱗に緑色の線が入ったドラゴン。


「安心してください。私はまだドラゴンになれません」


 モーリスがチェスターを宥める声が聞こえる。


「まだってなんだ!?」

「獣化に体に慣れたので、そろそろ完全な獣化しても良さそうだとは思っています」

「獣化はそう簡単にできない! お前らおかしい!」

「普通はできませんね」


 チェスターが混乱している様子。対応はモーリスに任せて周囲を探る。

 盾越しに周囲を見るが、粉塵により目の前が見えない。

 放出された魔力は感じられないため、エリクサー・ラボラトリーによる魔法は終わったように思われる。そして足音らしきものが遠くに聞こえる。


 足音のする方向を探っていると、粉塵の向こう側が妙に明るいのに気づく。そういえばなんで真っ暗になっていない?

 先ほどの魔法で天井が落ちてくるほどの衝撃。錬金術の道具を使っているとはいえ、全て壊れていなければおかしい。薄暗い程度で済むはずがない。


「……まさか外につながった?」


 チェスターがオリハルコンやミスリルを横流しする場合には、別に出入り口を作ると言っていた。

 坑道内を右へ左へと移動していたため気づかなかったが、いつの間にか山の中心ではなく、山の側面へ移動していた可能性は否定できない。


「なんだと?」


 俺の呟きにモンタギュー父さんが反応する。


「天井が崩れたのに明るすぎる」

「言われてみればおかしい」

「前へ進んで確認する」

「気をつけろ」


 攻撃を受けてもいいように足音がした向へ慎重に進んでいく。

 前へ進んでも先ほどまでいたはずのエリクサー・ラボラトリーがいない。

 注意しなければいけないと思いつつも足を踏み出す速度が上がってしまう。


 落ち着くよう自分に言い聞かせながら進む。

 粉塵の色が徐々に明るくなっていく。

 ほとんど粉塵が消えるとそこは山の斜面。


「出てくるのが早い」


 山の斜面にはグレッグたちがまだいた。


「逃げる前に追いつけたか」

「その声。やはりドラゴンになったのは見間違いではなかったか」


 グレッグたちは俺を警戒しているのか、先ほどより距離をとっている。


「おとなしく降伏したらどうだ?」

「ドラゴンに変化したとはいえ、たった一人ではないか。しかもそのような小さな姿で何ができる!」


 部屋の大きさに合わせて小さくしていたのが弱そうに見えたようだ。


「一人ではありませんよ」


 俺の横にヴァネッサ母さんとモンタギュー父さんが現れる。


「自ら外に出てくれて助かる。仲間を呼びやすい」

「ええ」


 さらに上空を見上げるとドラゴンが飛んでいる。


「なあ!? 貴様ら完全獣化できる者が何人いる!?」

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