第225話 不死身
グレッグから効かないと言われても気にしない。
左肩から脇腹にバトルアックスを振り抜くと、刃が鉄の上でも滑るかのような感覚。
グレッグの体にわずかに残っていた服が破れる。
服の下は普通の体ではなく、甲羅のようなものが埋め込まれている。甲羅は骨を硬化したのか、光沢があり白ぽい。
鉄の上を滑ったかのような感覚は甲羅が理由か。
「体でいじっていない場所はないのか」
「その程度の攻撃では我が体を傷つけられはしない!」
甲羅以外を狙うしかないか。
しかし、4本腕は腕を切り飛ばせたが、グレッグは切り飛ばせるかわからない。体内の骨が強化されている可能性は否定できない。
それに腕を切り飛ばしたところで生えてきそうだ。
「人間やめているな」
「そうだとも! 我々は人を超越している!」
グレッグは牙の生えた口を大きく広げる。
褒めているつもりはなかったのだが、彼にとっては褒め言葉だったようだ。
「グルルル!」
グレッグと喋っていると4本腕が殴りかかってくる。
先ほどまでとは違い、不気味な魔力を使って身体強化している。
4本腕の攻撃を左手の盾で受け止めるが、明らかに盾を殴る衝撃が上がった。しかも先ほど切り捨てた腕が成長して手が生えかけている。
驚くほどの再生力。
トカゲでも尻尾が生えるのに時間がかかるというのに、たった数分で腕が生えてくるとは意味がわからない。切り飛ばした腕から別の4本腕が現れそうで怖い。
切り飛ばした腕を一瞬見るが、今のところは何も起きていない。
「死ね!」
4本腕に加えてグレッグも腕を振り上げ襲いかかってくる。
両腕を上げて防御など考えていない動き。
しかし、身体強化と両手にある鉤爪は脅威。
「手を抜いていては厳しいか」
グレッグたちに逃げられないよう本気を出さずにいたが、このまま本気を出さずにいれば大怪我を負う。
身体強化の出力を上げ、獣化する。
体に鱗が生え、翼に尻尾が生えてくる感覚。
押されていた盾に力をいれ、逆に押し返す。
さらに押し返したところから、バトルアックスを右上から左下に振り下ろし、4本腕の足を切り飛ばす。
腕ではなく、足であればしばらく起き上がれまい。
4本腕は無力化したが、まだグレッグが残っている。
バトルアックスを振り下ろした勢いを止めず、一回転するつもりで体を振る。尻尾まで身体強化を施し、近づいてきたグレッグに尻尾を叩き込む。
鞭のようにしなる尻尾は空気を切り裂く。
「獣化——」
グレッグの声が途中で止まり、尻尾に何かが当たった感触。
一回転して元の方向へと振り返ると、グレッグが床に転がっている。
直撃して吹き飛んだようだ。
周囲を見ると敵であるエリクサー・ラボラトリーの数が多い。
モンタギュー父さんとヴァネッサ母さんは心配ないが、護衛として動いているスペンサーとモーリスの負担が心配。
「少し数を減らすか」
両足を切り飛ばせば動けなくなるだろう。
足を切り飛ばせるのは4本腕で実証されている。
数を減らすため、こちらから攻撃すると決める。
前傾姿勢で走りだす。
敵の間をすり抜けながら足を切り飛ばしていく。
敵は人を超越したというが、モンスターと違って戦い方を知らない様子。体自体の性能はモンスターより改造を施したエリクサー・ラボラトリーの方が上であろう。しかし、戦い方を知らなければ防御もまともにできない。
一気に5人ほど足を切り飛ばしたところでバトルアックスを肉体で受け止められる。
攻撃を受け止めた敵は両肩にモンスターの頭部を生やしている熊人。肩に生えている頭部はオルトロスの双頭だろうか。複数の頭部というのは特に奇妙な見た目で記憶にある。
「グラララ!」
肩についた双頭のオルトロスが顔をこちらに向けて吠える。
まるで生きているかのようだ。
頭部から息を吸うような音がした次の瞬間、オルトロスの頭部から火が吹かれる。
「頭は飾りじゃないのか!」
まさかモンスターのように火を吹けるとは思いもしなかった。
頭部が火を吹くのなら、他の敵も何か能力をまだ隠しているのか? 仮に力を隠しているのなら、出し惜しみするような戦い方には疑問が残る。
いや、もしかしたら出し惜しみしているわけではなく、戦い慣れていないだけか?
謎は多いが今は敵を倒す。
いまだ火を吹き続けている双頭のオルトロスに盾を掲げて近づく。
オリハルコンの盾は火程度では熱すら通さない。
近づいてバトルアックスを左肩のオルトロスに素早く振り下ろす。
頭部を落とせば火を吹けまい。
しかし、オルトロスを生やした熊人はバトルアックスを簡単に避けてしまう。やはり熊人は他の敵とは違い戦い慣れている。
だが火を吹き続けるのは無理なのかオルトロスの口から火が止まった。
しかも戦っているのは俺だけではない。
オルトロスを生やした熊人が避けた方向にはヴァネッサ母さんがいる。ヴァネッサ母さんの剣が連続で振られると、熊人の肩に生えたオルトロスが切り飛ばされる。
「名も知らぬ小国がこれほどの戦力を持っているはずがない! 貴様ら、まさかスカーレットドラゴン王国の騎士か!」
尻尾の攻撃から復活したのかグレッグが叫んでいる。
「今更気づいたのか」
「騙したな!」
「別に騙したつもりはない。勝手に騙されただけだろ」
最初にタッカー様が名乗ったため、グレッグたちは俺たちをバンブータイガー共和国の人間だと思っていたようだ。
逃げられぬよう力を制限していたが、身分を偽装する思わぬ効果まであったか。
「馬鹿者どもめ! スカーレットドラゴン王国の騎士をフラワーオウル国内で自由に活動させるとは何を考えている!」
「お前たちエリクサー・ラボラトリーを滅ぼすためだろう?」
「我々は不滅。無駄に足掻く意味などない」
「……どういう意味だ?」
1000年生きているのは知っているが、不滅とはどういう意味かわからない。
「知らぬのか? はは、フラワーオウルから信用されていないではないか」
「そうかもしれないな」
フラワーオウルが何か隠しているのはわかっていた。
しかし、グレッグの発言がハッタリでないとしたら、思った以上に厄介な理由を隠していそうだ。
「では教えてやろう! 賢者の石を宿した我らは不老不死。どれだけ切り刻まれようとも不死身! 恐れ慄いたか!」
グレッグは鉤爪のついた両手を広げ、高笑いを上げる。
「不老なのは予想していたが、不死か」
「我々は貴様らと違い死なん。どれほど足掻こうとも意味はない」
不死身の体に自信があるようだ。
おそらく賢者の石とは体内に埋め込まれたダンジョンの核。
核が不老不死の力を生んでいると予想ができる。
「では体内に埋まっているダンジョンの核を取り出して生きていられるか見てみよう」
「……ッ。貴様、どこでそれを!」
あたりか。
あくまで予想でしかなかったが、グレッグの反応から正解だとわかる。
「スカーレットドラゴン王国とセレストドラゴン王国の地下で随分と色々やってくれていたな?」
グレッグが舌打ちする。
「地下の研究所まで暴かれたか」
「ああ、国内で本当に色々とやらかしてくれた。スカーレットドラゴン王国とセレストドラゴン王国を激怒させたな」
人をユニークモンスターに変えてしまう許されざる実験。
唾棄するような実験には幼い子供までいた。
決して許せない。
「我々の崇高なる実験に参加できただけありがたく思うがいい」
人をモンスターに変えて崇高とは頭がおかしい。
同じ錬金術師とは思いたくもない。
「自分たちの体で勝手にやってろ」
グレッグが首をゆっくりと横にふる。
「崇高なる実験の意味もわからぬとは、これだから頭の使い方もわからぬ低脳と話すのは嫌になる」
「その低脳と話しているのは、負けそうになって時間を稼ぐためか?」




