第217話 鉱石の横流し
街の中は邪魔になるという言葉だけで、チェスターは俺の意図に気づいたようだ。
「チェスターの邪魔はしたくないが、こちらが動けないのは問題だと考えた」
チェスターのギャングとフラワーオウルが完全に信じられないなどとは伝える必要はない。
おそらくチェスターも言葉にしなかった理由を察しているだろう。
「殴り込みに行くとかでもしない限りは問題ないと思うが、用心するに越したことはないか……」
「さすがにエリクサー・ラボラトリーがいるかもわからない状態で、問答無用で殴り込みには行かないぞ」
ギャングとはいえ、他国の国民。
疑惑の段階で殴り飛ばすわけには行かない。
「エリクサー・ラボラトリーがいたら殴り込みに行くわけだな」
「当然」
チェスターが肩を落として首を振る。俺たちの行動に悩まされているようだ。
しかし、俺たちはエリクサー・ラボラトリーを追いかけてわざわざフラワーオウルにきた。逃げられる前に捕まえる。
捕まえるのが無理なら葬り去るのも視野に入れている。
「セオドア様からも、エリクサー・ラボラトリーを見つけ次第教えるよう書かれていた。どう考えてもアイザックと同じ考えだ……」
チェスターは重いため息をついている。
悩みの元は俺たちだけではなかったようだ。
それよりもセオドアについて気になる。村について尋ねるのは一度後回しにする。
「王族であるというセオドア様というお方と連絡がついたのか?」
話しながらチェスターが乾いた笑い声を出す。
「ああ、メイソンの手紙に返事が来た。メイソンのやつが手紙を読み進めると、青白い顔で震えていたぞ」
震えるメイソンを思い出す
どれだけ震えてもメガネが落ちないのをよく覚えている。
「手紙の内容はメイソンに聞く必要があるか?」
王族からの手紙は受け取ったもの以外が読んでいものではない。
「いや、メイソン以外が読む許可があった。手紙にはアイザックが話していた内容に間違いはないと書かれていると同時に、エリクサー・ラボラトリーを探せとも指示があった」
「指示か」
エリクサー・ラボラトリーはスカーレットドラゴン王国とフラワーオウル王国がすでに探しており、メイソンが一人で探したところで見つかると思えない。
メイソン以外が読む許可があったのは指示のためか。
「こちとらギャングだというのに、完全に国の小間使いだ」
「問答無用で潰されるよりはいいんじゃないか?」
「そう考えるしかないな」
チェスターが大きくため息をつく。
苦労が絶えないといった様子。
「セオドア様というお方に会えるかどうかは書かれていたか?」
「まずは王太子と会うと書かれていた」
「そうか。フランク王太子殿下と会ってくれるのなら、俺と会うのはどちらでもいい」
フラワーオウル王国が情報を出し渋っているのが問題であって、情報を聞き出すのは俺である必要はない。
むしろフランク王太子殿下であれば適任。
潜入している俺と会えば、潜入しているのが周囲に知られかねない。
「あとはアイザックには関係のない、エリクサー・ラボラトリーに関わりがないだろうなという念を押すような内容だった」
念を押すか。
メイソンが青白い顔で震えていたのは、エリクサー・ラボラトリーに疑われていたと実感したからだろうな……。
事情があるのは聞いているが、そこまでエリクサー・ラボラトリーと敵対していて、素直に協力できないのか不思議に思う。
「手紙に書かれていたのはそれだけか?」
「色々と質問を送っているのだが、返事は短かった。書かれていた内容も直接的な書き方ではなく、内容を知らない人が読めばわからないような内容になっていた」
手紙は誰の手に渡るかわからない。
もしエリクサー・ラボラトリーの関係者が手紙を手に入れれば、国が自分たちを探していると逃げていきかねない。
フラワーオウル王国も慎重に動いているな。
「詳しい話は会ってからするつもりか」
「おそらくはな。ただ、忙しいセオドア様と会えるのはいつになるかわからない」
「となるとフランク王太子殿下に期待するしかないか……」
セオドア様という方の近くにいるのはフランク王太子殿下。
「村に話を戻す」
「ああ、そうだな」
改めて地図を見る。
フラワーオウル王国があるのはいくつも山脈が連なる地域。
山脈がいくつも連なっている中の一つにフラワーオウルの首都はある。よく山脈の真ん中に首都を作ったなという印象。しかも首都は山の中腹にある。
「希少金属を採掘できる鉱山は泥炭の取れる山を中心に点在している。今いる首都からすると反対側の斜面になる」
山の南側に首都があるため、鉱山が多いのは山の北側。
反対側であるため、泥炭の掘れる山は首都からは見えない。
「村が多いのは山の北側というわけだな?」
「そうだ。そしてデュロックが出て行った方向も同じ北側だった」
デュロックが向かった山の北側には多くの村がある。
適当に探すのは難しい。
「村にはギャングが入り込んでいると聞いたのだが、本当か?」
チェスターが顔を歪め、舌打ちする。
話したくない内容か。
「本当だ。鉱石の一部を横流ししている」
「やはりそうか」
オリハルコンやミスリルは盗掘ではなく、横流しだったか。
「たまに馬鹿正直に盗掘する奴もいるが、泥炭の掘れる山周辺は警備が多い。大半はすぐに見つかって終わりだ」
以前に依頼を受けたように、ダンジョンができた場合のために見回りがされている。
山の反対側とはいえ、首都の近くともなれば見回りの数も多いだろう。
適当な場所を掘り返してもすぐに見つかってしまうのが想像できる。
「しかし、よく横流しなどできるな」
チェスターが小さい声で何かを呟いている。
気になって耳を澄ますと「説明したくないんだが、協力しないと潰されかねん。仕方がない……」と聞こえた。
「掘り進めた坑道は入り組んでいる。掘り進めた先に部屋を作って倉庫にしたり、外にまで繋げて鉱石を搬出する」
「好き勝手やっているな」
チェスターが説明したがらないのも理解できる。
鉱山の権利というのは国か貴族が持っている場合が多い。フラワーオウル王国の権利がどうなっているかはわからないが、チェスターの様子から似たようなものなのだろう。
盗掘や横流しが発覚すれば重罪であるのに、国や貴族相手となれば罰がさらに加算される。
「うちは買い付けしかやっていないからな?」
「チェスターのギャングは横流しをやっていないのか?」
横流しについてはフラワーオウルの問題で、問い詰めるつもりはなかった。
「やりたくともやれない。鉱山で好き勝手やるにはそれなりの人数がいるが、うちには人を出す余裕はない。代わりに錬金術師が鉱石を精錬して武具を作っている」
「なるほど。武具の販売は苦肉の策だったのか」
チェスターは儲かっていると言っていた。
錬金術師がいれば、無理して鉱山を持つ必要がないという意味でもある。
「逆にカオスウィングのような大きなギャングの場合、複数の村に入り込んでいる」
複数……。
「一つではないのか」
チェスターが地図を指差す。
「カオスウィングが仕切っているのはハイク村とタリス村の二つだ。規模が大きいのはハイク村」
地図上ではハイク村とタリス村は隣り合っているが、ハイク村の方が泥炭の掘れる山に近い。
戦いになるのを想定するなら、できれば同時に人を送り込みたいな……。
他に潜入している騎士に応援を要請するか。
「ありがとう、参考になった。作戦を考え、準備が出来次第二つの村に行ってくる。作戦次第ではまた相談させて欲しい」
「分かった。少々早いが一応無事を祈っておこう」
「どうせならエリクサー・ラボラトリーが見つかるよう祈っておいてくれ」
「そうだな。クソみたいな状況が早く終わるよう祈っておこう」




