出戻り令嬢の日常と、一つの出会い ③
今日も私は街に出る。
私に関心もない家族は、私がまさか街で働いていたり、街の人々と仲良く交流しているなんて思ってもいないだろう。
なんだろう、私は出戻りしたわけだけど……家族が思っているほど鬱々と過ごしているわけではない。
出戻りして、家族からも敬遠されている状態だと死を望むような令嬢もいそうだけど……私はそういう所まで落ち込んではいない。
家族たちは、私が鬱々としているように見えるのかもしれない。多分、私が家を出ようとしているとか考えてもいないのだと思う。
私がいなくなっても多分、私の家族は悲しみもしないのかもしれない。
そう考えるとちょっと何とも言えない気持ちになった。
雑貨屋で仕事をしていると、カランッと来客を告げる音が鳴る。
そちらを見て、思わず「あ」と私は口にしてしまった。
そこにいた弟と同じ年の男の子、先日、私が落としたものを拾ってくれた男の子だった。
とても綺麗な男の子だったから、目を引いていた。
「俺の顔に何かついてます?」
「いえ……ついこの前ぶつかった落とし物を拾ってくださった方ですよね? あの時はありがとうございます」
そう言ってもその人は思い出せなかったらしい。まぁ、ちょっとぶつかっただけだものね。
それにしても本当に綺麗な顔立ちをしていると思う。
まじまじと見てしまって、あんまり見つめたら失礼だなと思って視線を逸らす。
「とても綺麗な顔だったから覚えてしまっていたんです。ところで、何をお探しでしょうか」
「俺、色んなお店見て回るのも好きだからちょっと入ってみたんだ。それに母さんたちへのお土産買おうかなって」
「そうなんですね」
どうやら家族仲がとても良いみたい。
私の家とは正反対な感じなのかも。両親も弟も、出戻りした私に何か買ってくることなんてないもの。思えば結婚生活中も夫となった人が私に何かを買ってくることも全然なかった。
何だか仲が良い様子を見ていると思わず笑みをこぼしてしまう。弟と同じ年代だからかもしれない。何だろう、出会ったばかりだけど弟と重ねてしまうというか……。
「何がいいかなぁ……」
「貴方のお母様はどういったものが好きなのですか?」
「母さんは何でも好きだと思うし、割となんでも喜ぶと思う……。でもだからこそ、困るんだよなぁ」
「他の家族の好みは?」
「父さんは母さんが喜べばなんでもいいって言う。姉さんたちは……どうするかな」
そう言いながら悩んだ様子の少年。それにしても兄弟が多いのかしら。どうしようかなって悩んでいるみたいだから。
「そうだ。貴方はこの街詳しいですか?」
「え、まぁ、少しは詳しいと思います」
「だったら、街の案内と、あとなんかお土産に良さそうなもの教えてもらっていいです?」
突然そんなことを言われて驚いた。
そういうことを言われるなんて思っていなかったから。
でもその美しい瞳に見つめられ、頼まれると何だか断りにくかった。
「いいですよ」
「ありがとう。俺はラト。よろしく」
「私はペネです。よろしくお願いします。でも……ラトさんはとても綺麗な見た目をしているから、案内してくれる人多いんじゃないですか?」
何でわざわざ私に頼むのだろうかと正直不思議だった。
だって綺麗な見た目をしているラトさんは、多分、色んな人から案内をしたいって思われる人だと思う。
雑貨屋で働いている私にわざわざ聞いてくる必要はないだろう。
「あー……、だからこそ、面倒だから。ペネさんは何だろう、そういうギラギラした目で見てなかったから」
そんなことを言われて、納得する。
綺麗な見た目をしている人は、それだけその分の苦労があるのだ。ラトさんに恋人がいるかとか、どういう立場かとかは分からないけれど、多分大変異性からの評判は良いと思う。
それだけ周りから色々言われたら疲れてしまうのかもしれない。
「私はラトさんよりも年上だもの」
「ペネさんの方が年上なら、さん付けや敬語なくてもいいよ」
「えっと、じゃあラト君で。ラト君も、別に敬語いらないわ」
少なくとも、此処にいる私はペネローラという子爵令嬢としてではなく、ただのペネとして此処にいるから。
そう言ったらラト君は、屈託なく笑った。
ラト君が言うには、自分と付き合いたいとか結婚したいとかそういう目以外で見られるとほっとするらしい。だからそういうギラギラした目で見てくる人はちょっと苦手なんだとか。
そういう雑談を交わした後、街を案内する日の約束を付けた。
多分、その日のその時間なら家から出て街に来れるだろうから。
ただ念のため、家の事情で急に来れない場合もあることは伝えておく。
だって時々、両親や弟に何か言われて街に行けない時はあるもの。
ラト君が雑貨屋から去っていく後ろ姿を見ながら、どこを案内しようかななどと考えるのだった。




