出戻り令嬢、街を案内する ①
私はドキドキしながら、街に向かっていた。
というのも、ラト君をこれから案内することになっているから。
正直言って、こうやって男の子に街を案内するというのは中々ないことであった。
というか、もしかしたら初めてかもしれない。
十八歳で婚姻を結ぶまでは箱入り令嬢だった。社交界に出ることはあっても、街に出たりはしていなかった。それまでに誰かと恋仲になったこともなく、ただ親の決めた婚姻相手と結婚した。
そして婚姻を結んだ相手とは、出かけることも全然なかった。
思えば……全く知らない街に嫁いで、その街を見て回ることだってしなかった。ただ屋敷で過ごしていただけで……もったいないことをしてしまっていたのかもしれない。
何だろう、男の子と街を歩いて、街を案内するってそう考えたらドキドキしてしまった。
ラト君は私より年下の男の子で、何かあるわけがないのは理解しているけれど、ちょっと不思議な気持ちになるわ。
「――ペネ」
「あ、ラト君。おはよう」
ラト君が私に笑いかけてくれた。
何だろう、こうやっておはようって挨拶を去れるのもいいなぁと思った。誰かと待ち合わせをして、出かけるなんてなかったもの。この年になって新しい経験を感じて、新しい気持ちを感じると思わなかった。
……って言っても私は世間知らずな令嬢だから、私が経験していないことも沢山あるのだろうけれど。
それにしてもラト君は、朝からキラキラしている。朝からさわやかな笑みを浮かべているラト君に周りも視線を向けている。やっぱりラト君は目立つなぁ。……女性たちの視線が強く向けられるのは、やっぱりラト君がそれだけ魅力的だって証なんだと思う。
「ラト君、凄く見られているわね。何だか落ち着かないわ」
「そう? まだ朝早いし、人も多くないからそんなに視線もないけど」
私にとっては視線が多く向けられているように見えたけれど、ラト君にとっては違うみたい。ラト君はもっと視線を向けられているのが当然なのだろうか。
私はラト君の横を歩いていて視線が沢山向けられていてちょっと落ち着かない。
「ラト君、お土産になりそうなものを探したいのよね。あ、でも他のお勧めスポットがあったら案内してもいい?」
余計なことを言わない方がいいかなと思ったけれど、ラト君を案内出来たら楽しいかなと思ってそう口にしてしまった。
ラト君が嫌な気持ちになったらどうしようかなと少しはっとしたけれど、ラト君は笑っていた。
明るい笑顔を目撃していた女性が顔を赤くしていた。
「うん、楽しそう。案内してもらえたら嬉しいな」
「じゃあ案内するわ」
限られた時間だけ街に出る私は、街の外からやってくる人と交流を持つことも全然ない。私よりも街に詳しい人も沢山いて、私にわざわざ案内を頼む人なんていなかった。
だからなんだろう、こうして誰かを案内するなんて初めてで……何だか妙に楽しい気持ちになっている。ラト君は多分、軽く頼んだだけだから私がこういう風に心躍っているとは思っていないだろうなと思った。
まずラト君を案内したのは、街の中に流れる川のエリア。小舟に乗せてもらって、川を移動する事も出来るのだ。街の騎士たちがちゃんと見回りをしているから川に魔物が紛れ込んでいることもあまりない。
あとは川で釣りをしている人も沢山いる。私は釣りってしたことがないけれど、ラト君は釣りをしたりもするのだろうか?
小舟に乗って、少し移動する。
ラト君と小舟の上で会話を交わす。
「ラト君って、釣りはしたことある?」
「あるよ。母さんと釣りをしたりしていたから」
「ラト君はお母様と仲が良いのね」
それにしてもラト君って、育ちがよさそうな感じだけれど、お母様と一緒に釣りをしたりしているというのはどういう家族なんだろう。
何だろう少し聞いているだけでもあまりその家族の形が想像出来ない。
私はお母様と最後に何かしたのっていつだろうか。結婚する時? その時に婚姻の衣装を選んだ時だろうか。でもその時も、一緒に何かしたっていうより、お母様がただ似合うものを選んでくれただけだったと思う。
貴族としての家族関係は結構希薄な場合が多くて、私はそうやって仲良く過ごしている家族関係に少し憧れたりもする。街で親しくしている人たちは、そういう仲が良い家族関係を築いている。
ラト君もそういう風に家族仲が良いみたい。
「一番驚いたのはあれだな。母さんが、凄い大きな魔物を釣ったことだな……」
「ま、魔物を釣ったんですか?」
「そう。紛れ込んでいた魔物をつって、倒してたなぁ……」
何だかラト君が少し遠い目をしている。
それにしても巨大な魔物をつって倒しているって、どういう方なんだろう?
そんな会話を交わしながら、予定していた小舟での移動が終わったので、小舟から降りる。
降りた先にあるのは、お店の立ち並ぶエリアだ。




