出戻り令嬢の日常と、一つの出会い ②
魔物と呼ばれる生き物と私が遭遇したことはあまりない。
普通に街で暮らしていれば、騎士や冒険者たちが退治してくれるので、魔物を見ることはなかったりもする。だけど魔物が身近でない存在であるというわけではなく、魔物の脅威というのは少なからずある。
戦う力がある人は、男女問わずに魔物と戦ったり、戦争で活躍したり――というのをしている。そして戦う力がなくても国の為に力になっている人も当然いる。
私はどこにでもいる貴族令嬢で、これといった特色はない。だからそういう人は凄いなと考える度に思う。
雑貨屋でのお仕事の後に、街を歩く。
必要な日用品の買い出しなどをするためだ。そのあたりのお金については、一応家からお金をもらっている。……とはいえ、ほとんどお金がないわけだけど。
一応貴族だからこそ、生活費ぐらいは何とかなっているけれど……本当にかろうじて生活が出来ている程度なのよね。
何が足りなかったかななどと確認しながら買い物をする。
それにしてもこの街の人たちが、良い人ばかりで良かったと昔のことを思い起こすと思った。
だって私は本当に世間知らずだったから。人のことを騙そうとする人がいるのならば、良いカモだったと思う。王都とかだったらそういう人も結構多いのかもしれない。
「ペネちゃん、今日は何を買って帰るんだい?」
「今日は――」
お店の人に声を掛けられて、会話を交わす。
結婚した時は、こういう未来が待っているなんて思ってもいなかった。だけれども、結婚していた頃よりも自由を謳歌していると思う。
私の結婚生活は、客観的に見ても、あまり良いものではなかったから……。そんなことを思わず考えてしまい、首を振る。
終わってしまった結婚生活のことなんて、考えていても仕方がない。
私はそんなことよりも、先のことを考えないといけないのだから。
そう思いながら人込みを歩いていたら、走っている男性にぶつかられてしまった。
「すまない!」
そう口にしてその人は去っていく。
私はよろけて、持っていたものを落としてしまった。
それを拾おうと手を伸ばしたら、他にもそれに手が伸ばされていた。
「大丈夫? はい、これ」
そう言いながらそれを拾ってくれた人は、にっこりと笑った。
私よりも年下だろうか。
金色の美しい髪と、茶色の瞳を持つ少年だった。
「ありがとうございます」
それから私はお礼を言って、屋敷へと戻った。
あまりにも時間をかけて帰宅すると、両親や弟に何か言われてしまうもの。
そう考えながら、私は「ただいま戻りしました」と口にする。
そしたら運が悪いことに弟と遭遇してしまった。同じ屋敷で過ごしていても弟と遭遇することはあまりないのだけど……。弟は私を睨みつけている。
昔は、私のことを慕ってくれていたと思う。
けれど、今はこういう冷たい瞳しか私には向けないのよね。
「姉上、どこをぶらついていたのですか」
「買い物に時間をかけてしまって……」
「はぁ、出戻りの金食い虫の癖に、買い物さえもまともに出来ないとは」
なんて言って、嫌そうな顔をして弟は去っていった。
……本当にいつからこうなったのかしらね? でもこういう関係になってしまったものは仕方がないもの。幾ら仲よくしようとしても弟自身が仲よくする気がないのならば、仕方がないわ。
そういえば、私の落としてしまったものを拾ってくれた少年も弟と同じ年ごろなのよね。
ああいう年下の男の子は、最近は弟としか接してこなかったから、ああやって笑いかけてもらって不思議な気持ちになっているのよね。
もう会うこともないだろうけれど、弟にもああいう時期があったんだよなぁってそういう気持ちになった。
私は夕食の準備をして、部屋の掃除をして、やらなければならないことを少しずつ進めていった。
それを終えると、自分の時間である。
私の部屋は元々物置部屋だった場所に追いやられてしまっているけれど、最低限のものはあるので問題はない。
昔購入してもらったドレスや宝石は大体処分している。出戻りでパーティーに出る必要もない私にそういうものはいらないだろうって売ったのだ。
そういえば、弟は結婚相手を探してパーティーにも参加している。両親も、この状況を打破するために弟の結婚相手に期待しているらしい。
ただ弟も私と一緒で見た目が整っているわけでもないし、この家は貧乏なので、中々見つからないみたい。多分それもあって弟は少しイライラしている気持ちはあるのかもしれない。
弟に結婚相手は見つかるのかしら?
でもこの家に嫁いだらそれはそれで苦労するのではないかと思う。
それにしても十八歳で結婚した時、結婚期間中もパーティーには参加はあまりしていなかったし、離縁されてからはパーティーに参加していないから、私ってすっかりパーティーに参加しなくなったなぁと思った。
多分、この先パーティーに参加したりなんてしないだろう。




