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Still Alive ―世界の記録― 設定資料集  作者: StillAlive
第3章:FMウイルス
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感染から発症まで ― 人体で何が起きるのか

FMウイルスに感染した人間は、感染した瞬間から異常な身体能力を獲得するわけではない。

また、感染直後に理性を失い、他者を襲い始めるわけでもない。


FMウイルスは人体へ侵入した後、血液を介して骨髄へ到達し、そこで増殖を開始する。

この一連の過程は、感染した本人が明確な異常を自覚するよりも前に進行している。


さらに恐ろしいのは、最初の身体症状が現れる前から、他者へウイルスを感染させる能力を獲得してしまうことである。

外見上は健康な人間であっても、その体内ではすでにFMウイルスによる感染が進行している可能性がある。

では、ウイルスが人体へ侵入してから発症するまでの間に、いったい何が起きているのだろうか。





挿絵(By みてみん)

1.感染と発症は同じではない

FMウイルスの感染経過を理解するうえで、最初に区別しなければならないのが「感染」と「発症」である。

感染とは、FMウイルスが人体へ侵入し、体内で感染が成立した状態を指す。


一方、発症とは、感染した人間に最初の身体症状が現れた状態を指す。

FMウイルスでは、この2つの間に通常3~7日程度の時間差が存在する。

この期間を「潜伏期間」と呼ぶ。


潜伏期間中の感染者は、発熱や咳などの明確な身体症状を示さない場合があり、外見上は通常の人間と区別できない。

しかし、症状が現れていないからといって、体内で何も起きていないわけではない。


FMウイルスはすでに体内へ侵入し、血液や骨髄を介した感染過程を進行させている。

そして、潜伏期間中であっても他者への感染能力を獲得する。


つまり、感染していることと、病気の症状が現れていることは、必ずしも一致しないのである。


なお、FMウイルスに関する設定資料では、時間経過の基準を厳密に区別している。

感染成立から最初の身体症状が現れるまでを「感染後」とし、身体症状が現れた時点を「発症後0日目」とする。

感染者の精神変容や身体変異の経過時間は、原則としてこの発症時を基準に算出される。






挿絵(By みてみん)

2.最初の侵入経路 ― 肺胞から血液へ

FMウイルスの主な感染経路は、空気感染および飛沫感染である。

感染性を持つ微細な粒子を吸い込むことで、ウイルスは呼吸器を通じて体内へ侵入する。


ここで重要となるのが、肺の内部に存在する「肺胞」である。

肺胞とは、肺の末端に存在する小さな袋状の組織であり、呼吸によって取り込んだ酸素と、血液中の二酸化炭素を交換する役割を持っている。


肺胞の周囲には非常に細い血管である毛細血管が張り巡らされており、空気と血液が極めて近い位置で接している。

FMウイルスは、この肺胞から肺毛細血管へ到達することが確認されている。


そして、肺毛細血管へ到達したウイルスは、血液中に存在する赤血球へ結合する。

通常の呼吸器感染症では、気道や肺の細胞における感染が重要となる場合が多い。


しかし、FMウイルスでは、肺から血液へ到達した後の感染過程に大きな特徴が存在する。

FMウイルスにとって、肺は人体への侵入口であり、血液は体内を移動するための経路となっているのである。


ただし、ウイルスが肺胞から肺毛細血管へ移行する詳細な仕組みについては、未解明の部分が残されている。






挿絵(By みてみん)

3.赤血球に結合するFMウイルス

肺毛細血管へ到達したFMウイルスは、赤血球表面に存在する特殊な膜タンパク質へ結合する。

この膜タンパク質は「Rh-FM受容体」と呼ばれている。


Rh-FM受容体は、通常のRh血液型を決定するタンパク質とは異なるものであり、FMウイルスが赤血球へ結合するために利用する特殊な受容体である。

赤血球は、体内のさまざまな組織へ酸素を運搬する血液細胞である。

血流に乗って全身を循環しているため、FMウイルスは赤血球へ結合することで、体内を移動することができる。


ただし、ここで一つ重要な特徴がある。

通常の成熟した人間の赤血球には、細胞核が存在しない。


FMウイルスが増殖するためには核を持つ細胞が必要であるため、赤血球そのものを主要な増殖場所として利用することはできない。

そのため、FMウイルスは赤血球を増殖の場としてではなく、体内を移動するための輸送手段として利用している。


赤血球に結合したウイルスは、血流によって体内を移動し、やがて骨髄循環系へ到達する。

この特殊な輸送機構は、FMウイルスの感染過程における極めて重要な特徴となっている。






挿絵(By みてみん)

4.骨髄への到達とウイルスの増殖

赤血球に結合したFMウイルスは、血流によって骨髄毛細血管へ到達する。

骨髄とは、骨の内部に存在する組織であり、赤血球や白血球、血小板などの血液細胞を生み出す重要な役割を担っている。


この骨髄には「造血幹細胞」と呼ばれる細胞が存在する。

造血幹細胞は、さまざまな血液細胞のもとになる細胞であり、成熟した赤血球とは異なり、細胞核を持っている。


FMウイルスは骨髄へ到達した後、この造血幹細胞へ感染し、増殖を開始することが確認されている。

つまり、FMウイルスは赤血球を利用して骨髄へ移動し、そこで初めて本格的な増殖を進めるのである。


この感染過程は、最初の身体症状が現れる前から進行している。

感染した本人が健康だと感じている間にも、骨髄ではすでにFMウイルスの増殖が始まっている可能性がある。


ただし、造血幹細胞への感染が成立してから、どのような経路で脳や内分泌系などの機能異常へつながるのかについては、現在も完全には解明されていない。

骨髄での増殖は確認されているものの、それが全身の異常な変異へと結びつく過程には、いまだ多くの謎が残されている。







5.感染後18~36時間 ― 他者への感染能力を獲得

FMウイルスが極めて危険な病原体とされる最大の理由の一つが、発症前から感染力を持つことである。

通常、FMウイルスは感染成立から約18~36時間で、他者へ感染させる能力を獲得する。


一方、最初の身体症状が現れるまでの潜伏期間は3~7日である。

つまり、発症するよりもかなり早い段階から、周囲の人間へ感染を広げる可能性があるということになる。


感染能力を獲得した段階でも、本人に明確な身体症状が現れているとは限らない。

そのため、感染した人間が通常どおり生活を続け、家族や職場の同僚、周囲の人間と接触することも考えられる。


しかし、その時点ですでにFMウイルスを伝播させる能力を持っている可能性がある。

さらに、感染能力を獲得するまでの時間には個人差が存在する。


Rh-FM受容体との親和性が高い個体では、この時間が短縮される傾向が確認されている。

特に東アジア系、とりわけ日本人では、標準的な感染者よりも早期に感染能力を獲得する傾向がある。

この特徴は、FMウイルスの感染拡大を阻止することが極めて困難である理由の一つとなっている。







6.潜伏期間中に進行する見えない感染

感染成立から発症までの3~7日間は、外見上の変化が少ない一方で、体内では感染過程が進行している時期である。

FMウイルスは肺から血液へ侵入し、赤血球に結合して骨髄へ到達する。


そして、造血幹細胞へ感染して増殖を進める。

しかし、その感染過程が進行していても、本人が必ずしも異常を自覚するわけではない。


感染者は、自分がすでにFMウイルスに感染していることを知らないまま、普段どおりの生活を続けている可能性がある。

ここで厄介なのは、感染力の獲得と身体症状の出現が一致しないことである。


仮に感染後3日目に発症する個体であっても、それより前に感染能力を獲得している可能性がある。

一方、発症まで7日を要する個体では、感染能力を獲得してから身体症状が現れるまで、さらに長い時間が生じる場合がある。


ただし、潜伏期間の長さと感染力の強さが、どのような関係にあるのかについては明確な基準が示されていない。

重要なのは、外見や本人の自覚だけでは、感染しているかどうかを判断することが難しいという点である。


この見えない感染期間こそが、FMウイルスの世界的な拡散を引き起こした重要な要因の一つとなった。






挿絵(By みてみん)

7.感染後3~7日 ― 最初の身体症状

感染成立から通常3~7日程度が経過すると、感染者に最初の身体症状が現れる。

主な初期症状として確認されているのは、発熱、咳、鼻水、嘔吐、下痢、目の充血などである。

また、けいれんなどの症状が現れる場合もある。


FMウイルスでは、こうした最初の身体症状が出現した時点を「発症」と定義している。

この段階では、感染者の外見は通常の人間とほとんど変わらない。


発熱や咳などの症状も、一般的な感染症で見られるものと共通しているため、外見や症状だけでFMウイルス感染を正確に判断することは難しい。

特に、発症初期の段階では言語能力や記憶、感情などの精神機能が保たれている場合もある。


本人は周囲の状況を理解し、通常の会話や判断を行うことができる。

しかし、身体症状が現れたことは、FMウイルスによる感染が新たな段階へ移行したことを意味する。


ここから先、感染者の身体構造と精神機能は、時間の経過とともに大きく変化していくことになる。






挿絵(By みてみん)

8.発症後に始まる身体と精神の変容

最初の身体症状が現れた後、FMウイルスによる変化は、単なる感染症の症状だけにとどまらなくなる。

発症後の感染者では、視床下部および下垂体の内分泌制御系に異常が生じることが確認されている。


特に重要なのが、性腺刺激ホルモン(LH)の分泌異常である。

その影響によってテストステロンの分泌が著しく増加し、ヒト成長ホルモンについても分泌異常が生じる。


こうしたホルモン分泌の変化は、感染者の異常な筋肥大に関係していると考えられている。

さらに、筋肉の成長を抑制するタンパク質である「マイオスタチン」の機能低下も確認されている。


ただし、マイオスタチンの機能低下がFMウイルスの直接的な作用によるものなのか、それとも他の変化に伴う二次的な現象なのかは、現在も解明されていない。

また、発症後の感染者では、精神機能の変容も段階的に進行する。


言語、記憶、感情、攻撃性、罪悪感は、それぞれ異なる速度で変化していく。

感染者は、発症した瞬間にすべての理性を失うわけではない。


最初は通常の人間と変わらない精神状態を維持していても、時間の経過とともに不安や焦燥感が現れ、やがて攻撃性が増加していく。

この精神変容と身体変異は、FMウイルスによって引き起こされる2つの大きな変化である。

ただし、ウイルスがどのような仕組みで脳機能を変化させ、前頭葉の萎縮を引き起こすのかについては、現在も完全には解明されていない。







9.感染から発症までの個体差

FMウイルスによる感染経過には、大きな個人差が存在する。

その要因の一つと考えられているのが、赤血球表面に存在するRh-FM受容体である。

Rh-FM受容体の発現密度には、個人差だけでなく集団差も確認されている。


特に東アジア系では受容体の発現密度が高い個体が多く、日本人ではその傾向が顕著である。

Rh-FM受容体との親和性が高い個体では、ウイルスの骨髄への到達や造血幹細胞内での増殖が早く進行する傾向が確認されている。

また、感染後に他者への感染能力を獲得するまでの時間も短縮される傾向がある。


さらに、日本人感染者では、標準的な感染者と比較して身体変異および精神変容が平均約2倍の速度で進行する。

一部の高親和性個体では、最大約4倍の速度で進行する例も確認されている。

ただし、ここで注意しなければならないのは、感染能力を獲得するまでの時間と、発症後の身体変異・精神変容の進行速度は、区別して考える必要があるという点である。

日本人感染者の身体変異が平均約2倍の速度で進むからといって、潜伏期間も一律に半分になると決まっているわけではない。


感染から発症までの時間には、あくまでも個体差が存在する。

このように、FMウイルスは同じ病原体であっても、感染した人間の受容体の性質によって、その後の経過が異なるのである。









◇感染から発症までの時間経過

FMウイルスの感染成立から発症までを整理すると、次のようになる。


感染成立直後

空気中から吸い込まれたFMウイルスが肺胞を経由して肺毛細血管へ到達する。

赤血球表面のRh-FM受容体へ結合し、血流を利用して骨髄へ移動する。

骨髄へ到達したウイルスは、造血幹細胞へ感染して増殖を開始する。


感染後約18~36時間

通常、この時期までに他者への感染能力を獲得する。

ただし、感染能力を獲得する時期には個人差があり、Rh-FM受容体との親和性が高い個体では短縮される傾向がある。


感染後3~7日

発熱、咳、鼻水、嘔吐、下痢、目の充血など、最初の身体症状が現れる。

この時点を「発症」と定義する。


発症後0日目以降

身体変異および精神変容が段階的に進行する。

ホルモン分泌の異常、筋肉の再構築、脳機能の変化などが進み、時間の経過とともに通常の人間とは大きく異なる状態へ変化していく。


※各過程の正確な開始時刻には個体差がある。上記の時間は、感染能力の獲得と発症時期に関する標準的な目安を示したものである。




◇人体の内部で始まる崩壊

FMウイルスの感染は、外見上の異常よりもはるかに早い段階から進行している。

感染した人間が普段どおりに生活している間にも、ウイルスは血液を介して骨髄へ到達し、増殖を始める。


そして、最初の身体症状が現れる前から他者への感染能力を獲得する。

やがて発症すると、感染者の身体ではホルモン分泌の異常が生じ、筋肉や内臓の変異が進み始める。

同時に、脳機能や精神機能も段階的に変化し、言語能力や記憶、理性が徐々に失われていく。


しかし、その変化は決して一瞬で起きるものではない。

感染者は、ある日突然、完全に別の生物へ変わるわけではないのである。


最初は、普通の人間とほとんど変わらない。

言葉を話し、周囲の人間を認識し、自分の意思で行動することができる。

それでも、体内ではすでにFMウイルスによる変化が始まっている。


人間としての外見と意識が保たれている間にも、その身体は少しずつ、元には戻れない変化へと進んでいるのである。

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