FMウイルスとは何か ― 基本情報と感染経路
人類の文明を崩壊へと追い込んだ未知の病原体。
それが「FMウイルス(FM virus)」である。
FMウイルスは極めて高い感染力を持つRNAウイルスであり、空気感染および飛沫感染によって人から人へと伝播する。
このウイルスの最大の特徴は、感染した人間を単に病死させるのではなく、生きたまま身体構造や精神機能を大きく変化させてしまうことである。
感染者は時間の経過とともに筋肉や内臓が異常に発達し、やがて通常の人間とは大きく異なる身体能力を獲得する。
その一方で、言語能力や記憶、感情、理性的な判断能力は徐々に失われ、他者に対する攻撃性が著しく増加していく。
しかし、FMウイルスの脅威は、こうした感染者の身体能力や攻撃性だけにあるわけではない。
真に恐ろしいのは、感染した人間が自覚症状のない段階から他者へ感染を広げてしまうことである。
この特徴が、人類社会における感染拡大の阻止を極めて困難なものにした。
1.FMウイルスの正体
FMウイルスは、1930年代にアメリカ軍の極秘研究施設で発見された未知のRNAウイルスである。
その名称は、アメリカ・ウィスコンシン州に存在する陸軍基地「フォートマッコイ(Fort McCoy)」に由来する。
確認されている基本構造は以下のとおりである。
・名称:FMウイルス(FM virus)
・分類:RNAウイルス
・構造:正20面体構造
・大きさ:約100nm(0.0001mm)
・主な感染経路:空気感染・飛沫感染
・潜伏期間:3~7日
・感染による直接の致死率:1%以下
・感染者化する割合:95%以上
RNAウイルスとは、遺伝情報としてリボ核酸(RNA)を持つウイルスの総称である。
FMウイルスは約100nmという極めて小さな病原体であり、肉眼で確認することはできない。
また、正20面体と呼ばれる構造を持ち、ウイルス粒子は多数の三角形の面によって構成された、ほぼ球状の形態をしている。
一見すると特殊な外見を持たないウイルスであるが、その感染力と人体への影響は、既知の病原体とは大きく異なっている。
2.空気感染と飛沫感染
FMウイルスの主な感染経路は、空気感染と飛沫感染である。
飛沫感染とは、感染した人間の咳やくしゃみなどによって放出された飛沫を介して、病原体が他者へ伝播することである。
一方、空気感染では、空気中に浮遊する微細な粒子を介して感染が成立する。
FMウイルスは、この2つの感染経路を持つことが確認されている。
特に危険なのは、乾燥した環境下でも長時間にわたり感染性を維持するという特徴である。
一般に、飛沫に含まれる水分が蒸発すると、微細な粒子が空気中に残る場合がある。
FMウイルスは、こうした飛沫核を介して空気中を漂い、感染を広げる能力を持っている。
そのため、感染者と直接接触していなくても、同じ空間の空気を吸い込むことで感染する危険性がある。
FMウイルスの感染力は極めて高く、その強さは麻疹と同程度とされている。
この高い感染力こそが、FMウイルスを世界規模の脅威へと変えた大きな要因の一つである。
3.症状が現れる前から始まる感染拡大
FMウイルスが持つ最も厄介な特徴の一つが、発症前から他者へ感染させる能力を持つことである。
通常、FMウイルスに感染してから最初の身体症状が現れるまでには、3~7日程度の潜伏期間が存在する。
しかし、感染力を獲得するまでに3~7日を要するわけではない。
感染成立後、通常18~36時間程度で、他者への感染能力を獲得することが確認されている。
つまり、本人に発熱や咳などの症状が現れていない段階でも、周囲の人間へウイルスを広げている可能性がある。
さらに、感染能力を獲得するまでの時間には個人差が存在する。
特に、ウイルスとの親和性が高い個体では、この時間が短縮される傾向が確認されている。
このような感染者は、外見上は健康な人間とほとんど変わらない状態で、他者への感染を広げてしまう。
本人が自分の感染に気づいていない以上、周囲の人間も感染の危険を正確に判断することは難しい。
FMウイルスの感染拡大は、感染者が明確な異常を示すよりも前から始まっているのである。
4.感染成立を左右する特殊な受容体
FMウイルスの感染機構には、他の病原体とは大きく異なる特徴が存在する。
それが、赤血球表面に存在する「Rh-FM受容体」との結合である。
Rh-FM受容体とは、FMウイルスが結合する特殊な膜タンパク質であり、通常のRh血液型に関係するタンパク質とは異なるものである。
FMウイルスは、この受容体を利用して赤血球へ結合することが確認されている。
空気中から体内へ侵入したウイルスは、肺胞から肺毛細血管へ到達した後、赤血球表面のRh-FM受容体へ結合する。
その後、赤血球を輸送手段として血流中を移動し、骨髄へと到達する。
骨髄では造血幹細胞への感染が成立し、ウイルスの増殖が始まる。
この一連の過程が、FMウイルスによる感染成立後の重要な特徴となっている。
ただし、受容体との結合から人体全体に異常が広がっていくまでの詳細な仕組みについては、現在も未解明の部分が残されている。
5.感染しやすい人間と感染しにくい人間
FMウイルスに対する感受性は、すべての人間で同じというわけではない。
Rh-FM受容体の保有状況や発現密度には、個人差および集団差が存在する。
特に東アジア系の人々では、Rh-FM受容体の発現密度が高い個体が多く、日本人ではその傾向が顕著であることが確認されている。
Rh-FM受容体との親和性が高い個体では、感染後のウイルス増殖が進行しやすく、感染能力を獲得するまでの時間も短くなる傾向がある。
さらに、日本人感染者では、標準的な感染者と比較して身体変異および精神変容が平均約2倍の速度で進行する。
一部の高親和性個体では、最大約4倍の速度で進行する例も確認されている。
その一方で、FMウイルスに対して極めて強い自然耐性を持つ人間も存在する。
それが、一部の特殊赤血球保有者である。
6.特殊赤血球保有者が持つ自然耐性
通常の人間の赤血球には、FMウイルスが結合するためのRh-FM受容体が存在する。
しかし、一部の特殊赤血球保有者では、この受容体に対するFMウイルスの親和性が著しく低いことが確認されている。
そのため、FMウイルスは赤血球へ効率的に結合できず、正常な感染過程を成立させることが困難となる。
こうした自然耐性は、球状赤血球症、遺伝性楕円赤血球症、鎌状赤血球症など、一部の特殊な赤血球を持つ人間で確認されている。
特殊赤血球保有者は極めて稀であり、その割合は人口約2,000~4,000人に1人程度と推定されている。
また、FMウイルスに対する自然耐性を持つ個体では、感染者による咬傷を受けた場合でも、感染が成立しないことが確認されている。
ただし、特殊赤血球を持つすべての人間が、必ず同じ耐性を示すわけではない。
重要なのは赤血球の形状そのものではなく、Rh-FM受容体に対するウイルスの親和性である。
この自然耐性の存在は、人類がFMウイルスによる世界的大流行を生き延びるうえで、極めて重要な意味を持つことになる。
7.感染しても簡単には死亡しない
FMウイルスのもう一つの特徴は、極めて高い感染力を持つ一方で、感染による直接の致死率が低いことである。
確認されている直接の致死率は1%以下とされている。
主な死因としては、重度の脳炎、多臓器不全、サイトカインストームなどが挙げられる。
サイトカインストームとは、感染などをきっかけとして免疫反応が過剰に活性化し、正常な組織や臓器にまで深刻な障害を与える現象である。
さらに、感染後に発生する心肥大、腎不全、細菌感染、敗血症などを含めた死亡率は、約3%と推定されている。
しかし、多くの感染者はこうした合併症によって死亡することなく、生存したまま身体変異を進行させていく。
FMウイルスに感染した人間の95%以上が、最終的に感染者化することが確認されている。
ここで重要なのは、FMウイルスに感染した人間が、死亡後に蘇生するわけではないという点である。
感染者は心臓や肺などの臓器を機能させ、食物を摂取し、代謝活動を維持している。
身体能力や精神機能が通常の人間とは大きく異なる状態へ変化しても、生物学的には生きた人間なのである。
FMウイルスは、人間を大量に死亡させることで文明を崩壊させたのではない。多くの感染者を生きたまま変異させることによって、人類社会を崩壊へと追い込んだのである。
8.感染を見分けることの難しさ
FMウイルスに感染した人間は、感染直後から異常な外見を示すわけではない。
感染成立後、潜伏期間を経て最初の身体症状が現れるまでは、本人も周囲の人間も感染を認識できない場合がある。
また、発症初期に確認される症状も、一般的な感染症と似た特徴を持っている。
主な初期症状としては、発熱、咳、鼻水、嘔吐、下痢、目の充血などが挙げられる。
これらの症状だけで、FMウイルスによる感染を正確に識別することは難しい。
さらに、発症前の段階から他者へ感染させる能力を持っているため、明確な症状を示す人間だけを警戒しても、感染拡大を完全に防ぐことはできない。
感染した本人が通常どおり生活している間にも、周囲では新たな感染が成立している可能性がある。
FMウイルスの脅威は、異常な身体能力を持つ感染者だけではない。
一見すると健康に見える人間が、すでに感染を広げる存在となっている可能性があることこそ、極めて危険なのである。
9.いまだ解明されていないウイルスの謎
FMウイルスについては、基本構造や主要な感染経路、赤血球との結合など、いくつかの重要な特徴が確認されている。
しかし、その生態や変異の仕組みには、いまだ多くの謎が残されている。
特に重要なのが、ウイルスの起源と変異に関する問題である。
FMウイルスは1930年代に発見されたが、その後の長い年月の中で、感染力の極めて高い変異株へと変化した可能性が指摘されている。
しかし、いつ、どのような要因によって変異が生じたのかについては、現在も明確な結論が得られていない。
また、動物を介した変異の可能性も考えられているが、現在確認されている自然宿主は人間のみであり、他の動物への感染は確認されていない。
感染者の脳機能が変化する詳細な仕組みや、なぜ異常な筋肥大と精神機能の崩壊が同時に進行するのかについても、完全には解明されていない。
FMウイルスは、人類がその全貌を理解するよりも早く、世界中へ感染を広げてしまったのである。
◇FMウイルスが人類にもたらしたもの
FMウイルスは、単に致死率が高い病原体ではない。
空気感染による極めて高い感染力を持ち、発症前から他者へ伝播し、感染した人間の大部分を生きたまま感染者へと変化させる。
その一方で、ごく一部の人間には自然耐性が存在し、感染の成立や変異の進行速度にも大きな個体差が認められる。
この複雑な性質が、世界規模の感染拡大を引き起こす大きな要因となった。
人間は死亡して蘇生したのではない。
感染によって脳機能や身体構造を変えられ、理性を失い、他者を襲う存在へと変化していったのである。
そして、その感染者たちもまた、生命活動を続けるために食料を必要とし、環境に適応しながら生存し続けている。
FMウイルスは、人類を単純に絶滅させる病原体ではなかった。
人間を人間のままではいられなくする病原体だったのである。
■あとがきコーナー
今回は、FMウイルスに自然耐性を持つ「特殊赤血球保有者」の誕生秘話を紹介したいと思います。
実は、この設定も『Still Alive』がまだゾンビ系の物語として構想されていた頃に考えたものです。
きっかけは、現実の感染症について調べていたときのことでした。
例えば、鎌状赤血球の特徴を持つ人にはマラリアの重症化に対する抵抗力があり、HIVにも特定の遺伝的体質によって感染しにくい人が存在します。
これを知ったとき、「だったら、ゾンビに噛まれてもウイルスに感染しない人間がいてもおかしくないんじゃないか?」と思いつきました。
その後、ゾンビウイルスの構想は現在のFMウイルスへと変わりましたが、この自然耐性のアイディアはそのまま残しました。
こうして誕生したのが、特殊な赤血球を持つことでFMウイルスに感染しにくい「特殊赤血球保有者」です。
ただし、この体質にはデメリットもあります。
唯が運動を苦手としていたり、身体に痛みが出たりするのも、この体質の影響です。
また、健一は筋力こそありますが、持久力が低いという弱点があります。実は、これも特殊赤血球の影響という設定です。
ウイルスには強くても、身体能力まで万能というわけではないんですね。
こうして、現実の医学から得たアイディアが、感染者の設定だけでなく、登場人物たちの特徴にもつながっていきました。
それでは、今回のあとがきはこの辺で!




