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Still Alive ―世界の記録― 設定資料集  作者: StillAlive
第2章:感染者の生態
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感染者の五感 ― 視覚・聴覚・嗅覚

FMウイルスに感染した人間は、筋肉や骨格、消化器官だけでなく、外界を認識するための感覚機能にも著しい変化が現れる。

特に大きく変化するのが、視覚・聴覚・嗅覚の3つである。


感染者は時間の経過とともに視力が低下する一方で、聴覚と嗅覚が異常に発達し、通常の人間とは大きく異なる方法で周囲の状況を認識するようになる。

成熟した感染者は、視覚による情報収集能力が低下しているにもかかわらず、わずかな物音や人間特有の臭気を手掛かりとして獲物を探し出すことができる。

この感覚機能の変異は、感染者の索敵行動や集団行動に深く関わっている。





挿絵(By みてみん)

1.視力低下を引き起こす眼球の変異

FMウイルスに感染した人間は、発症後の身体変異が進行するにつれて、徐々に視力が低下していく。


その原因の一つと考えられているのが、眼球周囲の筋肉の異常な肥大である。

FMウイルスは視床下部および下垂体の内分泌制御系に作用し、ホルモン分泌の異常を引き起こす。


その影響は全身の筋肉だけでなく、眼球周囲の筋肉にも及ぶ。

筋肉の肥大に伴って眼圧が上昇し、多くの感染者では白内障が確認されている。


白内障とは、眼球内部の水晶体が白く濁り、視覚情報を正常に取り込むことが難しくなる状態を指す。

こうした変化によって、感染者は時間の経過とともに周囲の物体や人物を視覚で認識する能力が低下していく。


発症から約2年が経過すると、視力障害がさらに進行し、末期症状へ移行する個体が増加する。

ただし、眼球周囲の筋肉肥大や眼圧上昇、白内障とFMウイルスとの詳細な因果関係については、現在も完全には解明されていない。





挿絵(By みてみん)

2.昼間と夜間で変化する視認能力

感染者の視力は、発症直後から完全に失われるわけではない。

発症初期の感染者は、通常の人間と同様に周囲の人物や物体を視覚で認識する能力を維持している。


しかし、身体変異が進行するにつれて視認能力は低下し、成熟した感染者では明るさによる影響が顕著となる。

昼間はある程度の視認能力を維持しているものの、夕暮れ以降になると視覚能力が著しく低下する。


そのため、成熟した感染者にとって、暗い場所での視覚による索敵は困難になる。

ただし、視力が低下しているからといって、周囲の状況を認識できないわけではない。


感染者は、失われつつある視覚を補うように、聴覚や嗅覚への依存度を高めていく。

つまり、暗闇で感染者から姿を隠すことができたとしても、それだけで安全が確保されるとは限らない。


感染者にとって、獲物の存在を把握するために必要なのは、必ずしも視覚情報だけではないのである。





挿絵(By みてみん)

3.異常に発達する聴覚

感染者の感覚機能の中で、視力低下を補う重要な役割を担っているのが聴覚である。

身体変異の進行とともに聴覚に関係する神経活動が発達し、通常の人間では意識しにくい微細な環境音まで検出できるようになる。


特に、低周波音や小さな物音に対する感受性が高まり、周囲の音を識別する能力が向上する。

感染者が反応する音は、大きな爆発音や銃声だけではない。


人間の足音、呼吸音、衣服が擦れる音など、ごく小さな生活音も索敵の手掛かりとなる。

そのため、視界から外れた場所にいる人間であっても、物音によって存在を察知される可能性がある。


一方で、感染者の聴覚が発達していることは、音の発生位置を常に正確に把握できることを意味しない。

音源の方向や位置を特定する能力には大きな個体差があり、誤った方向へ反応する個体も確認されている。


特に集団行動中は、周囲の感染者の反応も重なることで、誤認識や過剰反応が発生する場合がある。

感染者は優れた聴覚を持っているものの、その感覚情報を常に正確に処理しているわけではないのである。





挿絵(By みてみん)

4.音によって移動する感染者の群れ

感染者の聴覚がもたらす最大の特徴は、大きな音に反応して集団で移動する行動である。

都市部で銃声や爆発音、警報機などの大きな音が発生すると、周辺にいる感染者が音源へ向かって移動を始める。


ただし、音を聞いた感染者がすべて同じ行動を取るわけではない。

通常、大きな音が発生すると、周辺の感染者の約6~7割が音源方向へ移動する傾向がある。


さらに、爆発やヘリコプターの墜落といった極めて大きな音、あるいは警報機などによる継続的な大音量の場合には、約8割が反応して移動する場合もある。

音の種類によって、感染者を誘引する範囲も変化する。


例えば、散弾銃やライフルの発砲では約2km、連続した銃撃では約2~3kmが、感染者の移動を誘発する範囲の目安となる。

ヘリコプターの墜落、爆発、警報機などについても、約2~3kmが一つの目安とされている。


ただし、これらの距離は感染者が音を聞き取れる限界を示したものではない。

あくまでも、感染者が実際に反応して移動を開始する範囲の目安であり、周囲の環境や音の発生状況によって変動する。


特に危険なのは、音が継続して発生する場合である。

発電機や車両の警報機などが長時間作動すると、周辺の感染者が次々と集まり、最終的に大群を形成することがある。

一度の大きな音が、離れた場所にいる多数の感染者を呼び寄せ、周辺一帯の危険度を大きく変化させるのである。






5.視覚を補う異常な嗅覚

感染者の感覚機能の中でも、特に著しく発達するのが嗅覚である。


FMウイルスによる身体変異が進行すると、嗅球および嗅覚に関係する神経系が過敏化し、微量な揮発性有機化合物を検出する能力が大幅に向上する。

揮発性有機化合物とは、周囲の空気中へ放出されるさまざまな化学物質の総称であり、人間の体臭にもこうした成分が含まれている。


通常の人間では気づきにくい微量な臭気であっても、成熟した感染者はそれを索敵の手掛かりとして利用できる。

特に、人間の身体から発生する代謝臭に対して高い識別能力を持つことが確認されている。


このため、感染者は視界に入っていない人間の存在を、臭気によって察知する可能性がある。

また、感染者が反応するのは人間本来の体臭だけではない。


香水、柔軟剤、洗剤など、身体や衣服に付着した人工的な臭気も、発見される原因となる可能性がある。

たとえ足音を立てず、物陰に隠れていたとしても、周囲へ放出される臭気まで完全に消すことは難しい。


視力が低下した成熟個体にとって、嗅覚は外界を認識するための重要な感覚の一つとなっている。






挿絵(By みてみん)

6.感染者は同種を臭いで識別するのか

感染者の嗅覚には、もう一つ重要な特徴が存在する。

それは、人間と感染者の体臭の違いを識別する能力である。


FMウイルスに感染した人間では、生理機能や代謝活動が大きく変化する。

その結果、体内で生成される揮発性代謝物にも変化が生じ、通常の人間とは異なる体臭を持つようになると考えられている。


感染者は、こうした体臭の差異を嗅覚によって識別している可能性が示唆されている。

この能力は、感染者同士の認識や、非感染者に対する索敵行動に関係している可能性がある。


実際に、感染者は非感染者や他の動物を優先的に襲う傾向が確認されている。

しかし、この行動が嗅覚による識別だけで成立しているのかについては、現在も解明されていない。


感染者の攻撃行動には、FMウイルスによる強い攻撃衝動も関与していると考えられており、嗅覚だけですべての行動を説明することはできない。

感染者は同種と非感染者の臭気の違いを認識している可能性があるものの、それがどのように攻撃対象の選択へ結びつくのかは、依然として謎に包まれている。






7.天候と個体差による感覚能力の変化

感染者の感覚能力は、常に一定の状態で維持されているわけではない。

周囲の環境や天候によっても、索敵能力は変化する。


特に雨天時には、臭気の拡散状況が変わるため、嗅覚による索敵能力が一時的に低下することが確認されている。

しかし、その一方で音の伝わり方も変化するため、感染者は聴覚への依存度を高める傾向がある。


つまり、雨によって臭気を察知する能力が低下したとしても、物音による発見の危険性までなくなるわけではない。

さらに、感染者の感覚能力には大きな個体差が存在する。


通常の感染者とは異なり、視覚・聴覚・嗅覚のいずれかが異常に発達した特殊個体も確認されている。

こうした個体は、FMウイルスによる個体差変異によって、特定の感覚機能が突出した「局所的適応型」に分類される。


そのため、一般的な感染者の感覚能力を基準にしていても、特殊個体に対しては同じ判断が通用しない可能性がある。

感染者の索敵能力は、変異の進行度、個体差、周囲の環境によって大きく変化するのである。






挿絵(By みてみん)

8.生存者にとっての危険性

感染者の感覚機能を理解することは、文明崩壊後の世界で生き残るために極めて重要である。

成熟した感染者は視力が著しく低下しているため、視界から身を隠すことで発見を回避できる場合がある。


しかし、視覚による発見を防いだだけでは十分ではない。

足音や呼吸音、衣擦れ音といった微細な物音に加え、人間の体臭や衣服に残った人工的な臭気も、感染者に存在を察知される原因となり得る。


さらに、銃声や警報機などの大きな音は、周辺にいる感染者を広範囲から呼び寄せる危険性がある。

感染者を1体だけ相手にしていたつもりでも、戦闘によって発生した物音が原因となり、別の場所から多数の感染者が接近してくる可能性がある。


そのため、感染者との遭遇を避けるには、隠密行動が極めて重要となる。

ただし、感染者の感覚能力には個体差があるため、どの程度の距離や音量で発見されるかを正確に予測することは難しい。


生存者にとって最も危険なのは、感染者の視力低下を過信し、姿さえ隠していれば安全だと判断してしまうことである。

感染者から見えていないことと、感染者に気づかれていないことは、決して同じではないのである。












◇感染者の感覚機能が示すもの

FMウイルスによる感覚機能の変異は、感染者の外界認識能力を大きく変化させている。

眼球周囲の筋肉肥大や眼圧上昇、白内障によって視覚能力が低下する一方で、聴覚や嗅覚は異常に発達していく。


感染者は、通常の人間のように視覚を中心として周囲を認識する状態から、音や臭気に強く依存する状態へと変化していくのである。

また、感覚機能の発達は、個体の索敵能力だけでなく、感染者の集団行動にも大きな影響を及ぼしている。


一度の銃声や警報機の作動によって多数の感染者が移動し、周辺地域の感染者分布が大きく変化する場合もある。

その一方で、音源の誤認識や天候による影響、感覚能力の個体差など、感染者の行動を完全に予測することはできない。


感染者は、単に視力が衰えた人間ではない。

視覚を失いつつある代わりに、通常の人間とは異なる感覚能力を獲得した存在なのである。


そして、その感覚は、人間が思いもよらない形で生存者の存在を捉えることがある。

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