五つの音
第九十七話
「五つの音」
ファイブピーチ★は、最初から不思議なバンドだった。
普通なら、ジャンルを絞る。
ポップスならポップス。
ロックならロック。
クラシックならクラシック。
演歌なら演歌。
けれど、五人は違った。
美香は言った。
「うちらは、ジャンルで閉じんでよかと思う」
光子が頷く。
「うにゃだらロックもあり!」
優子がすぐ突っ込む。
「そのジャンルはまだ存在せん」
奏太が少し笑う。
「でも、いろんな音をやるのは面白いですね」
小春も頷いた。
「私、民謡の旋律とか好きです」
美香は微笑んだ。
「じゃあ、全部やろう」
そこから、ファイブピーチ★の音楽は一気に広がっていった。
クラシックを基にした組曲。
ジャズアレンジのポップス。
アコースティックギター中心のフォーク。
ベースが唸るロック。
シンセが光るエレクトロ。
祭囃子を取り入れた民謡。
そして、まさかの演歌。
最初、スタッフは少し戸惑った。
「演歌……ですか?」
美香は真剣だった。
「はい。地元福岡の海を歌いたかと」
タイトルは、
『玄界灘、冬の波』
冬の玄界灘。
荒れる海。
吹きつける風。
鉛色の空。
漁船の灯り。
帰りを待つ人。
美香は、ピアノで重い和音を置いた。
奏太のギターが、波のようにうねる。
小春のキーボードは、冷たい風を描いた。
光子のベースは、深い海鳴り。
優子のドラムは、打ちつける波。
そして歌は、まさかの本格演歌。
美香が低く入り、光子と優子が掛け合い、小春が透明な声を重ねる。
高齢者層から、想像以上の反響があった。
「若い子が玄界灘をこんなふうに歌うとは」
「孫と一緒に聴ける演歌」
「涙が出た」
「光子ちゃんと優子ちゃん、演歌もいけるんかい」
地域の老人会や福祉施設からも出演依頼が来た。
光子は大喜びだった。
「うちら、高齢者キラーたい!」
優子が即座に止める。
「言い方」
美香も笑った。
「人気があるって言おうね」
だが、ファイブピーチ★の凄さはそこでは終わらなかった。
アルバムでは、『玄界灘、冬の波』の次に、いきなりヘビメタ曲が入っていた。
タイトルは、
『雷鳴ピーチ・メタル』
イントロから奏太のギターが爆発する。
光子のベースが低く唸る。
優子のドラムが激しく刻む。
小春のシンセが雷のように走る。
美香のトロンボーンが、まさかのメタルリフを吹く。
初めて聴いたスタッフは、全員固まった。
「演歌の次にこれ?」
美香は真顔で頷いた。
「はい」
光子が胸を張る。
「玄界灘から雷鳴へ!」
優子が言う。
「落差で耳がびっくりするたい」
奏太は苦笑しながらも、ギターを構えた。
「でも、これライブで絶対盛り上がります」
実際、盛り上がった。
ライブでは、前半で『玄界灘、冬の波』を歌い上げ、客席の年配層を涙ぐませる。
その直後。
照明が真っ赤に変わる。
奏太のギターが轟く。
優子のドラムが炸裂する。
光子がベースを鳴らす。
美香が叫ぶ。
「行くよ、ファイブピーチ★!」
そして『雷鳴ピーチ・メタル』。
高齢者も若者も、全員が目を丸くする。
最初は驚く。
次に笑う。
最後には手拍子する。
SNSは大荒れだった。
「演歌からヘビメタは情緒が追いつかん」
「おばあちゃんが玄界灘で泣いて、雷鳴ピーチで拳上げてた」
「ファイブピーチ★、ジャンルの壁を破壊してる」
「美香のトロンボーン、メタルでも強すぎ」
「優子のドラムが想像以上に本格的」
「光子のベース、低音えぐい」
「奏太のギター、完全にロック少年」
「小春のシンセが世界観作ってる」
美香は、それを見ながら少し笑った。
「反応、すごかね」
優子がスマホを見ながら言った。
「“情緒が迷子”って書かれとる」
光子が胸を張る。
「迷子もファイブピーチ★で保護!」
奏太が吹き出す。
「それ、みらいのたねみたいですね」
小春も笑う。
「でも、なんか私たちらしいです」
美香は頷いた。
「うん。これが、五つの音たい」
美香の作る旋律。
光子の突き抜ける低音。
優子の正確なリズム。
奏太のギター。
小春の鍵盤。
五人それぞれ、背負ってきたものがある。
事故。
虐待。
孤独。
加害者家族としての苦しみ。
リハビリ。
それでも音を鳴らす意志。
だから、ジャンルなんてひとつに絞れなかった。
泣く日もある。
笑う日もある。
静かに祈る日もある。
叫びたい日もある。
踊りたい日もある。
その全部を音にする。
それが、ファイブピーチ★だった。
ある日のラジオ出演で、司会者が尋ねた。
「ファイブピーチ★のジャンルは何ですか?」
美香は少し考えた。
そして答えた。
「生きとる音です」
スタジオが静かになる。
光子が続けた。
「たまに暴走する音です!」
優子が即座に言う。
「そこは言わんでよか」
全員が笑った。
でも、その言葉は本当だった。
ファイブピーチ★の音楽は、生きている音だった。
傷ついても。
転んでも。
泣いても。
笑っても。
もう一度、歌おう。
その思いが、五つの音になって鳴り響いていた。
次回予告
演歌からヘビメタまで。
ファイブピーチ★は、あらゆるジャンルを飲み込むバンドへ成長していく。
地元福岡の海を歌った『玄界灘、冬の波』。
その直後に炸裂する『雷鳴ピーチ・メタル』。
ジャンルの壁を越えた五人は、ついに全国ツアーへ踏み出す。
次回、第九十八話
「全国ツアーへ」




