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帰る場所~光の指す方へ  作者: リンダ


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学生寮の春

 第八十八話

「学生寮の春」


 東京の音大での生活は、最初から刺激だらけだった。


 朝から練習室には音があふれている。


 ピアノ。

 ヴァイオリン。

 声楽。

 打楽器。

 金管。

 木管。


 廊下を歩くだけで、誰かの未来の音が聞こえてくる。


 美香は、寮の部屋にトロンボーンを置き、譜面とノートを広げながら思った。


「ここ、すごか……」


 大学では、音楽を心から愛する仲間たちと出会った。


 クラシック一筋の学生。

 ジャズにのめり込む学生。

 映画音楽を作りたい学生。

 ミュージカルを目指す学生。

 民族音楽を研究する学生。


 それぞれが違う音を持っていた。


 美香は、最初こそ緊張していたが、少しずつ交流を広げていった。


「小倉さんの曲、コード進行おもしろいね」


「トロンボーンの旋律、歌みたい」


「歌詞も書くんでしょ? 今度見せてよ」


 作詞作曲でも、美香の力はすぐに認められ始めた。


 言葉に痛みがある。

 でも、暗いだけではない。

 必ず最後に、少しだけ光が差す。


 それが、美香の曲の特徴だった。


 教授の一人が言った。


「あなたの曲には、帰る場所を探す力がありますね」


 美香は、その言葉に胸を押さえた。


「帰る場所……」


 小倉家。

 みらいのたね。

 博多南中学。

 福岡高校。

 そして今、東京。


 自分はずっと、帰る場所を探してきたのかもしれない。


 一方で、トリプルピーチ★もますます人気を広げていた。


 福岡にいる光子と優子、東京の美香。


 距離は離れても、三姉妹ユニットは止まらなかった。


 オンラインで打ち合わせをし、長期休みにレコーディングし、番組出演や配信ライブでは必ず三人で揃った。


 光子のボケは、年々鋭くなっていた。


「本日の私は、音楽界の明太子たい!」


 優子がすぐ突っ込む。


「意味がわからんし、辛子要素どこなん」


 美香も追撃する。


「みっちゃん、音楽界で食品になるのやめよ」


 時々、優子までボケる。


「じゃあ私は、譜面台の妖精でいく」


 美香が目を丸くする。


「ゆうちゃんまで!?」


 光子が大喜びする。


「優子がこっち側に来た!」


 美香がすかさず言う。


「戻ってきて!」


 その掛け合いは、ライブでもテレビでも大人気になった。


 歌える。

 演奏できる。

 作れる。

 そして、笑わせられる。


 トリプルピーチ★は、ただの音楽ユニットではなくなっていた。


 お笑いのできる音楽ユニット。


 真面目なバラードで泣かせた次の瞬間、光子の意味不明なボケで会場を崩壊させる。

 優子が冷静に整え、美香が温かく拾う。

 時々、優子が不意打ちのボケを投げ、美香が完全に処理落ちする。


 そのバランスが、国内外で話題になった。


 海外配信では、字幕付きのコント動画が人気になった。


「日本の三姉妹ユニット、音楽もコメディもすごい」

「光子の表情だけで笑える」

「優子のツッコミが正確すぎる」

「美香の声と曲が美しい」

「泣いたあとに笑わせてくるの反則」


 東京の寮で、美香はその反応を見ながら少し笑った。


「世界にも届いとるんやね……」


 その夜、光子と優子からビデオ通話が来た。


「美香おねーちゃん!」


「東京どう?」


 美香は笑った。


「すごかよ。毎日、音ばっかり」


 光子が胸を張る。


「こっちも毎日ボケばっかり!」


 優子が冷静に言う。


「それは問題たい」


 美香は声を出して笑った。


 画面越しでも、二人の声は変わらない。


 離れていても、家族は家族だった。


 美香は言った。


「うち、もっと曲作るけん。三人で、もっといろんな音届けよう」


 光子が拳を上げる。


「届ける!」


 優子も頷く。


「歌と笑いで世界征服たい」


 美香がすぐ突っ込む。


「征服はせんでよか」


 三人の笑い声が、画面越しに重なった。


 学生寮の春。


 美香の部屋には、新しい譜面が増えていった。


 新しい仲間。

 新しい音。

 新しい挑戦。


 そして、福岡から届く、変わらない家族の声。


 小倉美香の音楽は、東京でさらに広がり始めていた。


 次回予告


 東京の音大で、新しい仲間と出会う美香。


 作詞作曲の才能も認められ、トリプルピーチ★は国内外で人気を広げていく。


 音楽と笑い。


 その両方で人の心へ届く三姉妹。


 そんな中、美香は大学で出会う新たな課題曲に、自分の過去と向き合うことになる。


 次回、第八十九話

「帰る場所を探す曲」

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