二曲目の依頼
第六十八話
「二曲目の依頼」
トリプルピーチ★の二曲目の依頼が来たのは、『未来色ハーモニー』の反響がまだ続いている頃だった。
白金荘のリビング。
優馬が書類を広げ、美鈴が横で内容を確認している。
光子と優子は、すでに勝手にステージ衣装の案を描いていた。
「次は踊る曲たい!」
光子がクレヨンを握りしめる。
「くるくる回る!」
優子が冷静に言った。
「みっちゃん、回りすぎたら転ぶけん」
「転んでもギャグにする!」
「それはプロ根性なのか、ただの事故なのか」
美香は、二人のやり取りを見ながら笑った。
優馬が書類を見て言う。
「依頼内容は、アップテンポでノリのいい曲。子どもたちが一緒に手拍子できる感じがいいらしい」
美鈴が頷く。
「『未来色ハーモニー』が優しい曲やったけん、次は明るく前向きにいきたいってことやね」
光子が手を挙げる。
「タイトル決めた!」
優子が眉を上げる。
「また勝手に?」
「『うにゃだらマンボー大行進』!」
リビングが静まり返った。
優馬が腕を組む。
「インパクトはある」
美鈴が即座に言う。
「ありすぎて回収不能たい」
美香は吹き出した。
「それ、歌番組で紹介されたら司会者さん困るよ」
光子は真剣に考え込む。
「じゃあ……『ピーチでドッカン!』」
優子が首を傾げる。
「ちょっと爆発しすぎやない?」
結局、仮タイトルは作家陣に相談しながら決めることになった。
方向性は、明るく弾む曲。
テーマは、笑いながら前へ進むこと。
美香の低めでやわらかい声、光子の元気な声、優子の芯のある声。
三人の個性が、それぞれ跳ねるような曲にする。
美香は少し不安そうに聞いた。
「うち、アップテンポの曲、ちゃんと歌えるかな」
美鈴が言った。
「最初から完璧じゃなくてよかよ」
優馬も頷く。
「トロンボーンも最初は音出んかったやろ。でも今は全国最優秀賞たい」
美香は少し照れた。
「それは、みんなが支えてくれたけん」
「今回も一緒たい」
優子が美香の手を握る。
「美香おねーちゃん、うちらがおるけん」
光子も逆の手を握る。
「三人でドッカンたい!」
優子がすぐ突っ込む。
「だからドッカンから離れよう」
その頃、黒木和正と香織には、正式な警告が出されていた。
警察署の一室。
和正は不満そうに椅子へ座っていた。
香織は隣で小さくなっている。
担当者は、淡々と告げた。
「小倉美香さんへの接触、関係施設・学校・小倉家周辺への接近、出演関係者への問い合わせ、SNS等での名誉を傷つける発信。これらが今後確認された場合、刑事事件として捜査対象になります」
和正が顔を歪めた。
「俺は親やぞ」
担当者は表情を変えなかった。
「現在、美香さんは小倉家の子です。あなた方が接触を図ることは、美香さんの安全と生活を脅かす行為と判断されます」
「金の話を聞いただけや」
「その金銭要求も問題視されています」
香織が小さく震えた。
和正は机を叩きそうになったが、警察官の視線に気づいて手を止めた。
担当者は続けた。
「次は警告では済みません」
その言葉は、重かった。
和正は黙り込んだ。
だが、目の奥の執着は消えていなかった。
一方、白金荘では、二曲目の構想会議が続いていた。
光子が踊りながら叫ぶ。
「あじゃだらステップ!」
優子が真面目に足元を見る。
「それ、右足と左足が喧嘩しとる」
美香は笑いながら言った。
「でも、ちょっと楽しいかも」
優馬が得意げに立ち上がる。
「じゃあ俺も振り付けを――」
美鈴、美香、光子、優子の四人が同時に言った。
「座って」
優馬は静かに座った。
「家族全員の判断が早い……」
笑い声が広がる。
美香はその中で思った。
怖いものは、まだある。
黒木家の影も、完全には消えていない。
でも、今は目の前に二曲目がある。
歌う未来がある。
笑いながら前へ進む曲がある。
美香は、小さく深呼吸した。
「うち、やってみる」
光子が叫ぶ。
「よし!」
優子が笑う。
「二曲目、成功させようね」
美香は頷いた。
幸せになっていい。
その言葉を、まだ完全には信じきれていない。
けれど、美香は少しずつ、自分の未来へ手を伸ばし始めていた。
⸻
次回予告
トリプルピーチ★に二曲目の依頼が舞い込む。
今度はアップテンポでノリのいい曲。
美香は戸惑いながらも、また一歩前へ進む決意をする。
一方、和正と香織には正式な警告が出される。
次に接触を図れば、刑事事件として捜査対象になる。
次回、第六十九話
「ハレバレ☆ピーチステップ!」




