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帰る場所~光の指す方へ  作者: リンダ


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未来の音

第六十三話


「未来の音」


 全国大会の最優秀賞から数日後。


 白金荘のリビングでは、光子と優子が朝から妙にそわそわしていた。


 美香がトロンボーンの譜面を見直していると、光子が正面に立った。


「美香おねーちゃん」


「なに、みっちゃん」


 優子も横に並ぶ。


「うちらと一緒に、歌を歌わん?」


 美香は少し笑った。


「カラオケで?」


 光子は首をぶんぶん振った。


「違う!」


 優子が真剣な顔で言う。


「曲を作って、みんなの前で歌って、たくさんの人に聴いてもらうと」


 美香は目を丸くした。


「え……?」


 光子が続ける。


「それで、CD? 配信? とかで売りに出すの」


 優子が胸を張る。


「グループの名前も決めてあるっちゃ」


 美香は、完全に固まった。


「グループ……?」


「うん!」


「私も入ると?」


「当たり前たい!」


 光子は当然のように言った。


「美香おねーちゃんがおらんと始まらん!」


 優子も頷く。


「うちら三人やけん意味があると」


 美香は譜面を膝に置いたまま、二人を見つめた。


 自分が、誰かと歌う。


 みんなの前で。


 たくさんの人に聴いてもらう。


 そんな未来は、まだ想像できなかった。


「でも、うち……」


 美香が言いかけると、光子がすぐ遮った。


「でも禁止!」


 優子も続ける。


「美香おねーちゃん、すぐ“でも”って言うけん」


 美香は苦笑した。


「だって、歌はまだ……」


「この前、一緒に歌ったやん」


「でも、あれは……」


「美香おねーちゃんの声、きれいやった」


 優子の言葉はまっすぐだった。


 美香は、少し顔を赤くした。


「そんなことなかよ」


「ある!」


 光子と優子が同時に言う。


 そこへ優馬が台所から顔を出した。


「お、ついに始動か?」


 美鈴が味噌汁をよそいながら言う。


「また二人で勝手に大きな話にしとるっちゃろ」


 光子が胸を張る。


「大きな夢たい!」


 優子も頷く。


「しかも、もう名前も決まっとる」


 美香は、おそるおそる聞いた。


「……なんて名前?」


 光子と優子は顔を見合わせた。


 そして、声を揃えて言った。


「トリプルピーチ★!」


 リビングが一瞬、静かになった。


 優馬が腕を組む。


「おお……なんか、普通に良か名前やん」


 美鈴も微笑む。


「三人姉妹って感じやね」


 美香は、胸の奥がじんとした。


 三人姉妹。


 その言葉に、まだ慣れていない。


 でも、嫌ではなかった。


 むしろ、少しだけ嬉しかった。


「トリプルピーチ……」


 光子が飛び跳ねる。


「美香おねーちゃんが長女!」


 優子が続ける。


「光子と優子が妹!」


 美香は、二人を見た。


 右ほくろ、ポニテ、右利きの光子。

 左ほくろ、ツインテ、左利きの優子。


 まだ小さな妹たち。


 でも、美香にとっては、自分を何度も笑わせてくれた、大切な存在だった。


「うちで……よかと?」


 美香が小さく聞いた。


 光子が即答する。


「よか!」


 優子も笑う。


「美香おねーちゃんじゃなきゃ、だめたい」


 美鈴がそっと言った。


「やってみたらよかよ。無理せんで、少しずつ」


 優馬も頷く。


「音楽は、ひとつだけやなか。吹くのも、歌うのも、笑わせるのも、全部美香の音になるけん」


 美香は、膝の上の譜面を見た。


 トロンボーン。

 吹奏楽。

 ルパン三世。

 全国大会。


 そこから、歌。


 コント。


 トリプルピーチ★。


 未来が、少しずつ広がっていく。


 以前の美香なら、怖くてすぐに首を振っていた。


 でも今は。


「……やってみたい」


 その言葉が出た。


 光子と優子が歓声を上げる。


「やったー!」


「トリプルピーチ★結成たい!」


 優馬が謎の拍手を始める。


「ここに、歴史的瞬間が!」


 美鈴がすぐ突っ込む。


「優馬、すぐ大げさにする」


 美香も笑った。


「お父さん、それは盛りすぎたい」


 光子が指差す。


「美香おねーちゃんもツッコミ上手くなった!」


 優子が頷く。


「小倉家の血が流れ始めたね」


 美香は吹き出した。


「血は流れてないやろ」


 リビングに笑い声が広がった。


 トリプルピーチ★。


 まだ誰も知らない、小さな名前。


 けれどその名前は、美香にとって新しい未来の音だった。


 誰かに否定されるためではない。


 誰かの道具になるためでもない。


 自分の声で、自分の音で、誰かに届くための一歩。


 美香は、光子と優子の手をそっと握った。


「よろしくね、みっちゃん、ゆうちゃん」


 二人は満面の笑みで答えた。


「よろしく、美香おねーちゃん!」


「一緒に歌おうね!」


 こうして、小さな三姉妹の物語が動き出した。



次回予告


 光子と優子の提案で、三人姉妹ユニットの名前が決まる。


 トリプルピーチ★


 歌、コント、音楽。


 美香は戸惑いながらも、初めて自分から「やってみたい」と答える。


 次回、第六十四話

 「トリプルピーチ★」

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