↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰る場所~光の指す方へ  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/90

白金荘の夜

第五十七話


「白金荘の夜」


 最初は、土日だけのお試しだった。


 小倉家に泊まってみる。


 無理なら戻ればいい。

 怖くなったら言えばいい。

 急いで家族にならなくていい。


 美鈴は、何度もそう言ってくれた。


 それでも、美香は白金荘の玄関前で少し緊張していた。


「ここが、うち?」


 美鈴が笑う。


「今はね。もうすぐ一軒家に引っ越すけど、まずは白金荘へようこそ」


 中に入ると、さっそく光子と優子が飛び出してきた。


「美香おねーちゃん、お泊まり!」


「今日は一緒に寝る!」


 優馬が荷物を受け取りながら笑った。


「二人とも、最初から飛ばしすぎ」


 夕食が終わる頃には、美香の緊張は少しだけ薄れていた。


 けれど、本当の嵐は風呂場で始まった。


「おねーちゃんと一緒にお風呂入る〜!」


「優子も!」


 美香は目を丸くした。


「えっ、三人で?」


 光子は当然のように頷く。


「三姉妹風呂!」


 優子も胸を張る。


「美香おねーちゃん歓迎会!」


 美鈴が苦笑する。


「美香ちゃん、無理せんでいいよ」


 美香は少し迷ったあと、小さく笑った。


「……大丈夫です」


 風呂場は、まあ賑やかだった。


 光子が湯船で小さく手をばしゃばしゃさせる。


「海の中道ごっこ!」


 優子がすぐ止める。


「お湯飛ぶけん、やめとき!」


 美香は圧倒されっぱなしだった。


 でも、不思議と怖くはなかった。


 そして、誰からともなく歌い始めた。


 夕焼け小焼け。

 赤とんぼ。

 ふるさと。

 里の秋。


 美香は驚いた。


 光子と優子の歌声は、三歳児とは思えないほどしっかりしていた。


 言葉はまだ幼いのに、音程が自然に合う。


 声がやわらかく重なる。


「……すごい」


 美香が思わず呟くと、光子が得意げに笑った。


「うちら、歌うまいけん!」


 優子もにっこりした。


「美香おねーちゃんも、声きれい」


 美香は頬を赤くした。


「そんなこと……」


「ある!」


 二人が同時に言う。


 そのあとも三人で歌い続けた。


 気づけば、すっかり長風呂になっていた。


「暑い〜」


 光子が湯船の縁にへばりつく。


「のぼせた〜」


 優子も頬を赤くしている。


 美香も顔を扇いだ。


「私も……暑い」


 美鈴が外から声をかけた。


「三人とも、そろそろ上がりなさい!」


「はーい」


 三人の声が重なった。


 夜。


 布団が並べられた。


 光子と優子は、当然のように美香の両側へ潜り込んできた。


「美香おねーちゃん、真ん中」


「逃げたらだめよ」


 美香は少し笑った。


「逃げないよ」


 光子が右側で丸くなる。


 優子が左側で布団を引っ張る。


「おねーちゃん、あったかい」


「うん。安心する」


 その言葉に、美香の胸がじんとした。


 誰かに安心すると言われる日が来るなんて、思っていなかった。


 しばらくすると、光子の寝息が聞こえ始めた。


 続いて、優子も静かになる。


 美香は、二人の寝顔を見つめた。


 右ほくろ、ポニテのあとが少し残っている光子。

 左ほくろ、ツインテの跡がふわっと残っている優子。


 まだ時々間違えそうになる。


 でも、少しずつわかってきた。


 美香は、そっと目を閉じた。


 白金荘の夜。


 怒鳴り声はなかった。


 缶ビールの音もなかった。


 代わりにあったのは、二人の小さな寝息だった。


 その音を聞きながら、美香は久しぶりに、少しだけ深く眠った。



次回予告


 白金荘で初めて迎えた夜。


 光子と優子の賑やかなお風呂。

 三人で歌った童謡と唱歌。

 そして、並んだ布団の中で聞いた小さな寝息。


 美香は少しずつ、小倉家の温かさに触れていく。


 だが、正式に家族になるには、まだ越えなければならない手続きと壁がある。


 次回、第五十八話

 「三姉妹の朝」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。